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四十八夜目:サワギリさん
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【サワギリさん】
「サワギリさん、サワギリさん、〇〇が憎くはないですか?」
これは、私が小学校の頃に流行っていた、一種の呪いでした。放課後、誰もいない教室の真ん中の席に座って、後ろを向いて3回、こう唱えるのです。すると、ここで言った『〇〇』(人の名前です)が階段から落ちて怪我をする、ということでした。
その当時、まことしやかに流れていた噂では、『サワギリさん』というのは、10年以上前にクラスでいじめられていた子だそうです。体育の教室移動の際に、階段でクラスメートの誰かに後ろから押され、転落。顔に大怪我をしてしまい、それがきっかけで教室の真ん中で首をつって自殺した、というのです。
10年以上経って、大学生になった今では他愛もない学校の怪談だなと思うのですが、小学生だった当時は、半信半疑といったところでした。
もちろん、周囲の子も真剣に信じていた訳では無いとしても、『もしかしたら本当かも』くらいには思っていたのだと思います。肝試し的に、何度かクラスの中で『サワギリさんに言ってみようぜ』という話が持ち上がることがありました。
ある時、同じクラスのAが『やってみる』と言って、試したことがあります。
Aは私と同じグループで、当時、良く遊んでいたのは私とAさん、それからB、Cの4人でした。やってみる、とは言ったものの、いつお呪いを試したのかは私は知りませんでした、というのも、このお呪いは「誰にも聞かれないように」やらなければいけなかったからです。
その話をした数日後、同じクラスのS子が階段から落ちました。ちょうど、クラスで図工室に移動しようとしていたときでした。「あ!」と叫び声を上げて、S子は階段から転げ落ち、足を擦りむく怪我をしたのです。
S子はクラスでもボス的存在で、私達のようなカーストの低い子たちをいつもバカにするような態度を取っていました。その時、私はとっさにAの顔を見ました。心なしか、Aは「信じられない」といった表情をしていたと思います。子供心に「ああ、Aが呪ったのはS子だったんだな」と思ったのです。
S子の怪我自体は大したことはなく、次の日には普通に学校に来ていました。しかし、S子的にはショックだったのでしょう、この事があってから、まるで青菜に塩といった具合に元気がなくなり、すっかり大人しくなってしまいました。経緯はどうあれ、私達にとっては教室にいやすくなったので嬉しい限りでした。
そして、サワギリさんの呪いは私達4人の秘密になったのです。
☆☆☆
ただ、こういったクラス内の順位というのは、一番上の人がいなくなると、すぐに2番手が威張り始めるものです。S子が元気なときにはおとなしかったR子が、今度はアレコレと周囲の子に意地悪をし始めたのです。今で言う『マウントを取る』というやつでしょうか。とにかくR子は自分の得意分野では一番じゃないと気が済まない質だったようで、算数のテストの点に特に敏感でした。
一方、S子がいなくなったせいで勉強に集中できるようになったのか、Aはここのところ算数の成績が良くなっていました。ある日、普段は個別の点数に触れることがなかった先生が、皆を奮い立たせようとしたのか、「今回のテストはAだけが100点だった」と教壇で拍手したのです。私はハッと思い、そっとR子の様子を伺いました。R子はものすごい形相でAをにらみつけていました。
その事があってから、何かにつけてR子はAを槍玉にあげ、皆がAと付き合わないように言って回ったり、嫌な役をAに押し付けようとしたりと、あからさまな嫌がらせをし始めました。Aはみるみる元気をなくしました。私たちもクラスの中では大っぴらにAとは話しにくかったのですが、帰る時間をうまく調整して、登下校の際にAを励ましたりしていました。Bなんかは『サワギリさんにお願いしちゃいなよ』などと冗談交じりに言ったりもしていました。
あれは、その年の秋口だったと思うのですが、R子が死にました。
やはり教室移動のときでした。着替えが必要な体育の授業だったのですが、前の音楽の時間の終了が押してしまい、みんなが早く移動しなくてはと焦っていました。普段はゆっくり歩いていく階段を焦った生徒が団子状になって移動したのです。その際、なにかの拍子だったと思います。
「あ!」
短い叫びが上がったかと思うと、R子が階段を転げ落ちました。そして、ゴンと鈍い音を立てて階段下の鉄扉の角に頭をぶつけました。そして、そのままぐったりと動かなくなりました。
周囲の子が慌てて先生を呼び、先生が救急車を手配しました。養護の先生が人工呼吸や心臓マッサージをする光景を私はまるで夢の中の景色のようにぼんやりと見ていたのを覚えています。
結局、救急搬送されたR子は、そのまま病院で息を引き取りました。
R子が亡くなった、という話を私達が聞いたのは、次の日の朝の会ででした。そのとき、Aが大きく目を見開くのを、私は見逃しませんでした。
そして、次の日からAは学校に来なくなってしまいました。
☆☆☆
きっと、AはサワギリさんにR子のことを呪うように言ったに違いない、私達はピンときました。そのせいでR子は死んでしまった。だから、罪の意識を感じてAは学校に来られなくなってしまったんだと。
でも、呪いなんて非現実的なことがあるわけはありません。S子のことも、R子のことも偶然に違いないのです。私とB、CはAを元気づけたいと思い、3人でお見舞いに行くことにしました。表向きはAは風邪をこじらせて休んでいる事になっていたからです。
Aはベッドの上で体を起こし、私達を迎えてくれました。思ったより顔色が悪く、声も消え入りそうなくらい小さくなっていました。Aは気が弱いけど、正義感が強いところがあったので、万が一呪いが本当だったら、と自分を責め続けていた様子が一目瞭然でした。
私達は呪いなんて本当にあるわけないし、仮にAがサワギリさんになにか言ったとしてもそれが原因ではないと力説しました。
Aは激しく首を振りました。そして、ぽつりぽつりとこのようなことを話したのです。
☆☆☆
最初の日、わたしは、私達の教室でサワギリさんに言ったの。
ちょうど、Cの隣の席が教室の真ん中だったから、そこで。
「サワギリさん、サワギリさん、S子が憎くはないですか」
その時は特に何も起こらなかった。わたしはちょっとがっかりして、教室を後にしたの。ちょうど、昇降口に降りたとき、何かの用事で学校に残っていたB、Cと会ったよね?
そう、あのときだったの。サワギリさんのお呪いを初めてしたのは。
それで、次の日だったでしょう?S子が階段から落ちたの。
わたし、びっくりしたけど、まだ、半信半疑だった。だって、別にただ、教室で独り言言ったのと変わりないじゃない?だから、そうね、やっぱり信じていなかった。
それで、二回目はあの日。そう、R子が死ぬ前の日だった。
R子からの嫌がらせが嫌で嫌で、それで、ふと、またお呪いをしてしまったの。
前回と同じ席で、同じように
「サワギリさん、サワギリさん、R子が憎くはないですか」
今回も何も起こらない、そう思った矢先、確かに聞こえたの。
フフ・・・
笑い声だった。慌てて周りを見回したけど、誰もいない。
慌てて廊下を見たけどやっぱりいない。
もう一度教室を見たけど、やっぱり。
でも、確かに聞こえたの。笑い声だった。
☆☆☆
Aは話し終えると耳を押さえてうずくまってしまいました。私達はなんと言っていいかわからず、会話が途切れた部屋はしんと静まり返ってしまったのです。
ピピピピピ…
突然、携帯の着信音が響きました。私達はビクッとした。Cが慌ててバックの中から携帯を取り出すと画面を見て、「母さんだ」と言って話しだしました。
どうやらいつ帰ってくるのか、といった内容だったみたいです。
これがきっかけでやっと私達は話し出せるようになりました。
「校庭で遊んでいた子の声かもしれないしじゃない」
Bが言いました。
「き、聞き間違いかもしれないし。ねえ、女の子の笑い声なんて・・・」
Cも続けました。
私もなんとかAを元気づけようとしました。子供なりに知恵を絞ったのです。そして、ひとつひらめいたことがありました。
「そうだ!こうしたらどう?サワギリさんにお願いしてみようよ
『サワギリさん、サワギリさん、本当の犯人が憎くないですか?』
って。もし、これでだれかが怪我したら、ソイツが本当の犯人だし、
だれも怪我しなかったらサワギリさんなんてウソっぱちってことになるじゃない?」
その時は我ながら名案だと思ったのです。どっちに転んでもAがサワギリさんにお願いしたせいでR子が死んだわけではないことが証明できるからです。
Aは曖昧にうなづいてみせました。Bは私の意図がすぐにわかったのか、「いいね!すぐやろう」といってくれました。Cはピンとこなかったようで「え?それってどういう・・・?」と戸惑っているようでした。
結局、次の週の火曜日だったと思いますが、その日にその作戦を結構することにしたのです。私達の励ましが効いたのか、Aもその週の月曜日からは登校するようになっていました。
お呪いを実行するのは私が引き受けました。Aの話を聞いて若干恐くはありましたが、それ以上にAに元気になってほしい気持ちが優ったのです。
放課後、教室の真ん中の席で、予定通り
「サワギリさん、サワギリさん、R子を殺した本当の犯人が憎くはないですか」
ちなみに私がこれを唱えたときには、特に笑い声などは聞こえませんでした。
私は昇降口で待っていてくれた、A、B、Cと合流し、事の次第を報告しました。そして、その日はそこで皆と別れて下校したのです。
☆☆☆
次の日、Aが死んだのです。
昼休みが終わっても教室に戻らないAを探していた先生が、校舎裏で死んでいるAを発見したのです。
状況から考えるに、屋上からの飛び降り自殺だと思われました。
Aの友達として、私とB、Cは警察から話を聞かれました。私は特に何も言わなかったのですが、後からCに聞いたところ、Cは警察にサワギリさんの話をしたようでした。Cとしては、Aがサワギリさんに殺された、と言いたかったようですが、当然、大人はそれを信じるわけがありません。今から思えば、むしろ、Aが自分の『お呪い』のせいでR子が死んでしまったと気に病んで自殺した、という証拠として見られてしまったのでしょう。
結局、Aの死はそのまま自殺として処理されました。
当然、サワギリさんの話は取り沙汰されることはありませんでした。
☆☆☆
しかし、私達はAの話を聞いていたので、怖くなりました。Aの言う通り、サワギリさんは本当にいるんじゃないかと考えたのです。
私は言いました「R子を殺した犯人が憎くはないですか」と。
犯人とはなんでしょう?直接殺したサワギリさんでしょうか、それとも、
サワギリさんに『お願い』をした、Aだということでしょうか?
私の『お呪い』が、Aを殺したのでしょうか?
今となってはわからないことです。
ただ、Aは確かに言いました。
『笑い声が聞こえた』
と。
「サワギリさん、サワギリさん、〇〇が憎くはないですか?」
これは、私が小学校の頃に流行っていた、一種の呪いでした。放課後、誰もいない教室の真ん中の席に座って、後ろを向いて3回、こう唱えるのです。すると、ここで言った『〇〇』(人の名前です)が階段から落ちて怪我をする、ということでした。
その当時、まことしやかに流れていた噂では、『サワギリさん』というのは、10年以上前にクラスでいじめられていた子だそうです。体育の教室移動の際に、階段でクラスメートの誰かに後ろから押され、転落。顔に大怪我をしてしまい、それがきっかけで教室の真ん中で首をつって自殺した、というのです。
10年以上経って、大学生になった今では他愛もない学校の怪談だなと思うのですが、小学生だった当時は、半信半疑といったところでした。
もちろん、周囲の子も真剣に信じていた訳では無いとしても、『もしかしたら本当かも』くらいには思っていたのだと思います。肝試し的に、何度かクラスの中で『サワギリさんに言ってみようぜ』という話が持ち上がることがありました。
ある時、同じクラスのAが『やってみる』と言って、試したことがあります。
Aは私と同じグループで、当時、良く遊んでいたのは私とAさん、それからB、Cの4人でした。やってみる、とは言ったものの、いつお呪いを試したのかは私は知りませんでした、というのも、このお呪いは「誰にも聞かれないように」やらなければいけなかったからです。
その話をした数日後、同じクラスのS子が階段から落ちました。ちょうど、クラスで図工室に移動しようとしていたときでした。「あ!」と叫び声を上げて、S子は階段から転げ落ち、足を擦りむく怪我をしたのです。
S子はクラスでもボス的存在で、私達のようなカーストの低い子たちをいつもバカにするような態度を取っていました。その時、私はとっさにAの顔を見ました。心なしか、Aは「信じられない」といった表情をしていたと思います。子供心に「ああ、Aが呪ったのはS子だったんだな」と思ったのです。
S子の怪我自体は大したことはなく、次の日には普通に学校に来ていました。しかし、S子的にはショックだったのでしょう、この事があってから、まるで青菜に塩といった具合に元気がなくなり、すっかり大人しくなってしまいました。経緯はどうあれ、私達にとっては教室にいやすくなったので嬉しい限りでした。
そして、サワギリさんの呪いは私達4人の秘密になったのです。
☆☆☆
ただ、こういったクラス内の順位というのは、一番上の人がいなくなると、すぐに2番手が威張り始めるものです。S子が元気なときにはおとなしかったR子が、今度はアレコレと周囲の子に意地悪をし始めたのです。今で言う『マウントを取る』というやつでしょうか。とにかくR子は自分の得意分野では一番じゃないと気が済まない質だったようで、算数のテストの点に特に敏感でした。
一方、S子がいなくなったせいで勉強に集中できるようになったのか、Aはここのところ算数の成績が良くなっていました。ある日、普段は個別の点数に触れることがなかった先生が、皆を奮い立たせようとしたのか、「今回のテストはAだけが100点だった」と教壇で拍手したのです。私はハッと思い、そっとR子の様子を伺いました。R子はものすごい形相でAをにらみつけていました。
その事があってから、何かにつけてR子はAを槍玉にあげ、皆がAと付き合わないように言って回ったり、嫌な役をAに押し付けようとしたりと、あからさまな嫌がらせをし始めました。Aはみるみる元気をなくしました。私たちもクラスの中では大っぴらにAとは話しにくかったのですが、帰る時間をうまく調整して、登下校の際にAを励ましたりしていました。Bなんかは『サワギリさんにお願いしちゃいなよ』などと冗談交じりに言ったりもしていました。
あれは、その年の秋口だったと思うのですが、R子が死にました。
やはり教室移動のときでした。着替えが必要な体育の授業だったのですが、前の音楽の時間の終了が押してしまい、みんなが早く移動しなくてはと焦っていました。普段はゆっくり歩いていく階段を焦った生徒が団子状になって移動したのです。その際、なにかの拍子だったと思います。
「あ!」
短い叫びが上がったかと思うと、R子が階段を転げ落ちました。そして、ゴンと鈍い音を立てて階段下の鉄扉の角に頭をぶつけました。そして、そのままぐったりと動かなくなりました。
周囲の子が慌てて先生を呼び、先生が救急車を手配しました。養護の先生が人工呼吸や心臓マッサージをする光景を私はまるで夢の中の景色のようにぼんやりと見ていたのを覚えています。
結局、救急搬送されたR子は、そのまま病院で息を引き取りました。
R子が亡くなった、という話を私達が聞いたのは、次の日の朝の会ででした。そのとき、Aが大きく目を見開くのを、私は見逃しませんでした。
そして、次の日からAは学校に来なくなってしまいました。
☆☆☆
きっと、AはサワギリさんにR子のことを呪うように言ったに違いない、私達はピンときました。そのせいでR子は死んでしまった。だから、罪の意識を感じてAは学校に来られなくなってしまったんだと。
でも、呪いなんて非現実的なことがあるわけはありません。S子のことも、R子のことも偶然に違いないのです。私とB、CはAを元気づけたいと思い、3人でお見舞いに行くことにしました。表向きはAは風邪をこじらせて休んでいる事になっていたからです。
Aはベッドの上で体を起こし、私達を迎えてくれました。思ったより顔色が悪く、声も消え入りそうなくらい小さくなっていました。Aは気が弱いけど、正義感が強いところがあったので、万が一呪いが本当だったら、と自分を責め続けていた様子が一目瞭然でした。
私達は呪いなんて本当にあるわけないし、仮にAがサワギリさんになにか言ったとしてもそれが原因ではないと力説しました。
Aは激しく首を振りました。そして、ぽつりぽつりとこのようなことを話したのです。
☆☆☆
最初の日、わたしは、私達の教室でサワギリさんに言ったの。
ちょうど、Cの隣の席が教室の真ん中だったから、そこで。
「サワギリさん、サワギリさん、S子が憎くはないですか」
その時は特に何も起こらなかった。わたしはちょっとがっかりして、教室を後にしたの。ちょうど、昇降口に降りたとき、何かの用事で学校に残っていたB、Cと会ったよね?
そう、あのときだったの。サワギリさんのお呪いを初めてしたのは。
それで、次の日だったでしょう?S子が階段から落ちたの。
わたし、びっくりしたけど、まだ、半信半疑だった。だって、別にただ、教室で独り言言ったのと変わりないじゃない?だから、そうね、やっぱり信じていなかった。
それで、二回目はあの日。そう、R子が死ぬ前の日だった。
R子からの嫌がらせが嫌で嫌で、それで、ふと、またお呪いをしてしまったの。
前回と同じ席で、同じように
「サワギリさん、サワギリさん、R子が憎くはないですか」
今回も何も起こらない、そう思った矢先、確かに聞こえたの。
フフ・・・
笑い声だった。慌てて周りを見回したけど、誰もいない。
慌てて廊下を見たけどやっぱりいない。
もう一度教室を見たけど、やっぱり。
でも、確かに聞こえたの。笑い声だった。
☆☆☆
Aは話し終えると耳を押さえてうずくまってしまいました。私達はなんと言っていいかわからず、会話が途切れた部屋はしんと静まり返ってしまったのです。
ピピピピピ…
突然、携帯の着信音が響きました。私達はビクッとした。Cが慌ててバックの中から携帯を取り出すと画面を見て、「母さんだ」と言って話しだしました。
どうやらいつ帰ってくるのか、といった内容だったみたいです。
これがきっかけでやっと私達は話し出せるようになりました。
「校庭で遊んでいた子の声かもしれないしじゃない」
Bが言いました。
「き、聞き間違いかもしれないし。ねえ、女の子の笑い声なんて・・・」
Cも続けました。
私もなんとかAを元気づけようとしました。子供なりに知恵を絞ったのです。そして、ひとつひらめいたことがありました。
「そうだ!こうしたらどう?サワギリさんにお願いしてみようよ
『サワギリさん、サワギリさん、本当の犯人が憎くないですか?』
って。もし、これでだれかが怪我したら、ソイツが本当の犯人だし、
だれも怪我しなかったらサワギリさんなんてウソっぱちってことになるじゃない?」
その時は我ながら名案だと思ったのです。どっちに転んでもAがサワギリさんにお願いしたせいでR子が死んだわけではないことが証明できるからです。
Aは曖昧にうなづいてみせました。Bは私の意図がすぐにわかったのか、「いいね!すぐやろう」といってくれました。Cはピンとこなかったようで「え?それってどういう・・・?」と戸惑っているようでした。
結局、次の週の火曜日だったと思いますが、その日にその作戦を結構することにしたのです。私達の励ましが効いたのか、Aもその週の月曜日からは登校するようになっていました。
お呪いを実行するのは私が引き受けました。Aの話を聞いて若干恐くはありましたが、それ以上にAに元気になってほしい気持ちが優ったのです。
放課後、教室の真ん中の席で、予定通り
「サワギリさん、サワギリさん、R子を殺した本当の犯人が憎くはないですか」
ちなみに私がこれを唱えたときには、特に笑い声などは聞こえませんでした。
私は昇降口で待っていてくれた、A、B、Cと合流し、事の次第を報告しました。そして、その日はそこで皆と別れて下校したのです。
☆☆☆
次の日、Aが死んだのです。
昼休みが終わっても教室に戻らないAを探していた先生が、校舎裏で死んでいるAを発見したのです。
状況から考えるに、屋上からの飛び降り自殺だと思われました。
Aの友達として、私とB、Cは警察から話を聞かれました。私は特に何も言わなかったのですが、後からCに聞いたところ、Cは警察にサワギリさんの話をしたようでした。Cとしては、Aがサワギリさんに殺された、と言いたかったようですが、当然、大人はそれを信じるわけがありません。今から思えば、むしろ、Aが自分の『お呪い』のせいでR子が死んでしまったと気に病んで自殺した、という証拠として見られてしまったのでしょう。
結局、Aの死はそのまま自殺として処理されました。
当然、サワギリさんの話は取り沙汰されることはありませんでした。
☆☆☆
しかし、私達はAの話を聞いていたので、怖くなりました。Aの言う通り、サワギリさんは本当にいるんじゃないかと考えたのです。
私は言いました「R子を殺した犯人が憎くはないですか」と。
犯人とはなんでしょう?直接殺したサワギリさんでしょうか、それとも、
サワギリさんに『お願い』をした、Aだということでしょうか?
私の『お呪い』が、Aを殺したのでしょうか?
今となってはわからないことです。
ただ、Aは確かに言いました。
『笑い声が聞こえた』
と。
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