ある日魔王の子を拾ったので一緒に逃げることにした話

陸路りん

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毒膳の宴

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「何故だぁーーーっ」

 青空の下で、騎士団長の雄叫びが響き渡る。
 めーめーとなく山羊に囲まれて立ちながら、勇者は平和だなーと雲の数を数えていた。
「なぜ! 追跡魔法で見つけた場所のことごとくに! 反逆者共がいないのだ……っ!!」
「そ、それは……」
 そんなことは部下達に聞かれても困る。こちとら下っ端は下っ端で、上の指示に従って言われた場所を真面目に探索しているのだ。
「たたたた、た、確かに、魔法は、こ、ここだと示しているんです、団長……っ」
 追跡魔法を保持している兵士も汗をかいてしどろもどろだ。
「むぐぐぐぐぐぅ……っ」
「魔法に間違いがないのなら、手がかりのほうが間違っているのかも知れませんね」
「なにぃっ!?」
 雲を数えるのにも飽きてきて、勇者は仕方がなく騎士団連中に向き直った。
 この平和な村に至るまで、騎士団と勇者達は他にもいろいろな場所で無駄足を踏ませられていた。
 あるところは人っ子一人居ない辺境の泉であったり、
 またあるところは海辺の街であったり、
 またあるところはジャングルの奥地の集落であった。
 これらの場所の共通点は、皆、水場が近いという点だ。
 この情報が示すところを推測するならば――
「その毛髪の痕跡はブラフ。罠だったのでしょう」
 追跡魔法は万能ではない。ただ、単純に同じ組成の物質の場所がわかるというだけの魔法だ。同じ組成の物質が複数に渡って存在した場合、そのどれが本体だとか、量が多いかなどの判定は困難なのだ。――つまり、
「髪を少量ずつ切って、川か泉か、まぁそれに類する所に流したのでしょう。流されている内に散らばって、それぞれの水場にたどり着いたのです」
「………っっ!!!」
 勇者のその言葉に理解が追いついたのか騎士団長の顔が火にかけたやかんのように真っ赤に染まる。
 それに、やれやれと勇者はため息をついた。
 この騎士団長はたくさんの武勲を立てて今の地位に上り詰め、未だに続投している通り、実力がないわけではない。
 しかし、その能力は随分と体力的な面に偏っていた。
 つまり、端的に言えば、脳筋なのである。
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