お隣さんはセックスフレンド

えつこ

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3-2.伝える想い

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 王輝は一週間入院した後、無事退院した。
 怪我以外は特に問題なく、至って健康そのものだ。すぐにでも仕事に復帰したい王輝だったが、三門の指示である程度制限することになった。
 目下の問題なのは、不良マンガの実写化ドラマの撮影と舞台稽古だった。ドラマ撮影は王輝の不在のうちにも撮影が進み、王輝の出演シーンは後から撮影するスケジュールに変更にされた。三門の許可が降り次第合流することになっている。舞台稽古はそれほど動きは激しくないため、すぐにでも参加することになっていた。十二月下旬の本番までには十分回復していると三門に保証されたため、王輝は安心した。
 事件について、王輝の事務所は公開しないことを決めた。漠がしたことと言えば、王輝に睡眠薬を飲ませたことだけ。怪我は王輝自ら招いたことで、漠は関係がない。事務所は事が明るみにでて、漠の評判が下がることを恐れた。一度悪いイメージが付くと、払拭することが難しい。その代わり、漠は謹慎処分を受けることとなった。今進行している仕事は遂行し、それ以外の新規の仕事はしばらく断ることなる。
 王輝は事務所の決定に納得していないわけではなかったが、その決定におとなしく従うことにした。看板俳優の一人である漠を失うことが、事務所にとって大打撃であることを王輝は理解していたからだ。しかし、須川はただでは引き下がらず、漠への仕事を王輝に振り分けることを事務所に約束させた。須川の逞しさに感謝するばかりの王輝だった。
 漠と一緒にいた少女は、漠の実の妹だった。妹にはかん口令が敷かれた。漠と漠の妹は十分反省していることを王輝は須川から聞いた。直接謝りたいという申し出もあったが、王輝が退院してからという話になっていたので、王輝は事件以降漠には会っていない。
 病院からマンションの自分の部屋に戻ってきた王輝は、まず部屋の換気をした。一週間も家主が不在だった部屋は、空気が淀んでいた。リビングと寝室の窓を開けると、冷たい空気が流れ込んでくる。晴れているので日差しは暖かい。王輝は入院中の着替えやタオルを洗濯機につっこみ、スタートボタンを押した。洗濯が始まったことを確認して、キッチンに移動する。
 冷蔵庫を開け、中身を確認する。いつも大した食材が入っていない冷蔵庫なので、腐った食材は何もなかった。冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、喉を潤す。病院もタクシーの中も暖房がきいていて暑いくらいだったので、冷たい水が身体に沁みた。
 リビングのソファに座り、退院時に須川から受け取った新しいスマホの電源を入れた。血で汚れたスマホやスマホケースは使う気になれず、須川に頼んで新調してもらったのだった。入院中は、検査や治療を受けたり、事務所に事件のことを説明したり、舞台の台本を覚えたりと忙しく、スマホは放置したままだった。
 クラウドで同期しているため、データ移行は問題なく、端末の設定を簡単に済ませる。数少ない知人から心配するメッセージが届いていた。王輝の急な休養は、過労によるものと事務所が発表したからだ。メッセージに簡単に返信し、王輝は次にSNSを確認する。エゴサをすると、王輝を心配する声が多く見られた。また王輝が入院中に誕生日を迎えたため、お祝いの言葉がずらりと並んでいた。休養と誕生日のことが重なったことで、一時名前がトレンド入りしたことを王輝は初めて知った。
 しばらくソファでスマホを見ていた王輝だが、自然とあくびが漏れた。入院中はベッドが合わず、眠りが浅い日が続いていた。王輝はスマホを見ながら、寝室へ移動して、ベッドに倒れむ。クッションのきいたベッドが優しく王輝を包んだ。
 王輝は遼にメッセージを送ることにした。遼と岸に助けられたことは須川から聞いており、命の恩人といっても差し支えないと王輝は思っていた。「さっき退院した。会いたい」と文字を打ち、少し悩んで「さっき退院した」と簡潔にしたメッセージを遼に送った。セフレのくせに会いたいなんて、図々しいにもほどがあると弁えた結果だった。
 スマホをベッドに置いた王輝は、目を瞑った。遼に会ったら、お礼を言おう。できなかった誕生日パーティーをしよう。そう考えながら、王輝は眠りについた。




「今ヶ瀬さん、今朝退院したよ」
 三門は診察を終えた遼に話しかけた。
 遼は転倒したときに強打した肩の経過観察のために三門の病院に来ていた。事件の翌日、王輝がまだ眠っているときにも一度診てもらっていた。幸い打撲と内出血だけで、骨や筋肉に異常はない。触れたり動かしたりすると、鈍痛が走る程度だ。
 遼は上着を羽織りながら「さっきメッセージがきてました」とだけ答えた。王輝の退院日は、岸から聞いていた。事件に関わった岸と遼はかん口令が敷かれる代わりに、須川から定期的に情報を提供されている。事の顛末を知った遼は、漠に対して怒りが湧いた。次に漠に会ったとき、自分が冷静でいられるかは遼にはわからなかった。
「あまり無理しないように。ダンスレッスンは控え目にするように岸に伝えておくから」
 BloomDreamのデビュー当時からメンバーを診ている三門は、いつも無理をし過ぎるメンバーに手を焼いていた。岸に言っておかなければ、何をしでかすかわからない。遼の肩の経過は問題ないので、診察は今後不要だと三門は判断した。
「今日で診察は終わりだから。もし何かあればすぐ来るように」
「はい。ありがとうございました」
 遼はお礼を言って、診察室を後にした。
 三門は遼が出ていった後、小さくため息をついた。遼の様子がいつもと違うと感じていたが、追及しなかった。これでよかったのだろうかと自問する。遼が抱え込むタイプで、感情が表にださないことを三門はわかっていた。あの夜、遼が見せた必死の形相は、三門の記憶に新しい。遼があそこまで感情をむき出しにするのを初めて見た。遼と王輝の関係について、あとで岸に聞いておこうと思いながら、遼の電子カルテに診察記録を記入した。
 遼は病院前に止まっているタクシーに乗り、マンションへと向かった。今日はオフだ。タクシーの窓から晴天を見上げ、部屋の掃除をしようと考えたが、すぐに思考が王輝へと流れる。
 王輝に気持ちを伝えるという覚悟は変わっていないが、迷う気持ちも生まれていた。そのせいか、王輝の話題になると、変に意識してしまう。先ほども三門に話を振られて、そっけなく返してしまった。遼は自分の不器用さにため息をついた。
 王輝からメッセージを無視するわけにもいかない。マンションに戻ったら、一度王輝の部屋を訪ねることを遼は決めた。
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