天狐あやかし秘譚

Kalra

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第4話:女怪

第13章:幽愁暗恨(ゆうしゅうあんこん)

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♡ーーーーー♡
【幽愁暗恨】 人知れぬ深い憂いや恨み。
深い恨み、言わないと癒やされないけど、言えたら苦労しないよ、みたいな。
♡ーーーーー♡

綾音達が土御門とカフェで話しているのと同じ頃。
場所は、東京都豊島区池袋。

「この先、左です。早く」
敷島が助手席で指示を飛ばす。その指示に無言で運転席の黒服の男性が従う。黒服は自分よりも歳上だが、まだ陰陽生おんみょうしょうであった。陰陽生とは、陰陽師や陰陽博士を補佐する役割につく、いわば見習いである。黒服は、名を佐久間さくま広景ひろかげといった。

敷島は手元のスマートフォンに送られてくる地図アプリ上の位置情報を見ている。位置情報は刻々と変化している。

ここに表示されている情報は、陰陽寮でも占いや探索に特化した部署である占部衆うらべしゅうから時々刻々と送られてくるものだ。おそらくそこの長である土門どもん杏理あんりによる式占盤占術の結果をもとにしているのだろう。

敷島は佐久間に指示を出しながら、自分が女怪について知っていることを整理する。

女怪とは女の恨みが凝集して妖怪化したものだ。普通は死魂が女怪となるのだが、河西佳苗はまだ生きている。もし、河西が女怪になりかかっているのだとすれば、それは生霊が元になっているということだ。生霊が変化した女怪は、古来から強力なものになると相場が決まっている。

自分が結界で押さえきれなかったから・・・。
責任を感じる。

佳苗が向かう先はおそらく恨みを持った相手。まだ取り調べが済んでいない以上、動機から彼女の行き先を推定し、先回りすることができない。ぴょんぴょんと屋根から屋根へ高速移動する彼女を捉えるには、こうして地道に占術で追跡し、対象を襲う直前、足を止めた瞬間を狙って捕らえるよりほかない。

もし、彼女が対象を殺めてしまったら・・・。

そのときは、もう人間に戻ることはできなくなる。完全に厭魅妖怪に堕ち、調伏するしか鎮める方法はない。

お願い・・・間に合って。あなたが、まだ、人である内に!

「敷島さん!次の角は!?」
「まっすぐ!」

いや・・・左か?
今しがた前方にあった佳苗を示す光点が、左方に移っていた。

「ごめん、左!」
「え?もう通り過ぎちゃったっす!少し行って左に・・・」

いや違う、違う違う!!

スマホ上に展開する光景に敷島は息を呑む。
違う!正面の点が左に移ったんじゃない。増えたのだ。

見る間に画面上の自分らの現在地を示す赤い点の右上、左後方、前方、右、後ろ・・・妖魅の出現を表す光点が増えていく。

無数に・・・まるで湧き出てくる雲霞のように。

「何が起こってるの!?」
「敷島さん!?前!」

佐久間の叫び声に顔をあげると、前方に人影が飛び出して来るのが見えた。黒い影、顔が崩れ、汚れたワンピースを纏った、この世のものではない女性・・・。

女怪!?

「あぶねえ!」
佐久間がハンドルを右に切った。同時にブレーキを踏むが間に合わない。ガードレールに衝突する。

「いたたた・・・」
突然のことに敷島はダッシュボードに頭をぶつけてしまった。『大丈夫っすか』と佐久間が声をかける。

車からなんとか這い出し、周囲を見ると・・・。
「!?」
そこかしこの暗闇から、影から、のそり、のそりと黒い影のような異形が立ち上がる。顔が崩れ、腕がもげかけ、足を引きずり、乳房をはだけ、それらはフラフラと自らの怨嗟を晴らすために歩き始める。

「敷島さん・・・これって・・・」
「まずいわ・・・佐久間くん、本部に連絡!それから・・・大鹿島様を呼んで!女怪が・・・溢れてしまう!」

そう佐久間に告げると、敷島は自分のリュックをひっつかんで、目の前にある一番高いビルに飛び込んだ。エレベーターに乗って屋上に。高いところ、とにかく高いところに行かなければ。

なんでかわからないけど女怪が溢れている。女怪は陰気の塊。通常の人間が遭遇すればその気に侵され、病気になってしまうし、下手したら死ぬ可能性すらある。ちょっと霊感の強い人ならその姿が見え、もっと強く影響を受ける。
とにかく、陰気を鎮め、人々を守らなくては。

屋上にたどり着くと、背負っているリュックから金属の符を取り出し四方に据える。中央に懐剣を突き刺し、呪言を唱える。

敷島の術は『音』による結界術。音を金属の符で増幅し、四方を守る。
この時、音の起点として、中央の金器、懐剣に手にした鈴で『退魔の音』を響かせる。その音が共鳴し、拡散し、周囲を強力に浄化するのだ。

「元帥霊泉、四季三界、陰陽二神、邪を封じよ、
 北斗七星辰、泰山府君、刻み刻みて、鬼道霊光微塵に切って放つ、
 龍気、剣戟、四柱神の御力、ここに切って候」

北斗七星辰とは北斗七星のことである。その北斗七星を司る神に願を掛け、更にその上位の神に呼びかける術。呼びかけているのは陰陽道の源流となった古代中国の守護聖獣、四柱神、すなわち玄武、朱雀、白虎、青龍、そして、道教の主神の一柱である泰山府君であった。七星辰の力を勧請し、鬼道を塞ぎ、陰気を鎮め、邪を封じる。ことから、この結界術を七星辰クラスと呼ぶ。

病院で佳苗に施したのと同じ結界術だ。
私が使える、最大の術を、最大の範囲で。

女怪がどの範囲まで湧き上がってるか確認できない以上、最大出力で行うしかない。そんな最大出力はさほど長い時間もたない。それまでに・・・早く・・・早く、応援が来るのを願うしかない。

「大鹿島様・・・早く来て!」
祭部衆随一の術者、自分の師を思わずにはいられない。
大鹿島様が来るまで、なんとしても私がもたせなければ・・・。

リン・・・

清浄な鈴の音が響き、その音波は周囲に清浄な気を広げていった。

☆☆☆
俺は見た目がよく、学生の頃から女にチヤホヤされていた。恋人なんか作り放題だった。しかし、同時に真面目に恋愛するのは面倒だとも感じていた。

女なんて、ヤれればいい。そう思っていた。

そんな俺だったので、似たような友人が寄り集まってくる。すぐに女を攫って犯してやろうぜ、なんて話が出てきた。
最初は当然冗談だったが、何度も話している内に次第に本当にやってみようという空気になってきた。そして、確か、あれは3年前だ。合コンで知り合った大人しそうな女の子に睡眠薬を盛ってホテルに連れ込んだ。
そのまま、俺たち4人で輪姦した。
はっきり言って、いい体験とは言い難かった。最初のうちは女は泣き叫び、あちこち引っかき傷だらけになったし、何度も犯しているうちに、今度はぐったりし、反応がなくなってしまった。AVのように犯されている内に感じてきて淫乱になっていく、などということはないんだなと思った。

ただ、それでも、興奮だけはあった。
4人で一人の女を犯し続けるというシチュエーションが俺たちを虜にしたのは確かだった。
その女が何も訴えなかったのも大きかった。『大丈夫なんだ』という経験が俺たちを更に増長させた。

我慢できなくなり、1ヶ月後にはすぐに次の女を攫った。今度はもう少し綿密な計画を立てた。最初のときはとにかく挿入することしか考えていなかったのでただただ興奮に任せてガンガン腰を振るだけだったが、二回目は違った。
縛り付け、動けなくして、ねっとりと辱めた。
あちこち触ったり、舐めたり、キスをしたり、嫌がる様を楽しむ余裕があった。
準備したビデオで淫らな行為にふける様子を撮影し、それを拡散するぞと脅しつけて、女の心を屈服させるという楽しみもこの時初めて味わった。この、輪姦劇は、俺たちの中で、単なる興奮を楽しむものではなく、支配や嗜虐心を滿足させる『愉しみ』に変わっていった。

愉楽への欲望はすぐに膨張した。

短い期間に何人もの女を毒牙にかけた。
経験を重ねるたびに、俺達は女の凌辱方法に長けていった。
どうすれば、どんな風に乱れるのか、何をすれば効果的に心を折ることができるのか、どうすれば自ら淫らに腰をふるようになるのか・・・。

淫具を使う、薬を使う、
時に知り合い同士を一緒に犯して楽しんだ。

尻穴の悦楽を教えるのにも長けていった。数日かけてじっくりと狂わせる術も覚えた。
全ては自分たちの歪んだ欲望をただひたすらに満足させるためだった。
楽しい日々、何者にも邪魔されず、自らの欲望を満足させ続ける日々だった。

ああ・・・また、女を犯したいなぁ・・・。

そう思いながら、意識が徐々に焦点を取り戻していく。頭がぼんやりしているが、体全体がこわばっているような妙な感じがある。眠って・・・いたのか?

あれ・・・俺は一体・・・。

眠っているのなら、と目を開けたつもりだったが、目の前が暗すぎて、目を閉じているのかなと錯覚するほどだった。
まだ、夢を見ていたのだろうか?もう一度まばたきをしてみる。それでも周囲の暗さに目が慣れることはなかった。自分がどこにいて、どういう状況に置かれているのか、うまく認識できない。

なんだ・・・どうした?
記憶をたどる。今日は、会社から早く帰ってきて・・・家についたところまでは覚えている。それから?

痛っ・・・頭が痛い。頭を押さえようとしたが、なんだか手が動かない。

それからどうした?

影?そうだ、影だ。マンションの鍵を開け、中に入った。奥に進み、リビングに。電気をつけようと壁をまさぐった時、目の前に・・・

ひい!

思い出して背筋が凍る。そうだ、影だ・・・あいつだ。あいつがいた。
目が赤く光った黒い影・・・河西佳苗・・・
あいつが笑った・・・・『見つけた』と。

そこで、俺は意識を失ったんだ。

じゃあ、ここは?

やっと目が慣れてきた。周囲の様子が薄ぼんやりとわかるようになってきた。少なくとも自分のマンションではない。なにか広くて天井の高い部屋にいるようだ。意識を向けると、背中は硬いテーブルのようなものに寝かされている感じがする。だからか、身体がガチガチにこわばって、手足がうまく動かない。

「目・・・覚めたぁ?」

暗闇から声がする。河西の声だ。キョロキョロと見回すが姿は見えない。

「どこにいるか、わかる?わからない?」

さっきとは違う、反対側から声がする。そっちを見るが、やはりいない。

「お仲間も、捕まえたよ。きゃははははは!」

今度は足元から声がする。いったい・・・一体どうなってるんだ!?

さわりと頬が冷たい手で撫でられる。ひっと声を上げ、身をよじろうとしてやっと自分の体の異変に気づく。体が動かないんじゃない・・・手足が・・・ない?!

嘘だろ?

「あれ?気がつきました?倖田くん・・・。手足、邪魔だから切りましたよ。お仲間も同じ。・・・痛くないでしょ?だって、そうしたんだもの。あなたが私にしたように、痛くないように・・・気持ちいいように・・・身体、変えてあげるから・・・身体、ぐちゃぐちゃになってぇえ・・・それでね、それでねぇえええ!!!」

キーキーと耳障りなほど声が高ぶっていく。狂っている・・・狂っているのだけがわかる。
なんだ、こいつ、なんだこいつ!

ぎゃはははははははは!!!!

大口を開けて笑う恐ろしい顔が目の前に現れる。確かに河西の顔だが、目はギョロッと上を向いており、全くこっちを見ていない。大口を開け、よだれを撒き散らしながら笑う姿は狂気以外の何ものでもない。

「きーもーちーよーくー!!!きーもーーーちいいいぃぃぃいいい!ぎゃあはははっはあは!!」

ビリビリと河西が俺の着ているものを切り裂くように破っていく。布を紙切れのように引き裂く膂力は人間のものとは思えない。

「ひーひー!!!」

涙が出てくる。悲鳴が止まらない。何をされる?何をされた!?
わかることはひとつだ。こいつは俺に、俺たちに復讐に来た。なんだかわからないなにかの力を得て。

「やめてくれ・・・やめてくれ!あやまるから!あやまるからああ!!」
ぐいっと顎を手でしゃくられる。四肢を失い、動かない身体はただただ震えるだけだ。
「謝る?あやまる??あやまああるうのぉ?イヤよ・・・イヤ!許さない・・・許すわけない、ゆーるーさーなーーーーーいぃぃ!!!」

ぐあああ、ぎゃああ。
ななんだあ!!
やめろおお!!

周辺で同じような声が響く。あれは・・・あれは・・・
「お仲間も始まったみたいです。私の仲間・・・みーんなが協力してくれます。さあ・・・みんなで・・・」

コイツラを・・・オカしましょう・・・・

ぎゃははははははっは!!
 ぎゃははははははっは!!
ぎゃははははははっは!!
  ぎゃははははははっは!!

四方八方から同じような狂気の笑いが、哄笑が響く。やっと気づいた。
俺たちは、何十体という、化け物に取り囲まれているんだということに。そして、自分らが犯されようとしていることを、実感した。

今までずっと狩る側だった。そんな俺達自身が、歪んだ欲望の的にされる日が来るなんて、想像もしていなかった。

「うあ・・・あぐう・・・」
「があ・・・やめ・・・て・・・」
辺り一面に男たちのうめき声、すすり泣く声が響く。

俺の仲間の仲間の声だ。周囲がだんだん見えてくる。どうやら、ライブラリーのようなところにいるようだ。周辺の壁に書棚が造りつけられており、本がたくさん置かれている。俺の他に、見慣れた顔が三人。皆四肢を失った状態で俺と同じようにテーブルに寝かされている。どういう原理か分からないが、切り取られた断面からは血の一滴すら出ていない。

俺たちはイモムシのように這い回るしかできない状態に置かれているのだ。

皆の服もビリビリに破かれている。そして、辺り一面に蠢く女の化け物。ある者は目がくり抜かれ血の涙を流し、あるものは顔の半分が崩れ落ち、あるものは乳房がグズグズに焼けただれ、あるものは頭髪が無惨に抜け落ちていた。
その不気味な女の影はひたすらに仲間の裸身に絡みつき、舌で、指で、胸で無理矢理に性感を与え続けていた。強制的に勃起させられ、陰茎をしゃぶられ、尻穴を指や舌で嬲られ、口腔内にニュルニュルと舌を挿入される。代わる代わる、女の妖魅が陰茎を胎内に呑み込み、腰を淫らにグラインドさせる。うめき声とともに、俺の仲間は何度も、何度も絶頂させられる。

絶頂すると女の一人から口移しで黒いドロッとした液体を流し込まれる。そうすると一旦萎えた陰茎はまた勃起してしまうようだ。そうして強制的に勃起させられた陰茎がまた犯される。何度でも何度でも、絶頂させられてしまう。どんなに呻いても、泣き叫んでも止まらない。アナルも無理矢理に舌や指で拡張され、二本、三本と挿れる指を増やされる。しまいには女たちの髪の毛が変化した張り型を無理矢理に突き入れられる。

陰茎も、アナルもぐちゃぐちゃと犯され続けた。
終わらない狂った宴。淫靡な体液の匂いが、呻き声が部屋に充満し続ける。

四肢を失った俺は、仲間3人が黒い女たちに徹底的に凌辱される姿をただ眺めることしかできない。そして、絶頂し、口移しに黒いどろどろを飲まされるたび、仲間の身体は次第に黒く変色していった。

愉悦なのか苦悶なのかわからない声を上げ、目は上転し、涙とよだれを振りまきながら、首を振り乱している。

「やめてぇ・・・やめてくれええ・あがああ・・やめて・・やめてやめてぇええ!・・・」

目は限界まで見開かれ、息を吐いているのか吸ってるのかわからなくなる。苦しい・・・。呼吸ができない錯覚に陥る。

ふふふふふ・・・
耳元で囁くように笑う。それは、俺を後ろから抱きかかえ、この狂宴を見せている張本人、

河西・・・佳苗・・・。

あの女の化け物達と同じように肌は黒く染まり、目だけが赤く爛々と輝いている。俺の陰茎を愛おしむように撫で、首筋に舌を這わせる。恐怖のあまり息が詰まる。

「やめて?・・・やめないよぉ・・・やめないよぉお・・・でもね?あなたはね?あの子達には食べさせないよ?私が・・・私が食べてあげる・・・わたし・・・わたしがあああ!!!」

そのまま肩口に歯を突き立てられる。たしかに皮膚を破り食いちぎられている感触があるのに、痛みがない。何故?・・・なんで!!?

「たべ・・・たべ・・・たべてぇえええあげええっるうう・・・だって・・・あなた言ったじゃああない?」

愛している、って・・・

ぎゃははあはははっはは!!!!

狂ったような河西の声が耳元に響く。ぐるぐると脳がかき回される。恐怖が、絶望が、俺の心を壊し始める。

「やめてくれええええええ!!!」
目を限界まで見開き、いつしか俺は絶叫していた。

☆☆☆
敷島は慄いていた。
必死に呪言を唱える。簡易な呪具と呪言、そして愛用している鈴が放つ清浄な音で周囲を浄化し続けている。

結界範囲は直径約3キロ。

そして、その範囲の状況を術者である敷島はある程度把握することができる。
故に彼女には、事の異常さがよく認識できていた。

なんで?なんでこんなに、女怪が・・・。

結界の範囲内。知覚できるだけでおおよそ1万もの女怪が湧いている。

おかしい・・・。いくら河西が生霊として強力な妖力を持っていたとしても、これだけの女怪を寄せ集められるわけがない。

ちなみに敷島が張っている結界は外からの侵入を防ぐものではなく、結界内の邪気を鎮めること、結界内から外に邪気を漏らさないことに特化している。女怪の影響力を最小にし、これ以上広げないための結界だ。

今、この地区には一般人も多くいる。その人達がこの女怪の群れを認識しないで済み、霊障を受けないでいられるのは、敷島の張っているこの結界のおかげである。

それでも、ある程度霊力を持っている人は、障りを受けてしまうだろうな・・・。
もっと強く、もっと広く抑えないと・・・。

女怪たちはある点を中心にぐるぐると旋回しているように感じる。
その中心に、この膨大な怪異が湧き上がっている元となる場所がある・・・と思う。

そこにいるの?あなたは何をしているの?河西佳苗・・・。

そこまで考えた辺りで、周囲の闇がゆらぎ始めるのを感じた。金属の符が燐光をより強く放ちだす。・・・妖魅が近づいている証拠だった。

まずい・・・気づかれた?
ダメ・・・来ないで!

ビルの屋上、フェンスを次々と女怪が登ってくるのを感じる。
金属の符から青い稲妻が走り、フェンスを登ってくる女怪たちを打つ。打たれた女怪はフェンスから落下していくが、次から次へと登ってくるのできりがない。

この分じゃ、あと10分ももたない・・・
早く・・・誰か・・・中心を・・・女怪を引き寄せている中心をなんとかして!

リン・・・

額に汗をにじませながら、敷島はまたひとつ鈴を鳴らした。

☆☆☆
「河西佳苗が逃げ出したのが今から40分前!?なんでもっと早よ連絡せんかってん!」
土御門が電話先にキレている。
「あなたがほっつき歩いていて連絡できなかったからでは?」
さっきからこの瀬良という人は土御門に厳しい。おそらくは上司部下の関係なのに、ツッコミが厳しすぎる。

私達は促され、瀬良が運転する車に乗る・・・のだが、通常の乗用車なので、運転席に瀬良、助手席に土御門、後ろに私とダリが乗るといっぱいだった。
まさか、清香ちゃん置いていくわけにいかないし・・・。ちらっと見ると、芝三郎は察したのか、狸のぬいぐるみに変化した。そして、ダリは嫌そうな顔をしながら狐モードに。私の膝の上で丸くなる。

滅多にないチャンスだったので、さり気なくもふったのはナイショだ。

こうして、後部座席は私、私の膝の上に狐モードのダリ、その隣に清香ちゃん、そして清香ちゃんが芝三郎が化けた狸ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる、という構図になった。

「なんや自分ら、ほんま便利やな。ほな!瀬良ちゃんいったれや!」
瀬良がアクセルをふかす。なんとなく、『自分は運転しないくせに』とでもいいたげな、不服そうな横顔に見える。

車は加速する。目的地は、池袋。ここからだと車で10分ほどだそうだ。
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