少女探偵

ハイブリッジ万生

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その後

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薄暗い部屋に腰掛ける女性。

目の前には質問する男。

室温はそれほど寒くないのだが、なぜか薄ら寒いものを感じる室内。


「それでは.......なぜ、現場に戻ったんですか?」

「.......怖くなって」

「なにが怖かったんです?」

「.......指紋?とか」

「凶器に指紋などが出るかと思ったんですね?」

「.......はい」

「で、戻ってからどうしました?」

「それが、なぜか.......閉まってて」

「現場のトイレが閉まってた」

「.......はい」

「それで、どうしました?」

「仕方ないので.......何とかして、開かないかと思ったんですけど.......人が来て」

「若い男性ですね?高校生くらいの」

「.......はい」

「それで?」

「出ていくまで待とうと思いました…」

「しかし、出ていかなかった。」

「…はい。」

「それで?どうしました?」

「しばらく待ってたらアラームの音が鳴り出して。」

「なるほど。」

「あれ、途切れないな…これは不味いことになったと思いました。」

「不味いというと?」

「誰か来ると思いました。」

「それでどうしました?」

「逃げました。」

「わかりました…。」

池照ははじめてあった時とは別人の様に訥々《とつとつ》と話す山村もみから聴取していた。

取調室は薄ら寒い空気に包まれていた。

「それで.......動機の方なんですが、もう一度うかがえますか?ちょっとわかりづらかったので」

「.......動機?」

「はい、動機です、なぜ殺したのかという理由」

「..............理由?」

山村もみは呆《ほう》けた様に繰り返した。

「山野文紀さんを殺したんですよね?」

「.......はい」

「なぜ殺したのかって事です」

「なぜって.......」

山村もみは少し口を歪めて笑うと言った。

「当たり前やないですか.......あんな男」

「当たり前?」

「あんなに尽くした奥さんを殴ったりして.......」

「奥さんを殴ってたんですね?」

「ええ、ええ美羽ちゃんから、ちゃーんと聞いてましたよぅ。ちゃーんとねぇ、それどころか.......」

「それどころか?」

山村もみは目を見開いて言った。

「奥さんを庇った美羽ちゃんまで手をかけよって!あん畜生!当たり前やろが!」

いきなり激昴したように叫んだ山村もみの剣幕に池照は圧倒されて言葉を失った。

「あん時!死んでりゃあよかったんに!死んどらんかったかいね!あたしゃね!神様に頼まれたの!わかる?た!の!ま!れ!た!の!」

最後は六回言葉を区切りながら机を叩いた。

「わかりました!わかりましたので少し落ち着いて!」

「なんや!役立たずの木偶《でく》の坊《ぼう》が!あんたらがしっかりとせいへんから!」

そういって一際《ひときわ》大きく机をバンと叩いた。

「耳が痛いのう」

部屋の隅《すみ》で折りたたみ式のパイプ椅子に座って腕組みしながら聞いていた岩井が堪らず口を開いた。

「耳くらい痛くなれ!」

「わかった。わかった。わかったけどな…落ち着こうや」

「おちつけるか!こん税金泥棒が!」

「はいはい、わかったわかった.......ほいなら、いくらでも騒いだらええがな。向こうでは騒げんくなるさかいにな」

岩井の向こうという言葉にハッとなって急に山村もみは静かになった。

暫《しばら》くして神妙な顔で山村は岩井に聞いた。

「どんくらいなん?」

「なにがぁ?」

「刑期」

「刑期?しらんわそんなもん、裁判官に聞け」

「なんそれ、つれないわぁ」

そういうと山村もみは、心底面白そうに、ふふっと嗤《わら》った。



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