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1章
熱き冒険者の心
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ヘインズはゆっくり動き出すとじっと私を見据えたまま向かってくる。
そして突如、スピードを上げお父さんを無視し私の方へと飛び掛かってきた。
ヘインズにはもう私しか見えてないようだ・・・嬉しくない。
お父さんは不意を突かれたのか動いていない・・・と、思った私だったが先ほどまでお父さんの周りだけがユラユラとしていたのに、今はお父さんの体ごとユラユラしている・・・あれ?
その瞬間、目の前に飛び掛かってきたヘインズが再び吹き飛ばされる、私の目の前にはまるでオーガと思うほどの巨体が立っていた・・・お父さんである。
あっちでユラユラしてるの残像だったよ・・・今のお父さんとんでもなく速い。
私がほえーっと口を開けていると今度はお父さんがヘインズに向かって走り出した。
かなりの怪我の筈であるのにその動きはとても速い・・・それともあれでも鈍っているのだろうか?
お父さんの拳が再びヘインズに炸裂する。
聖武具のギアが上がっているからなのかヘインズも涼しい顔をしていられないようで顔を歪めながら叫んだ。
「邪魔をするな!私は闇の子を殺すんですよ!」
すごい形相で私の事を睨んでくる。
少し前までは余裕の表情で私が苦しむ姿を楽しんでいたのに、今は一秒でも早く殺したいというような感じだ。
闇の子・・・闇の魔法っていうのは魔族にとってはそれだけ目の敵にするものなのだろうか?
ディータが昔魔族を滅ぼしまくったと言っていたからそのせいかな?
「その闇の子と言うのは、私の娘の事だろう?」
「そうです、あの醜い餓鬼のことですよ!」
醜いとな!これでも結構見た目には自信があるのに!いつもみんな元気で可愛いお転婆な子だねって褒めてくれるのに!
可愛いって!
「私の娘は世界一可愛いぞ!」
お父さんが親バカ発言をヘインズに言う、いいぞもっと言ってあげて!
私の周りからは三つのため息が聞こえた気がしたが気のせいだろう、頭の中ではディータが『カモメは最高にかわいいわよ!』と言っていた。
「それに、貴様のような下衆をこれ以上大事な娘に近づけるわけにはいかん・・・命を狙うというのなら尚更な」
「邪魔をするなと言っているでしょう!」
「断る」
そう言うとお父さんは高速で移動しヘインズの間合いに入る。
ヘインズはそのお父さんを黒い触手で迎撃しようと触手を伸ばした。
だが、お父さんはその触手を左の拳を振り上げ弾き飛ばす。
そしてさらにヘインズの懐に入り、今度は右の拳でヘインズの胸を殴りつけた。
「ぐはぁっ!」
お父さんの攻撃は一撃では終わらない、次は再び左の拳をヘインズの顎に、さらに右の拳を右頬に、そしてお腹に顔面にと何発も何発も浴びせ続ける、その姿はまさしく拳のオーガと言われるに相応しい姿だった。
「うおおおおおお!」
お父さんは咆哮すると右腕が赤く燃え上がった。
燃え上がった拳をすでにまともに動けなくなっているヘインズに叩き付ける。
拳を叩き付けると同時に炎と衝撃が同時にヘインズを襲った。
「ぎゃああああああ!」
ヘインズが燃え上がり、苦しむ。
必死に火を消そうとしているのか触手を振り回しながら暴れていた。
だが、お父さんの出した炎は簡単には消えなかった。
「燃え尽きるのだな、貴様の腐った性根と共に・・・」
お父さんがヘインズを見て呟く。
どうやら、ヘインズにやられた傷も大丈夫そうだ、普通の人であったら致命傷か即死していたんじゃないかなと思う傷なのだが。
お父さんはしっかりと両足で立ち未だ燃えている敵を見定めていた。
とはいえ、怪我をしていることには変わりない、出来るだけ早く回復をしないとね。
そう思って私は足に力を入れて立とうとした。
『避けなさい!!』
ディータの声が聞こえる、「え?」と私は声を漏らした。
いきなりの叫び声にもしかしてヘインズが最後の力で攻撃を私に仕掛けてきたのかと思い急いでその場で転がったのだが、ディータの声は私に言っていたのではなかった。
だが、ディータの声は私にしか聞こえない。ディータもそれを知っている筈なのに叫ばずにはいられなかったのだろう・・・それもそのはずだ。
咄嗟に転がった後、私は顔を上げるとそこには信じられない光景があった。
何本にも束ねられたヘインズの触手がお父さんのお腹を貫いていた・・・・。
お父さんの口から赤い血が零れる。
「あ・・・あ・・・」
私は目の前の信じられない光景にうまく言葉を出せずにいた。
いや、私の頭が理解したくない光景に言葉どころかほとんど何も考えられなくなっていたのだ。
「ヴィクトール!」
ラインハルトさんが叫ぶ、血が足りず動けなかったラインハルトさんが剣を杖の代わりにして立ち上がった。
恐らく、お父さんを助けに行こうとしているのだろう、いや、ラインハルトさんだけではなくエリンシアも自分では手助けどころか足手まといになると思いずっと戦いを静観していたが、お父さんが貫かれたのを見て銃を取り出して走り出していた。
そうだ、私も早くお父さんを治療しないと・・・っ!
そう思って立ち上がったとき、黒い影がすでにお父さんの近くへ走り寄っていた。
その影は剣を抜き放ち、お父さんのお腹を貫いている黒い触手を斬り裂いた。
ヘインズも大分弱っているのだろうか今までどんな攻撃をも弾き返していた束ねられた触手が綺麗に斬られていた。
「ヴィクトールさん!」
走り寄った影の正体はクオンであった。
クオンもエリンシア同様、足で纏いになることを恐れて戦いに参加できずにいたのだが、お父さんが貫かれるのを見て反射的に動き出していた。
「ぐ・・・」
「大丈夫ですか!」
クオンが倒れそうになるお父さんを支える。
支えたクオンの手には赤い液体がべっとりと付いていた。
「・・・・っ!」
その、血の量にクオンは息を飲んだ。
「今・・・カモメが来ますから」
「いや、その前に・・・あいつに止めを刺さねばならん」
そう言ってヴィクトールはヘインズを睨む。
ヘインズは・・・黒い触手をうねらせながらゆっくりとこちらに寄ってきている。
すでに死にかけているのかもう、人の形はしておらず黒い塊から触手だけが伸びている状態であった。
「ヒ、ヒヒヒ・・・コロス・・・コロス・・・ヤミノコ」
お父さんはクオンに支えられたまま右腕から炎をだした。
先ほどヘインズを焼いた炎だ。
クオンに支えられていたお父さんはクオンから離れる。
そして、ヘインズに向かって走り出した。
「ヴィクトールさん!」
お腹を貫かれ、その前には無数の触手を浴びてもいた・・・走り出せるような状態ではないずですぐにでも治療をしなければいけないはずだ。
それなのにお父さんはまだヘインズに向かって行く。
駄目だよ・・・お父さん・・・いっちゃだめ・・・。
お父さんはヘインズに飛び掛かり炎の燃え上がっている拳を再び叩き付ける。
「ギ、ギ、ギィイイイイ」
奇声を上げるヘインズ。
お父さんの炎がさらに燃え上がった。
「ただ燃やしても駄目なのならば・・・欠片も残らぬよう燃やし尽くす」
さらに炎の威力が増す、すでにお父さんとヘインズの周りには炎が覆いつくしていた。
「俺のすべての魔力と命、貴様を地獄に導く炎と変えよう!」
さらに炎の威力が増した、その炎は私には熱く感じられず、むしろ暖かく感じた。
炎が燃え上がり渦巻く、まるでお父さんそのものであるかのような炎はその力を収束させると輝いた。
そして、炎の消えた後には一人大きな男が立っていた。
「お父さん!」
私はお父さんに駆け寄った。
そしてすぐに治癒魔法を掛ける。
「カモメ・・・」
お父さんの声がする。
大丈夫、まだ息があるなら治して見せる。
「大丈夫だよ、お父さん、私が治すからね」
私が涙をいっぱい目に溜めながら笑顔で言うとお父さんは優しく微笑んだ。
「なるほど・・・あの時のアスカもこんな気持ちだったのかもしれんな・・・」
「お母さん?」
なんで今お母さんの話が出てくるのだろう・・・ううん、今はとにかくお父さんを治療しないと。
それなのにいくら治癒魔法を掛けても血が止まってくれない。
お父さんのお腹に空いた穴は塞がってくれない・・・もっと、治癒魔法の出力を上げないと!
「大事な者を護れた安堵の気持ち・・・大事な者を泣かせてしまっている申し訳なさ・・・そして、死の運命《さだめ》に抗おうとしてくれる感謝の気持ち・・・アスカよお前もこんな気持ちだったのか?」
死の運命って何言ってるの!
私は治癒魔法を使えるんだ!死んだりなんかさせるもんか!
「クオン・・・娘を頼む・・・カモメにはお前が必要なのだ」
「ヴィクトールさん・・・」
クオンも必要だけどお父さんも必要なんだよ!
何嫁入り前の父親みたいなこといってるのさ!
「頼めるか?」
「僕たちは家族みたいなものなのでしょう?当然ですよ」
「ふ・・・頼りになる息子だ」
そう、私たちは3人で家族なんだよ!
「エリンシア・・・・その熱く優しい心忘れずにな」
「当然ですわ・・・」
どうしたのお父さん、さっきから何言ってるのさ!
というか、回復が終わるまで喋っちゃだめだよ・・・。
「ラインハルト・・・王と殿下を頼むぞ・・・お前がいなければこの国は腐る・・・そんな気がするのだ」
「ああ・・・任せろ友よ・・・何、あの大臣の好きにはさせんさ」
ニヤリと微笑みあう二人・・・。
私はとにかく治癒魔法を掛け続けた・・・なんで傷が塞がらないの・・・。
「カモメ・・・聞いてくれ」
「やだ」
お父さんが私に声を掛けてくるが私は治癒魔法を掛け続ける。
今の私はディータから闇の女神の力を貰ってるんだ、女神の力があるのなら治せるはずだ。
それなのに、ディータは何も言ってくれない・・・。
お父さんの傷も治らない・・・・。
「カモメ・・・」
「やだもん!絶対に治す!治った後ならいくらでも聞いてあげるよ!」
「優しい子に育ってくれて私は嬉しいぞ・・・だが、カモメ聞いてくれ」
「・・・・・・」
私は治癒魔法をかけるのをやめない、だけど、今度はやだとは言わなかった・・・。
「カモメ、お前はきっとこれから先も多くの苦難に見舞われるだろう・・・恐らく魔族戦うこともまたあるはずだ。今はまだ未熟だがお前には才能がある。合成魔法、それに先ほど使っていた闇の魔法・・・カモメ。私がいつも言っていた冒険者としての大切なことを覚えているか?」
「優しさを忘れるな・・・力と共に心を磨け・・・そうすれば力の使い方を間違えず楽しく冒険が出来る」
そう言うと、お父さんは満足そうに笑顔になった。
でも、お父さんはすでに何も見えていないのかずっと空を見ている。
私の顔はそこにはないよ・・・。
「そうだ・・・お前を信じているぞ」
「・・・うん」
お父さんの言いたいことはわかる・・・。
大丈夫、立派な冒険者になるから・・・だから・・・。
「お父さん・・・死なないで・・・」
だけど、私の言葉はもう・・・届いてなかった。
そして突如、スピードを上げお父さんを無視し私の方へと飛び掛かってきた。
ヘインズにはもう私しか見えてないようだ・・・嬉しくない。
お父さんは不意を突かれたのか動いていない・・・と、思った私だったが先ほどまでお父さんの周りだけがユラユラとしていたのに、今はお父さんの体ごとユラユラしている・・・あれ?
その瞬間、目の前に飛び掛かってきたヘインズが再び吹き飛ばされる、私の目の前にはまるでオーガと思うほどの巨体が立っていた・・・お父さんである。
あっちでユラユラしてるの残像だったよ・・・今のお父さんとんでもなく速い。
私がほえーっと口を開けていると今度はお父さんがヘインズに向かって走り出した。
かなりの怪我の筈であるのにその動きはとても速い・・・それともあれでも鈍っているのだろうか?
お父さんの拳が再びヘインズに炸裂する。
聖武具のギアが上がっているからなのかヘインズも涼しい顔をしていられないようで顔を歪めながら叫んだ。
「邪魔をするな!私は闇の子を殺すんですよ!」
すごい形相で私の事を睨んでくる。
少し前までは余裕の表情で私が苦しむ姿を楽しんでいたのに、今は一秒でも早く殺したいというような感じだ。
闇の子・・・闇の魔法っていうのは魔族にとってはそれだけ目の敵にするものなのだろうか?
ディータが昔魔族を滅ぼしまくったと言っていたからそのせいかな?
「その闇の子と言うのは、私の娘の事だろう?」
「そうです、あの醜い餓鬼のことですよ!」
醜いとな!これでも結構見た目には自信があるのに!いつもみんな元気で可愛いお転婆な子だねって褒めてくれるのに!
可愛いって!
「私の娘は世界一可愛いぞ!」
お父さんが親バカ発言をヘインズに言う、いいぞもっと言ってあげて!
私の周りからは三つのため息が聞こえた気がしたが気のせいだろう、頭の中ではディータが『カモメは最高にかわいいわよ!』と言っていた。
「それに、貴様のような下衆をこれ以上大事な娘に近づけるわけにはいかん・・・命を狙うというのなら尚更な」
「邪魔をするなと言っているでしょう!」
「断る」
そう言うとお父さんは高速で移動しヘインズの間合いに入る。
ヘインズはそのお父さんを黒い触手で迎撃しようと触手を伸ばした。
だが、お父さんはその触手を左の拳を振り上げ弾き飛ばす。
そしてさらにヘインズの懐に入り、今度は右の拳でヘインズの胸を殴りつけた。
「ぐはぁっ!」
お父さんの攻撃は一撃では終わらない、次は再び左の拳をヘインズの顎に、さらに右の拳を右頬に、そしてお腹に顔面にと何発も何発も浴びせ続ける、その姿はまさしく拳のオーガと言われるに相応しい姿だった。
「うおおおおおお!」
お父さんは咆哮すると右腕が赤く燃え上がった。
燃え上がった拳をすでにまともに動けなくなっているヘインズに叩き付ける。
拳を叩き付けると同時に炎と衝撃が同時にヘインズを襲った。
「ぎゃああああああ!」
ヘインズが燃え上がり、苦しむ。
必死に火を消そうとしているのか触手を振り回しながら暴れていた。
だが、お父さんの出した炎は簡単には消えなかった。
「燃え尽きるのだな、貴様の腐った性根と共に・・・」
お父さんがヘインズを見て呟く。
どうやら、ヘインズにやられた傷も大丈夫そうだ、普通の人であったら致命傷か即死していたんじゃないかなと思う傷なのだが。
お父さんはしっかりと両足で立ち未だ燃えている敵を見定めていた。
とはいえ、怪我をしていることには変わりない、出来るだけ早く回復をしないとね。
そう思って私は足に力を入れて立とうとした。
『避けなさい!!』
ディータの声が聞こえる、「え?」と私は声を漏らした。
いきなりの叫び声にもしかしてヘインズが最後の力で攻撃を私に仕掛けてきたのかと思い急いでその場で転がったのだが、ディータの声は私に言っていたのではなかった。
だが、ディータの声は私にしか聞こえない。ディータもそれを知っている筈なのに叫ばずにはいられなかったのだろう・・・それもそのはずだ。
咄嗟に転がった後、私は顔を上げるとそこには信じられない光景があった。
何本にも束ねられたヘインズの触手がお父さんのお腹を貫いていた・・・・。
お父さんの口から赤い血が零れる。
「あ・・・あ・・・」
私は目の前の信じられない光景にうまく言葉を出せずにいた。
いや、私の頭が理解したくない光景に言葉どころかほとんど何も考えられなくなっていたのだ。
「ヴィクトール!」
ラインハルトさんが叫ぶ、血が足りず動けなかったラインハルトさんが剣を杖の代わりにして立ち上がった。
恐らく、お父さんを助けに行こうとしているのだろう、いや、ラインハルトさんだけではなくエリンシアも自分では手助けどころか足手まといになると思いずっと戦いを静観していたが、お父さんが貫かれたのを見て銃を取り出して走り出していた。
そうだ、私も早くお父さんを治療しないと・・・っ!
そう思って立ち上がったとき、黒い影がすでにお父さんの近くへ走り寄っていた。
その影は剣を抜き放ち、お父さんのお腹を貫いている黒い触手を斬り裂いた。
ヘインズも大分弱っているのだろうか今までどんな攻撃をも弾き返していた束ねられた触手が綺麗に斬られていた。
「ヴィクトールさん!」
走り寄った影の正体はクオンであった。
クオンもエリンシア同様、足で纏いになることを恐れて戦いに参加できずにいたのだが、お父さんが貫かれるのを見て反射的に動き出していた。
「ぐ・・・」
「大丈夫ですか!」
クオンが倒れそうになるお父さんを支える。
支えたクオンの手には赤い液体がべっとりと付いていた。
「・・・・っ!」
その、血の量にクオンは息を飲んだ。
「今・・・カモメが来ますから」
「いや、その前に・・・あいつに止めを刺さねばならん」
そう言ってヴィクトールはヘインズを睨む。
ヘインズは・・・黒い触手をうねらせながらゆっくりとこちらに寄ってきている。
すでに死にかけているのかもう、人の形はしておらず黒い塊から触手だけが伸びている状態であった。
「ヒ、ヒヒヒ・・・コロス・・・コロス・・・ヤミノコ」
お父さんはクオンに支えられたまま右腕から炎をだした。
先ほどヘインズを焼いた炎だ。
クオンに支えられていたお父さんはクオンから離れる。
そして、ヘインズに向かって走り出した。
「ヴィクトールさん!」
お腹を貫かれ、その前には無数の触手を浴びてもいた・・・走り出せるような状態ではないずですぐにでも治療をしなければいけないはずだ。
それなのにお父さんはまだヘインズに向かって行く。
駄目だよ・・・お父さん・・・いっちゃだめ・・・。
お父さんはヘインズに飛び掛かり炎の燃え上がっている拳を再び叩き付ける。
「ギ、ギ、ギィイイイイ」
奇声を上げるヘインズ。
お父さんの炎がさらに燃え上がった。
「ただ燃やしても駄目なのならば・・・欠片も残らぬよう燃やし尽くす」
さらに炎の威力が増す、すでにお父さんとヘインズの周りには炎が覆いつくしていた。
「俺のすべての魔力と命、貴様を地獄に導く炎と変えよう!」
さらに炎の威力が増した、その炎は私には熱く感じられず、むしろ暖かく感じた。
炎が燃え上がり渦巻く、まるでお父さんそのものであるかのような炎はその力を収束させると輝いた。
そして、炎の消えた後には一人大きな男が立っていた。
「お父さん!」
私はお父さんに駆け寄った。
そしてすぐに治癒魔法を掛ける。
「カモメ・・・」
お父さんの声がする。
大丈夫、まだ息があるなら治して見せる。
「大丈夫だよ、お父さん、私が治すからね」
私が涙をいっぱい目に溜めながら笑顔で言うとお父さんは優しく微笑んだ。
「なるほど・・・あの時のアスカもこんな気持ちだったのかもしれんな・・・」
「お母さん?」
なんで今お母さんの話が出てくるのだろう・・・ううん、今はとにかくお父さんを治療しないと。
それなのにいくら治癒魔法を掛けても血が止まってくれない。
お父さんのお腹に空いた穴は塞がってくれない・・・もっと、治癒魔法の出力を上げないと!
「大事な者を護れた安堵の気持ち・・・大事な者を泣かせてしまっている申し訳なさ・・・そして、死の運命《さだめ》に抗おうとしてくれる感謝の気持ち・・・アスカよお前もこんな気持ちだったのか?」
死の運命って何言ってるの!
私は治癒魔法を使えるんだ!死んだりなんかさせるもんか!
「クオン・・・娘を頼む・・・カモメにはお前が必要なのだ」
「ヴィクトールさん・・・」
クオンも必要だけどお父さんも必要なんだよ!
何嫁入り前の父親みたいなこといってるのさ!
「頼めるか?」
「僕たちは家族みたいなものなのでしょう?当然ですよ」
「ふ・・・頼りになる息子だ」
そう、私たちは3人で家族なんだよ!
「エリンシア・・・・その熱く優しい心忘れずにな」
「当然ですわ・・・」
どうしたのお父さん、さっきから何言ってるのさ!
というか、回復が終わるまで喋っちゃだめだよ・・・。
「ラインハルト・・・王と殿下を頼むぞ・・・お前がいなければこの国は腐る・・・そんな気がするのだ」
「ああ・・・任せろ友よ・・・何、あの大臣の好きにはさせんさ」
ニヤリと微笑みあう二人・・・。
私はとにかく治癒魔法を掛け続けた・・・なんで傷が塞がらないの・・・。
「カモメ・・・聞いてくれ」
「やだ」
お父さんが私に声を掛けてくるが私は治癒魔法を掛け続ける。
今の私はディータから闇の女神の力を貰ってるんだ、女神の力があるのなら治せるはずだ。
それなのに、ディータは何も言ってくれない・・・。
お父さんの傷も治らない・・・・。
「カモメ・・・」
「やだもん!絶対に治す!治った後ならいくらでも聞いてあげるよ!」
「優しい子に育ってくれて私は嬉しいぞ・・・だが、カモメ聞いてくれ」
「・・・・・・」
私は治癒魔法をかけるのをやめない、だけど、今度はやだとは言わなかった・・・。
「カモメ、お前はきっとこれから先も多くの苦難に見舞われるだろう・・・恐らく魔族戦うこともまたあるはずだ。今はまだ未熟だがお前には才能がある。合成魔法、それに先ほど使っていた闇の魔法・・・カモメ。私がいつも言っていた冒険者としての大切なことを覚えているか?」
「優しさを忘れるな・・・力と共に心を磨け・・・そうすれば力の使い方を間違えず楽しく冒険が出来る」
そう言うと、お父さんは満足そうに笑顔になった。
でも、お父さんはすでに何も見えていないのかずっと空を見ている。
私の顔はそこにはないよ・・・。
「そうだ・・・お前を信じているぞ」
「・・・うん」
お父さんの言いたいことはわかる・・・。
大丈夫、立派な冒険者になるから・・・だから・・・。
「お父さん・・・死なないで・・・」
だけど、私の言葉はもう・・・届いてなかった。
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