灯の芳香

藤岡 志眞子

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碧い

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「柑奈ちゃんママ、水着・・・は?」

夏休みの始め、プールをするから遊びにおいでと茉莉ちゃんのお母さんに誘われた。庭にビニールプールを出して子供たちだけで水遊びかと思いきや、庭には小さいながらも備え付けのしっかりしたプールがあり、大人たちも堂々水着で海外のバカンスのような雰囲気に、有紗は水着なし、普段通りのファストファッションで来てしまった。
柑奈と茉莉ちゃんは早速プールに入り、ぷかぷかと浮いているアヒルのビニールボートにつかまってきゃっきゃと遊んでいる。側には茉莉ちゃんのお父さんが見事な肉体美を披露しつつ子供たちの面倒を見ていた。

「す、すみません。水着持ってなくて、」

「あら、だったら私のを貸すわよ?買ったはいいけど一回も着てないのがあるのよ。ワンピースタイプだからサイズは大丈夫だと思うわ。」

え。
産後水着なんて着たことがない。それにムダ毛処理もそこそこしかしてないし。(水着がない)ではなくて、(水に入れない)、(日焼けができない)とか他に言い訳があっただろう、と後悔した。
茉莉ちゃんママが持ってきた水着は確かにサイズ的に問題なさそうだが、背中がぱかっと開いていて流石に着れそうにない。苦笑いをしながら他のママ友を見る。同年代のはずなのにみんなスタイルが良く手入れが行き届いているように見える。プールパーティーだと知っていたらダイエットは無理だったとしてもケアはできたはず・・・と、羨ましい限りのママ友たちを見つめた。
参加親子は五組。茉莉ちゃんママ以外のママ友は送り迎えで話す程度で、一緒に出掛けたり家の行き来がない人だった。きょろきょろする私を見て茉莉ちゃんママがそっと教えてくれる。

「プールサイドにいるママが綾香ちゃんママで、旦那さんがグアムに出張・・・という旅行に行っちゃって急遽参加になったの。ベンチに座ってるのが海里くんママでみんな知らないけど妊娠四か月目よ。」

「そうなんですか、妊娠中なのにスタイル良いですね。」

「海里くんママは結婚する前はモデルさんだったらしいわよ。ほら、真珠ちゃんママと一緒に仕事したことあるとかって。」

「恵里菜さんですか?デザインした洋服を着たんですかね?」

「さぁ。でもあんまり自慢気に言うから、みんな敢えてその話題には触れないようにしてるのよ。」

へぇ、知らなかった。

「それと、真珠ちゃんママって、」

「誰の話?」

やたらと派手で香水の匂いがキツい女が割って入って来た。誰だろう?と目を細めるがサングラスと大きな帽子のせいで全くわからない。布面積の少ないビキニにタイダイ柄の真っ赤なロングスカートを合わせている。

「はじめまして、違う幼稚園に通わせてるからわからないわよね。」

そりゃわからないはずだ。

「紹介するわね、紺野 百花さん。私の家の斜向かいに住んでるご近所さんなの。」

「は、初めまして。安森 有紗と申します、」

「申しますだなんて堅いわね~。もっとラクに付き合いましょ。」

笑った口元は大きく歯並びが良い。外したサングラスの下の瞳は碧くカラーコンタクトかと思ったら自前だという。

「は、ハーフか何か・・・ですか?」

「よく言われるけど違うのよ。いくら辿っても外国人はいなくってね。でもお祖母ちゃんもひいおじいちゃんも碧かったらしいわ。遺伝ね。」

なんとまぁ、羨ましい遺伝だ。色も白く全体的に色素が薄い。顔のつくりは彫りが深いわけではないが、碧い瞳が似合うエキゾチックな顔立ちだ。

「百花さんの家系は医者でね、百花さん自身もお医者様なのよ。」

天は二物を与える。

「そう・・・実は、さっき話してた真珠ちゃん?個人情報ではあるんだけど・・・うちの病院に来てたわよ。」

「え?真珠ちゃんどこか悪いの?」

「さぁ・・・でも(地下)に行ってたからきっとお母様は大変ね。」

地下?

「地下って・・・え?そうなの?」

あまり人のことに突っ込みたくはないが・・・。

「地下って、何科があるんですか?」

「心療内科とか・・・精神科、とか?」

さらっと言われた言葉に驚いてしまった。真珠ちゃんが?

「確かに、茉莉も真珠ちゃんには何回か泣かされてるのよ。それで真珠ちゃんママと担任とで話したこともあるんだけど、謝るばかりで理由は聞けなかったのよね。」

「娘の障害は言いたくないし認めたくないだろうしね。」

なんか・・・。

「事実であるのならみんなに言って理解を得るか、そういう子の受け入れがある園に通うべきよね。」

「そうね、危害を加えるのであればそうした方がいいわ。」

なんか、嫌だ。

「あの・・・実際は、実際はどうなのかわからないじゃないですか。」

「いや、確定よ。診断した医師に聞いたんだけど、遺伝的なものなんですって。」

「え?なら真珠ちゃんママもそうだってこと?」

「旦那さんの方かもしれないけど、」

「い、遺伝だったとしても・・・こう噂話にするのはちょっと、ね?」

「同じ園に通う人よ?娘にだって影響しかねないじゃない。柑奈ちゃんママだっていくら真珠ちゃんママと仲が良いって言っても、柑奈ちゃんが泣かされたり怪我したらそうは言ってられなくなるわよ?」

嫌悪感丸出しのふたりを有紗も不快感全開の視線で見つめる。

「遺伝でなっていることを・・・。」

その一言を絞り出すのが精一杯だったが、百花と茉莉ちゃんママは途端に気まずそうにした。

「わ、私・・・失礼します。水着、わざわざ出してくださったのに。ありがとうございました。失礼します。」

びしょびしょのままの柑奈を連れて足早に家を出た。
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