ある日魔王の子を拾ったので一緒に逃げることにした話

陸路りん

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毒膳の宴

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 与えられた集会場の床で3人は川の字になって並んで休んでいた。
 窓に近い場所から順にジル、リオン、イヴの順番で並んでいる。
 ジルは一人で布団を使っていたが、リオンとイヴは同じ布団に二人で入っていた。
  荷物はジルの頭上にまとめて置かれている。
 3人の寝息だけがひそやかに部屋内には充満している。
 その時、新たな音が生まれた。
 ゆっくりと部屋のドアが開いたのだ。
 ゆっくりと足を踏み入れた人物は3人ほど存在した。
 彼らは皆一様に武器を手に持っている。
 武器は巨大な鉈だ。
 そのままそろりそろりと忍び込むと、寝ている3人を取り囲むように立つ。
 お互いに意思を確認するかのように目線を合わせて頷きを一つ。
 3人は鉈を振り上げた。
「寝込みを襲おうなんざ、随分と色っぽいやり口じゃねぇか」
 しかしそれを振り下ろすことは叶わなかった。
 暗闇の中にジルの紫色の瞳が光る。
 銀色の刃が空間を切り裂く音が響いた。
 呻き声が上がって3人は後ずさる。
 懐に抱えていた剣でジルが切り払ったのだ。
 一人はジルの攻撃に武器を取り落とし二人は武器を構えていた。
 瞬間、ぱっといきなり明かりがつく。
 騒ぎに目を覚ましたイヴが持ち物のランタンをつけたのだ。
 3人の侵入者の目が眩む。
 その隙を見逃さず、ジルは追撃した。
 慌てて侵入者の一人がジルの剣戟に応戦するが、受け止めてすぐにその重い一撃に男の鉈は手から離れて吹き飛び壁に鉈が突き刺さる。
 吹き飛ばされてしびれた手を押さえる男を、続けざまにジルは蹴り飛ばした。
 その隙にもう一人の侵入者がイヴとリオンに手を伸ばした。
 リオンがイヴの服にぎゅっとしがみつく。
「魅了魔法《チャームチャーム》」
 イヴは明かりを手に呪文を唱えた。
 捕まえようと伸ばされた手が触れる前に停止する。
 すかさずその侵入者のこともジルが殴り飛ばした。
「しかしまぁ刃物をもって夜這いたぁ、色気も何もあったもんじゃないか」
 イヴに渡された明かりを手にジルは侵入者を照らし出した。
 そこには、宴会で見かけた顔ぶれがそろっていた。
「メラニーさん」
 イヴは驚きの声を漏らす。
 3人の侵入者の中の一人には、優しい妙齢の婦人、メラニーの姿もあった。
「まぁ、つまり、今回わたし達が歓迎を受けたのは強盗を働くためだったのね」
 そうぼやいたイヴの目の前には、侵入者3人が縛り上げられているだけではなかった。
 場所は集会場から村長の家に移していた。そこには村長を含め、宴会のメンバーがそろっている。
 宴会のメンバー、つまり、この村の住人、ほぼ全員が、だ。
 あの後、ジルはすぐに侵入者3人を縛り上げると人質に取って村長宅に乗り込んだ。
 手口や手際から考えると、村長達は共犯である可能性が高かったからだ。
 案の定、人質をつれて現れたジル達に村長達はすべてを察したのか顔を青ざめさせた。
 達、というのは、村長宅では宴会の時のメンバーがそろって成果の報告を待っていたからだ。
 人質に存在に構わず飛びかかってくる者も中にはいたが、そういう輩は一瞬でジルに沈められた。
 ――そうして、今に至る。
 部屋の中央には縛り上げられた侵入者3人が転がされ、それを挟んでイヴ達と村長達は対峙していた。
 村長達はいまだに動揺が醒めないのか、押し黙ったままだ。
「だったら何よ」
 しかしイヴの言葉には返答が返ってきた。
 その声は部屋の中央の床から聞こえてきた。
 メラニーだ。
 縛られたまま、それでも毅然としてそうつばを吐きかけるメラニーは、宴会の時とはまるで違う様相を呈していた。
 あの時の穏やかで優しくけれど気丈な女性はいない。
 柔らかい印象はなりを潜め、そこには気丈だがいけだかな、鋭い目をした強盗の姿があった。
「あたし達が生きるためには必要なことなのよ。なんの不自由もなく優しい叔父さんに養われている幸せなお嬢さん、貴方にはわからないでしょうけどね」
 イヴを睨み付けるその両目は、薄暗い部屋の明かりの中でも爛々と輝き渇望と嫉妬を湛えて燃えていた。
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