お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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2-4.共演

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 タクシーに残された遼と王輝はマンションに着くまで無言だった。マンションが近くなってきたため、王輝がドライバーに二、三度道案内をした。タクシーは迷うことなくマンションの前に止まり、二人はそのまま降りる。料金はドラマの製作会社に請求されるので、支払いはなかった。
 王輝は凝り固まった身体をほぐすように伸びをしながら、マンションの中へと足を進める。いつもなら会話をするタイミングだが、王輝は何も言わずに遼の先を歩く。エントランスからエレベーター、そして部屋の前に着くまで、二人の間に沈黙が続いた。
 遼は声をかけるタイミングを見失っていた。今日は一日漠に懐かれ、王輝と話ができなかった。それに王輝が不機嫌な空気を纏っているのも気になる。もしかして何かしてしまっただろうかと不安になる。また明日、とこのまま別れることができず、遼は意を決して、王輝を呼んだ。
「今ヶ瀬」
 王輝は鍵を開ける手を止めて、遼を見る。王輝の表情に疲れが見え、早く話を終わらせようと遼は思った。
「疲れてるのにごめん」
「なに?」
 とげとげしい王輝の口調に、遼はたじろいでしまう。それに気づいた王輝は慌てて「ごめん」と謝った。遼に当たるのは間違っていると、ため息を吐き、鍵を開けた。
「とりあえず中入れば?」
 王輝はドアを大きく開けた。王輝に続き玄関に足を踏み入れた遼は、玄関で足を止める。話をするだけで、長居する気はなかったからだ。
 靴を脱ぎ、部屋に上がった王輝は、不思議に思い「上がれば?」と声をかける。「すぐ帰るから」と前置きし、遼は疑問を投げかけた。
「今ヶ瀬が機嫌悪いのって、もしかして俺のせいだったりする?」
 遼は早く切り上げようとするばかりに、単刀直入に尋ねてしまい、もっと聞き方があっただろうと自らの不器用さに情けなくなった。王輝は驚いた表情をした後、首を横に振った。
「佐季のせいじゃない」
 王輝の答えに、遼はほっと胸を下ろした。疑問は解決されていないが、これ以上深く聞くのも躊躇われる。そこまでの関係ではないと遼は弁えた。
「疲れてるのに時間取らせて悪かった。また明日」
 遼が一方的に話を終わらせ、帰ろうとしたため、「待って」と今度は王輝が遼を呼び止める。遼は足を止め、王輝の言葉を待った。
「矢内のことなんだけど」
 王輝の口から急に漠の名前が飛びだしたので、遼は不思議そうに首を傾げた。
「今日仲良さそうに話してたけど、あいつは外面がいいから、気をつけたほうがいい」
 BloomDreamのファンという嘘をバラすのは憚られたので、王輝はオブラートに包んで伝えた。すると、遼は意外な言葉を王輝に返した。
「それなら、カズも同じこと言ってた」
 驚いたのは王輝で、思わず「え?」と声が出た。
「カズは顔広いから、そういう勘は鋭いし、俺もなんとなく感じてたし」
 人気がでれば、下心で近づいてくる人間は多くなる。王輝よりも遼たちのほうが経験しているであろうことを言わなくてもよかった、と王輝は遅れて思い至った。そう考えると、わざわざ漠の悪評を遼に吹聴したことが、恥ずかしくなった。
「ごめん、俺余計なこと言った」
「何で?今ヶ瀬が忠告してくれたのは、俺のことを思ってだろ。その気持ちが嬉しいよ」
 遼は照れもなく、真っすぐな瞳で王輝を見つめる。王輝は嬉しさから、堪らず遼に抱き着いた。嗅ぎなれた遼の匂いに安心すら覚える。急に抱き着かれた遼は、意味がわからず、立ち尽くしていた。
「しばらくこのままでいい?」
 王輝からの問いへ肯定の変わりに、遼は王輝の身体に腕を回し、抱きしめる。王輝は遼の肩に顔を埋め、触れた体温に心地よさを感じた。王輝の心から疲れもイラつきも全てが消えていき、気持ちが軽くなる。それは遼も同じで、久しぶりの王輝の体温を味わうように、王輝を抱きしめた。
 二人はしばらく抱き合っていたが、どちらからともなく身体を離した。これ以上くっついていたら、セックスへと流れ込んでしまいそうだったからだ。明日も早朝からドラマ撮影が予定されていた。スケジュール通りに撮影は進んでいるため、明日で共演部分の撮影は終わりだ。
 名残惜しそうに離れた二人は、しばらく見つめ合う。先に口を開いたのは遼だった。
「明日撮影終わったら、久しぶりに、いいか?」
 珍しい遼からの誘いに、王輝は驚きつつも嬉しく思った。ドラマ撮影が立て込んでいて、セックスできない日が続いていたため、遼からの誘いを断る理由はなかった。
「うん」
 王輝の答えに、遼は緩む頬を隠しきれず、それを見た王輝も頬が緩んだ。
「また明日。ちゃんと風呂入れよ」
 念押しするような遼の言い方に、王輝は笑いを吹きだした。「わかってるよ。おやすみ」と返事をし、遼が部屋をでていくのを見送る。
 ドアが閉まり、部屋に一人残された王輝は大きく息を吐いた。幸せを噛みしめるようににやけた王輝は、仕方ないから風呂に浸かろうと浴室へと向かった。


 

 撮影三日目。撮影はほぼ終わっており、あとは細々としたシーンとエンディングを撮影するだけだった。
 仕事とは言え毎日会うことが嬉しく、王輝と遼は待ち時間にタープテントの中で談笑していた。その二人の様子を須川と岸が少し離れたところで見ていた。
「本当に仲良いんですね」
 昨日に引き続き同行していた須川は、隣に立っている岸に話しかけた。にこやかに話している王輝の表情を須川は嬉しそうに眺める。遼と話をしていると、年相応の顔が垣間見えた。
「リョウが温泉楽しかったって言ってました」
「あの時は無理を言ってすいませんでした」
「こちらこそ、二人ともゆっくり休めたようでよかったです」
「2ショットの件も、ありがとうございます」
「思った以上に話題になって、こちらも助かりました」
 温泉のセッティングは須川からの提案で、初めは馬鹿らしいと思っていた岸だが、蓋を開けてみれば大成功だった。遼の不調は一気に解消され、仕事も絶好調だ。2ショットも見事にバズった。
 岸は王輝の実力と須川の手腕が油断ならないと評価していた。王輝は人気が出ており、また着実に実力も付けている。このドラマ撮影が終われば、次は年末の舞台の仕事が待ち構えていた。アイドルと俳優では活躍の場が違うが、いつか仕事を争うだろう。岸はそんな予感を感じていた。
「今後ともよろしくお願いします。BloomDreamの皆さんとまた共演できたら嬉しいです」
「言いましたね。共演の件、覚えておきますから、よろしくお願いしますよ」
 須川と岸の戦いのような会話を知るよしもなく、遼と王輝はダンスの振りつけを確認していた。
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