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6.誤解
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しおりを挟むそもそも一緒に住んでいるからこそ、総司は正気を保っていられるのだ。イオの姿を見ることができず、一ヶ月過ごせば、総司だって落胆し、生きる意味さえわからなくなっていただろう。
(恵まれているんだ、俺は……)
総司は自分にそう言い聞かせて、オリーブを一粒口に入れた。舌の上で転がすと、独特の香りが鼻に抜ける。
単純に恵まれていると喜べないのは、先日イオを性的な目で見てしまったからだ。それ以来、イオとの距離感が測れなくなったり、目が合わせにくくなったりしている。
喉まで出かかったイオのことを流し込むように、総司はビールをぐいっとあおった。七海が新しいビールを注文したので、総司もビールを頼む。ついでに、マルゲリータ、チーズの盛り合わせ、魚介のフリットを注文した。
「新しい推しを見つけようとして、色んな現場に顔出してみたんだけど、いまいちなんだよね」
ため息を吐いた七海に、総司は曖昧に頷いた。
(俺も、イオくんが出ていった後どうしよう……。いつまでも一緒に住むわけじゃないし……)
イオが最近家探しをしているのを総司は知っていた。バイトの給料もそろそろ出る頃だ。出ていくタイミングとしてはベストだと総司は思っていた。
「ソウジくんは、最近何してるの?」
「何って……」
「推し活」
「俺も、特には……」
「だよねぇ。推しは運命。探してすぐに見つかるなら苦労しないよね」
七海は苦笑した。ちょうどビールとチーズの盛り合わせが運ばれてくる。
「っていうか、ミナミの契約違反って何よ。なんでイオくんまで巻き込まれなきゃいけないんだって感じ」
七海はビールを一口飲んだ後、語気を荒げた。総司は勢いに押されながら、薄切りになったチーズを食べた。濃厚な味が口に広がる。
「ソウジくん、知ってる?」
「え?何がですか?」
「ミナミの契約違反の内容」
「知らないです」
「でき婚」
「あぁ……」
総司は変に納得した。ミナミは以前から、ファンとプライベートで会ったり、太客は特別扱いしたりと、イオに比べると素行は悪かったからだ。でき婚してもおかしくない。
「相手は誰かわからないけど、ファンとかキャバ嬢とか、ネットにはいろいろ書いてる」
七海は吐き捨てるように言った。総司は知らないが、ミナミに対しては、ネット上でかなり批判されていた。イオのファンからだけではなく、今までミナミを推していたファンからもだ。
「アイドルなら、ファンに対して誠実でいろよって思う」
「確かに、そうですね」
「でも、アイドルって言っても、一人の人間だし」
「それも、そうですね」
「でも、イオくんを道連れにしたのは許せない」
「それは、許せないです」
七海の勢いに、総司はイエスマンに成り果てていた。今の己の役割は、聞き役に徹することだと悟った総司だ。というより、家にイオがいるという負い目があるため、総司は何も言えなかったし、何か言えばぼろを出しそうだったからだ。
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