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ゴブリンの村
68:絡新婦
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結局、俺と狐と杖と刀、りくとあおいさん、すてまで着いてくることになった。りくはまたなんか大きくなってる。あおいさんもなんというか、若返ってる。色っぽい未亡人の熟年おばさんみたいだ。もうすぐ美魔女になってしまいそうでおっかない。狐も嵩が増してる。すての髪はおかっぱレベルまで伸びてるっぽい。真千子巻きのためにはっきりとはわからない。俺はどうだろう。
りくを肩に乗せ、獣道とも言えない道を進む。
たぎまという地は、大昔、スサオー様に平定されたという。って、もう普通に土蜘蛛の伝説まんまじゃねえか。もともと叉鬼として糊口を凌いでいたが、何の因果か嫌われたのか、色々排除かれていたらしい。そのまま見捨てられたような土地として存続していたが、江戸時代以降、皮革や毛皮の入手先として見出され、多少は村として認められたということだった。
が、昨今の開国後の状況があり、そもそも鹿革も獲れず作れず、また見捨てられていく。鹿革は弓に使う。馬具にも神事にも使われる。それが呪いの制約で、神使としての鹿ということで触れないらしい。当然鹿狩もできない。
おまけにどうしてだか、やつかさんの一族はこの地を離れられないらしかった。
しかも、平地の田畑昨付け可能なところは、普通の、呪われていない人間が次第に増えて、自分たちは山へ引っ込まざるを得なかったと。進退窮まった、ここで終わりやで、そうかあかんか、そんな状況で、俺が現れたらしい、もう絶対あの統合思念体かなんか名前忘れたけど、あれ絶対作為やろ、こんなところに連れてきたん、こんなん助ける以外の選択肢ないやん、ずっこいわ、いや、できるからええんやけど。知らんけど。
それにしてもすまう、相撲ねえ。
「蹴速ですかね、その頃からの伝統ですか?」
「その通りでございます!」
カッと目を見開いてやつかが叫ぶ。
「野見の一族郎党が大きな顔をしくさり、我が物顔で当地の顔役を」
顔ばっかりやん!ていうか実際統治することになってたし、さらに野見宿禰って、神様になってたような。
『殉死をやめて代わりの埴輪を作ったのが野見宿禰と言われておりますな。古墳造営に関連した出雲の知識人ではなかったかと。後裔に菅原家、つまりは菅原道真や菅原孝標女ですな。さらに後裔の五条家が相撲興行をとりしきっていたと。』
そうやった、野見宿禰はごっつ功績があって、文武両道のすごい人なんやった。當麻の蹴速を蹴り殺してしまうほどの力持ちで、尚且、天皇家の葬儀を取りまとめるほどの知識人。そう考えると、わざわざ蹴速と戦わせるために呼び寄せたのではなく、別の用向きがあって呼ばれていたのが、でかくて強そうだったから相撲を取らせてみたとか。あるいはもともと偉い人なんやから、付き人か家来的な強い人物がいて、それと戦わせたとか。蹴速戦とか古墳時代の話やからあまりにも信憑性が低いで。
伝承で残ってるのは、何かしらそういう事があって、日本書紀には載っているから逆に補強されて伝えられていったとか。人間一人の記憶でも、自分のことでも脳が勝手に改竄することもあるし、怪しいもんやね。それでもその話が人口に膾炙してしまえばやっぱり事実になるからなあ。
昼前には集落に到着した。道なき道で、実際進んだ距離は数km程度じゃないだろうか。あまり下生えはなく、広葉樹林が広がっている。昼なお暗い。
ほんの少し切り開かれたような土地で、涸れ川を挟んで木枠に筵を掛けただけのような、家とも言えない小屋が数軒建っている。前に見たサンカの人たちの作るテントのような家っぽい。
なにかきつい匂いがするので聞くと、猪革をなめすのに石灰を使っているという。それだけでなく、様々な匂い、獣臭じみたものがあたりに漂っている。
我々一行がぞろぞろ近づくと、黒い影が視界に入る端からしゅしゅっと隠れる。実際やつかとつか父娘の他に歩いているのは俺とあおいさんとすての3人のみだが、まあ警戒はされるよな。
「みなのもの!かねかつら様に来てもらったぞ!われととつかはこれこの通り呪いを払ってもらった!出てくるがいいぞ、助けてもらえるぞ!」
しばらく沈黙が支配する。
宵闇みたいなものに辺りが包まれる感覚、皮膚が少しチリつく。
「妖気ですね」
「これは物の怪どすな」
すては顔を青くして俺にしがみついている。
一番近い掘っ立て小屋から、のそりと大きな影が姿を表す。土蜘蛛の完全形だな、恐ろしげな顔をしている。ほぼ蜘蛛、それも脚の長くない女郎蜘蛛っぽい、胴体が派手やね。でも何故か怖くない。
「ソナタガ金桂殿カ」
「そうです」
「ヤツカトトツカヲ救ッテクレタヨウデ感謝スル。コレデ我等モオ役御免トナロウ」
「そうですか。何というか、あなたは人間ではないですね?」
「ソウダ。蜘蛛ノ精ダ。我等ハトテモ長ク生キテイタ。元ハ我モ人デアッタト思ウガ、今ハ物ノ怪デアロウ、只ノ大蜘蛛ダ。ソモソモやつかノ一族ノ呪イヲ引受ケルタメニココニ住ミ着イタ」
「お、おいとは、人ではなかったのか……」
別の大蜘蛛がすっと現れる。より鮮やかでサイケな色合で、眼がチカチカしてくる。
ドロンという擬音、白い煙とともに、絡新婦が姿を変える。そこに艶っぽい年増女性が立っている。
「かねかつら殿の精気を受け、久しぶりにこの姿になることが出来ました。ありがとうございます」
やっぱダダ漏れなんですね、なんかすんません。
「おいと!お前、まだ呪いを解いてもらっていないのに、その姿は……」
「騙していたようで申し訳ありません。」
お糸という女性はとても優雅に三指つく。流れるような土下座。いやいや茶化すような場面じゃない、ないけど服が、こうサイケデリックな、ツイッギーも斯くやというような、超ミニのワンピースを纏っている。髪の毛はぱっつんボブだ。これ、いつの流行なんだ?今か?もしかして今か?
「少し前、数十年前の流行どすな。でも一周回ってまたアリになってるかも知れまへんな」
りくが耳に口を近づけて小声で囁く。うっくすぐったい。
「おいと!」
なんか二人が愁嘆場を演じているうちに、最初の絡新婦さんも話し続けている。
声が、キーキーしていたのが、だんだん滑らかになってくる。
「私達ハとつか、やつかヲ除イテ皆女郎蜘蛛デございまス」
さらに蜘蛛が増殖する。さすがに人間大の蜘蛛が5匹もいると、ちょっと圧迫感があるなあ。てか、やっぱ怖いなあ。蜘蛛は嫌いではないのでゾゾ毛立つような感じではないが、圧迫感がある。
「男ニ騙されて捨てられた女が女郎蜘蛛になるのでございます」
いや、それはないって!そんなん女郎蜘蛛だらけやん!しらんけど!
「私達は皆そうでございます。皆滝壺に身を投げておりまする」
えー、滝壺に身を投げたらなるの?そんな類型的な?
「死んでも男を求めるような浅ましい女共でございます」
ピカーと光ってドロンと音がして黙々と白煙が小規模に上がって、目の前には少女。いや、若すぎね?アカンやろこれ。
「私も昔の姿になれました。不束者ですが、末永く「お世話せーへんから!ちょっ待てよ!若すぎるから!」
「いえ、後ろにおられる婦女と見目は変わらぬかと」
「ちゃうから!ってこいつ男やし!」
「お稚児さんでらっしゃいますか」
「ちゃうちゃう!ちゃうから!」
「「「私にもお情けをいただけましょうか」」」
ドロンドロン音がすると思ったら、皆変身してるし!年はバラバラだけど、一番年上でもアラサーに至ってないし!おいとさんが一番年増やったんか。いや!そんなことじゃなくって!
「あかんし!て、お前ら本当は怨霊やろ!蜘蛛の精なんて綺麗事ちゃうやろ!」
「ていうてもなあ、蜘蛛の精に引き寄せられてこないな風になったんやしなあ」
「せやせや、せやからやっぱり蜘蛛の精いうのは間違いおまへんなあ」
「ほんにそうですぅ、そないいがんでもよろしおますぅ」
「やんだいがんだらあたまいんでまうでー」
「わからんから!方言博士ちゃうから!」
「あー、そうそう、やつかちゃん、良かったねえ」
「ほんにめんこくなって」
「おっきょいけどかいらしわぁ」
「こんで好いとるわかしとおちょこできるなー」
「もう!おくーさん、何言ってるのよ!」
「まあ、かいらしねえー」
「かいらしかいらし」
「そういえば、とつかちゃん、しっぽはどうならはったの?」
尻尾?
「ありますよ!ほら!」
オレンジのミニ和服、その下の褌からニョルンとなにかでてくる。しっぽ、しっぽがあんの?なんで?
「お父さんもありました!」
えぇ、そうなん、何の属性なんこれ、肌色のしっぽとか、有尾人てどこに需要があんのん……
りくを肩に乗せ、獣道とも言えない道を進む。
たぎまという地は、大昔、スサオー様に平定されたという。って、もう普通に土蜘蛛の伝説まんまじゃねえか。もともと叉鬼として糊口を凌いでいたが、何の因果か嫌われたのか、色々排除かれていたらしい。そのまま見捨てられたような土地として存続していたが、江戸時代以降、皮革や毛皮の入手先として見出され、多少は村として認められたということだった。
が、昨今の開国後の状況があり、そもそも鹿革も獲れず作れず、また見捨てられていく。鹿革は弓に使う。馬具にも神事にも使われる。それが呪いの制約で、神使としての鹿ということで触れないらしい。当然鹿狩もできない。
おまけにどうしてだか、やつかさんの一族はこの地を離れられないらしかった。
しかも、平地の田畑昨付け可能なところは、普通の、呪われていない人間が次第に増えて、自分たちは山へ引っ込まざるを得なかったと。進退窮まった、ここで終わりやで、そうかあかんか、そんな状況で、俺が現れたらしい、もう絶対あの統合思念体かなんか名前忘れたけど、あれ絶対作為やろ、こんなところに連れてきたん、こんなん助ける以外の選択肢ないやん、ずっこいわ、いや、できるからええんやけど。知らんけど。
それにしてもすまう、相撲ねえ。
「蹴速ですかね、その頃からの伝統ですか?」
「その通りでございます!」
カッと目を見開いてやつかが叫ぶ。
「野見の一族郎党が大きな顔をしくさり、我が物顔で当地の顔役を」
顔ばっかりやん!ていうか実際統治することになってたし、さらに野見宿禰って、神様になってたような。
『殉死をやめて代わりの埴輪を作ったのが野見宿禰と言われておりますな。古墳造営に関連した出雲の知識人ではなかったかと。後裔に菅原家、つまりは菅原道真や菅原孝標女ですな。さらに後裔の五条家が相撲興行をとりしきっていたと。』
そうやった、野見宿禰はごっつ功績があって、文武両道のすごい人なんやった。當麻の蹴速を蹴り殺してしまうほどの力持ちで、尚且、天皇家の葬儀を取りまとめるほどの知識人。そう考えると、わざわざ蹴速と戦わせるために呼び寄せたのではなく、別の用向きがあって呼ばれていたのが、でかくて強そうだったから相撲を取らせてみたとか。あるいはもともと偉い人なんやから、付き人か家来的な強い人物がいて、それと戦わせたとか。蹴速戦とか古墳時代の話やからあまりにも信憑性が低いで。
伝承で残ってるのは、何かしらそういう事があって、日本書紀には載っているから逆に補強されて伝えられていったとか。人間一人の記憶でも、自分のことでも脳が勝手に改竄することもあるし、怪しいもんやね。それでもその話が人口に膾炙してしまえばやっぱり事実になるからなあ。
昼前には集落に到着した。道なき道で、実際進んだ距離は数km程度じゃないだろうか。あまり下生えはなく、広葉樹林が広がっている。昼なお暗い。
ほんの少し切り開かれたような土地で、涸れ川を挟んで木枠に筵を掛けただけのような、家とも言えない小屋が数軒建っている。前に見たサンカの人たちの作るテントのような家っぽい。
なにかきつい匂いがするので聞くと、猪革をなめすのに石灰を使っているという。それだけでなく、様々な匂い、獣臭じみたものがあたりに漂っている。
我々一行がぞろぞろ近づくと、黒い影が視界に入る端からしゅしゅっと隠れる。実際やつかとつか父娘の他に歩いているのは俺とあおいさんとすての3人のみだが、まあ警戒はされるよな。
「みなのもの!かねかつら様に来てもらったぞ!われととつかはこれこの通り呪いを払ってもらった!出てくるがいいぞ、助けてもらえるぞ!」
しばらく沈黙が支配する。
宵闇みたいなものに辺りが包まれる感覚、皮膚が少しチリつく。
「妖気ですね」
「これは物の怪どすな」
すては顔を青くして俺にしがみついている。
一番近い掘っ立て小屋から、のそりと大きな影が姿を表す。土蜘蛛の完全形だな、恐ろしげな顔をしている。ほぼ蜘蛛、それも脚の長くない女郎蜘蛛っぽい、胴体が派手やね。でも何故か怖くない。
「ソナタガ金桂殿カ」
「そうです」
「ヤツカトトツカヲ救ッテクレタヨウデ感謝スル。コレデ我等モオ役御免トナロウ」
「そうですか。何というか、あなたは人間ではないですね?」
「ソウダ。蜘蛛ノ精ダ。我等ハトテモ長ク生キテイタ。元ハ我モ人デアッタト思ウガ、今ハ物ノ怪デアロウ、只ノ大蜘蛛ダ。ソモソモやつかノ一族ノ呪イヲ引受ケルタメニココニ住ミ着イタ」
「お、おいとは、人ではなかったのか……」
別の大蜘蛛がすっと現れる。より鮮やかでサイケな色合で、眼がチカチカしてくる。
ドロンという擬音、白い煙とともに、絡新婦が姿を変える。そこに艶っぽい年増女性が立っている。
「かねかつら殿の精気を受け、久しぶりにこの姿になることが出来ました。ありがとうございます」
やっぱダダ漏れなんですね、なんかすんません。
「おいと!お前、まだ呪いを解いてもらっていないのに、その姿は……」
「騙していたようで申し訳ありません。」
お糸という女性はとても優雅に三指つく。流れるような土下座。いやいや茶化すような場面じゃない、ないけど服が、こうサイケデリックな、ツイッギーも斯くやというような、超ミニのワンピースを纏っている。髪の毛はぱっつんボブだ。これ、いつの流行なんだ?今か?もしかして今か?
「少し前、数十年前の流行どすな。でも一周回ってまたアリになってるかも知れまへんな」
りくが耳に口を近づけて小声で囁く。うっくすぐったい。
「おいと!」
なんか二人が愁嘆場を演じているうちに、最初の絡新婦さんも話し続けている。
声が、キーキーしていたのが、だんだん滑らかになってくる。
「私達ハとつか、やつかヲ除イテ皆女郎蜘蛛デございまス」
さらに蜘蛛が増殖する。さすがに人間大の蜘蛛が5匹もいると、ちょっと圧迫感があるなあ。てか、やっぱ怖いなあ。蜘蛛は嫌いではないのでゾゾ毛立つような感じではないが、圧迫感がある。
「男ニ騙されて捨てられた女が女郎蜘蛛になるのでございます」
いや、それはないって!そんなん女郎蜘蛛だらけやん!しらんけど!
「私達は皆そうでございます。皆滝壺に身を投げておりまする」
えー、滝壺に身を投げたらなるの?そんな類型的な?
「死んでも男を求めるような浅ましい女共でございます」
ピカーと光ってドロンと音がして黙々と白煙が小規模に上がって、目の前には少女。いや、若すぎね?アカンやろこれ。
「私も昔の姿になれました。不束者ですが、末永く「お世話せーへんから!ちょっ待てよ!若すぎるから!」
「いえ、後ろにおられる婦女と見目は変わらぬかと」
「ちゃうから!ってこいつ男やし!」
「お稚児さんでらっしゃいますか」
「ちゃうちゃう!ちゃうから!」
「「「私にもお情けをいただけましょうか」」」
ドロンドロン音がすると思ったら、皆変身してるし!年はバラバラだけど、一番年上でもアラサーに至ってないし!おいとさんが一番年増やったんか。いや!そんなことじゃなくって!
「あかんし!て、お前ら本当は怨霊やろ!蜘蛛の精なんて綺麗事ちゃうやろ!」
「ていうてもなあ、蜘蛛の精に引き寄せられてこないな風になったんやしなあ」
「せやせや、せやからやっぱり蜘蛛の精いうのは間違いおまへんなあ」
「ほんにそうですぅ、そないいがんでもよろしおますぅ」
「やんだいがんだらあたまいんでまうでー」
「わからんから!方言博士ちゃうから!」
「あー、そうそう、やつかちゃん、良かったねえ」
「ほんにめんこくなって」
「おっきょいけどかいらしわぁ」
「こんで好いとるわかしとおちょこできるなー」
「もう!おくーさん、何言ってるのよ!」
「まあ、かいらしねえー」
「かいらしかいらし」
「そういえば、とつかちゃん、しっぽはどうならはったの?」
尻尾?
「ありますよ!ほら!」
オレンジのミニ和服、その下の褌からニョルンとなにかでてくる。しっぽ、しっぽがあんの?なんで?
「お父さんもありました!」
えぇ、そうなん、何の属性なんこれ、肌色のしっぽとか、有尾人てどこに需要があんのん……
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