闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 1章

始まり

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 私は、宿屋の外から聞こえる子供たちの元気な声で目が覚めた。


「ん~、よく寝た!」


 背伸びをすると、「よしっ」と気合を入れて、ベッドから飛び降りる。
 部屋の小窓から外を見ると、今日の空はちょっと曇っていた……。


「微妙な空だね……」


 こういう空の時はちょっと憂鬱になる。
 私はもっとこうカラッと晴れている空の方が好きなのだ……まあ、ずっと晴れてばっかりだったら農家の人が困っちゃうだろうけどね。

 寝巻から着替えて、私は下の階へと降り、食事を取りに行く。
 すでにみんな起きていたらしく、三人はテーブルを囲んで私を呼んでいる。
 宿屋のおばちゃんが、パンとハムを用意してくれていた。


「それで、今日はどうするー?」
「まずは魔導具屋に行って、オーダーメイドの値段を聞いてみよう」
「そうね、それを踏まえて依頼を受けましょ」


 オーダーメイドとは私のバトーネの事だ。
 武器屋や魔導具屋にあまりしっくりくる武器が無かった為、いっそ、特注で作ってしまったらどうかという話になったのだ。

 謎の大陸のお金をほとんど持っていない私たちなので、これから稼がないといけない。
 その為、値段を聞いた後に依頼を受けに行こうということなのだが、一体どれくらいかかるのか……。
 とはいえ、バトーネ無しだと今後、大変だしねぇ……邪鬼とかいう魔物もいるみたいだし。


「では、朝ご飯が終わりましたら、早速いってみましょうですわ」


 善は急げと、私達は、軽い朝食を食べると、魔導具屋へと足を運んだ。
 このラリアスの街にも魔導具屋と呼ばれる場所はいくつかあった、昨日、バトーネを探しに来た時に、腕のよさそうな店に目星をつけていたのだ。


「こんにちわー」


 私はお店に入ると、元気よく挨拶をする。
 すると、店の奥から、気のよさそうなおばあちゃんが現れた。


「おや、昨日のお嬢ちゃんじゃないかい、いらっしゃい」
「おばあちゃん、昨日ぶり!」


 ふぉっふぉっふぉと笑うおばあちゃんがここの店主である。


「どうしたんじゃ?やっぱり何か欲しいものがあったのかい?」
「んと、実は、オーダーメイドをお願いしたいんだけど……」
「おや、オーダーメイドかい?一体どんなものが欲しいんだい?」
「んとね、欲しいのはマジックバトーネなんだ」
「マジックバトーネ?それは一体どんなもんだい?」


 私は、前に使っていたバトーネの説明をおばあちゃんにする。
 私の欲しい機能は二つである。
 一つは、通常時は持ち運びがしやすいように、20cmくらいの筒状の形態に出来るようにすること。
 二つ目は、魔力を込めることでその威力を増すことが出来るようになることである。

 だが、その説明を聞いたおばあちゃんは難しい顔をした。


「う~む」
「出来そう?」
「筒状にすることは出来るんじゃがのう……魔力で威力上げるとなると……」


 おばあちゃんの話によると、そんな機能を付けれる付与士は世界を探し回ってもいないだろうということだった……。魔力を流して形状を変えるという機能であればそれほど難しいものではないそうだが、威力を増すとなると、その構造が全く分からないという。

 確かによく考えれば、何で魔力を込めるだけで威力が増すのか……原理が分からない。
 筒状のものは元々そう作って魔力をきっかけに飛び出すようにするということで出来るらしいのだが……魔力を込めると威力が上がるというのは割と超理論だそうだ……。

 おばあちゃんの説明を聞くと私も納得した……というか、あれってお母さんが作ったんだよね……お母さんって魔導具を作ることに天才的だったんじゃ……。


 お母さんの凄さを知ると同時に、私の新しい武器の入手は困難になってしまう。
 とりあえず、筒状から形態変化するだけの棒であれば、作れるということだったので、それを注文することにした……このまま武器無しでいるよりはいいだろう……だが、その武器のオーダーメイド代が20万セルト掛かるらしい。

 宿屋の料金が、4人で一日2万セルトだったので昨日の稼ぎの残りは10万セルトくらいである。
 となれば、今日も又、討伐のクエストをこなさないといけないね。

 昨日は運良く(?)オークキングに会えたからいっぱいお金もらえたけど、今回もまた会えるとは限らない、オーダーメイドの時間も掛かるとはいえ、出来れば今日中にもう10万は稼いでおきたいところである。


 私達はお金を稼ぐために、ギルドの掲示板の前まで来ていた。


「また、手分けをして討伐するのがいいかしらね?」
「うーん、でも昨日のミオンの話だと邪鬼とかいうのがいるんでしょ?危険じゃないかな?」
「ですわね、未知の敵であるのなら、用心はした方が良いかもしれませんわ……油断はいい結果を生まないものですわよ」


 エリンシアの言う通りである、冒険者が一番、命を落としやすいのは油断をした時である。
 どんなに強い冒険者でも、油断を突かれれば簡単にやられてしまう。
 だからこそ、強い冒険者程、慎重になるらしい。
 正直私とディータには縁の遠い言葉であるが……。


「でも、討伐クエストは軒並み2万~3万くらいよ、数をこなさなければ目標金額には行かないわ」
「魔石を売ってもお金にはなるのだから、クエスト自体は少なくても森で見かけた魔物を手当たり次第倒してもいいんじゃない?」
「それはそれで、運任せすぎるかもね」
「そっかー」


 私たちがギルドの掲示板の前で悩んでいると、ギルドの入り口が騒がしくなる。


「おい、どうした!?」
「あ……ぐ……」


 恐らくこのギルドの冒険者だろう、折れた剣と、壊れかけの鎧を纏ったその男性は、大量の血を流しながら、ギルドの入り口にもたれかかっていた。


「何、どうしたの!?」


 私は慌てて、入口の方に駆け寄る。
 男性はかなりひどい傷で、すでに意識も朦朧としていた。


「ち、治癒師を!」
「どいて、私がやる!」


 男性の近くにいた他の冒険者たちをかき分けて、私は血だらけの男性に近づき、治癒の魔法を掛ける。
 傷はかなり深いが、なんとか治癒できそうである……流れた血までは戻せない為、助けることが出来るか分からないが……。


「す、すげぇ……みるみる傷が塞がっていく……」


 あと少しっ……よしっ!

 治癒魔法を掛け終わると、男性の傷は完全に塞がっていた。
 とはいえ、男性の顔色は悪い。


「ミオンさん、この人をベッドに、後、血が足りないだろうから、輸血とかできる?」
「はい、ギルドの奥に医療スペースがありますのでそちらで!今準備いたします!」


 ミオンさんは奥へ一度引っ込むと、他の職員を連れてきてくれた。
 血まみれの男性は職員さんたちが担架で運び、中で輸血をしてくれるそうだ。

 とりあえず、大丈夫だろう。


「一体何があったの?」
「冒険者は過酷な職業です、恐らく魔物にやられたのではないかと……ですが」
「ですが?」
「あの方はDランクの冒険者なのですが、腕はかなり立つ方でした……一体、何の魔物とであったのでしょう……」
「何の討伐の依頼を受けてたか分からない?」
「いえ、あの方は今回は薬草採取の依頼を受けていました……それも、森の入り口付近で見つかるものです……それなのに……」


 もしそれが本当なら、森の入り口でDランクの腕に覚えのある冒険者があそこまでやられるの程の魔物が出ているということになる……。
 そして、その森と言うのは昨日私たちがオークたちを討伐した森である……。気になるね。


「皆、今日も森の魔物の討伐でもいいかな?」
「うん、わかった、でも、手分けはしない方がいいね」
「ですわね」
「私も賛成よ」


 皆が賛成してくれたので、私は適当に、ダイアーウルフの20体討伐クエストを手に取り、ミオンの元へと向かった。

 今の騒ぎの後にこの依頼を持ってきたことにミオンは驚くと同時に、私たちを止める。
 

「うん、危険なのはわかってるよ、でも何が起きているのか見ておかないといけない気がするんだ」


 正直よくわからないのだが、私の胸のあたりにとても不安な気持ちがついて離れないのだ。
 この目で何がいるのか見ておかないといけない気がする……それだけ危険な何かが、あの森にはいる……どこか核心に近い気持ちを持っていた。

 何度も止めるミオンに私は無理をしないからと、押し通して、依頼を受けた。
 そして、もう一度、昨日の森へと足を運ぶのだった。
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