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1章
魔鬼
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少し時間は戻り、クオンを追ってカモメが走り去っていった後。
エリンシアは赤髪の盗賊追って、廃墟の奥へと行く二人を見て慌てていた。
「カモメさん!!」
すぐさま、二人を追おうとするが妖魔がエリンシアの前に立ちふさがった。
「んもうっ、邪魔ですわ!!」
腰に下げていた魔導銃を抜き、魔力を込め放つ。
その一発は目の前に立ちふさがった妖魔に風穴を開けていた。
改めて二人が消えた通路へと走り出す。
通路に入る少し手前でラインハルトの危険を知らす声が響いた。
「危ない!!」
その声を聴きエリンシアは咄嗟に後ろへと飛びのいた。
飛びのき着地をした後、顔を上げると、今エリンシアが進もうとしていた場所に風の刃が振り注いだのだ。
「なんですの!?」
いきなりの攻撃、しかもまともの喰らっていれば命が危なかったかもしれない攻撃にエリンシアは周りを警戒する。
そして、聞き覚えのある声がエリンシアの耳へと届いた。
「ふふふ、せっかくの復讐の物語を邪魔するものではありませんよ?」
突如、目の前に黒い触手のようなものが蠢き集約する。
すると、その黒い触手あヘインズの姿になった。
「ヘインズ・・・」
「奴がそうなのか」
エリンシアがヘインズの名前を呟くとヴィクトールがそれに反応する。
エリンシアがヴィクトールたちの方を見るとすでにもうひとりの盗賊は拘束されていて、残った妖魔も魔石へと姿を変えていた。
1匹の妖魔を倒している間にヴィクトールとラインハルトは盗賊一人と残りの妖魔を片付けてしまっていたようだ。
ワタクシも一撃で倒したはずですのに・・・と半ばあきれながら二人の強さを実感するエリンシアであったが今はそれよりも目の前のヘインズである。
以前、戦った時は自分とカモメとクオン、それに4人の冒険者がいたにもかかわらず。二人が犠牲になり、自分たちもレディが来なければどうなっていたか分からない。
いや、こと自分に関してはレディが助けてくれなければ死んでいただろう。
それだけの相手を再び前にして、まだ子供のエリンシアは恐怖を抑えきれなかった。
自分の手を見てみると汗ばんでいて、膝は微かに震えている・・・「なさけないですわ」そう思いながらも震えを止めることができなかった。
それに気づいてか気づかずにかヴィクトールがエリンシアの前に立つ。
「おや?あなた?」
「娘が世話になったそうだな」
「娘?もしやそちらのお嬢さんの父親で?」
「もう一人のやんちゃ娘のほうさ」
「おお!カモメさんのお父さん!」
それを聞いたヘインズはこれはこれはと喜んでいた。
「そうですか、カモメさんが戻ったときにもう一人のお仲間が死んでいたら面白い物語が見れると思っていましたが・・・父親が亡くなっていた方が面白そうですねぇ」
ヘインズが笑う。
まるで下弦の月のような形をした口が不気味さに拍車をかけていた。
「残念だが、娘が来る前にお前を滅ぼさねばな・・・私は優しい父親だ、乱暴な姿はあまり見せたくない」
拳のオーガと言われ、聞いた話だと色々と娘を連れて冒険をしているのだからすでに手遅れでは?とエリンシアは思うが言わないでおく。
「さて、魔族よ・・・滅ぼす前に聞いておく、貴様の狙いはなんだ?」
ヴィクトールの言葉にヘインズはピクリと眉を上げる。
「これはこれは・・・私を魔族と理解しているとは驚きです。目的・・・そうですね、私は物語を見るのが好きなのですそれも悲劇の物語がね。ですが最近、マンネリして来ておりまして・・・ですが、そこで思い付いたのです。それならば、自分で演出してみてはどうかと!それでとびっきりの悲劇を演出してみようかと思いまして。」
「そうか・・・」
その言葉を聞いたヴィクトールはどこかほっとしているように見えた。
今の言葉の何処にほっとするような内容があったのか分からないエリンシアは怪訝そうな顔をする。
「ところで、あなたが付けているその籠手は聖武具と呼ばれるものですかね?」
「その通りだ・・・貴様ら魔族を魔法以外で滅ぼすには聖武具が必要だからな」
「なるほどなるほど、ですが・・・そんなもので私を滅ぼせますかねぇ?」
「やってみればわかるさ・・・」
そう言うと、ヴィクトールの姿が消える。
いや、消えたのではない、エリンシアの眼にも捉えきれないほどのスピードでヘインズへと突進していったのだ。
ヴィクトールの拳がヘインズのお腹に突き刺さる。
「ぐはっ」
拳がヒットした瞬間、大気が揺れたのでは?と思うほどの衝撃が走った。
そしてヴィクトールの攻撃はそれでは終わらない、右の拳の次に左の拳を、左の拳の次に右の拳をヘインズに叩き込む。
凄まじい威力であることは傍から見ているだけでも解った。
あんな拳を喰らったら普通の人間は一撃で木っ端微塵だ。
余りのすごさにエリンシアは思わず身震いをする。
同時に自分の無力さを痛感もしていた。
妖魔を軽々倒せようが今、目の前で繰り広げられている戦いには手の出しようがない。
隙があれば援護しようなどと思っていたが、下手をすれば、いや、間違いなく足手まといにしかならないのだ。
「もっと強くなりたいですわ・・・」
意識をせず言葉を漏らしていた。
視線の先ではよろよろと覚束ない足取りになっていたヘインズにヴィクトールの渾身の一撃が決まっていた。
その一撃を受けて吹き飛び、壁に叩き付けられるヘインズ。
「ラインハルト、エリンシア。カモメ達の後を追ってくれ、こいつは私だけで十分だ」
「わかった」
「はいですわ」
確かに一方的である。
これならワタクシ達はカモメさん達の後を追っても大丈夫だろうとエリンシアは思った。
・・・・・が。
「おやおや、それは困ってしまいますねぇ」
いつの間にか立ち上がったヘインズが三日月のような口を作り笑っている。
まるでさっきまでの攻撃が全く効いていないかのようであった。
「そんなっ」
エリンシアが驚きの声を上げる。
ヴィクトールがヘインズに向き直り、構えている。
「申し訳ありませんが、カモメさんたちの後を追わせるわけにはいきませんねぇ」
「どうやって邪魔をするつもりだ?攻撃があまり効いていなくても貴様を自由に動かせないことくらい容易いぞ?」
「そのようですね・・・ですので盗賊のお二人に頑張ってもらいましょうか」
そう言うとヘインズは盗賊たちの方を見る。
一人はヴィクトールに顔面をへこまされ未だ意識を取り戻していない、もう一人はロープで縛られ身動きが取れない状態だ。
一体この状態でどうやってワタクシたちの邪魔をしようというのだろうか?
「奴らはすでに役に立たん、あっちの転がっている奴も生きてはいるが動ける状態ではないぞ」
ヴィクトールの言う通りである。
だが、それを聞いたヘインズはこれでもかというくらい口の端を吊り上げさらに笑った。
「ふふふふ、いやいや、その通り、今のままではどうしようもないですねぇ・・・今の・・・生きているままでは」
「なにっ」
ヘインズがそう言うと右手から黒い触手のようなものが伸びる、そして・・・盗賊二人の胸を貫いた。
「がふっ」
盗賊二人はあっけなく命を奪われたのである。
「・・・何のつもりだ?」
二人の盗賊にワタクシ達の足止めをさせようとしていたのにその二人を殺してしまったヘインズ・・・本当にどういうつもりなのだろう。
だが、ヘインズは笑い続けていた。まるでこれからさらに物語は面白くなるのだと言うように。
「いえね、そこのお二人にはちょっと私の実験に協力してもらっていまして」
「実験だと?」
「ええ、死後、体を作り替え、私の忠実な下僕になる実験をねぇ」
死後?忠実な下僕?どいうことですの?とエリンシアの頭の中は疑問でいっぱいになった・・・次の瞬間。
胸を貫かれ倒れていた盗賊二人の死体が起き上がる。
「え?」
そして、死体であったものはエリンシアの目の前に迫っていた。
その死体は、先ほどの盗賊の姿形とは別物に変異していた。
体は黒く変色し、目が赤く光っていた。そして額には一本の角のようなものが生えていた。
不意を突かれたワタクシは反応できないでいた。
盗賊だったのものの右手の先にには鋭く尖った爪が伸びている。
まずいっ、ワタクシはその爪を見てそう思った。
恐らくあれはかなりの強度を持った爪だ、鉄でできた短剣や剣並みの武器になるのではないだろうか?
そうは思ったものの避けることは出来そうになかった。
やられる・・・そう思った瞬間目の前に何かが現れる。
「ぐあっ!」
ラインハルトさんがワタクシの前に立ち、代わりに盗賊の爪を背中で受けていた。
その後、持っていた剣を振るうが盗賊だったものはそれを後ろに飛びのき躱した。
そして、二匹同時にゲギャゲギャと気味の悪い笑い声をあげていた。
ラインハルトさんの背中からは、かなり深い傷をおったのか大量の赤い血が流れている。
かなりの深手である。
だが、ラインハルトさんは二つの異形の化け物に毅然と剣を向け構えていた。
「ラインハルトさん!」
「大丈夫か?」
「ワタクシは大丈夫ですわ、それよりもあなたが!」
「問題ない」
ありまくりですわ!とワタクシが叫ぶ。
カモメさんがいれば治療が出来たのだが、ワタクシには治癒魔法の心得は無い。
こんなことなら光魔法を練習しておけばよかった・・・。
それはヴィクトールさんも同じで、いきなりの友の負傷に焦りを覚えていた。
「びっくりされました?あれが私の作った魔鬼という僕です」
「魔鬼?」
「ええ、あの盗賊さんたちが生きているうちに魔の力を植え付けておいたのです。そして死ぬと彼らはその力に取り込まれ鬼へと生まれ変わるのです!」
要は、生きているうちからジワジワとヘインズの魔力に浸食され、死ぬと同時にヘインズの使い魔へと体を作り替えられるということだ。
「死体が新鮮な方が強い魔鬼が生まれますからねぇ」
「下種が」
ヴィクトールさんが悪態をつく。
ラインハルトさんが負傷をした以上、こちらも危険である。
ワタクシは子供の割には強い、カモメさんと同等くらいの力があるだろう。
だが、それでも英雄と言われたパーティに所属していたヴィクトールさんやラインハルトさんと比べると差がある。
普通の魔物であれば問題はないが、見たところあの魔鬼というやつは魔物で言うところのBランク相当の力があると見える。しかもそれが二体だ。
ラインハルトさんが万全であれば二匹であろうとなんとかなったかもしれないが、あの状況では・・・。
とっさに向こうに手を貸そうと踵を返そうとするヴィクトールさんだったが。
「おやおや、どこに行こうというのです?私を放っておくとカモメさんの所へ行ってしまうかもしれませんよ?」
「ちっ・・・」
ヘインズを放っておくことは出来ない、そう思いなおしヘインズへと向き直る。
カモメの方へ行かれるのは勿論だが、ラインハルトやエリンシアを狙われても厄介である。
あちらは負傷しているとはいえラインハルトに頑張ってもらうしかない。
そう思いなおし再び拳を構えるのだった。
「そうそう、カモメさんと言えば」
不意にヘインズが思い出したとでも言うように口を開いた。
「ザインさん・・・あ、もう一人の盗賊の方ですけどね・・・あの方、魔鬼の素体としてはかなり優秀でしたよ」
その言葉を聞いてヴィクトールはさらに焦りを覚えた。
考えてみればその通りである、今いた二人の盗賊に魔力を植え付けていたのであればあのクオンの仇の盗賊にも植え付けていてもおかしくはない。
唯の盗賊であればカモメとクオンならば問題ないだろう・・・だが、あの魔鬼はBランクの魔物並みの力を持っている・・・危険だ。
しかも、ヘインズのあの口ぶりだと赤髪の盗賊が魔鬼になるとラインハルトたちと対峙している二体の魔鬼よりも強力な個体の可能性が高い。
ヴィクトールは焦燥していた、だが、今すぐカモメ達を追いかけるわけにもいかない。
ヘインズを野放しにはできないし、エリンシアたちを見捨てるわけにもいかない。
ヴィクトールはカモメ達の無事を祈ることしかできなかった。
エリンシアは赤髪の盗賊追って、廃墟の奥へと行く二人を見て慌てていた。
「カモメさん!!」
すぐさま、二人を追おうとするが妖魔がエリンシアの前に立ちふさがった。
「んもうっ、邪魔ですわ!!」
腰に下げていた魔導銃を抜き、魔力を込め放つ。
その一発は目の前に立ちふさがった妖魔に風穴を開けていた。
改めて二人が消えた通路へと走り出す。
通路に入る少し手前でラインハルトの危険を知らす声が響いた。
「危ない!!」
その声を聴きエリンシアは咄嗟に後ろへと飛びのいた。
飛びのき着地をした後、顔を上げると、今エリンシアが進もうとしていた場所に風の刃が振り注いだのだ。
「なんですの!?」
いきなりの攻撃、しかもまともの喰らっていれば命が危なかったかもしれない攻撃にエリンシアは周りを警戒する。
そして、聞き覚えのある声がエリンシアの耳へと届いた。
「ふふふ、せっかくの復讐の物語を邪魔するものではありませんよ?」
突如、目の前に黒い触手のようなものが蠢き集約する。
すると、その黒い触手あヘインズの姿になった。
「ヘインズ・・・」
「奴がそうなのか」
エリンシアがヘインズの名前を呟くとヴィクトールがそれに反応する。
エリンシアがヴィクトールたちの方を見るとすでにもうひとりの盗賊は拘束されていて、残った妖魔も魔石へと姿を変えていた。
1匹の妖魔を倒している間にヴィクトールとラインハルトは盗賊一人と残りの妖魔を片付けてしまっていたようだ。
ワタクシも一撃で倒したはずですのに・・・と半ばあきれながら二人の強さを実感するエリンシアであったが今はそれよりも目の前のヘインズである。
以前、戦った時は自分とカモメとクオン、それに4人の冒険者がいたにもかかわらず。二人が犠牲になり、自分たちもレディが来なければどうなっていたか分からない。
いや、こと自分に関してはレディが助けてくれなければ死んでいただろう。
それだけの相手を再び前にして、まだ子供のエリンシアは恐怖を抑えきれなかった。
自分の手を見てみると汗ばんでいて、膝は微かに震えている・・・「なさけないですわ」そう思いながらも震えを止めることができなかった。
それに気づいてか気づかずにかヴィクトールがエリンシアの前に立つ。
「おや?あなた?」
「娘が世話になったそうだな」
「娘?もしやそちらのお嬢さんの父親で?」
「もう一人のやんちゃ娘のほうさ」
「おお!カモメさんのお父さん!」
それを聞いたヘインズはこれはこれはと喜んでいた。
「そうですか、カモメさんが戻ったときにもう一人のお仲間が死んでいたら面白い物語が見れると思っていましたが・・・父親が亡くなっていた方が面白そうですねぇ」
ヘインズが笑う。
まるで下弦の月のような形をした口が不気味さに拍車をかけていた。
「残念だが、娘が来る前にお前を滅ぼさねばな・・・私は優しい父親だ、乱暴な姿はあまり見せたくない」
拳のオーガと言われ、聞いた話だと色々と娘を連れて冒険をしているのだからすでに手遅れでは?とエリンシアは思うが言わないでおく。
「さて、魔族よ・・・滅ぼす前に聞いておく、貴様の狙いはなんだ?」
ヴィクトールの言葉にヘインズはピクリと眉を上げる。
「これはこれは・・・私を魔族と理解しているとは驚きです。目的・・・そうですね、私は物語を見るのが好きなのですそれも悲劇の物語がね。ですが最近、マンネリして来ておりまして・・・ですが、そこで思い付いたのです。それならば、自分で演出してみてはどうかと!それでとびっきりの悲劇を演出してみようかと思いまして。」
「そうか・・・」
その言葉を聞いたヴィクトールはどこかほっとしているように見えた。
今の言葉の何処にほっとするような内容があったのか分からないエリンシアは怪訝そうな顔をする。
「ところで、あなたが付けているその籠手は聖武具と呼ばれるものですかね?」
「その通りだ・・・貴様ら魔族を魔法以外で滅ぼすには聖武具が必要だからな」
「なるほどなるほど、ですが・・・そんなもので私を滅ぼせますかねぇ?」
「やってみればわかるさ・・・」
そう言うと、ヴィクトールの姿が消える。
いや、消えたのではない、エリンシアの眼にも捉えきれないほどのスピードでヘインズへと突進していったのだ。
ヴィクトールの拳がヘインズのお腹に突き刺さる。
「ぐはっ」
拳がヒットした瞬間、大気が揺れたのでは?と思うほどの衝撃が走った。
そしてヴィクトールの攻撃はそれでは終わらない、右の拳の次に左の拳を、左の拳の次に右の拳をヘインズに叩き込む。
凄まじい威力であることは傍から見ているだけでも解った。
あんな拳を喰らったら普通の人間は一撃で木っ端微塵だ。
余りのすごさにエリンシアは思わず身震いをする。
同時に自分の無力さを痛感もしていた。
妖魔を軽々倒せようが今、目の前で繰り広げられている戦いには手の出しようがない。
隙があれば援護しようなどと思っていたが、下手をすれば、いや、間違いなく足手まといにしかならないのだ。
「もっと強くなりたいですわ・・・」
意識をせず言葉を漏らしていた。
視線の先ではよろよろと覚束ない足取りになっていたヘインズにヴィクトールの渾身の一撃が決まっていた。
その一撃を受けて吹き飛び、壁に叩き付けられるヘインズ。
「ラインハルト、エリンシア。カモメ達の後を追ってくれ、こいつは私だけで十分だ」
「わかった」
「はいですわ」
確かに一方的である。
これならワタクシ達はカモメさん達の後を追っても大丈夫だろうとエリンシアは思った。
・・・・・が。
「おやおや、それは困ってしまいますねぇ」
いつの間にか立ち上がったヘインズが三日月のような口を作り笑っている。
まるでさっきまでの攻撃が全く効いていないかのようであった。
「そんなっ」
エリンシアが驚きの声を上げる。
ヴィクトールがヘインズに向き直り、構えている。
「申し訳ありませんが、カモメさんたちの後を追わせるわけにはいきませんねぇ」
「どうやって邪魔をするつもりだ?攻撃があまり効いていなくても貴様を自由に動かせないことくらい容易いぞ?」
「そのようですね・・・ですので盗賊のお二人に頑張ってもらいましょうか」
そう言うとヘインズは盗賊たちの方を見る。
一人はヴィクトールに顔面をへこまされ未だ意識を取り戻していない、もう一人はロープで縛られ身動きが取れない状態だ。
一体この状態でどうやってワタクシたちの邪魔をしようというのだろうか?
「奴らはすでに役に立たん、あっちの転がっている奴も生きてはいるが動ける状態ではないぞ」
ヴィクトールの言う通りである。
だが、それを聞いたヘインズはこれでもかというくらい口の端を吊り上げさらに笑った。
「ふふふふ、いやいや、その通り、今のままではどうしようもないですねぇ・・・今の・・・生きているままでは」
「なにっ」
ヘインズがそう言うと右手から黒い触手のようなものが伸びる、そして・・・盗賊二人の胸を貫いた。
「がふっ」
盗賊二人はあっけなく命を奪われたのである。
「・・・何のつもりだ?」
二人の盗賊にワタクシ達の足止めをさせようとしていたのにその二人を殺してしまったヘインズ・・・本当にどういうつもりなのだろう。
だが、ヘインズは笑い続けていた。まるでこれからさらに物語は面白くなるのだと言うように。
「いえね、そこのお二人にはちょっと私の実験に協力してもらっていまして」
「実験だと?」
「ええ、死後、体を作り替え、私の忠実な下僕になる実験をねぇ」
死後?忠実な下僕?どいうことですの?とエリンシアの頭の中は疑問でいっぱいになった・・・次の瞬間。
胸を貫かれ倒れていた盗賊二人の死体が起き上がる。
「え?」
そして、死体であったものはエリンシアの目の前に迫っていた。
その死体は、先ほどの盗賊の姿形とは別物に変異していた。
体は黒く変色し、目が赤く光っていた。そして額には一本の角のようなものが生えていた。
不意を突かれたワタクシは反応できないでいた。
盗賊だったのものの右手の先にには鋭く尖った爪が伸びている。
まずいっ、ワタクシはその爪を見てそう思った。
恐らくあれはかなりの強度を持った爪だ、鉄でできた短剣や剣並みの武器になるのではないだろうか?
そうは思ったものの避けることは出来そうになかった。
やられる・・・そう思った瞬間目の前に何かが現れる。
「ぐあっ!」
ラインハルトさんがワタクシの前に立ち、代わりに盗賊の爪を背中で受けていた。
その後、持っていた剣を振るうが盗賊だったものはそれを後ろに飛びのき躱した。
そして、二匹同時にゲギャゲギャと気味の悪い笑い声をあげていた。
ラインハルトさんの背中からは、かなり深い傷をおったのか大量の赤い血が流れている。
かなりの深手である。
だが、ラインハルトさんは二つの異形の化け物に毅然と剣を向け構えていた。
「ラインハルトさん!」
「大丈夫か?」
「ワタクシは大丈夫ですわ、それよりもあなたが!」
「問題ない」
ありまくりですわ!とワタクシが叫ぶ。
カモメさんがいれば治療が出来たのだが、ワタクシには治癒魔法の心得は無い。
こんなことなら光魔法を練習しておけばよかった・・・。
それはヴィクトールさんも同じで、いきなりの友の負傷に焦りを覚えていた。
「びっくりされました?あれが私の作った魔鬼という僕です」
「魔鬼?」
「ええ、あの盗賊さんたちが生きているうちに魔の力を植え付けておいたのです。そして死ぬと彼らはその力に取り込まれ鬼へと生まれ変わるのです!」
要は、生きているうちからジワジワとヘインズの魔力に浸食され、死ぬと同時にヘインズの使い魔へと体を作り替えられるということだ。
「死体が新鮮な方が強い魔鬼が生まれますからねぇ」
「下種が」
ヴィクトールさんが悪態をつく。
ラインハルトさんが負傷をした以上、こちらも危険である。
ワタクシは子供の割には強い、カモメさんと同等くらいの力があるだろう。
だが、それでも英雄と言われたパーティに所属していたヴィクトールさんやラインハルトさんと比べると差がある。
普通の魔物であれば問題はないが、見たところあの魔鬼というやつは魔物で言うところのBランク相当の力があると見える。しかもそれが二体だ。
ラインハルトさんが万全であれば二匹であろうとなんとかなったかもしれないが、あの状況では・・・。
とっさに向こうに手を貸そうと踵を返そうとするヴィクトールさんだったが。
「おやおや、どこに行こうというのです?私を放っておくとカモメさんの所へ行ってしまうかもしれませんよ?」
「ちっ・・・」
ヘインズを放っておくことは出来ない、そう思いなおしヘインズへと向き直る。
カモメの方へ行かれるのは勿論だが、ラインハルトやエリンシアを狙われても厄介である。
あちらは負傷しているとはいえラインハルトに頑張ってもらうしかない。
そう思いなおし再び拳を構えるのだった。
「そうそう、カモメさんと言えば」
不意にヘインズが思い出したとでも言うように口を開いた。
「ザインさん・・・あ、もう一人の盗賊の方ですけどね・・・あの方、魔鬼の素体としてはかなり優秀でしたよ」
その言葉を聞いてヴィクトールはさらに焦りを覚えた。
考えてみればその通りである、今いた二人の盗賊に魔力を植え付けていたのであればあのクオンの仇の盗賊にも植え付けていてもおかしくはない。
唯の盗賊であればカモメとクオンならば問題ないだろう・・・だが、あの魔鬼はBランクの魔物並みの力を持っている・・・危険だ。
しかも、ヘインズのあの口ぶりだと赤髪の盗賊が魔鬼になるとラインハルトたちと対峙している二体の魔鬼よりも強力な個体の可能性が高い。
ヴィクトールは焦燥していた、だが、今すぐカモメ達を追いかけるわけにもいかない。
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精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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