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第2章 人狼さん、冒険者になる

13話 人狼さん、街に到着する

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 辺境都市『レティーナ』。
 エンセラドス大陸の西側に位置する、オーティアス王国の都市の一つ。
 グランセ侯爵が治める領地の中心都市。
 領地自体が辺境にある為、未開の地が多く、レティーナ以外に大きな都市が無い。その為、領地の人口が集中しており、流通の中心地となっている。
 また、魔物への対策として冒険者を優遇しており、彼らが集う都市として知られている――。

 さて、以上がノアからの情報である。
 どうやらノアの話を聞く限り、この地はかなりの田舎のようだ。道理で森から出られなかったはずだよね。この領地、三分の一は原生林のままらしいし。
 まぁ、そのお陰で、人狼達が森で平和に暮らしていけているんだけど。

 (それにしても凄いよね)

 目の前に広がる石の壁を眺めながら、感嘆する。

 聳え立つかのように視界一杯に広がっているこの壁は、辺境都市レティーナを囲む城壁だ。二階建ての家が隠れる程の高さで、それが切れ目なく左右に続いていている。
 視界が壁に塞がれている状態なせいか、かなりの威圧感がある。

 多分、この領地は魔物が多い辺境の土地なので、防衛の為にここまで厳めしくなったんだと思う。後、領主が住んでいる街らしいから、余計に頑丈な作りなのかも。
 兎に角、圧巻の一言に尽きる。
 日本にいた頃には見たことの無い景色なので、マジマジと城壁を眺めてしまう。
 テレビで見た限りの知識だけど、壁の作りや雰囲気が、ヨーロッパの城郭都市によく似ているんじゃないかな。

 そんなことを考えながら、レティーナの城壁から続いている列の最後尾に並ぶ。
 列には人間の他に荷馬車や幌馬車が混じっているので長く感じるが、実際は十人程度と少ない。
 まぁ、田舎だし人の出入りはそんなに激しくないのかも? お陰で並ぶ時間が少ないから私としては助かるけど。

 ノアの話によると、街の住人以外が街に入るには、こうやって身元を確認するために門前で並ぶのが決まりらしい。
 その証拠に、普通に歩いて門を通過していく人達もいる。門番とは軽い挨拶で済んでいるところを見ると、街の住人なんだろう。
 顔パスで済むのか。楽でいいね。
 
 そんな彼らをのんびりと眺めていると、武器や防具を装備した人が多いことに気づく。もしかしたら、彼らがこの街で活動しているという冒険者達なのだろうか。
 剣と鎧、杖とローブ。他には弓や斧を装備している人達もいる。

 むむ。鑑定したいな。
 ……していいよね? 別に得た情報を誰に教えるわけでもないし、私も言いふらさないし。なんたって、鑑定されても本人は気づかないんだし。
 何か覗き見みたいでちょっと悪い気がするんだけど、私の後学の為に糧になってもらいたい。いや、本当、これは単なる興味本位では無いのですよ。うん、本当だよ。

 さり気ない振りをして、ぽつぽつと通り過ぎる人々を鑑定してみる。
 武器を装備している殆どの人達が、戦闘系の恩恵を持っており、冒険者の肩書を持っていた。
 流石冒険者が集う都市なだけあって、結構な人数が確認できる。
 多分、昼が過ぎて十分な時間がたっているので、一仕事終えて帰ってきた人達なのかもしれない。結構汚れているし、中には明らかに血だと思われる色も見える。

 人狼の里で聞きかじった情報によると、冒険者は何でも屋の集まりらしい。
 彼らは冒険者ギルドという組合に所属しており、ギルドの依頼を受けて仕事をこなす。主な仕事内容は、人に害をなす魔物の討伐。
 魔物は野性の獣とは違い、意図的に人間を襲う習性がある為、放っておくと徒党を組んで襲ってくるのだそうだ。しかも丈夫で強い為、戦闘の恩恵無しでは歯が立たない程らしい。
 冒険者ギルドは国や領主の手が回らない分を担っているらしく、騎士や兵士とは上手く住み分けているのだそう。

 この他にも、この世界にある迷宮に潜って依頼されたアイテムを手に入れたり、迷宮から魔物が溢れ出ないようにと、討伐に出向く依頼などがあるらしい。
 また、街の人々から依頼された素材の採取や商人の護衛など、意外と地域密着型の仕事もあるそうだ。

 ただし、いかんせ人を選ぶ職業で、まずは戦う恩恵持ちじゃないとやっていられない。なので、戦闘系の恩恵持ちは騎士や兵士など、誇りをもって国に仕えるか、自由を求めて冒険者や傭兵になるかで大半は分かれるらしい。
 まあ、それ以外に適した仕事無いだろうし、そうなるよね。

 そんな彼らを鑑定していて、気づいた点がある。大半の人達が、恩恵のレベルがLv5前後なのだ。
 見た限りでは、新人っぽいのや駆け出しっぽいのはLv5よりは下。若めは大体Lv5で、ベテランっぽいのはLv6や7がチラホラといる。
 どうやらこれが、冒険者の一定の基準っぽい。
 自分の恩恵ランクと照らし合わせてみると、結構いけそうな気がする。一応最新を確認しておこうか。


『【クロウ】
  神により復元された【黒狼】の一人。
  異界の魂を持つ者。
  この世界の体と、異世界の魂の融合を目的としている実験体。
  人間との融和を目指すよう、神より依頼を受けている。
  複数の恩恵持ちの特殊体。

  《索敵 Lv5》 周囲の生物を識別し、敵味方の判別をする
  《鑑定 Lv2》 定めた対象物に使用すると、情報を開示できる
  《剣術 Lv5》 剣で戦う才能 剣士になる為に必須
  《身体強化 Lv3》 身体能力を短時間だが、上昇させる
  《料理 Lv1》 料理の才能 料理人になる為に必須         』


 【名無し】から【クロウ】に名前が変更になったけれど、説明は変わらないままだ。
 恩恵の方は結構バラバラだけど、一応成長は見られるよね。
 索敵と剣術はどっちもLv5だし、冒険者としては合格点ではないでしょうか? まぁ、冒険者になってみないと実際の所は判らないけど。

 里で獣化の修行中、剣での戦闘訓練も付き合ってもらってたし、用があって里の外に出るときは、常に周囲を警戒してたんでLv5は納得できる。
 訓練では身体能力も混ぜて戦っていたし、このレベルでもおかしくないよね。
 鑑定は……食料調達で食べられそうな植物を探してたのに使ったくらいだから、こんなものかな。本当はもっと上げたかったけど、知り合いを鑑定するのは気が引けて、小心者な私には無理だった。
 料理はまぁ、お披露目する機会も無かったし、これはしょうがないだろう。

 自分のレベルというのは、体感的にイマイチわかりづらい。
 ただ剣術や索敵は、繰り返しているうちに感覚が今まで以上に鋭くなったりしたんだよね。
 それがLvが上がった瞬間だったんだろうと推測してるけど、鑑定だと数字で測れるから分かりやすい。こうして相手の強さまで数値化して一目でわかるというのは、本当に便利だと思う。
 こうやってみると、神様が奮発するって言っていたのは本当だったんだろうなぁと、しみじみ思う。

 だからと言って、性別の件は許す気ないけどね!




 
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