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第十四章・妖鬼をつづらに戻そう作戦

14-2~葉千子SIDE~

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ツヤツヤにトリートメントした髪。

ひらひらがついたヘッドドレス。

ラベンダー色の、腰からふわっと広がるワンピース。

ふわふわのお姫様のようなスタイルで、あたしは今、猫山通り東公園の広場の真ん中で、つづらの中から顔だけ出している。

うーん。この光景、数日前に見たよね。飢鬼のときもあたしが囮になっていた。

違うのは、あたしの衣裳とつづらに入っているということ。(飢鬼のときは小学生のコスプレしてたんだもんねっ。)

そして、あたしにリードのついた首輪が付けられていること。

そのリードを持っているのは、美魔先生。

完全にあたしは美魔先生の飼い犬のようになっている。

「葉千子ちゃん、首輪描いてあげるね。色はパステルパープルにするねっ。ほらかわいい!10分経ったら消えるから大丈夫だよ。美魔先生は、リードを握っててね。こっちも10分経ったら消えるから。」

そう言って飛くんがあたしの首にリードつきの首輪を描いたのだ。

作戦はこう。

妖鬼への貢物として、人間で一番お金持ちでかわいい女の子を差し出す。

精いっぱいかわいく見えるように、かわいい服を着る。

『こいつは逃げ出さないよ~。生贄だよ~。』というのをアピールするため、首輪とリードを美魔先生が持つ。

妖鬼が集まったところで、つづらの中におびき寄せ、先輩たちが封印する。

「葉千子ちゃん、葉千子ちゃん、ちょっと。」

飛くんが手招きして、あたしの耳に小声で囁く。

「太郎くんからは内緒にしててって言われてるんだけど、この服、太郎くんが選んだんだよっ。かわいいよねぇ。この服。葉千子ちゃんに似合ってるよ。」

ええっ!

このゆめかわなガーリー服、太郎先輩が選んでくれたの?

さっきちらっと洋服のタグが見えたんだけど、ブランド物の洋服だよっ。

あたしには絶対に買えない。

太郎先輩がお店に行って、あたしのために選んでくれた姿を想像したら、こんなときなのに顔がにやけちゃうよぉ。

いけない、いけない、作戦に集中しないとっ。

「じゃあ、僕と太郎くんと宵は、隠れてるからね。妖鬼たちが入ったらすぐに、僕がつづらに出口を描くから葉千子ちゃんは急いで逃げて。」

あたしが囮になる→妖鬼がつづらに入る→飛くんが出口を描いてくれたら逃げる

うん、理解できた!

「ハチ、がんばりーや!いざっちゅーときは、ワイが守っちゃるから安心せぇ。」

宵くんが、真っ白な歯をのぞかせてニカッと笑った。

「ありがとう、宵くん!」

「葉千子。」

宵くんに笑顔を返そうとしたあたしを、太郎先輩の冷たい声が制止した。

「宵が出るまでもない。危なくなる前に、俺が葉千子を救う。絶対に怪我ひとつさせない。」

「太郎先輩……。」

そんなこと言われたら、先輩もあたしのこと好きかもって勘違いしちゃうじゃん。

ダメダメ!勘違いしたら、間違ったときに余計に悲しくなるもんね。

深く深呼吸して、高鳴った心臓を落ち着かせ、空を見上げた。

少し欠けた月が、頭上で光っている。

「もうすぐ。みんな隠れろ!」

時計の針が二十時を指したとき、公園の木々が一斉に揺れた。

「来るっ。」

あたしが身構えると、目の前には、この前太郎先輩が斬りかけた包丁を持った婆や、猫の化け物がいた。ほかにもよくわからない異形の生き物や鬼がざっと三十はいる。

怖い。

飢鬼だけでもあんなに苦戦したのに、こんなにたくさんの妖鬼たちを相手になんてできない。

「約束通りのおなごを連れてきた。」

いつもと違う、ドスのきいた美魔先生の声がした。

あたしは、つづらの中でじっと待つ。

あたしが生徒会だと知られてはいけない。

「さぁ、つづらの中に入って食うが良い。おなごはまだ子どもじゃ。早いもの勝ちじゃ。」

美魔先生の言葉を合図に、たくさんの化け物たちが一斉につづらの中に入ってきた。

臭くて、熱い。

早く、早くしないと本当に食べられちゃう。

首輪とリードが消えた。

10分経ったんだ。

「今だっ!」

飛くんの声がして、つづらにドアがあらわれた。

「出口だっ。飛くんありがとう!」

あたしはそのドアから外に出る。

あたしが出たのを確認した美魔先生が、つづらの蓋を閉める。

「太郎!今だ!」

「分かってる!」

太郎先輩が持っていたお札を張り、妖鬼を封印する。

妖鬼たちがつづらを突き破らないように、あたしたちは全員でつづらの蓋に体重をかける。

内側からドゴ、ドゴ、と妖鬼どうしがぶつかり合う音と、つづらを壊そうと試みる大小さまざまな衝撃が沸き上がったけど、しばらくしたら静かになった。

「よかった、大成功だ!」

みんな、ほっとしてその場に座り込んだ。
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