ダークチョコレート

仙崎 楓

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揺らぎ

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  3月だとまだ公園は寒いかと思ったのに、ぽかぽかとしていて暖かい。
先生となら弁当を広げてピクニックでも始めそうな陽気が、今は気にくわなかった。
  和哉はベンチに腰かけると俺を見上げてにこりと笑った。
「コンビニ寄らなくてよかったの?
お昼まだなんでしょ?」
  昼飯はまだだけど、和哉とここで食べる気になんてならない。

「どうやって職場を見つけたんだ」
「家を出る前に書類が届いてただろ。
義兄さんが隠そうと思っても封筒見れば職場の住所なんてすぐ分かってたよ」

   俺を切り捨てた和哉が職場や新しい住まいに関心を持っているとは思っていなかった。
自分の詰めの悪さが悔やまれる。

「俺も暇じゃないしさ、そろそろ帰ろうと思うんだよね」
「そんなことを言うためにわざわざ職場まで押し掛けて来たのか」
「いや一応いいこと教えてもらったお礼を言いにね」
「いいこと?」
「嫌ならお前も家を出ろって言ったじゃん。
義兄さんには袖にされるもんだから、あの人に相談したんだよね」
後悔した。
昨日和哉を追い返すべきじゃなかった。
けど、他にどうすればいいのか分からなかった。
俺は過去に捕らわれたまま、幸せを追うことは叶わないんだろうか。
「あの先生の足の傷、結構エグいね」
  瞬く間に身体中の血の気が引いた。
そして、何自分の身の上なんか気にしているんだと自分を張り倒したくなった。
「何をした………!」
「あの人がチョロいんだよ?
  学費に困ってるって泣きついたらすぐ家に入れてくれるんだもん」
  俺が鋭く睨み付けると和哉は笑みを浮かべ、降参という風に両手を上げた。
「でも首筋、すっごい甘かった」
  気づくと俺は和哉の胸ぐらを掴んでいた。
  和哉は平然としたまま俺を凝視している。
「義兄さんのその目、ゾクゾクする。
義兄さんが帰ってくるまでオレは何でもやるよ?」
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