僕は魔法で彼女に恋をする。

Mです。

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僕は魔法で彼女に恋をする。

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 彼女は魔女だ……。
 嘘か本当かは知らないけれど、目の前の自称魔女である彼女を除けば僕自身、なんの取り柄もない平凡な高校生で、同じ学年の半分以上が一度は恋をしそうなそんなクラスのアイドル的な女子生徒に恋をした。
 そう、そんな彼女の存在を除けば何でもない……僕は平凡で……平穏な日々。

 僕はそんな彼女との恋愛を成就させる事ができるのか?
 そう目の前の魔女に尋ねに来た所だ。
 正確には魔女【見習い】らしい。
 

 「簡単よ……」
 彼女は言葉通り簡単に言った。

 「いったい……どうやって?」
 惚れ薬とか……そんな便利なものを彼女は持っているのだろうか?

 「君が、里崎 ルイ(さとさき ルイ)に告白するだけだ」
 その返しに思わず机に肘をついていた姿勢が崩れる。

 「それが簡単じゃないから……魔女であるアマリさんに頼んでいるのだけど」
 そう僕は自称魔女の彼女に言う。

 「そもそも、魔法なんて必要なく、彼女も君も両想いかもしれない……それに一度失敗しないと、私の魔法が通用したかもわからない」
 そう言われ少しだけ納得する。

 まぁ、試すまでもなく、僕のような平凡以下の人間に彼女が恋をしている可能性は極めて0に近い数字だ。
 0と言い切らないだけでもおこがましい。

 「なるほど、で……もし、僕がそれでこっぴどく振られたとして、アマリさんはどんな魔法をつかってくれるの?」
 僕のそんな質問に……


 「【言葉】を入れ替えるだけだよ」
 そう返される。

 「……どういう意味?」
 僕は当然の疑問を返す。

 「その想いが伝わらないのはその言葉が成立しなかったからさ」
 彼女の言葉に?を浮かべながらも……どこか力強さのようなものも感じる。

 「例えば、君が里崎 ルイに恋をしているっていのを文章にしてみて」
 そう急にふられる。

 ・・・なんの意図があるのだろうか。

 「僕は彼女に恋をしている」
 そう彼女に伝える。

 「うん……いいね、君は里崎ルイに、僕【は】彼女【に】恋をしているという想いを伝える……」
 アマリさんは僕にそう返す。

 「う……うん」
 その意図は読めないまま……

 「それじゃ、それが失敗したのなら……【は】と【に】を入れ替えればいい」
 一瞬彼女の言っている意味がわからなかった。

 「【は】と【に】? 僕【に】彼女【は】恋をしている?」
 そう、言葉を入れ替えてみる。


 「うん……その言葉なら君の恋は成就しているだろ」
 彼女はそう言うが……

 「いや、僕は文法の相談じゃなくて……恋愛の話をね?」
 そう返すが……


 「魔法なんてのはそんなものさ、文法を文章を改ざんし認識を錯覚させるようなもの、魔法の呪文も同じ言葉なんだよ」
 彼女はそう僕に言う。
 そんなものなのだろうか……自称魔女がそんな魔法を言葉遊びみたいに……

 そんな彼女の魔法で……
 
 僕は魔法【で】彼女【に】恋をする。





 翌日の放課後。

 僕は改めて彼女が勝手に黒魔術研究部として利用している空き教室を訪れる。


 「約束通り、こっぴどく振られてきました」
 僕はそう彼女に伝える。
 昼休み、里崎ルイを校舎裏に呼び出し、見事に振られるベタなイベントを終えた僕は彼女にそう伝える。

 「えっ……本当に告白したの?」
 昨日はずっと無表情だった彼女の顔が引きつっている。

 「いや……ここから魔法での逆転劇があるから……」
 そう僕は彼女に返す。


 「いや……魔女見習いの私にそんなに信頼を置いてくれるのは嬉しいけど」
 そう言いながらも……

 「そもそも、私が協力すると一言も言ってないし、私のメリットはあるの?」
 ごもっともな意見が返ってくる。

 僕は少し考え、取り出したサイフを逆さにする。

 落ちた札と小銭を集め¥1,682が机の上に転がる。

 「……どうかな?」
 僕のそんな真剣な眼差しに……

 「うん、なめてる?」
 ばっさりと切られた。


 「取り合えず……君がこの部に入部するとして……」
 ん?なんか……こちらもこちらで話が勝手に進んでいる。

 「可愛い部員のためにも……ここは一つ貸しにしておこうか」
 そう一人納得している。
 が……それよりもこれからどんな魔法が見られるのか、そっちの方に興味がある。

 「そうだね、まずは君がどんな魔法を使ったのか……私を里崎ルイだと思って、昼休みに彼女に送った言葉を私に言ってみろ」
 そうアマリさんが僕に言う。

 「え…それって必要なの?」
 唐突なふりに思わず声が出る。

 「当然だ……昨日言った通り、魔法で言葉の認識を変える……そのためにも私はその言葉を知らなければならない」
 彼女の言葉に僕は覚悟を決める。
 彼女の言う通りにして、里崎ルイに振られている……このまま引き下がれない。

 僕は彼女の両肩に手を置き、彼女の目を見る。
 実際は里崎ルイに告白したときは両肩に手を置いたりなどしていない。

 正直に言うと、調子に乗った。

 「ひと目見たときから、貴方の事が好きでした……僕と付き合ってください」
 僕がそう里崎ルイの代役のアマリさんに告げる。
 アマリさんは咄嗟に目を反らし……

 「……そ、そうなのか?」
 困ったように、少し恥らうように左下の床を見つめる。

 「えっ……えっと、アマリさん?」
 その反応は僕も困る。

 「あ……いや……うん、思ったより悪くないな、(まほうの)素質はある」
 そうアマリさんが表情を戻して言う。

 「で……今の僕の告白文章を変えるの?」
 彼女の言う……魔法。
 認識を変える……錯覚させる……?

 「ひと目見たときってのが……嘘っぽい、10度目くらいにしておくか?」
 何やら、不思議なことを言い始めている。

 「いやいや……一度振られた相手にやっぱり10度目みたくらいから好きでしたって……もはやコントでしょ」
 僕のそんな返しも……聞いてか聞かずか……

 「いや、ものは試しだ!」
 もはや、これは魔法なのか?と思いつつも……
 そんな僕に真剣な表情の魔女見習い。
 
 僕は魔法【で】彼女【に】恋をする。



 何度目の失敗か……

 里崎ルイに振られる事に少し慣れてきている自分がいる。


 もちろん……魔女の魔法を信じていない訳はない。
 同時に、魔女の魔法で恋が成就すると本気で信じていた訳でもない。

 もちろん、里崎ルイと本気で付き合いたいと思っている。

 ならば、どうして自分は今もこうして、彼女《まじょ》の元に足を運ぶのだろう。

 
 それは……ただ単純に……

 彼女と付き合うために僕【は】魔女【を】利用する。
 平凡以下の僕が誰もが羨む女性を手に入れるために……

 彼女と付き合うために僕【を】魔女【は】利用する。
 魔女見習いの彼女が見習いという肩書きを外すために……

 それと……同時に僕にとってそんな環境が何処か居心地が良かったんだと思う。


 だから……僕は何処かでその魔法が適わないことを何処かで望んでいたんじゃないのか?
 彼女にその魔法《ちから》が無い訳ではなく……僕が望まないから適わなかったのではないのだろうか?


 何度目になるだろうか……

 僕は里崎ルイの練習体として、アマリさんの肩に手を置いて……

 「君と言葉を交わした……その時から僕は君が好きでした」
 いつものように……彼女は最初目線を僕から反らす。

 改ざんされる。
 認識に誤りが産まれる。

 ぼんやりと……いつからだろう。
 まるで魔法でもかかっていたかのように……

 目の前には……里崎ルイが居る。

 あれ……僕はアマリさんを練習体にして告白の練習を……?
 ぐるぐると脳裏がパニックを起こす。

 やばい……いつものノリでアマリさんにするつもりで里崎ルイに告白してしまった。

 ルイさんはいつもとは違う表情で……

 「いつも……いっつも、そんな真剣に告白されたら、私もなんだか……錯覚してしまいそうになるよ……その、まぁ……」
 いつもと違う反応で……

 「まっ……待って!!」
 僕は慌ててその先の言葉を遮る。

 何をしているのだろう。
 もしかしたら、その先は僕の望む言葉が待っていたんじゃないのか?

 
 彼女の魔法は……僕の願いは成就されたのではないのか?


 僕はくるりと方向を変えて、彼女の答えを聞かずに歩き出す。


 僕は今日も彼女への告白が失敗して……
 魔女の元で魔法の勉強をする。

 僕は魔法で彼女に恋をするためにそこに行く。


 そんな毎日を繰り返す。


 とっくに魔法は成立していた。
 とっくに錯覚していた。

 文章は改ざんされていた。
 文法を錯覚していた。



 ------僕は魔法《まじょ》に彼女で恋をする。
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