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5.変化
4
しおりを挟む二人はグラスを掲げて、「乾杯」と口々に言うとビールで喉を潤した。冷たいグラスと冷たいビール、ビールの綺麗な泡立ちに、イオは思わず「はぁ」と幸せが滲む息を吐いた。それを見た総司は、満足げに微笑む。
「仕事終わりのビールは格別だね」
総司の視線に気づいたイオは表情を取り繕い、「そうですね」と答えた。そして、気恥ずかしさを紛らわすために、小鉢の料理を一口食べる。酢味噌で和えたイカとネギは、さっぱりとしながらも味わいがある。イオは「美味しい」と呟く。
「イオくん、日本酒は?飲める?」
「あまり飲んだことないので……」
「お寿司と日本酒ってすごく相性がいいから、あとで飲んでみる?」
「いや、俺はもうお酒は……」
二人の会話の間に、スッと寿司が差し出される。カウンターの上に置かれた寿司げたに乗っているのは、鯛の寿司だ。白く透き通る身は、よく締まっている。
美味しそうな寿司を目の前に、イオはマナーがわからず動けない。しかし、総司がこそっと教えてくれる。
「そこから直接取って、そのまま食べれば大丈夫」
手本を示すように、総司は寿司げたから直接寿司を取った。イオも見よう見まねで寿司を取り、口に運ぶ。想像を超えた美味しさに、イオは目を見開いた。
(お寿司って、今まで何度も食べたことあるけど、こんなにおいしかったっけ……?)
美味しさに浸るように、イオは寿司を咀嚼する。
「どう?美味しい?」
総司に尋ねられ、力強く頷いた。飲み込むのが惜しいが、イオはごくりと嚥下し、表情を綻ばせる。
「すごく美味しいです……!」
「よかった」
総司は胸を撫で下ろす。あまりにもイオが嫌がるため、連れてきたことを後悔しかけていた。イオの喜ぶ表情を、総司は微笑ましく見つめる。
その後、二人は寿司を堪能した。
イオは寿司の美味しさに感動しっぱなしだ。また、最初は一杯だけと遠慮していたイオだが、寿司のおかげで、ついつい酒が進む。イオは店員お勧めの日本酒に挑戦し、その美味しさに、また感動した。
イオはほろ酔い気分で、隣に座る総司を見る。総司ももちろんほろ酔いで、にこにことしている。
(総司さん、素敵な人だな。変なときもあるけど。優しいし、仕事できそうだし、きっとモテるんだろう)
総司がモテる様を想像し、イオは胸がきゅっと痛くなるのを感じたが、それは酩酊の前では微かな痛みだった。
総司の横顔を堪能していると、急に総司がイオの方を見た。イオは慌てて視線を逸らす。
「イオくんに、聞きたいことがあって……。もしかしたら、答えたくないかもしれないけど……」
総司の念入りな前置きに、イオは恐る恐る総司を見る。総司と目が合う。イオは視線を外せず、総司からの真っすぐな視線を受け取った。総司がゆっくりと口を開くのを、イオは緊張しながら見守った。
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