街コン!

SHIZU

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一期一会

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僕は植本うえもとあらた。歳は27。あ、もうすぐ28になります。
中肉中背。顔は普通。仕事は旅行関連の会社に勤務。彼女いない歴4年。
どこにでもいる普通の男です。
実家も遠く、彼女と別れてからほとんど会社と家を往復するだけ。刺激も快楽もない生活。それが嫌ってわけでもない。
友達もいないことはないが、どんどん結婚していくし家庭を持っていく。僕は取り残されてしまった気がした。
もう、結婚も恋愛も諦めかけている。
1人の方が楽だなんて思い始めてたりもする。
まだ28でしょ!とか母さんに言われるけど、もう28だよ。


ある日、まだ独身で僕と同じようにフラフラしてる大学で同期だった川辺かわべさとしが、電話をしてきてこう言った。
「新。街コン行こう!」
「は?どうしたの急に」
「俺、寂しいんだよ。みんな結婚していっちゃうし、SNSに可愛い子供とか妻の写真載せてるのとか見ちゃうと、もう切なくて…」
「こないだ紹介してもらったんじゃないの?会社の先輩に」
「うん。良い子なんだけど、なんか若くてキャピキャピしてて、ちょっと落ち着かなくて…俺はもっと落ち着いた大人な感じがいいんだよなー」
聡がこんなにも出会いを求めるのは、すごく珍しい。
そして落ち着いた大人の女性が、街コンなんかに参加するのか?という疑問が湧いたが、そこは一度飲み込んで僕は話を続けた。
「ふーん。僕、街コンって行ったことないんだけど」
「でも話くらい聞いたことあるだろ?」
「まぁ話くらいは…」
「俺が今度行こうと思ってるのは、アウトドア好きが集まる街コンなんだ。お前も好きだろ?」
「まぁね」
「じゃあ来週の土曜日な。近くなったらまた連絡するから!あ、新の分も一緒に申し込みしとくから」
「あぁ。うん」
と言って電話を切った。


聡は時々飲みに誘ってくれたり誘ったり、大学の同期の中でも1番仲が良かった。
聡に誘われて入った野外活動サークルでアウトドアにはまった。
僕たちの共通の趣味が、アウトドアと料理と酒だった。
僕にしたら料理は趣味というより、一人暮らしが長いせいで必然的にやらなきゃいけないから、どうせやるならと聡の行ってる料理教室に少し通ってるくらいだ。
聡はモテたいからと真剣に教室に通っていて、週2で通っている。
元々、イタリアンの店でバイトしていたこともあって、もう店を開けるくらい腕が良くなってきてると思う。
将来、店でもやる気かな。
酒は営業という仕事がら、あちこちに出張やらなんやら行って、飲む機会が増えて好きになった。
でもそんなに強くはない。
聡は飲料メーカーの営業で、そのせいで酒もよく飲む。
美味しい酒があると教えてくれる。
しかもあいつはザルだ。
聡は趣味は多いけど、浅く広くって言ってた。
ゴルフ、釣り、ビリヤード、ボウリング、ギターやボルダリングなんかもやるって。
だけど得意先の人に合わせてちょっとかじるぐらいだって。
「本気でやらないの?」
って昔聞いたら、
「本気でやったら、相手より上手くなっちゃうから」
と腹の立つ発言をしていた。
たしかに聡は昔から器用だった。
それに顔も頭も余裕で平均以上。
むしろ高得点だと思う。
なぜ恋人がなかなか出来ないのだろうか。
僕が女性なら、好きになってもおかしくないと思う。
知っている限りでは、大学卒業して社会人になってから、真剣に付き合ってる人はいないみたいだった。
その器用さが災いしているのかもしれない。


そして、今日はいよいよ街コン当日。
お互いいい人見つけようと健闘を祈った。
今日の街コンには、男女合わせて30人くらいが参加していた。
凄い規模だな。これみんなアウトドア好きなのか。
まあ最近の流行りだもんな。
と思っていると
「こんばんは」
後ろから声がした。
「あ、こんばんは」
と振り返ると1人の男性が立っていた。
「僕、高岡たかおか総司そうじといいます。よろしくお願いします」
「あ、僕は植本新です。友達に誘われて参加しました」
高岡と名乗ったその人は、身長高めの爽やかイケメンだった。
「植本さんはどなたか気の合いそうな方、見つかりました?」
「いやー。なかなか女性に自分から話しかけるっていうのが苦手で…仕事なら全然大丈夫なんですけど」
「確かに…緊張しますよね」
「でも高岡さんは爽やかイケメンだから、すぐお相手が出来るんじゃないですか?」
「…そんなことないんですよ。なかなか僕も話しかけられなくて。いつも友達ばかり増やしてますよ。人脈っていう意味ではいいのかもしれませんけど」
とふわっと笑顔を見せた。
笑顔もかっこいいなー!おい。
モテそうなのに…と思っていると、
「植本さん、先ほど仕事ならっておっしゃっていましたけど、仕事関係でお相手見つけるってのはないんですか?」
と聞かれた。
「僕、旅行関係の営業してるんです。もうすぐ28なんですけど、4年くらい彼女いないんですよ。社会人になってから、2人くらい同業の方と付き合ったんでけど、中々休みとか予定とか合わなくてすれ違って、すぐ別れてしまったんです。だから同業は難しいって最初っから思ってしまってて…」
「なるほど。旅行関係の営業さんなら、アウトドア好きっていうのもわかります。確かに予定を合わすのは難しそうですねー。というか同い年ってことにびっくりです!お若く見えます!」
「童顔だってよく言われます。高岡さんは?お仕事何されてるんですか?」
「僕はIT系です。会社や家にこもってばかりなんで、せめて趣味だけでも外に出ようと思ったのがきっかけで、キャンプとかにハマったんですよ」
「なるほど」
「もし良かったら連絡先交換しませんか?今度お薦めのキャンプ場とか旅行先とか教えてください!」
「いいですよ。じゃあ…」
とお互い連絡先を交換したところで、高岡さんの電話が鳴った。
「あ。すみません。会社からなんで出ますね。また連絡します」
と言って、会場の外に出て行った。
話しやすい人だったなーと思ってふと聡の方を見ると、同い年くらいの女性と連絡先を交換していた。
僕の視線に気付くと、ドャ顔で携帯をヒラヒラさせながらこっちを見ていた。
ぼ、僕だって。まだ時間はある。

飲んでばかりだなー。
せっかく食事付きなんだから、ご飯も食べようと、切り分けたローストビーフが乗った、最後の一皿に手をかけようとした時、同じお皿に隣から手が伸びてきた。
「あ」
ほらこういうとこから出逢いに…と手をたどって顔を見ると、これまた同年代くらいの男性が立っていた。
「あっ。どうぞ」
と僕が言うと、
「いえいえ。どうぞ」
と言いながらお皿を渡してくれた。
「え。でもこれ最後のローストビーフのお皿なんで…」
と相手に渡そうとすると、
「大丈夫。俺、その隣のピザ食べるんで」
と隣のお皿を取って言った。
「すみません。ありがとうございます」
「うん。俺、田中たなかあおいです。歳は30。君は?」
「僕は植本新と言います。もうすぐ28になります」
「え?28?もっと下かと思った」
まただ。
「いくつだと思ったんですか?」
「大学卒業したてくらいかと…だから若い子いるなーって思ってびっくりしたんだけど」
「それは言い過ぎじゃないですか?思ったより歳食っててガッカリしました?ローストビーフ、返しましょうか?」
と笑うと、
「がっかりなんてしてないよ!新くんは、笑うと余計に幼く見えるね」
と言った。
「田中さんは逆に、大人の色気がありますよね。羨ましいです。僕に色気は皆無なんで」
「蒼でいいよ。新くん」
「わかりました。蒼さんはお仕事何されてるんですか?」
「俺はアート系の専門学校で非常勤講師をしながら、陶器やガラス製の食器を中心とした、セレクトショップをやってるんだ。お店は先輩のお店だけどね。全国の釜元さんや作家さんのとこに行って買い付けとかもしてる。店の隣の工房では陶芸体験もしてるから今度どう?」
「えー!楽しそう!ぜひ今度伺います!」
「じゃあ連絡先教えて?」
「はい!」
と蒼さんと連絡先を交換した。
「新くんは?仕事は何を?」
「僕は旅行系の会社で営業してます」
「そうなんだー。営業って大変そうだよね…俺には無理だなー」
「慣れたら意外と楽しいですよ!経費で出張して全国に行けちゃったり、上司と一緒に行けば美味しい物とか奢ってもらって食べられるし」
「あー。それは魅力的かも…」
と蒼さんと僕は笑っていた。
「そういえば、蒼さんは結構街コンとか参加されてるんですか?」
「うーん。2回目かな?」
「へー!今まではいい人出来なかったんですか?」
「うん。なんかピンとくる人がいなくて…」
「今日はどうです?僕なんか、なかなか女性に話しかけられなくて、一緒に来た友達に先を越されてしまいました。コツとかあります?」
「新くんは可愛らしくて人当たりもいいから、最初のきっかけさえあればみんなどんどん君の魅力にハマると思うよ」
「えーそうですかー?ありがとうございます!」
と僕が言ったタイミングで、終了の時間になった。


「なぁ?どうだった?」
と帰りに飲み直そうと寄ったいつものBARで聡に聞かれた。
「まずまずかな」
と僕が言うと、
「嘘つけ。新が仲良くなったの、男ばっかだっただろ。友達作りにきたわけじゃなくて、恋人作るために誘ったのにー。再来週空けとけよ。リベンジするから」
あー。バレてた。
「なんかプライベートで女の子と話すの久しぶり過ぎて、何話したらいいのかわかんなくなっちゃうんだよ…」
と言ったその時、ぴろりんと聡の携帯が鳴った。今日知り合った子から、メッセージが届いたみたいだった。
「今日、知り合った子?」
「うん。ありがとうございました!だって。また飲みにでも行きましょうだってさ」
「順調じゃん。やっぱ聡は、その気になればいくらでも相手見つかるんだってば!」
「そうかもな。でも俺を本気にさせるような子がいないんだよ…」
えー。何それ…ムカつくぅ。
「へー。あ、そういえば来週の土曜日は空いてる?」
「なんで?」
「今日知り合った人が陶器やガラスの食器のセレクトショップをやってるらしいんだけど、隣の工房で陶芸体験もやってるんだって!一緒に行かない?」
「…うん。行ってみたい」
「じゃあ予約出来るか聞いてみる」
蒼さんにメールを送ったら、すぐ返事が来た。
「大丈夫だって!空いてるって!」
「おー。良かったな」
「じゃあ来週〇〇駅で9時半に集合でよろしく!」
「わかった…」
陶芸体験やってみたかったんだよなー。
でも1人で参加するのもまーまー気まずいし、行く勇気がなかった。
これで新しい趣味が出来るかも!
「嬉しそうだな」
と聡が僕に言った。
でもそう言った聡はそんなに楽しそうじゃない。
無理に誘って悪かったかな…


陶芸教室は10時に予約していた。
5分前に着くと、お店の扉から蒼さんが顔を出して、
「こっち!こっち!」
と手招きした。
「あー!おはようございます!今日はよろしくお願いします!」
と僕が言うと、隣にいた聡が
「川辺聡です。今日はお世話になります」
とぺこっとお辞儀した。
「田中蒼です。よろしくね」
僕達は中に案内してもらった。
店内にはいろんな作家さんが作った手作りの陶器やガラスの食器が並んでいた。
「聡!見て。全部すげーかわいいな?」
「そうだな」
「体験の後、ゆっくり見たらいいよ!」
と言って工房の方に連れて行ってくれた。
体験には僕らを入れて10人くらいがいた。
一回3000円で体験ができる。
希望すれば郵送もしてくれる。
蒼さんの色気のせいか、女性のお客さんが多い。
こんなに女性のお客さんが多いなら、街コンなんか参加しなくても出会いがいっぱいありそうなのに…
体験は蒼さんが前で見本を見せてくれて、僕たちはそれを真似しながら作品を作っていく。
土の冷たさと感触が気持ちよかった。
「新は何作んの?」
と聡に聞かれて、僕は
「お猪口と徳利」
と答えた。
「酒飲みだな。俺より弱いくせに。しかも何ニヤけてんだよ」
と笑いながら聡が言う。
「これが完成したら、お前がこの間お土産でくれた日本酒、一緒に飲もうよ!」
「おう…」
「聡は?何作るの?」
「じゃあおつまみを盛るのに最適なお皿を作ってみるか!」
「お、いいじゃん!」
と話していると、順番にみんなの様子を見ていた蒼さんが、俺らのとこにやってきた。
「新。今日はありがとう。実は本当に来てくれると思ってなかったから、連絡くれた時は嬉しかったよ。社交辞令じゃなくて良かった」
「え?こちらこそありがとうございます!僕、陶芸やってみたかったんです!中学の修学旅行で陶芸体験があったんですけど、僕その時指を骨折してて出来なくて。それからいつかやりたいって思ってたんで、今日すげー楽しいです!」
ほんと、楽しい!ハマりそう…
「新…楽しんでもらえて何よりだよ。お、ちょっと触るよ」
と言って僕の後ろから、歪だった僕の徳利を綺麗に直したあと、聡のところに行った。
冷たい粘土と、僕の手を包んだあったかい蒼さんの手。
不思議な感覚だった。少しドキドキした。
なんか映画のワンシーンみたい。
昔の映画であったよなー。母さんが観てたな。
聡は、僕とは正反対ですごくちゃんとしたお皿を作っていた。
「川辺くんは、新と違ってすごく器用だね」
「ありがとうございます。まーでもあの不器用さが新のいいとこでもあるんで」
「ちょっとー!聞こえてるぞー!」
と僕が言うと2人は笑っていた。
帰りにふとお店の中のチラシが目に入った。
陶芸教室?
「蒼さん!ここ教室もされてるんですか?」
「うん。そうだよ。教室に申し込めば、今日の作品に絵付けもできるよ!」
「本当ですか!?申し込みます!」
「じゃあ用紙持ってくるよ」
「あの!俺も申し込みます…」
と聡が言った。珍しいな。
趣味は浅く広くってタイプの聡が、料理とアウトドア以外に真剣になるの。
それに僕が誘った時、あんまり乗り気じゃなさそうだったのに。
「じゃあ蒼さん。2枚お願いします」
月、水、金、土は蒼さんがお店にいるということで、僕たちは申し込みをして、次の土曜日の予約を取って帰った。


月曜日の夜、電話が鳴った。
「もしもし」
「あ、もしもし?高岡総司です。覚えてますか?」
「もちろんです。高岡さん、どうしたんですか?」
「今週の土曜日、空いてませんか?こないだ言ってたお薦めの旅行先を聞きたくて…お忙しいです?」
「今週ですか…今週は12時から陶芸教室で、15時からは料理好きが集まる街コンに誘われたんです。こないだ一緒に行った友達に」
「植本さん、陶芸されてるんですか?」
「始めたばかりですけどね。知り合いに教室をされている方がいて、こないだ体験で行って、それからハマっちゃって、友達と一緒に申し込みして通うことにしたんです」
「え、いいなー。陶芸って憧れる」
「体験行ってみます?今週空いてるか聞いてみましょうか?」
「ほんとですか?是非!」
ということで高岡さんとの電話の後、蒼さんに連絡をした。
大丈夫だって言われたから高岡さんに折り返して伝えた。その時に同い年だから、お互い下の名前でいいですよねってなって、僕は総司くん、向こうは新くんって呼ぶことになった。
11時半に駅の前で待ち合わせにした。


土曜日、僕と聡はいつも行く定食屋さんで、少し早めのお昼ご飯を食べてから駅前にいた。
しばらくすると、総司くんがこっちに向かって、小走りでやってくる。
いつみても爽やかだなー。
「お待たせしました!今日はよろしくお願いします」
「いえいえ、僕たちも今来たとこです。あ、紹介します。こちら大学からの友達の川辺聡です。でこちらがこないだの街コンで知り合った、高岡総司くん」
と僕が紹介すると2人は
「どうも」
とお互いに挨拶をしていた。
お店に着くと、蒼さんにも総司くんを紹介した。
僕達は今日は絵付けで、総司くんは少し離れていたけど楽しんでくれているみたい。
蒼さんが総司くんに教えている姿を見ていると、絵付けを教えてくれた先生が、
「あらー!あの2人絵になるわねー」
とウキウキしていた。
確かに…イケメン2人が並ぶと絵になる。
「でも私はあなたたちみたいな、ほのぼの仲良しカップルも好きよー」
と言った。
ほのぼのしてるかな?てかカップルでもないけど。
「先生!絵付け、どんなのがいいですかね?アドバイスもらえますか?」
と聡が話を切り替えた。
料理を盛る少し大きなお皿が1枚と、取り分け用の小皿2枚に真剣な眼差しで模様を書いていた。
どんなデザインがいいかなー。せっかくなら聡のお皿と合うデザインにしたいな。


僕たちが先に終わって店の方を見ていると、しばらくして総司くんが現れた。
「お疲れ様です!どうでした?」
「楽しかったですよ!」
「それは良かった!ここ、教室もやってて絵付けとかも出来るんですよ」
「へー通おうかな。そしたらまた新くんにも会えるし」
「ほんと!?楽しくなりますねー」
僕は蒼さんのとこに申込用紙をもらいに行った。
店を出る時、
「この後僕たち料理街コンなんで、ここで失礼しますね」
と言うと
「あ!実は…」
と自分も同じ街コンに参加するのだと言った。
「そうなんですかー!じゃあ一緒に行きましょう」
と3人で会場に向かった。





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