闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 19話 ローランシアの殿下②

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「我らの眼の届かぬところで殿下を襲おうとは悪辣な!成敗!!」
「どわあああ!」


 シグレと呼ばれた女性は腰につけていた少し変わった剣を私に向けて振りぬく。
 あっぶなっ……私はそれを体を仰け反らせることで何とか躱す……いきなり首を狙ってくるなんて酷いよ!?


「我が一刀が避けられた!……ならばっ!」
「って、うぇ!?」


 シグレが両手をがっちり胸の前で組、それを何度か組み替える。
 あれ、何やってるの?


「火遁!」
「へ、っと……うわっ、風よ!!」


 指と手の組合が終わったかと思うと、彼女の組んだ手から火の渦みたいなものが私に向って襲い掛かった。
 なになに、魔力は感じなかったのに!?


「くっ、これも防がれましたか……ならば!」


 再び彼女は手を組み変える……今度は何をするつもり!?
 再び彼女が手を組み終えると、今度は驚くことが起きた。


「え、増えた!?」
「分身の術!……さあ、この攻撃を防げますか!」
「わわわっ!?……待って、話を聞いて!」
「問答無用!」


 無用にしないでってばああああ!
 っていうか、ドーガもなんとか言ってよ!?
 楽しそうに見てる!!……止める気全然ないよ!!


「もうっ、しょうがない!怪我しても文句言わないでよ!電爆撃ライトニングブラスト!」
「え……きゃあああああ?!」


 分身一人一人、相手にしていると大変なので、私はとりあえず、周り全体に攻撃をした。
 もちろん、私の仲間はそれを察知して、私から距離を置いている。
 仲間でないドーガを除いて。



「あばばばばばばばっ!?」
「………あ、ごめん」


 私の雷の魔法はシグレとドーガを痺れさせたのだった。
 あ、もちろん手加減したからねっ……私もそこまで鬼じゃないよ!
 




「それで、このシグレって子はドーガの仲間なの?」
「仲間ではありません、私は殿下の忠実な臣下です!」
「臣下ねぇ……」


 まあ、ローランシアの王子様なんだから臣下の一人や二人いてもおかしくないけど……。


「で、その忠実な臣下が何でいきなり襲い掛かってくるのよ?」


 ディータが蟀谷に青筋を立てて聞く。そーだそーだ。


「当然です!我が君が襲われているのです。悪漢からお守りするのが私の務め!」
「誰が悪漢よ!誰もコイツを襲ってたりしてなかったでしょうが!」
「殿下をコイツ呼ばわりとは……やはりあなた方は敵なのですね!」
「どうしてそうなるのよ!!」


 駄目だ、話が通じない……。


「僕達は味方だよ……白の傭兵団を倒しに来たの」
「信じられません……またそうやって我々に近づき、闇討ちをしようというのでしょう……それがあなた達のやり方です」
「ん、どゆこと?」


 まるで、以前そう言うことをされたような言い方である。


「私が話すわ」


 私が頭の上にハテナを浮かべていると、アンナが口を開く。
 そうか、アンナは白の傭兵団だ……この国で彼らが何をしたのか知っていて当然である。


「傭兵団が、井戸の水に毒を流したのは知っているわね」
「ええ、バトロメス達が言っていたね」
「もちろんそれだけじゃ、この町の人間全ては殺せなかった……特に王族に近い人間はすぐにその毒に気づいたのよ」


 そうなのか……でも確かに、毒を井戸に流し込むだけで国全ての人間を殺せるとは限らない。
 誰かが毒に気づいてもおかしくはないだろう。


「でも、それは白の傭兵団も予想していたの……当然よね、王族なら毒見役もいるでしょうし、勘の鋭い人間もいる……だから、次の手もあったのよ」
「次の手?」
「毒を流す少し前から、すでに城へ何人かのメンバーが侵入していたの」
「え、そんな簡単に侵入できるの?」
「変装の得意な人間、そしてその人間に何人かを雇わせたのよ」


 つまり、白の傭兵団のメンバーで変装が得意な人がいて、その人がローランシアの人と入れ替わった上で、自分の仲間のメンバーを城で雇わせたってことか……。


「そして、生き残りを殺させた……」
「ええ、でも失敗していたみたいね、王子を取り逃がし、その臣下も取り逃がしているんだもの」
「よく逃げれたね?」
「身代わりだ」
「え……?」
「俺の身代わりに死んだ」
「………」


 影武者ということだろう……確かに王族ならそう言う者がいてもおかしくはない。


「それなら、王族皆が逃げれたの?」
「いや、運よく逃げれたのは俺だけだ……俺の影武者が機転を利かせたおかげでな」


 淡々と語る彼が少しおかしい。
 先ほどまでの彼は結構表情豊かな子供だった。
 それなのに、影武者の話になると無表情になる……いや、違うか……多分、悲しいのを堪えているんだ。
 もしかして、その影武者と仲が良かったのかな?


「殿下、それくらいで……」
「ああ、ともかく生き残った者は少ない……そして、俺たちもお前たちをそう簡単には信じられん……だが、メリッサ姫がいるというのなら別の話だ」
「メリッサ姫がいらっしゃるのですか!?」
「私です……どうして、私がいると信用できるのですか?自分で言うのもなんですが、私はアンダールシアに指名手配された身です。同盟国の姫とはいえ、信じられるとは思えないのですが?」
「父上のお言葉だ」
「ローランシア王の?」
「父上が俺を逃がすときに言っていた……アンダールシアの王族を信じろと……父上はアンダールシアの王と仲が良かった。もちろん、メリッサ姫の事も知っていた」



 まあ、同盟国の王族同士だし、そうだよね。
 でも、どうしてそれでメリッサを?一応、体を乗っ取られているとはいえ、指名手配をしたのはアンダールシアの王様なのに。


「ふん、父上の信じた王の娘が嘘を吐くとは思えん……それに、自分の母親を殺したものがこんなきれいな眼をしているわけがない!」


 ドーガはその小さな体を大きく見せる為か、精一杯胸を張りながら言い切った。
 確かに人を見る目はありそうだね……でも、本当にこっちを信じてくれているのかな?

 そう思って私は、メリッサの方を見る。彼女の看破のスキルならドーガが本気で言っているのか解るはずだ。メリッサは私の視線に気づいたのか、小さく頷いた。
 どうやら、本気の様である……よかった。
 

「で、殿下……ですが……」
「シグレ、俺の決定だ……従ってくれるよな」
「は、はっ!」


 小っちゃくてもやっぱり王族だね、あんなふうにシグレに言うことを聞かせてしまう。
 とはいえ、これで少しは勝てる見込みが増えたかな?
 ローランシアの生き残りと手を組んで、白の傭兵団を倒さないと……。


「では、俺たちの隠れ家に案内しよう」
「うん」


 前を歩くドーガに続いて、私達は歩き出すのだった。


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