闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 2章

ローラ

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「あら、目を覚ましましたのね?」


 冒険者ギルドの一室に縄でぐるぐる巻きにされた女性が横たわっていた。
 その女性は、小さく声を漏らすとゆっくりと瞼を開ける。
 それに気づいたワタクシが声をかけたのだ。


「ちっ……最悪ね……グレイブはどうしたの?」
「あの男なら逃げやがりましたわ」
「はあ……ホント最悪……」


 仲間が逃げたと聞いたのにさらに落ち込む女………普通喜びませんこと?


「お前が今どういう立場か分かっているな?」
「あら、無事に体がくっついたのね、ゾンビさん」
「肯定だ」
「……肯定だって……はあ、真面目な人間って苦手よ……嫌味も解らないのかしら」


 女の嫌味を気にも留めず素で返すレンに女は再度ため息を吐く。


「それで、拷問にでもかけようってところかしらね」
「あら、あなたが正直に吐いてくれるのなら酷いことはしませんわよ?」
「あははははは!貴方みたいなお嬢ちゃんが拷問なんて出来るのかしら?」
「あら……出来ないとお思いですの?」
「へぇ……じゃあ、どんな拷問をするつもりかしら?」
「え?……それはですわね……」


 女の問いにワタクシは言葉が詰まる……正直、拷問なんてしたこともないしそのやり方なんて考えたこともなかったのだ。いざ、やろうとなるとどうしていいのか分からない。


「ほ~ら、貴方みたいなお嬢ちゃんに拷問なんて無理よ!背伸びはしないことね!」
「ぬぅわんですって……」
「先ずは爪を剥ごう……それも一枚一枚ゆっくりと……貴様が泣き叫ぶのをBGMにするのもいいな」
「………は?」


 女に揶揄われるワタクシが怒りの声を上げたその時、ワタクシの後ろにいたレンがとても冷たい声と表情でそう言った。


「次はその剥がれた部分を掴みながら一本ずつ指を折ろう、さすがにBGMにも飽きているだろうから貴様が声を上げるたびにさらに追加で折っていこう……。」
「ちょっ……」


 無表情のまま淡々と言うレンは妙に威圧感があり怖いのですわ……。


「それでも白状しないのなら仕方ない、薄皮一枚ずつ、ナイフで貴様の皮を剥いていく……少しずつ少しずつ痛みを感じ始める貴様はいつまで我慢できるかな?ああ、そうだな。皮を剥く場所は顔にしてやろう。女の命とも言える部分だ。自分の顔が壊れていく様を見せつけるために鏡を正面にプレゼントしてやる」
「レ、レレレレレンさん?」


 おかしいですわ……ワタクシに言っているわけではないのですがなんだかワタクシまで恐怖を感じます……レンさん、相手を脅すための嘘ですわよね?そ、そこまでひどいこといたしませんわよね?ね?ね?

 レンの言葉に恐怖しているのはワタクシだけではなく、言われている本人の女はもちろん、近くで聞いていたミオン達ギルドのスタッフもガタガタと震えていた。


「そこまで、耐えきった貴様はロックだ。解放してやろう」


 そこまで無表情であったレンが急に笑顔になる。
 だが、その笑顔を見た者はさらに恐怖を感じたことだろう。
 解放すると言ったレンの手には爆弾を一つ持っていたのだ。


「か、解放って……?」


 恐らく答えなんて分かっているだろう女が聞かずにはいられなかったらしい。


「貴様のペットは耐えられなかったが……主人であるお前はこれを内側から爆発させて耐えられるかな?いつ自分の中で爆発するか分からない恐怖に貴様は最後まで正気でいられるか……楽しみだな?」


 解放してやると言った口からこぼれる言葉は解放とは程遠い内容である。


「そんなの、全然解放じゃないじゃない!」
「貴様はどのみち死を免れないだろう……一思いに殺してやると言っているんだ解放で間違いない。それとも死ぬまで拷問を受けたいのか?マゾ女」
「そんなわけないでしょう!」


 あれだけの事を言われて、未だに怒鳴れる女もすごいと思う。
 ワタクシはもう、怖くて怖くて会話に入っていけないどころかレンさんからちょっと距離を置いておりますわよ……だって怖いんですわ!めっちゃ怖いんですわ!


「あの男……グレイブと言ったか?あいつは俺たちから逃げ出した。ということは貴様が俺たちに捕まったことは敵の組織には知れて渡ったということだ……それが分かっているから貴様はあの男が逃げたと聞いた時にため息をついたのだろう?」
「……ええ、そうよ……はあ、お嬢ちゃんだけなら何とかなると思ったんだけど……アンタみたいな糞野郎がいるとはね……」
「肯定だ。俺は糞野郎だ……だから、貴様を拷問にかけようと心は痛まん」


 そう言うと、レンさんは無表情に女を見ましたわ。
 その表情を見て、女性は諦めたのか大きくため息を吐くと口を開きました。


「解ったわよ!私が知っていることは全部話す!はーなーしーまーす!」
「そうか……だ、そうだエリンシアどうする?」
「はぇっ!?……えっと、話してくださるのなら聞きますわよ?」
「俺たちの仲間が優しかったことに感謝するんだな。俺なら今の貴様の態度を見た瞬間……指の一つも折っている」
「……ホント、お嬢ちゃんがいてよかったわ……。」


 さらりと怖いことを言うレン……怒らすと怖い人かもしれませんわね……。
 ですが、今回は助かりましたわ……レンさんがいなかったらこの女性から情報を聞き出すことが出来なかったかもしれませんもの。


「ならば、嘘は吐くな……もし嘘だと分かった場合……」
「ああ、もうっ!吐かないわよ!……どっちみち、貴方達に協力する以外私に生き残る道はないもの!嘘なんか吐かないわよ!」
「いいだろう」


 そう言うと、レンさんは女性に情報を話させ始めました。
 彼女の名前はローラというらしいですわ。天啓スキルは『ペット召喚』。
 天啓スキルというのは変わったものも結構あるのでしょうか?
 彼女はペットであればなんでも自分のいる場所に召喚できるということらしい。
 逆にペットでなければ召喚できないのでその制限は大きい。
 例えばドラゴンとかもペットに出来れば召喚できるが、ドラゴンをペットにできるとは思えないのでなかなかに使いにくいスキルである。
 先ほど召喚したのは仲間が作った人造人間を譲ってもらいペットにしたのだとか。
 そして、その人造人間は先ほどの二体しか持っていなかったらしい。
 つまり、ほとんどの戦力を失った状態なのだとか。


「それでローラさん、貴方はなぜカモメさんを狙いましたの?」
「カモメ?誰よそれ?」
「闇の魔女の事だ」
「ああ、闇の魔女ね……それはグレイブの邪魔をし、私たちのターゲットを護っていると聞いたからよ。別に元々狙っていたわけじゃないわ」


 なるほど、カモメさんの言う通りみたいですわね。
 となるとこの方たちの狙いはあのメリッサさんということですか……。


「なら、そのターゲットとは?」
「この国の王女よ……」


 どうやら、メリッサさんが王女というのも本当みたいですわね……となると……。


「なら、貴方達を雇ったのはレンシアですの?」
「あら、随分と情報が早いわね……そうよ、レンシアの王様……正確にはレンシアの宰相ね」
「やはり……」


 最悪の展開ですわね……国一つが相手となると少々きついですわ……それに、すでにこちらの国は落ちたも同然の様ですし……。


「なぜあなたはそんなことに協力なさいますの?あなたもレンシアの人間ですの?」
「はは、私は傭兵よ。金さえもらえればどんな仕事でもするわ……それに自分がどこの国の人間かなんて知らないわよ……だから、どこの国が滅びようが興味ないわ」
「傭兵は孤児がなることが多い……そうでない奴らも愛国心などというものは持っていない」


 元傭兵のレンさんがそう言うのならきっとそうなのだろう。
 グランルーンで生まれ、そして育ち、家族もグランルーンにいるワタクシには解らないですわね。
 

「なら、貴方達の戦力はどれくらいになりますの?」
「解らないわよ」
「隠すのか?」
「隠さないわよ、私の知っている戦力ならいくらでも教えるけど。国一つの戦力よ?……私がすべて把握できるわけないじゃない」


 確かにその通りですわね……。


「なら、知っているだけでも教えてくださいまし」
「私が知っているのは私と一緒にいたグレイブ。あの男は暗殺者であの男も金を貰えればどんな相手でも殺すという男よ。天啓スキルは『空間移動』。マーキングをした場所に移動できるスキルらしいわ。一緒に移動できるのは最大で2人。マーキングできる場所も二か所とそれ程便利なものでもないみたいね」



 なるほど、戦いの最中に空間を移動しながら戦わなかったのはマーキングしている場所にしか行けないからなんですわね。


「他には?」
「私以外に雇われているのは紅の傭兵団、それと白の傭兵団よ」
「なんだと?」
「レンさん、知っておりますの?」
「ああ、紅の傭兵団は女子供でも任務の為なら殺す最悪の傭兵団だ。傭兵団などと名乗ってはいるがほとんど盗賊と変わらんような奴らだな……そして、白の傭兵団は……俺が昔いた傭兵団だ」
「では、レンさんの知り合いですの?」
「肯定だ」


 となると、レンさんとしては戦いたくない相手ということですわね……友達などもいるのかもしれませんわ。


「レンさん……」
「アンタ、白の傭兵団だったの?……あはは!なるほどねぇ、さっきのアンタの態度納得いったわ……あの極悪非道の白の傭兵団の一員だったなら人の命なんてゴミにしか思わないでしょうね!」
「……なんですって?」
「お嬢ちゃん、アンタの仲間は最低の人間だよ!白の傭兵団ってのはね、無抵抗の人間ですら殺す。それが子供であろうと親の目の前で嬲り殺し。任務の邪魔になる者はすべてを殺しつくす。たとえそれが味方の人間だろうとね!そんなところに所属していたんだ……この男はアンタたちの事すらゴミとしか思ってないでしょうよ!こいつは、ただの殺人機械と変わらないわよ!………っ!?」


 上機嫌に笑っていたローラが息を飲む。
 それはそうだろう、ワタクシがローラの額に魔導銃を押し当てたのだから。


「その口を閉じなさいですわ……ワタクシの仲間を馬鹿にすると許しませんわよ?」
「エリンシア?」


 レンさんはワタクシが何に怒っているのか分からないという顔している。


「レンさんは確かに、ズレた考え方を持っている方ですわ。正直ワタクシもほとほと困っておりますわよ。すぐ自爆するんですもの……ですが、この方は街の人を護るために大量の魔物に戦いを挑みましたわ。ワタクシを助けるために貴方のペットをその身を賭けて倒しました。レンさんが昔、どんな傭兵団にいたか知りませんけれど……ワタクシの仲間であるレンさんは殺人機械なんかじゃありません!人としての優しさをちゃんと持っておりますわよ!!」


 んもぅっ、腹が立ちますわ!
 仲間を馬鹿にされるのは我慢なりませんの!
 昔のカモメさんを思い出してしまいます!


「わ、解ったわよ……もう言わないからその銃を下ろして!」
「次はありませんわよ?」
「まったく、このお嬢ちゃんも怖いわ……」
「エリンシア……感謝する」
「べ、別に感謝されるようなことじゃないですわ!……そ、それより、他に情報はありませんの!」


 ですから、そう面と向かって感謝されるとこっ恥ずかしいんですのよ!
 真剣な顔でこっちを見つめるな!ですわ!


「お前らが一番欲しい情報だろうものも知っているわよ?」
「ほう、何だ?」
「アンダールシアの王がどうなっているか知りたい?」


 そう言えば、メリッサさんの話だと別人にすり替わられていたらしいですわね。


「別人になっているのでしょう?知っておりますわよ」
「あら、おしい……違うわよ?」
「どういうことですの?」
「教えてあげてもいいんだけど、一つ条件があるわ」
「この期に及んでもったいぶるのか?死にたいのならそう言え」
「死にたくないから条件を出すのよ……あなたならわかるでしょう?」
「そう言うことか……だが、それを決めるのは俺ではない」
「解っているわ、エリンシアちゃんだったかしら。貴方達が私を護ってくれるというのならこの情報も教えるわ。それに今後も知っていることはすべて話す……どう?」


 この方を護る?……そういうことですの。


「つまり、裏切り者の貴方はこれから狙われるということですのね?」
「そうよ、任務を失敗しただけでも危ないのに、貴方達に情報を流すということは私も確実に狙われるわ……王女ちゃんのついででいいの、貴方達の傍に居させて欲しいのよ……恐らく私が生き残れるとしたらそれしかないから……」
「良いですわよ」


 ワタクシは頷く。
 護ってあげる義理もないのですけれど、情報は欲しいですしね。
 カモメさんなら聞くまでもなく頷くでしょうし。


「いいのか?」
「構いませんわよ。レンさんから見てこの方の言っていることは嘘だと思いますの?」
「いや、真実だろう……任務に失敗した時点でこいつの命はない」
「それなら、仕方ありませんわよ」
「良かったわ、なら教えるわね……今の王は本物よ」
「なんですって?」


 本物なのですか……ですわ……でもそうするとメリッサさんの言っていたお父様は確か、国民思いの良い王様だと言っておりました……そっちが間違っていたということですの?


「ただ、中身は別人」
「どういうことですの?」
「人間にとりつくスキルを持った奴がいるみたいなのよ。そいつが王様を乗っ取ったらしいわ」
「また、出鱈目なスキルですわね……」


 そして、最悪ですわ……その方が王様の体を使っている以上、メリッサさんのお父様であることには変わりありませんじゃないですの……。


「王様を救う手立てはありませんの?」
「乗っ取ってる男の本体を倒せば良いらしいけれど、悪いわね……私もどんな奴か知らないのよ」
「そうですの……」
「約束は守ってよね?」
「分かっておりますわよ」


 この情報、メリッサさんに聞かせるかどうか迷いますわね……とりあえず、ディータさんとクオンさんの意見が聞きたいですわ……早く戻ってきてくださいまし。


 クオンとディータがすでにこの街から離れていることを知らないエリンシアは二人の帰りを待つのだった。
 
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