ある日魔王の子を拾ったので一緒に逃げることにした話

陸路りん

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美しい装飾の街

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「ありがとう、おねぇさん。今日は花祭りなの?」
 その言葉にその花飾りの女性はちょっとだけ驚くと、すぐに笑顔を作っていう。
「そうよ、何も知らずにきたのね、だとしたら本当に運がいいわ。この町はね、花を育てて売ることで生活している町なの」
 ずい、と薄紅色の花を目の前に出される。
 その花は5つのハートに似た形の花弁を持ち、華奢な茎と丁度花弁を逆さまにしてくっつけたような葉を持っていた。
「この花はクオーレ。この町の名産品よ。可愛らしいでしょう」
 クオーレと呼ばれた花はそのままイヴの髪へと飾られた。
「今日は年に一度のクオーレの花の収穫祭なのよ!」
「まぁ、とっても素敵ね! 確かに幸運だわ」
「でもそうね、あんた達何も知らないできたならもしかして宿の当てとかないんじゃない?」
「もしかして、埋まってるのか」
 ぐいっとイヴの肩を押して現実的なジルが会話に割り込む。
「もしかしてもなにも、埋まっているわよ。毎年この日は予約でいっぱいなんだから」
「最っ高に不運だな!」
 ちっとしかめっ面で舌打ちをする。
 まったくもって行儀の悪いことだ。美少女で上品なイヴとしては、ジルにももう少しお行儀良くして欲しいものなのだが。
 まぁ、行儀の良いジルなど気持ちが悪いだけだが。
「仕方がないわ、おじさん。馬車の中で寝てもいいんだし、良いものが見れたと思いましょう?」
「……それしかねぇか」
 がりがりと頭を掻いてジルが諦めたようにため息をついた。
 それを見てイヴはまだきょろきょろとしているリオンを抱き寄せると、その頭にあごを乗せる。
 今夜はジルへのご褒美と旅の門出を祝して豪勢な晩餐にするつもりだったのだが、まぁ、仕方がない。
 オムライスはしばらくお預けだ。
「そうねぇ、手がないでもないけれど」
 その落胆した様子を見やって、花輪の女性は思案するように手をあごにあてて言った。
「ほんと?」
「裏通りに小さな宿屋があるわ。治安はあんまりよくないし、料理もまずいからおすすめはしないけど」
「十分だわ! ありがとう! おねぇさん!!」
 治安など多少悪くてもこちらにはジルという強い番犬がいるのだし、料理も元々イヴが作る予定だったから問題ない。部屋など小さくても身を寄せ合えばいいのだ。
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