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2-3.湯煙る二人
8 *
しおりを挟む和室の座卓に料理の品が数多く並んだ。季節の野菜や地鶏、近くの清流で獲れる川魚など、仲居の説明を聞きながら、二人は料理に舌鼓を打った。仲居に勧められた二人は、地ビールや地酒を飲み、食事は賑やかな雰囲気のなか終わった。
「おいしかったー」
片付けが終わり、仲居が出ていった後、王輝は畳へと寝転んだ。畳の匂いが鼻をくすぐる。お腹が満たされ、アルコールのせいもあり、ご機嫌だった。王輝がごろごろと寝転がっていると、立っている遼に見下ろされる。王輝の顔に遼の影が落ちた。
「佐季も寝転がれば?」
「俺はいいよ」
「気持ちいいのに」
王輝はむぅと頬を膨らませた。普段なら見せない子供っぽい仕草に、可愛いと思いながら、遼は王輝の傍にしゃがみこむ。
「寝転がるならベッドにしろ」
「お母さんみたい」
王輝はふふっと楽し気に笑い、遼に向けて手を伸ばす。
「じゃあベッドまで連れてって」
甘えるような王輝の声が、遼の耳朶に響く。遼の身体の熱がじわりと上がる。王輝の瞳は期待するように遼を見つめていた。
「わかった」
王輝の手を取り抱き寄せた遼は、軽々と王輝の身体を持ちあげた。お姫様抱っこの体勢になり、王輝は遼の首に腕を回す。
「ちょっと重くなった?」
以前セックスしたときよりも、王輝の身体が重く感じた。
「筋トレしてるからかも」
「仕事?」
「そうそう、ドラマで喧嘩とか乱闘とか、結構ハードな撮影があるから鍛えてる」
会話をしながら、和室から寝室へと移動し、遼は王輝の身体をゆっくりとベッドに下ろした。そして、子供をあやすように、王輝の頭を撫で、額にキスを落とす。遼が身体を引いたので、王輝は物足りない顔をした。
「ちょっと待ってて」
遼はもう一度額にキスをして、和室へと戻った。壁際の戸棚の中、浴衣と一緒に置いてあったバスタオルを一枚取ると、再び寝室に戻る。そして寝室と和室を隔てている襖をきっちり閉めた。防音効果は小さいだろうが、閉めないよりはいいだろう。寝室はベッドサイドの灯りだけに照らされ、うす暗い。
バスタオルを王輝に渡し、ベッドに敷いてもらう。部屋の隅に置いていた荷物から遼が取り出したのは、ハンドクリームとコンドームだった。それを持ってベッドに戻ると、王輝は「いつ買ったの?」と尋ねてきた。
「ハンドクリームは俺がいつも使ってるやつ。コンドームはさっきコンビニで買った」
「え、いつの間に?気づかなかった。っていうか、その時からセックスする気だった?」
「そういうわけじゃないけど……、念のため……」
「佐季って意外とむっつりだよな」
楽し気に笑う王輝に、遼は「悪かったな」と不貞腐れた。
「でも、どうする?週刊誌にコンドーム買う写真載ったら」
「あー、全然考えてなかった。カメラいた?」
「俺はわからなかったけど」
芸能界で働く二人にとってスキャンダルは一番恐れるもので、特に遼の場合、良いことも悪いことも、すっぱ抜かれることが多かった。スキャンダル関連は岸が圧力をかけており、また遼の素行の良さからも、今まで大きな記事はでたことがなかった。いつどこでも週刊誌のカメラはいて、遼はそういうときは視線を感じるが、今日は何も感じなかったことを思い返していた。
「そんなことより…」
王輝は遼を抱き寄せ、唇が触れるぎりぎりの距離で囁く。
「早くしよ」
誘惑するように、王輝は自分の唇を舐めた。それを見た遼はごくりと唾を飲みこんだ。遼は軽く息を吐き、王輝を優しくベッドに押し倒す。そして遼の唇と王輝の唇が重なった。
この瞬間、二人の間に暗黙の了解が生まれた。お互いに好きはなかったことにして、セフレ関係を続ける。好きと言う感情を殺すことを決めたのだった。今のままでいるために、虚しいルールに二人は縋りつくしかなかった。けれど、以前とは違い、好きを前提にセックスするのだから、それだけでも充足感に溢れていた。
二人はちゅ、ちゅっと軽いキスを交わし、舌を絡ませ、唇を貪りあう。浴衣越しに性器を押しつけ合い、早く一つになりたくて仕方なかった。遼は王輝の浴衣の帯を解き、白い肌を露わにする。すべすべの肌を撫で、鎖骨から胸に手を移動させ、突起を擦る。王輝はくぐもった声を出した。
二人の唇が離れると、唾液の糸が細く繋がり、すぐに切れた。遼は名残惜しそうに、王輝の唇をぺろりと舐める。遼の情欲が燃える瞳に見つめられ、王輝は背筋がぞくぞくした。早く、もっと欲しい。王輝はそれしか考えられなかった。
遼は逸る気持ちを抑えながら、王輝の下着を脱がせた。勃ちあがった王輝自身は、期待も相まってすでに先走りを流している。遼は王輝の両足の間に身体を入れ、王輝を開脚させる。遼はチューブタイプのハンドクリームを指に取り、ぴったりと閉じた蕾に指を一本入れた。久しぶりの侵入に、王輝の後孔は抵抗を示す。
眉根を寄せた王輝の額に、遼はキスを落とす。そのまま頬や唇、鎖骨、乳首とキスをして、時折軽く皮膚を吸い上げながら、後ろを解した。最初は抵抗感があったものの、やわやわと内壁を刺激すると、遼の指をしゃぶるように中が蠢く。指を二本に増やし、縁をつつっとなぞり、広げるように動かした。性器の裏当たりのしこりを押すと、びくっと身体を震わせた。少し萎えていた王輝自身は再び元気になり、先走りが会陰を伝って後孔を濡らす。
「っ、あ、佐季っ……」
久しぶりの快感に怖くなった王輝は、遼に助けを求める。遼は王輝の手を絡めとり、安心させるようにぎゅっと握った。遼は王輝の胸の突起を口に含み、舌で転がす。甘噛みすると、乳首はぷっくりと可愛らしく主張した。以前より若干引き締まった王輝の身体を堪能するように、遼は滑らかな肌にキスを落とし続けた。ふと横腹の青紫色のアザになっているところを見つけ、遼は手を止めて王輝に尋ねた。
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