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4-1.チョコレートケーキ(番外編)
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しおりを挟む「王輝、シャワー浴びる?」
「んー、もうちょっとだけ、ゴロゴロしてたい」
「じゃあ俺が先に……」
遼がベッドから降りようとすると、王輝に腕を掴まれ、ぐいっと引っ張られる。抵抗する間もなく、クッションのきいたベッドに、遼の身体は押しつけられた。先ほどと体勢が逆転し、遼の体躯の上に、王輝は乗っかかった。王輝は細身だが、決して軽いわけではない。遼は重みと体温を感じながら「どうした?」と尋ねた。
「時間、まだ大丈夫だろ?」
王輝は楽し気に目を細め、先ほどの仕返しだとばかりに、遼の全身を舐めるように見つめた。
遼のブラウンの髪色は、今はアッシュが混ざる。ベリーショートの髪型と相まって、夏らしく軽やかだ。普段は温厚な表情が、今は野獣のように滾っている。健康的に焼けた肌は眩しく、腕や胸の筋肉は鍛えられ、腹筋も綺麗に割れている。全体的にがっしりとした身体つきに、王輝はうっとりと見惚れながら、その肌を撫でた。そして、王輝は遼に覆いかぶさり、ついばむようにキスをする。互いの体温が重なり、鼓動が近くなった。
「こうやってゆっくりするの、久しぶりだよな」
「確かに」
王輝の言葉に、遼は同意した。
最近は二人とも忙しく、休みがなかなか合わない状況が続いている。こうして日が高い時間にセックスを営んでいるのも、そのせいだった。背徳的な行為に、否応なく盛り上がってしまうのは性で、何度も絶頂を迎えた二人だった。
遼が所属するBloomDreamは夏のツアー真っただ中で、全国を飛び回っている。春先に発売したアルバムの売れ行きは好調で、そのアルバムを引っ提げてのツアーだ。BloomDreamの人気は相変わらずで、新曲を出せば売上ナンバーワンを果たし、雑誌の表紙を飾れば、爆発的な売上を叩きだした。また、昨年のMVやドラマ出演のおかげで、演技の仕事も舞い込んできており、遼、そしてメンバーであるカズやタスクは俳優業にも奔走していた。
王輝の方はドラマや映画の撮影に引っ張りだこだ。例の事件以来、一時期は漠の仕事も請け負っていたため、露出が増えた影響で、人気に火が付いた。ドラマは毎クールの出演を果たし、休む間もなく撮影が詰めこまれる。また、舞台の仕事も増えた。秋には写真集の発売が予定されており、今はその撮影のため、各地にロケに赴いているため、繁忙に拍車をかけていた。
付き合ってから、半年以上が過ぎ、忙殺されているせいで恋人らしいことができず、二人はやきもきしていた。しかし、アイドルと俳優という立場上、さらに男同士であるため、表立っての交際はできるわけがなく、仕事の合間に逢瀬を繰り返す日々だ。セフレのときと変わらないというのは、お互いわかっていたが、これ以上を求めることは酷だということも理解していた。
だが、もうすぐ八月にさしかかろうとし、かつてないイベントが近づいていた。遼の誕生日だ。八月九日である誕生日に向けて、王輝は何かできないかとずっと考えていた。昨年、温泉旅行の時に渡したプレゼントであるハンカチは、結局血まみれになってしまい、嫌な思い出しか残らなかった。
今年こそはと王輝は意気込んだが、遼の欲しいものの検討がつかない。そもそも遼は日ごろから欲を感じさせないのだ。あれが欲しい、これをしたい、などを遼の口から聞いたことがない。ただ性欲があることは確かで、遼のほうから王輝をセックスに誘うことはたびたびあった。
「王輝?」
物思いにふけっていた王輝は我に返る。精悍な顔つきの遼が、心配そうな表情をしていた。いつ見てもかっこいい恋人だと王輝は悦に入りながら、昨年の王輝の誕生日の際は、面と向かって遼に尋ねられたことを思い出した。悩むのではなく、聞いてみればあっさり答えてくれるかもしれない。
「なぁ、プレゼント、何が欲しい?」
「え?」
「もうすぐ誕生日だろ?」
「あぁ、誕生日……」
遼はどこか他人事のように納得し、少しの間考えを巡らせた。しかし、特に思いつくものはなく、そのまま黙ってしまう。確かに誕生日が近く、カズやタスク、岸にすら、プレゼントについて尋ねられていた。忙殺されている今であれば、休みが欲しいとは思うが、仕事が嫌いなわけではない。こうやって王輝と過ごし、セックスできる時間はあるのだから、それで満たされている。遼は熟考の上、口を開いた。
「プレゼントは別に、気持ちだけで十分嬉しいよ」
王輝がその返答に納得するわけがなく、むっと拗ねた表情で、遼の額を指で弾いた。急な攻撃に、遼は「いたっ」と顔を顰めた
「俺がよくない」
そう言い捨てると、遼の上から退き、ベッドへと寝転がる。痛みを和らげるように、額を撫でる遼の横顔を王輝は見つめた。恋人相手に、遠慮しているのかもしれない、と王輝は小さくため息をつく。しかし、『プレゼントなら、気にしないで』と、王輝は去年の自らの誕生日に、同じような返事をしたことを思い出した。遼のことを言える立場ではない。
「わかった。考えとく」
遼はそう言うと、王輝を宥めるように抱き寄せた。一瞬抵抗した王輝だが、結局はおとなしく遼の腕の中に収まる。ほだされていると感じながらも、やはり遼のことが好きであることは確かだ。遼の体温に包まれて、王輝は心地よさに瞼を閉じた。遼は愛おし気に、王輝の頬を撫でる。目の下に少しくまができており、遼は王輝の忙しさを悟った。緩慢にまばたきする王輝に、遼は優しく声をかける。
「寝ていいよ。ちゃんと起こすから」
「遼は?」
「俺もちょっと寝る」
優しく微笑む遼に、王輝も頬が緩む。王輝は遼にすり寄り、肌を触れ合わせるようにくっついた。
二人ともシャワーを浴びたい気持ちがあったが、一緒にいたいという気持ちが勝る。幸せそうな表情で二人は身体を寄せ合い、束の間の休息を過ごした。
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