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1.つまらない今について

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 七月に入り、梅雨明けすると、暑さは一気に加速する。幸い、軽音サークルは外での活動は少ないのが救いだ。たまに野外イベントに出演することがあるが、その時は地獄だ。
 しかし、それ以上にキツいのは、スーツを着て、就活をすることだった。俺はサマーインターンにいくつか申し込んでいて、それの選考に参加していた。面接やグループディスカッション、その準備に翻弄される日々。夜のバイトの時間にはすでにクタクタになっていた。
「ハルタさん、顔死んでますよ」
「んー」
「反応うすっ」
 桜川の雑談に付き合う元気すらなかった。
 そもそも俺は将来やりたいことが決まっていなかった。好きなことや興味のあることは音楽で、それを仕事にするのは難しそうだった。音楽に関わる仕事はたくさんあるが、結論、俺は音楽を奏で、音楽の一番近くにいたいのだ。いわゆるミュージシャンと言われる職種に、安定性は見込めない。大学の就活サポートに相談したが、ミュージシャンという選択については、いい顔はされなかった。
 軽音サークルの他の友達は、案外現実主義で、音楽とは無縁の職種を考えている人がほとんどだった。また、先輩のなかで、音楽に関わる職種に内定をもらっている人はいない。現実は厳しい。
「で、俺に連絡してきたわけだ」
 新城さんは俺の話を聞いた後、こう言った。そして、ビールを一口飲む。
 金曜の夜、チェーン店の居酒屋で、俺と新城さんは向かい合って座っていた。テーブルの上には、料理がいくつか並んでいる。
「はい、疲れてるところすいません」
「可愛いハルタのためだから」
 優しく言ってくれた新城さんだが、その笑顔が怖かったりする。それは昔からだった。新城さんは仕事帰りのため、スーツ姿だ。今はジャケットを脱ぎ、ネクタイをゆるめている。
「えっと、新城さんって、公務員ですよね」
「うん、地方公務員。今は市役所で働いている」
「大変ですか?」
「仕事だからね、大変なのは当たり前」
「残業とかあります?」
「俺の部署は少ないほうだけど、全くないわけじゃない」
「なるほど」
 安心安定というイメージがある公務員は、俺の選択肢の一つだった。何より、新城さんが働きながらも音楽活動をしていることが、俺にとって一種の救いだ。音楽活動ができなくても、仕事をしながらバンドができれば言うことはない。
「就職、迷ってるんだ?」
「はい」
「くれぐれも音の人生は参考にするなよ」
 釘を刺され、俺はははっと笑い、ビールを飲む。あまり酒は強くないので、程々にしなければならない。
「でも、俺は将来的には辞めるから」
「え?音楽を?」
「違う、公務員」
「え、なんでですか?」
「音楽やろうと思って。音とOTOでやりたいことがあるから」


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