Journey to the West -タケル編-

甲斐枝

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第4話 ~ とりあえず脱出 ~ 鈴木雅之-夢で逢えたら(ラッツアンドスターでもゴスペラッツでも可)

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あ…ありのまま 今(本当は去年) 起こった事を話すぜ!
大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」というアルバム、CD4枚組86曲入なんだが、全て「夢で逢えたら」なんだぜ!
……頭がどうにかなりそうだった……
カラオケとか二番煎じだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

________________

「確認したいのだが、ホログラムなら他の姿を写すことはできるのかな」
 ほぼノータイムでインテリ眼鏡の白衣ナイスミドルがバインバインの白衣美魔女に変化する。私は声なき声を上げて手に持っていた装備品を落とす。
 今度は大変なお年寄りに変貌し、続いて金髪天使な少年。マッチョなナイスガイ。というかスーパー○ンだよおい、ガングロギャルJKっていつの時代だよ、そしてもとに戻る。
「どの姿でもいいのですが、現在の外見が最も精神的に安定されるというシミュレート値が出ておりました。既にすべての準備を終えた今、困難な状況に立ち向かうモチベーションアップのために、姿や声を変えることに吝かではありません。タケルさんの性的嗜好は幼少時より喜寿の頃まで様々に変転変貌して来られましたが、最終的にこのような姿でどうでしょうか」
 そこには黒髪の少女がキラキラした眼を見開いて佇んでいる。いや。いやいや。
「これが私の性的嗜好ですか?」
少女「違うの。性的興味を発し得ない年齢の少女なの。」
 あざとい声が聞こえる。隣にいつもの白衣眼鏡が立っている。
「性的欲望を溜め込まれても、どうにもならないのが現状です。タケルさんの願望の一つに、美少女の娘もしくは孫と仲良くしたいという父性の発露があります。それは年齢とともに浄化ピュリファイされ、神聖ささえも伴った思いになっています。おそらく、彼女の一言がもっともタケルさんのモチベーションを上げてくれると思われます。」
 彼女は胸の前に手を合わせ、僅かに首を傾げる。
少女「がんばって」
 ラブずっきゅん。相対性理論かよ!あざとすぎるやろ!

 §

 洞穴の出口は丘の斜面にひっそりと開いていた。
 うまい具合に降雨があっても流れ込む水が最小限になるよう、最後の10mほどは下り傾斜になっていた。
 しかしそのせいで怒涛の勢いで滑り落ちてしまった。
 カプセルは勢いで分断され、頭の部分は滑落して大破した。
 爪の部分は壊れ、先端のドリルも曲がっている。後ろ半分はなんとか無事で、それは私の体ごと蔦植物に絡まったからだ。多分くずだろうが、斜面は蔦に覆われている。
 そういえば、アメリカで葛が蔓延り、バイオハザードなんて呼ばれていたような記憶があるな。
 立ち上がると周囲を見渡す。
 なんというか、凹んでいる。直径数キロくらいだろうか。これが核兵器のあとか?それとも、衛星でも落下したのか?
 多分、東京の中心部に近いと思われるが、周りがぐにゃぐにゃして、只の山地帯に見える。高層ビル群が周辺に屹立していたとは想像もできない。もちろん海も側も見ることが出来ない。
 百年の孤独の印象的なシーンを思い出す。すべて人の営みはジャングルから生まれ、ジャングルに還るというメッセージ。だがここは日本だ。いくら気象状況が変わっても、熱帯雨林にはなるまい。
 そこまで考えて、地軸が変動したと言う話を思い出す。極の位置は変わらず、回転したコマが外力でフラフラするような変動、ベーゴマをぶつけ合うほど暴力的ではないが。
『現在でも大幅な変動中です。遊星衝突後、最大で45度程度まで傾きが振れたと考えられます。現在の傾きは27度程度と考えられます。今後100年で20度程度まで変化すると予測されます。』
 なら、季節変動は激しいんだろうね。
 開放感だけは途方も無い。青空、白い雲。溢れんばかりの緑は、眼には優しい気がした。

 §

 洞窟の登坂作業は気が狂うほど退屈だった。急いで登ろうとするとカプセルの爪が同じ地肌をこすり続けスリップするのでゆっくり丁寧に動かさなくてはならない。
 本当に身じろぎ一つ出来ないような状況で、おそらくバイタルチェックを継続しているμミューは何度も精神安定剤や抗不安剤を投入したのではないだろうか。
 1時間に20mを目標に進むことにしていた。これで、50時間。休み休み進んでも、5日程度でたどり着ける予定だ。調子が良ければ4日位。
 結果的にはそのくらいで抜けたのだが、途中で精神に変調をきたしかけた。μミューに頼んで音楽をかけていたのだが、特にボレロが危なかったように思われる。単調な作業に単調なテーマの繰り返しが気持ちよく、調子に乗っていた。しかし何回目かの途中で曲の終わりにすっと力が抜けて、滑り落ちる。それを3回繰り返して、発狂しかけたのだ。それからは無理やりアンフェタミンを投入させて、μミュー(少女バージョン)の応援を聞きつつ、24時間延々と作業を続けた。気がつくと登りの終点付近が明るい。
 やった、終点だ、と思い折返しの狭い中でようやく熟睡できた。そこからは慎重に丁寧に上がっていく。6時間かけて、もう少しのところで、恐怖のジェットコースターだ、そりゃあわてるだろ。

 エマージェンシーボックスの中にあった赤いハンドアックスを使い、トンネル出口を掘ったり、蔦を刈ったりして無線システムの母機を配置する。周囲に虫型のミニドローンを散布して様子を見る。
少女『お疲れさまでした。休息を取って、何か口にしてね』
「そうだね。ずっと点滴補給ばっかりだったからね」
 骨伝導には違和感がない。
白眼『ガイガーカウンター、CO2濃度、その他汚染物質計測はすべてクリアです。』
「そうか、安心した。」
 私は腰を下ろすとブドウ糖に経口補水液・ビタミン群を混ぜたスペシャルドリンクを口にする。
 まずくはないが、薬臭いし温いし美味くもない。さて。
 引っ張り上げた大型トレイに載っている荷物を整理し、お手製のバックパックを詰め直す。
 今不要な荷物、カプセルや多すぎる水などは洞穴を少し入ったところに設置し、落ちていかないように固定する。
 既に夕暮れだ。適当に枯れ枝を集め、小さな火を起こす。
 飽くこともなく火を眺め、すごいスピードで暮れていく辺りを見やり、感慨にふける。
 こういうときは何を聞いたらいいだろう。やっぱり「春」かな。花のワルツなんてのもいいかな。
 昔なら気恥ずかしくて一人でもあまり聞くことがなかった超メジャー曲。
 μミューにリクエストする。

 ひとしきり堪能すると、寝床の準備をする。やはり虫はそれなりに多い。蟻に噛まれても痛いし、蜂が飛んできても嫌なものだからね。
 洞穴の入り口に非常用防災アルミシートと石を使ってカバーすると、追加の非常用アルミシートを敷いて、カーテンだったものにくるまって寝ころぶ。
少女『ではおやすみなさい。もし獣や危険生物が近づいたら起こすから、明日に備えてゆっくり寝てね』
「あぁおやすみなさい」
 穴に潜る前の経路予想を思い出し、整理する。
 福井県か。赤城や箱根の峠越えはやっぱりちょっと辛そうだから、やっぱり東海道沿いに進むほうがいいだろうな。ここまで緑が繁茂しているとは思わなかったし。
 奈良か大阪から北上して琵琶湖周りが妥当だろうな。地形が大幅に変わっているようだから全く安心はできないけれど。

 江戸時代、伊勢講の人たちは2週間程度で江戸から伊勢まで歩いていたという。
 身体能力の上がっている自分がどこまで歩けるかわからないが、もっとかかるだろうことはわかる。
 食事も適宜調達しないと足らなくなることは目に見えている。
 できれば海の幸を採取したいな。醤油はないけど。山葵もないけど。
 淡い朝霧をイメージする。睡眠導入は長年これに固定されている。
 深い眠りは薄紫色だからね。

 §

「ところで、それぞれをなんと呼べばいいだろうか」
「私のことはμミューたんと呼んでね!」
 ……ミュータントイッショ……
「では私はμミューツーと」
 ……ミューツ○……はまずい……
 白衣眼鏡だから、白眼とかいてシロメだな。
「いや、それは人格を疑われるような名称です、やめていただきたい」
 ほんとめんどくさいやつだなあ。

 §

白眼「設置する送信機はこれです。」
 魔改造されたお掃除ロボットがズリズリと引っ張ってくる。中型のキャスターバッグだ。
白眼「この中に様々な機器から引っ剥がした部材より組み立てられたユニットが入っています。仕上げをお願いします。」
 はいはい。指示に従い電源用の穴を仕上げ、電線を通し、コーキングする。ほとんどの合成樹脂がだめになっているが、この電線だけはなんとも無い。どういうことだろうか。
白眼「原子力発電施設用の電線はかなり特殊で非常に耐久性が高く出来ています。シェルター外より回収できる限り回収したものです。1000mを超える長さが回収されたのですが、重すぎて移動不可能なため、タケルさんに運んでいただきます。」
 一体どこにどうやって回収できたのか、ちょっとずつちょっとずつ巻いては引張り、伸ばしては巻いて、これだけで2週間もかかった。これを引っ張り上げるのが一番難儀なのでは。
白眼「はい。最初は辛いと思われますがだんだんマシになります。」 
少女「がんばって!」
 くそやるしかないか。

 §

白眼「送信機の通信限界は、見通しの良いところで最大100km、おそらく50km四方以下程度ではないかと思われます。」
「それでもローカルFM局以上だと思うが」
白眼「ですので、これを持っていっていただきたい。」
 魔改造されたお掃除ロボットがお盆にハガキ大で厚みが5cm程度のアルミケースを載せてやってくる。
「?」
少女「これは私よ!」
「?」
白眼「私のことをシロメと思うのはやめていただきたい。これはただのシリコンメモリーとバッテリーとスピーカーを繋げたものです。ただし、バッテリーには太陽光発電が搭載されています!」
 キャラブレしてないかこいつ。
「つまりあれだね、通」シロメ「通信範囲外に出た際でも知識や知恵や叡智を得ることが可能です。疑似人格は私と彼女が搭載されています。太陽光発電は快晴下の屋外で1時間充電すれば40時間以上駆動可能です。現状満タンですが満タンで200時間は動作可能です。満タンにかかる時間は快晴下の屋外で約10時間です。」
μタン「聞こえますか!通信範囲内にあるときは本体の私が応答します!」
満タン「このようにとても便利に使用いただけます。音楽プレーヤーとしての使用も可能です。」
(千の風になってが満タンの声で再生される)
「わかった。わかった。ありがとう。ありがとう」
 考えちゃだめだ!考えちゃだめだ!サトリなんだよこいつら……
 
________________

ミュータント旅ヲスル……
はい1個伏線回収!

 ドリルって男のロマンだとか。そういうアニメもありましたが。実際轟天号とかゲッターロボ2号だとか、いやもっと昔のマンガからあったと思いますが、痺れます。かっこいいです。
 ところが、実際の掘削装置を見るとロマンが粉微塵になります。シャープさがかけらもなく、なんかずんぐりむっくりしてる。鉄に穴をあけるドリルとか木材に穴をあけるドリルはまだマシですが、思ってたのと違う感が激しい。特に地面に孔を開けるやつ、すごいんだけれど、こう、ちまちましてると言うか。そりゃ、岩は硬い。石ころでも硬い。これに石より硬いチップを水でも掛けて冷やしながらゆっくり空けないと、そりゃ欠けたり、焼きが戻ったり、上手く行かないよね……。それに掘った(削った)後の土砂とか。固まってるのがほぐれるから基本嵩増してる。水かけてたら流れやすいけど、その処理がね。どこかに持っていかないといけないんだから、すごいドリル持って単体穴開けて地中に潜っても、すぐ埋まってしまう。自由自在に地面の下を動くなどとんでもない。

……大人になるというのは、こういうことに気づくことなんですかね……

 本当は穴掘りなら moonriders 「花咲く乙女よ穴を掘れ」なんですが、微妙なところで眠りやがって、という感じです。
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