闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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8章

リーンの策

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「『魔』などと大層な名前で呼ばれるものが姑息な手を使うのじゃな」
「……なっ、ぐう!」


 兵士たちの方を向き魔法を放ったため、ラガナに後ろを向けたリーンへラガナが拳を振るう。
 その拳はリーンの腹部にめり込む。
 

「カモメ!お主はそこで兵士や王たちを護るのじゃ!こやつは余たちで十分じゃ」
「おや、舐めてくれますねぇ……」
「事実じゃろう?以前、カモメ達が苦戦していたという割には弱いのう……」
「いえいえ、実はあの日でしてちょっと動きづらいのですよ」
「たわけが」


 未だ、軽い口調を変えずに言うリーンの幻影。
 あたかも強がりを言っている風に聞こえるが、自分が負けた時の理由にするのもあるのだろう。
 いや、負ける為の理由づくりと言うべきか。

 『魔』を簡単に倒せたのは『魔』コンディションが悪かったから……あれが幻影だとわかっている私達からすれば苦しい言い訳だと思う……でも、それを知らなかったらラッキーだったと思うかもしれないな。

 そして、その幻影を倒さなければ本体であるメリアンナ法王に攻撃を仕掛けるわけにも行かない。
 いくら幻影と言ってもあの強さだ、二人同時相手はきついだろう。
 それこそ、幻影に兵士たちを攻撃されたら戦うどころではなくなるだろう……そして、リーンに逃げられでもしたら目も当てられないのだ。


「解った、『こっち』は任せて!そいつはラガナ達に任せる!」
「任せろなのじゃ!」

 『こっち』というのはもちろん兵士たちを護ることではない、その兵士たちの近くにいるメリアンナ女王の事だ、ラガナが幻影を倒した後、私はメリアンナ女王……ううん、リーンの本体と戦わなければならない、その為に体力を温存しておけということでもあるのだろう。
 ラガナの拳がリーンの幻影に炸裂し続ける。


「良いのですか、闇の魔女様……」
「あ……メリアンナ……女王、良いっていいうのは?」
「いえ、『魔』には気を使った攻撃が効果的だと聞きました、そして、魔女さまはその気が使えるとも、魔女さまが戦った方が良いのではと思ったのですが」


 後ろに控えていたメリアンナ女王がいつの間に私の横まで近づいてきていた。
 いきなりの事に、少し慌てた私であったが、メリアンナ女王の少し後ろに彼女をマークしてることが解らない程度に距離を置いてディータとレナの姿もあった。それを見て、私は動揺を隠しメリアンナ女王の質問に答える。


「大丈夫、ラガナも同じようなものが使えるし、今のリーン相手ならラガナ達ならきっと勝てるよ……だから、私は兵士の皆を護らなきゃね」
「そうなのですか、申し訳ありません、少しでも魔女様の役に立とうと兵を集めたのですがかえって足手纏いになってしまっておりますね」
「ううん、そんなことないよ、リーンが仲間を連れてくる可能性だってあったし、兵士の人達にいて欲しいって頼んだのは私達だもん……だからこういう時は護らないとね」
「ありがとうございます、微力ながら私も協力いたします」
「助かる……後、ディータとレナさんもこっちで一緒に護ってもらっていいかな?リーンがどんな攻撃をするか分からないし」
「ええ、わかったわ」


 私は自然に見えるようにディータ達を呼んだ。
 レナも頷きこちらに近づいてくる、あの様子だとディータから事情は聴いているようだ。
 結果的にリーンが兵士を攻撃したことにより、私たちにとって理想的な配置となった。
 リーンが何を考えてここに来たのか分からないが、こっちとして好都合である。
 そして……


「そろそろ限界の様じゃな!」
「ぐ……」
「僕のスピードについてこれなくなってますね」
「がぁ!!」


 ラガナの攻撃を防ぎきれずよろめいたところにクオンが一閃。
 

「デカイの行きますわよ!」


 そして、リーンの頭上まで跳びあがっていたエリンシアがリーンの頭上からフルバスターを全力で放った。


「きゃあああああああ!!」


 とてつもない魔力量の魔弾を全身に受け、リーンの身体は崩れ落ちる。


「そんな……こんなところで……いえ……まだ……まだです……せめてここにいる者たちを」
「そうはいかない!」


 リーンの幻影が最後に何かをしようとしたところでクオンがリーンの首を斬り飛ばした。


「あ……」


 声にもならない呻きを漏らし、リーンの身体はその場に倒れ消滅をした。
 その光景をみて、兵士たちが歓声をあげる。
 まるで地震でも起きたかのようなすごい歓声だ。


「やりましたね」
「うん、うまくいったよ」


 メリアンナ女王が私に話しかけてくる、私はそれに満面の笑顔で返した。


「今だよ、ディータ、レナ!!」


 私の掛け声とともに私とリーンの周りに強力な結界を張る二人の女神。


「結界……?どういうことです?」
「どうもこうもないよ、これからが最後の決戦だよ……リーン」


 私は真剣な顔でメリアンナ女王を見つめる。
 一瞬女王の眼が細まる、そして、気を取り直し優しい表情になると、まるで困った子を相手にするような口ぶりで言葉を語る。


「ふふふ、何の冗談でしょう、魔女様」
「冗談だと思う?」


 笑う女王だが、その眼は笑っていなかった。
 間違いない、ラガナの言う通りである……彼女はリーンだ。


「魔女殿、どういうことだ!?一体何を……」
「アイツはリーンよ……さっきまで戦っていたのは幻影……あいつが本体なのよ」
「な、馬鹿な……じゃあ、本物のメリアンナ女王は」
「そんな奴いないのよ、アイツがメリアンナ女王であり、リーンなのよ」
「馬鹿な……」

 
 王様の問いに答えたのはディータである。
 何度もあっているフィルディナンド王としては信じられない気持ちもわかる。
 だが、間違いないのだ。


「王様、兵士たちを退かせて」
「なるほど、兵たちを集めさせたのは女王をここにおびき出す為……か」
「ええ、そんなところよ、だから、ここから先は被害を減らす為にもひかせた方がいい」
「わかった」


 ディータの言葉に素直に従おうとする王様、だが、王様がその命令を出す前に、目の前にいたメリアンナ女王が突如笑い出した。



「うふふふふふふふ」
「……何がおかしいの?」
「いえいえ、魔女さんたちはすごいなぁと思いまして♪」


 メリアンナ女王の口調が変わる……この喋り方はリーンのそれだ。


「まさか、私の正体まで見破られてるなんて思いもしなかったですよ……素晴らしい♪」
「………」


 リーンからしてみれば、この状況は最悪の筈である……なのにまだ余裕があるのだろうか。
 焦っている様子もない。


「でも、ちょっとツメが甘かったですね♪」
「どういうこと?」
「私だけしか疑わないなんて」


 私だけ……どういうことリーンに仲間なんて……いや、待てよ、もしかして。

 私は咄嗟にクオンとレナを見る、そうだ二人は捕まっていた間に洗脳されている可能性もある。
 だが、私がみたクオンとレナに何の変化もない。
 二人も自分が操られているのではないかと不安になったのだろう、自分を確認しているようだったが特に何も変化が無かったの戸惑った顔をしていた。


「おしい、そっちじゃないんですよ♪」
「……え?」
「きゃ!?」


 突如、近くで声が聞こえる。
 ディータの声だ。


「ディータ!?」
「アンタ……一体何を……」


 そこで見たのは、王様がディータの肩口を斬り裂いている姿であった。


「なっ、王様!?」


 いや、違う……王様だけじゃない……クーネル国のシェリーもソフィーナさんも国の兵士たちも皆、虚ろの目をしている。


「そんな……まさかっ」
「当たりです♪……伊達に各国を回っていた訳じゃないんですよ?あなた達がいない間に皆さんを私の虜にしちゃいました♪」
「嘘……。」


 最悪である……何万と言う兵士がこの局面で敵と回った……それに対してこちらの戦力は私がリーンと戦いその結界を保つためにディータとレナは動けない。
 まともに動けるのはエリンシア、クオン、ラガナ、レディ、そしてミャアだ。
 だが、ミャアはコロを失ったショックからまだ立ち直れていない様子である、ここに来るまでも、ここに来てからも一言もミャアは喋っていない。

 つまり、実質四人なのだ……そんな中、結界を維持しているディータ達を護ってもらわないといけないだろう……これはマズいのではないだろうか。



「ラガナ、クオン!ディータとレナを護って!」
「解っているのじゃ!」
「うん!」
「しかしどうしますの!殺すわけにはいきませんわよ!」


 解ってる、解ってるけど……方法なんて……。


「さあ、どうします、魔女さん?一応私を倒せば洗脳は解けますよ?」
「く……なら、答えなんて決まってるじゃない」
「ですよね、でもそう簡単に倒せますかね?」


 私は奥歯を噛みしめながらも人を喰った態度をとるリーンを睨むのだった。
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