ダークチョコレート

仙崎 楓

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君だけが大事

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 どうしても離せなかった。
優しさに甘えて、自分の災いに巻き込んでしまった。

「先生、今後も俺の周囲が迷惑をかけることになると思う。
無心にだって来るかもしれない」
「二人一緒なら大丈夫です。
けど、ずっと衝突を待って繰り返すしかないんでしょうか」
先生は少し考えたあと、突然立ち上がると部屋を出て一番奥の扉を開けた。
俺が先生の自宅にお邪魔するときは寝室に通されることが多くて、その部屋を見るのは初めてだった。
中には、壁沿いに本棚が並べられ、本がぎっしりと詰められている。
窓には濃い緑色のカーテンがひかれていて、真っ暗だ。
先生がカーテンを開けて窓から風を通す。
光が差し込み、中の湿った空気が少しずつ浄化されていく。
「祖父が使っていた部屋です」
本棚を細かく見ると、ほとんどが医学書のようだった。
先生は本棚のスライドを動かした。
奥にも本が収納する場所があったが、そこには本ではなく重厚な箱が置かれていた。
先生が箱を開けると、中から何冊も通帳や印鑑、登記簿などが出てきた。
「ごめん!
俺出とくから、」
「いいんです。
全て使うつもりです」
「祖父から相続した財産です。
どうせ今まで触ってもなかったものです。
全て渡してしまえば、もう誰も来ませんよね」
「先生!
それは、違うよ」
先生は口を真一文字に結んで、譲ろうとしない。
「もう誰にも邪魔されたくない」
つり上げた瞳からポロリと涙が流れた。
俺は先生の頭を引き寄せて、自分の胸元に押しつけた。
シャツが濡れる感じと、先生の温かい息づかいが伝わってくる。
俺は思わず呟いた。
「家族って、傷つけあうためにあるのか…?」
先生のじいさんが遺したとかいう箱に視線を投げた。
箱の縁に比べて底だけがぶ厚そうに見える。
「…先生、この箱ちゃんと見たことある?」
「?
 いえ、相続代理人の弁護士から箱ごと受け取って開けたのはこれが初めてです」
俺は箱の中に手を入れた。
角に指を入れて強く持ち上げると、底が綺麗に外れた。
やっぱり二重底だった。
箪笥の貴重品棚等はへそくりなどを隠せる二重の底になっているものがある。
そして、俺は板の下に敷かれていたものを取り出した。
先生の目が大きく開かれる。
「手紙…」



この手紙を手に取ってもらえたことは幸運だと思う。
私は決して優しい親代わりではなかったから、気づいてももらえない可能性のほうが高いだろう。

 私は未熟な人間だと思う。
娘の面影を求めてお前を引き取っておいて、お前の父親を思い起こす容姿に葛藤を覚えていた。
自身の中に迷いを抱きながら、私が先立っても強く生きられるようにと厳しさばかりが先走ってしまった。
自分から引き取りたいとアメリカから連れてきたにも拘らず、辛い思いをさせて申し訳なかった。

けれどずっと願ってやまない。
廉、どうか幸せに。


先生は泣いていた。
そしてポツリと言った。
「…死んじゃってからじゃ、遅いですよね…」
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