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number.5 計算地獄
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「もうムリぃー!!頭いたい。」
だいぶ話せるようになった絵菜。小言も出るようになった。…うるさい。
相変わらず飯が嫌だの、俺がうざいだの、提供されてる服がヒラヒラしてて嫌だの、俺が怖いだの、別の人にして欲しいだの、外に出たいだの……うるさい。
「この家から出たいぃ。…モム(母親)に会いたい。」
「母親がおまえを此処に寄越したんだ。会えるわけないだろ?」
「モムは知らなかったの。きっとすぐ帰ってくると思ってるよ。」
「ない。ちゃんと金払ったんだ。今頃山降りて町で生活してるだろうさ。」
「町でエナを待ってるよ…。」
親なんざ、手離した子供の帰りなんか待ってるもんか。
「早く終わらせろ。今はだらだらできるが、玲子の話だとそろそろ制限時間が付いてくるらしいぞ。」
「…どれくらいでやらなきゃいけないの?」
「知らん。その時が来たら玲子が来る。」
「玲子さんくるの?早くきてよ~。」
「今の状況じゃ玲子が困るだけだ。早くやれ。」
ふくれて俺を睨んでからモニターに向かう。モニターには相変わらず数学がびっしり並び、何をどう計算しているのかわからない。
暫くすると、数字が書かれた紙を渡してきた。すぐに玲子に連絡する。
「ありがとう、このまま切らずに待ってて。………
…大丈夫。今入力したわ、第二ロック解除完了よ。」
「全部終わったらブレインナンバーはどうなるんだ?」
「…わからないの。でも、タイマーはストップすると思うわ。」
「本当に何か起こるのか。」
「タイマーを取り敢えず止める方向にしないと何もわからないのよ。止めてから調べるつもり。あ、あとね、明日そっちに然と棗を寄越すわ。」
「え、俺、休暇?」
「バカ。休暇なんてもらったことないでしょ。本社に来て仕事よ。」
……大した金もくれないくせして働かせるよな。
翌日玲子の車に棗、然は別の車でやって来た。
「あなたが絵菜ちゃん?かーわーいーいー!あたし、棗。よろしくね。」
棗は二十歳のキャピキャピした女で、声が甲高くミッションで同じ組になると毎回幻滅する。今まさに幻滅しているのだが…。
一方寡黙でクールな然は、俺と同じく冷めた目で女子ふたりを見ている。今にも溜め息が出そうな顔をしている。
「リウは私と本社に戻って、然と棗は入れ替わりでベースに残って。で、棗はもうひとつのミッションが一週間後に動きがあるみたいだから、再始動の連絡があったら向かってちょうだい。車は然が運転してた方を置いていくから使って。」
そう言って玲子とリウはベースを後にした。残った三人は沈黙する。違うタイプが一緒になるとテンションが下がる。
然は空気に堪え兼ねて二階の部屋へ行ってしまった。棗は用もなくキッチンへ。残された絵菜はテレビをつけた。変わらず映るのは教育番組。今の時間は幼児向けの、着ぐるみが陽気に踊る番組だった。
棗が片手にラテを持ち、ソファに腰掛ける。床に座っていた絵菜もなんとなくソファに腰掛けた。
「絵菜ちゃんの住んでたところって、どんなところだったの?」
「…エナのいたところは、山がたくさんあって、ここより寒くて、ここより木がたくさんあって。」
「山に住んでたの?お母さんと?」
「…そう。モムとふたりで。でももう会えないってリウが言うの。」
「モム?お母さんか。リウは意地悪だからね。暗号が全部わかったら会えるよ、帰れるよ。」
「そう?モムもエナに会いたいかなぁ?」
「お母さん、なんて名前なの?」
「モムの名前はルクシュクだよ。何で?」
「絵菜ちゃんのお母さん、外国人なんだ。」
「モムとエナは同じだよ?」
「違うんじゃない?だって髪の毛とか目とか、同じ色だった?」
「モムは…黄色い髪で、目は青かったかな…。」
「でしょ?じゃあお父さんは?」
「おとうさん?ファズ?…わかんない。会ったことないの。」
「え、絵菜ちゃんのお父さん、どんな人なんだろうね?」
棗の悪い癖はミッション関係なくプライベートにずかずか踏み入ってしまうところだ。
それが功を奏する時もあるが、話を続かせるために言ってはいけない事もある。
電話が鳴った。
「あ、棗?悪いんだけど、絵菜の洗濯物持ってくるの忘れたの。だから、棗が洗濯する時一緒に洗ってあげてくれない?」
「わかりました。あ、あの…」
「何?」
「…絵菜のお父さんとお母さんってどんな人なんですか?」
絵菜に聞こえないように小声で聞く。
「絵菜の?…お父さんは、確かこっちの人よ。」
「ハーフなんですか?」
「棗、事前にミッションシート読んでないの?」
「…すみません。」
棗は活字が苦手である。
「とにかく、絵菜のストレスになるような事や話はしないようにね。あと、然と仲良くね。」
「…はーい。」
…然、苦手なんだよなぁ。奏の方がよかったよ。
そう思いながら受話器を置いた。
だいぶ話せるようになった絵菜。小言も出るようになった。…うるさい。
相変わらず飯が嫌だの、俺がうざいだの、提供されてる服がヒラヒラしてて嫌だの、俺が怖いだの、別の人にして欲しいだの、外に出たいだの……うるさい。
「この家から出たいぃ。…モム(母親)に会いたい。」
「母親がおまえを此処に寄越したんだ。会えるわけないだろ?」
「モムは知らなかったの。きっとすぐ帰ってくると思ってるよ。」
「ない。ちゃんと金払ったんだ。今頃山降りて町で生活してるだろうさ。」
「町でエナを待ってるよ…。」
親なんざ、手離した子供の帰りなんか待ってるもんか。
「早く終わらせろ。今はだらだらできるが、玲子の話だとそろそろ制限時間が付いてくるらしいぞ。」
「…どれくらいでやらなきゃいけないの?」
「知らん。その時が来たら玲子が来る。」
「玲子さんくるの?早くきてよ~。」
「今の状況じゃ玲子が困るだけだ。早くやれ。」
ふくれて俺を睨んでからモニターに向かう。モニターには相変わらず数学がびっしり並び、何をどう計算しているのかわからない。
暫くすると、数字が書かれた紙を渡してきた。すぐに玲子に連絡する。
「ありがとう、このまま切らずに待ってて。………
…大丈夫。今入力したわ、第二ロック解除完了よ。」
「全部終わったらブレインナンバーはどうなるんだ?」
「…わからないの。でも、タイマーはストップすると思うわ。」
「本当に何か起こるのか。」
「タイマーを取り敢えず止める方向にしないと何もわからないのよ。止めてから調べるつもり。あ、あとね、明日そっちに然と棗を寄越すわ。」
「え、俺、休暇?」
「バカ。休暇なんてもらったことないでしょ。本社に来て仕事よ。」
……大した金もくれないくせして働かせるよな。
翌日玲子の車に棗、然は別の車でやって来た。
「あなたが絵菜ちゃん?かーわーいーいー!あたし、棗。よろしくね。」
棗は二十歳のキャピキャピした女で、声が甲高くミッションで同じ組になると毎回幻滅する。今まさに幻滅しているのだが…。
一方寡黙でクールな然は、俺と同じく冷めた目で女子ふたりを見ている。今にも溜め息が出そうな顔をしている。
「リウは私と本社に戻って、然と棗は入れ替わりでベースに残って。で、棗はもうひとつのミッションが一週間後に動きがあるみたいだから、再始動の連絡があったら向かってちょうだい。車は然が運転してた方を置いていくから使って。」
そう言って玲子とリウはベースを後にした。残った三人は沈黙する。違うタイプが一緒になるとテンションが下がる。
然は空気に堪え兼ねて二階の部屋へ行ってしまった。棗は用もなくキッチンへ。残された絵菜はテレビをつけた。変わらず映るのは教育番組。今の時間は幼児向けの、着ぐるみが陽気に踊る番組だった。
棗が片手にラテを持ち、ソファに腰掛ける。床に座っていた絵菜もなんとなくソファに腰掛けた。
「絵菜ちゃんの住んでたところって、どんなところだったの?」
「…エナのいたところは、山がたくさんあって、ここより寒くて、ここより木がたくさんあって。」
「山に住んでたの?お母さんと?」
「…そう。モムとふたりで。でももう会えないってリウが言うの。」
「モム?お母さんか。リウは意地悪だからね。暗号が全部わかったら会えるよ、帰れるよ。」
「そう?モムもエナに会いたいかなぁ?」
「お母さん、なんて名前なの?」
「モムの名前はルクシュクだよ。何で?」
「絵菜ちゃんのお母さん、外国人なんだ。」
「モムとエナは同じだよ?」
「違うんじゃない?だって髪の毛とか目とか、同じ色だった?」
「モムは…黄色い髪で、目は青かったかな…。」
「でしょ?じゃあお父さんは?」
「おとうさん?ファズ?…わかんない。会ったことないの。」
「え、絵菜ちゃんのお父さん、どんな人なんだろうね?」
棗の悪い癖はミッション関係なくプライベートにずかずか踏み入ってしまうところだ。
それが功を奏する時もあるが、話を続かせるために言ってはいけない事もある。
電話が鳴った。
「あ、棗?悪いんだけど、絵菜の洗濯物持ってくるの忘れたの。だから、棗が洗濯する時一緒に洗ってあげてくれない?」
「わかりました。あ、あの…」
「何?」
「…絵菜のお父さんとお母さんってどんな人なんですか?」
絵菜に聞こえないように小声で聞く。
「絵菜の?…お父さんは、確かこっちの人よ。」
「ハーフなんですか?」
「棗、事前にミッションシート読んでないの?」
「…すみません。」
棗は活字が苦手である。
「とにかく、絵菜のストレスになるような事や話はしないようにね。あと、然と仲良くね。」
「…はーい。」
…然、苦手なんだよなぁ。奏の方がよかったよ。
そう思いながら受話器を置いた。
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