闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2章

傷ついた少年

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ここ連日、溝攫いばかりやってきた私だが、その成果が出て溜まっていた依頼の数が減りようやく、冒険者らしい冒険が出来そうである。
今日こそは、ダンジョンに潜るか魔物討伐の依頼でも受けようかなと鼻歌を歌いながらクオン達と大通りを歩きギルドに向かっていた。

大通りには露店が出ており、食欲をそそるいい匂いが私の鼻に届く。
ふらふらっと買いに行ってしまいそうになるが、先ほど朝ご飯を食べたばかりなので我慢をする。
まだまだ、無駄遣いできるほどお小遣いないもんね。


「ねえねえ、二人とも今日こそはダンジョンか討伐の依頼を受けようよ!」
「そうですわね、このところウエイトレスの手伝いばかりでしたので少し体が訛ってしまってますわ」


そう言うエリンシアであるが、私が昼食と揶揄いがてらお店にお邪魔したときはまるで戦場にいるかの如く忙しく動き回っていた。
あれで、体が訛るっていつもどれだけ動いてるのさ・・・。


「確かに、少しは街の人たちの態度も緩和してきている気がするし、大きな依頼をしてもいいかもね」


態度が緩和というのは私とクオンがグランルーンから指名手配をされている為、街の人たちは警戒をしているのだ。
このツァインの王様が私達の無実を主張してくれた為、捕まえられたりグランルーンに売り飛ばされたりしなくて済んでいるが、それでも私の悪名は変わらない。
ここに来て、私の噂を色々聞いたが、酷いものである。
私が歩いた後には瓦礫しか残らないだの、子供をおやつに食べるだの、男女構わず惑わしつくすだの、お城を見ると必ず破壊するだのだ。
私は歩く災害か何かかと叫びたくなる内容であった。



「ふふふ~ん♪冒険、冒険♪らんららーん♪」
「ヒドイ音程ですわ」


私が気持ちよく歌っているとエリンシアが胸に刺さる一言を言う。
あれ・・・私、歌下手なの・・・?
これまでもクオンの前で何回か歌ったりしたことあったけど、クオンは笑顔で聞いていてくれた・・・下手なら下手と言って欲しいこともあるんだよクオン・・・。

私がヒドイ音程という言葉の刃に胸を痛めていると、視界の端に倒れる人の姿が映った。
路地裏から金髪の男の子が出てきたのだが、出てきた瞬間倒れこんだのだ。
それだけではない、酷い傷なのか全身血で真っ赤だ。

エリンシアもそれに気づいたのだろう、私より早く、そちらに走り出した。
彼女が走り出したことによってクオンも状況を理解する。
私とクオンはエリンシアの後を追った。


「大丈夫ですの!?」
「カモメ、治癒魔法を!」
「うん!」


クオンに促され私は治癒魔法を唱える。


治癒魔法ヒーリング


私が傷ついた少年に両手をかざすと白い光が少年を包む。
光の魔法の一つである治癒魔法だ。
魔法のお陰か、少年の傷は塞がったがかなりの血を流しているからか意識を失っている。


「このままここに寝かせておくわけにはいかないよ、ギルドに運ぼう」
「わかった、僕が運ぶよ」
「お願い」
『この子、エルフね』


ディータが少年を見てそう言った。
ホントだ、耳が長い。
なぜ、エルフの少年が血まみれで路地裏に倒れていたんだろう・・・。
このツァインは亜人差別はない国だ、冒険者にも亜人がたくさんいるし、街でも普通に暮らしている。
エルフだけ差別しているということもないので何かしらの事件に巻き込まれた?

考えていても分からない、本人が気が付いたら聞いてみよう。


クオンに少年を負ぶってもらい私たちはギルドへと移動した。






ギルドに着いた私たちを見て、状況を理解してくれたアイナが私たちをベッドのある奥の部屋に案内してくれる。
少年をベッドに寝かせると、アイナが事情を聴いてきた。


「一体何があったんですか?」
「それが、わかんないんだよね」
「路地裏からボロボロの状態で出て来たんですわ」


私達が、少年が傷を負った状態で倒れたこと、それを治癒魔法で治したこと、気を失っている為、それ以上の事はわからないことをアイナに伝える。


「傷が治ったのに目が覚めませんわね」
「大分、血を失ってるみたいだからすぐには目を覚まさないかも」
「血を増やしたりは出来ませんの?」
「さすがにそこまでは無理かな」


傷を癒すことは出来るが、失った血までは戻せない。
その為、出血が多すぎると治癒魔法を掛けても助けられないこともある。
幸い、この子はそこまで血を失っていないようなのでしばらくすれば目を覚ますだろうけど。


「とりあえずは彼の目が覚めるまで待つしかないね」


クオンがそう言うと私たちは頷いた。


少年は夕方近くまで眠っていた。
私達は、何かあるといけないのでギルドで待機していた。
それにしても、彼のあの傷、無数の刃で切り刻まれたような傷であった。
あの傷をつけた相手はかなりいやらしい奴だろう、少年を切り刻んでいたぶったのだ。


「う・・・」
「魔女様!」


夕方近くに少年の意識が戻った。
目を開けると青い瞳が今の状況を呑み込めていないのか少しぼーっとした状態で辺りを見回していた。


「大丈夫?」
「はい・・・ここは?」


まだ、自分の状況が分かっていないのかぼーっとした表情のまま聞いてくる。


「ここはツァインの冒険者ギルドですわ、あなた、血まみれで倒れてましたのよ?」
「ツァイン・・・血まみれ・・・・・・っ!!」


自分の状況を思い出したのか何かを思い出したのか急に飛び起きようとする少年。
だがまだ、体が本調子でない為、うまく力が入らず床に倒れこむ。


「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
「無理をしない方がいい」


クオンが肩を貸し、再びベッドに横になる少年。


「急がないと・・・リーナが・・・」
「リーナ?他に近くに人はいなかったけど?」


あの時、少年の治癒をした後、少年に傷を負わした犯人がいるんじゃないかと、辺りを探索してみたがそれらしい人物はいなかった。


「襲われたのはヴァイスの森です・・・」
「ヴァイスの森!?」


その名を聞いて驚いたのは受付嬢であるアイナだった。
猫耳と尻尾をピンと伸ばして驚いている。


「あそこは翼竜が出ると言う噂があります・・・あんな危険なところにどうして?」


翼竜って言うとたしかランクAの魔物である。
確かにそんなところにエルフとはいえ子供が行くなんて危ないことこの上ない。


「それは・・・」


何か秘密があるのか、少年はそこで口をつぐんでしまう。
とはいえ、そのリーナという子を助けるためにも事情を聴かないと。


「翼竜に襲われたの?」
「いえ・・・」


どうやら翼竜に襲われたわけではないらしい。
だとしたら他の魔物か?


「他の魔物?」
「いえ、恐らく人間です」
「え!?」


ヴァイスの森には翼竜が出る。
そんな場所行く人間が他にもいるのか・・・しかも、エルフを襲うなんて。


「どんなやつだったんですの?」
「フードを目深に被っていたので顔は解りません・・・他にも黒ずくめの男たちが」
「黒ずくめ・・・もしかして黄泉鴉でしょうか?」
「知ってますの?」

アイナの説明によると、最近活発化している犯罪集団らしい。
ツァインの王様を目の敵にしており、この国をつぶすことを目的にしているらしい。
誘拐、略奪、殺人、様々な犯罪をするがその居所は解っておらず、国も頭を抱えている状態らしい。


「そいつらにそのリーナって子が?」
「恐らく攫われた・・・特別な力を持っているんだ・・・だから」
「なるほど」

その力を狙って黄泉鴉は襲ってきたわけだ。


「みんな・・・いいかな?」
「当然ですわ!!」
「もちろん」
『冒険はお預けね』


私が聞くと何を言いたいのか理解してくれたのか皆が賛同してくれる。


「魔女様?」
「アイナ、ちょっとリーナって子を探しに行ってくるよ。ついでに黄泉鴉ってのも潰してくる」
「え!?」
「子供の誘拐してこんな傷まで負わせるんだもん」
「許せませんわ!」


私達がそう言うと、アイナはクスリと笑って尻尾をユラユラ振っていた。


「解りました、ギルドマスターには伝えておきます」
「よろしく・・・それじゃ、えっと・・・あなたの名前は?」
「・・・コハク」
「それじゃ、コハク。リーナって子を助けに行こう!」
「・・・・・・・」


まだ何が起こっているか、分からない顔をしているコハク。
まあ、いきなりすぎてわからないよね。
そこら辺は道中、話しながら行こう。
リーナって子がどんな状況かわからない以上、のんびりしている訳にはいかないしね。

そう思い、私たちはギルドを後にした。
コハクはまだ上手く歩けていなかったのでクオンに負ぶってもらった。
恥ずかしいと駄々を捏ねていたがリーナの為だよっていうと大人しくなった・・・素直ないい子だね。
私達はヴァイスの森を目指して移動するのであった。

 
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