サフォネリアの咲く頃

水星直己

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第一章

[第9話]旅立ち

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少しずつ喋れるようになったサフォーネは、より充実した日々を送っていた。
家の手伝いは徐々に難易度も増し、時々、街までの買い物も頼まれるようになった。
他人と言葉を交わす、簡単な計算をする、その全てが勉強で、学べることが楽しくて仕方ない、という様子だった。
デュークは床に臥しながら、そんなサフォーネの様子を見守っていた。

「今までのことを想像すれば、この毎日はあいつにとって、かけがえのないものになるだろうな…」

デュークは一度だけ、覚えている場所や人がいないか、サフォーネに尋ねてみたのだが、静かに首を横に振るだけだった。
手懸りがあれば、そこを訪ねてみることも考えてのことだったが…思えば名前も無かったくらいだ。
恐らく、あちらこちらを追い立てられながら生きてきたのだろう。
そう考えると、ここでの暮らしはサフォーネにとってどれだけの財産になっているのか…。

ある日、デュークはサフォーネに課題を出した。

「衣服店を覚えているか?その生地を持っていって、お前が着る夏用の服を注文できるか?」

そう言うと、ミューに頼んで、魔物退治の報酬で受け取った布地2反と、金貨を数枚入れた銭袋をサフォーネに持たせた。サフォーネはそれらを手にすると、力強く頷く。

「…サフォ、わかる。だいじょぶ」

「そうか。ここに来た時に服を揃えてもらったことも、ちゃんとお礼を言うんだぞ?それから、散髪屋にもあの時無茶な注文をしたからな…一度お礼の挨拶に寄った方がいいな」

「…デュークさん、そんなにたくさん…大丈夫ですか…?」

傍らでミューが心配そうに口を挟むが、サフォーネは「できる」と意気揚々と出かけていく。
やり取りを見守っていたメルクロが楽しそうに笑った。

「できることが増えて、今が一番楽しい時期だろう。いろいろやらせてやりなさい」


診療所から街に続く林は、春の陽気に包まれて、歩くだけで気持ちもうきうきしてくる。
サフォーネは、ミューから教わったエルフ族の唄を鼻歌で口ずさむ。
結局、歌詞は難しくて覚えきれなかったが、その旋律だけはしっかり頭に刻んだ。
その歌声につられるように鳥たちの囀りが聞こえると、サフォーネは幸せそうに微笑んだ。


街に到着すると、まずは衣服店に立ち寄った。
衣服店の夫婦は異端の天使を恐れているのか、サフォーネを見ると最初はぎこちなかったが、邪気のない満面の笑みと、片言ながら一生懸命注文する様子に、真剣に耳を傾けてくれた。
夫が注文を取る中、妻がサフォーネの採寸をする。
初めての採寸に戸惑いながらも、サフォーネはデュークの言葉を思い出した。

「…あ、ふく、はじめて、あ、ありがとう…」

たどたどしくも、サフォーネが誠意を込めてお礼を言えば、ドワーフの夫婦は少し驚いたように顔を見合わせたが、すぐに笑顔を返してくれた。

「ひとりでお使いできるなんて偉いじゃないか。これはご褒美だよ」

そう言って、帰り際には綺麗な刺繍の入った巾着袋を持たせてくれた。
珊瑚色の生地に赤や青や黄色など、鮮やかな色で花模様が施された巾着袋は、片手に収まるくらいの大きさで、腰に下げることもできるようだ。
ドワーフの妻はそれをサフォーネの腰布に括り付けてくれた。


腰に下げられた綺麗な巾着袋に視線を落としながら、次の目的地を目指す。
歩くたびに揺れるそれを見ていると、自然と口元に笑みが浮かぶ。
中に何を入れよう?…お薬?…飴玉?
買い物のときは、ここにお金を入れようかな?
考えるだけで楽しくて、足取りはさらに軽く、散髪屋に立ち寄った。
扉を開けて顔を覗かせると、相変わらず元気な店主にすぐ気づかれた。

「あらー!久しぶりじゃないの。元気にしてた?」

散髪屋に至っては、最初から大歓迎というように、両手を広げて迎えてもらった。
こちらの高まった気分を上乗せする明るさに、戸惑いながらもサフォーネはその場で頭を下げた。

「あ、あの…かみ、ありがとう…おれい、おそい、ごめ…んなさい」

「あらあら、なになに?そのためだけに来てくれたの?嬉しいことしてくれるわね~」

礼だけ言って去ろうとしたが引き留められ、ちょうどお客も居なかったこともあり、店の待合場所にお茶とお菓子を用意された。

「あなたの髪、とっても綺麗なんだから、大事にしてね?」

そう言うと髪用の石鹸も分けてくれ、それを先ほどの巾着袋に入れてもらった。
石鹸を入れる、など考えてもみなかったので、サフォーネは驚きで目を輝かせた。
さらには髪の手入れ講座が始まると、帰りの時間がすっかり遅くなってしまい、心配したミューが迎えに来る、という結末になってしまったが…。

サフォーネは不思議だった。
今まで、こんな風に人と接することが無かった。
人は人と関わって生きて行くものだということを知る。
且つてのデュークがメルクロから教わったものを、サフォーネも学んでいったのだ。


そんなサフォーネの傍らで、デュークにとっても、充実した日々となっていた。
旅を続けている間は、ほとんど休まることがなかった心身が共に癒され、よく笑うようにもなった。

時折、このささやかな幸福を得ることも責められるような悪夢にうなされることもあったが…気分を沈ませている時間は無かった。
怪我を一刻も早く治し、サフォーネとのこれからを考えることが優先された。

デュークは、サフォーネを通して、改めて人との関りを見直していく。

お役所仕事で仕方なくデュークの見舞いに来る町役人に、人と接する楽しさを覚えたサフォーネが、事あるごとに声をかけていく。
最初は赤髪の天使を遠ざけていた町役人たちも、徐々に心を開くようになった。
サフォーネやミューに、お土産のお菓子や飴玉を持ってきてくれることも増え、

「この子を見てると、うちの子供がまだ小さかった頃を思い出すな」

絵本で読み書きを勉強しているサフォーネに感心した町役人のひとりは、「頑張ってるね」と、新しい絵本も贈ってくれた。
綺麗な装丁の絵本を受け取ると、サフォーネは嬉しそうに飛び上がった。

そんなサフォーネを見るのは、デュークも嬉しかった。
周囲から畏れられる筈の異端の天使が、幸せそうに笑うのを見れば、自身の心も救われる気がした。
そして何より、それはサフォーネが自らの行動で獲得しているものなのだ。
自分ができなかったこと、それをサフォーネができているのが、不思議と誇らしくも思えた。

できればここでの暮らしをもう少し味わわせてやりたい…。
だが、クエナに居られる期間は限られている。
デュークも答えをそろそろ出さなければならなかった。

日を追って怪我も回復し、起き上がられるようになると、デュークはメルクロに今後のことを話した。
メルクロは「そうか…」と静かに笑い、デュークの肩を軽く叩いた。


天気の良い日、湿地帯が見下ろせる花畑の中、歩く練習を兼ねてやってきたデュークは、近場の岩に腰を下ろした。
心配してついてきたサフォーネに振り返り、今後のことを話そうと手招きをする。
招かれるまま、サフォーネはデュークの正面に回り込むとその顔を見上げた。

魔物退治に出る前に比べると、サフォーネの頬が少しふっくらとした気がする。
服の袖から覗かせる腕も、肌の張りが出てきている。
メルクロが充分な食事を与えてくれている証拠だ。
ここでの生活が、サフォーネにとっても満たされていることが伝わってくる。
それを思うと一瞬ためらったが、デュークは軽く息を吐いて小さく語り掛けた。

「サフォーネ、俺たち羽根人には役割がある、という話は知っているよな?」

突然語られた言葉に、一瞬首をかしげたが、サフォーネは一つ頷いた。
それは幾度となくメルクロから聞かされていたものだ。
デュークが魔物退治に行ったのも、その役割があるからだということを。

だが、その役割について詳しく聞かされていないだろうことは、デュークも知っていた。
足元の花に視線を落としたサフォーネは、その場にしゃがみ込み、花を摘み始める。
気ままに自分の思うまま、好きなことを始めるサフォーネに、その言葉への気構えは見られない。
これから告げることは酷なことにならないだろうか…しかし、デュークは言葉を続けた。

「俺たちはその役割のため、ある場所へ行かなければならない。いつまでもここにはいられないんだ」

花を摘むサフォーネの手が止まった。
ゆっくりと顔を起こし、立ち上がるとデュークの側に歩み寄る。

「…せんせー、いってた…。デューク、みんなまもる、たたかってる。それ、サフォもする?」

怖がっている、という訳では無さそうだが、未知の世界への不安が伝わってくる。
デュークは花を持つサフォーネの白い手に優しく己の手を重ねた。

「サフォは…闘うんじゃなくて、その手伝いだな。怪我をした羽根人たちを治したり…でもそれも、立派に皆を護るってことだ」

語り掛けてくるデュークの声は優しくて、その瞳を見ると、サフォーネは何でもできそうな気になってくるのを感じていた。

「サフォ、みんなまもる?せんせーも?ミューも?…」

静かな微笑みで頷くデューク。
これで自分の腹もようやく決まる。

サフォーネとともに聖殿に行く。

『ひとりにしないで』

そう懇願してきたサフォーネを、親に捨てられた自分と重ねた。
そんな思いを二度とさせたくない。そのためにも、残された道は二人で聖殿に入ること。

聖殿は自分にとって忌々しい思い出しかない場所だが、目の前の天使と共に生きるには、そこへ行くしかないのだろう。
何も知らないサフォーネには、厳しい世界になるかもしれない。
でも、二人が同じ場所にいられるなら、護ってやることもできるのではないか…。

「あとひと月後にはここを旅立つ。それまでにちゃんと飛ぶ練習もしないといけないな」

「…!…サフォ、とべる?」

「あぁ、練習すればな…」

デュークの言葉に、また新しいことを覚えられる喜びを感じたサフォーネは、まだ見ぬ行き先への不安が吹き飛んだ。
デュークが立ち上がるのを支えながら、その場所があるという方角を見渡す。
春の霞が掛かる空の向こうに、それがあるという。
デュークと一緒なら、怖いと思うものは何もなかった。




「ふむ…傷はだいぶ癒えたようだな。足の骨もほぼ完治。肩の方は、少し傷跡が残ってしまったが…」

「大丈夫です。傷跡なんて他にもありますし、今更ですよ?」

最後の診察に笑いながら返すデュークを、メルクロは複雑な思いで見ていた。

「身体の傷も、心の健康も問題ないようだな。あの子のお陰か、お前が笑う回数も増えて嬉しい限りだ」

メルクロの言葉にデュークは小さく笑うと、着衣を整えて椅子から立ち上がった。

「そうですね、サフォーネのお陰かもしれない。最初は、サフォーネの存在が逆に俺を脅かすんじゃないかと思ってましたが…」

サフォーネと出逢ったことで、自身も異端であることを再び思い知らされた。
同時にそれは、異端であることを忘れたくて、逃げ続けていたのだと気づかされた。

異端の天使であるが故に、蔑まれ、忌まれ、己の人生を怨んだ日々。
そして、幼い頃に起きた『あの事件』。
自身が犯した罪の重さ。

その全てを封じようとした自分とは反し、サフォーネは異端であることを受け入れ…いや、それすらも関係のないことと、光の中で生きている。そう思えた。

それはデュークにとって、自らもそうでありたいと願うとともに、サフォーネに対して羨望の念を抱くようになっていたのだ。

「あの子を護ってやりなさい。それがお前の生きる意味にもなるんだろうからな」

「…はい。わかっています」

握手を求めて差し出された手をメルクロは軽く握り返す。

今日、いよいよ旅立つ。

数日前から用意していた旅支度をシェルドナに積むため、二人がかりで作業をしていると、ミューが慌てて駆け込んできた。

「デュークさん、サフォが…。止めてください!」


ミューについて行くと、町の教会の屋根にサフォーネが座っている。
恐らく建物内の階段から屋根裏に昇り、その上に突き出ている鐘塔からそこへ出たのだろう。
それを見守るように町の人が集まる中、町長が口から泡を吹きかけて倒れていた。
デュークとメルクロが来たことを知ると、町長は悲痛な声をあげる。

「あ、あれはなんだ!どういうことなんだ!」

教会は、この町の中では一番高い建物になる。
町長が言いたいのは、民の目が多いところに異端の天使がいるという事実を責めたいのだろうが、それどころではなかった。
デュークは「すみません」と軽く謝ると、教会の下からサフォーネを見上げ、声をかけた。

「サフォ!何してるんだ、危ないだろ!降りてこい!」

その声に、デュークが来たと解ると、サフォーネは立ち上がって白い翼を広げる。
そこで初めて、サフォーネが羽根人だったと知る人たちは「おぉ」という声を上げた。

「デューク!サフォ、とぶ…とぶから、みてて」

その言葉に、メルクロとミューはデュークを見る。
視線を感じたデュークは、サフォーネを見守りながら言葉を切り出した。

「まだ完全には飛べないんだ。旅立つ前に飛びたい、とは言っていたんだが…」

あれから飛ぶ練習を毎日試みたが、結局出立までに完全には仕上がらず、サフォーネが一番気にしていたことだった。

デュークに教わったように、前後に翼を動かす。
空気を翼の内側に取り込む様に、何度も何度も。
…すると、サフォーネの足が教会の屋根から少し浮いた。

周囲のどよめきは、異端の天使がそこにいる、というよりも、目の前の羽根人が飛べるのかどうかだけ注目しているようだった。
時折、バランスが保てないようにふらりふらりしながらも、サフォーネは教会の屋根を蹴ろうとする。

「飛べる?」

ミューが期待の言葉を呟いたが、

「いや、駄目だ」

サフォーネを止めようとデュークは翼を開こうとしたが、その真剣な赤い瞳を見ると思いとどまった。
その顔から「飛びたい」という強い意思が伝わってくる。
その思いを叶えてやりたいと、デュークは見上げたまま声を掛けた。

「駄目だ!もっと速く!サフォ!もっと力を入れて、両方の翼を同じように動かせ!」

デュークの声にはっとしたように、サフォーネは翼へ気持ちを集中させる。

もっと速く。
力強く。

「!」

そのとき、サフォーネは何かを理解した気がした。
翼を動かし続けると、バランスが安定して、先ほどよりも高く宙に浮く。

それを見たデュークは、合図のように両腕を広げた。

教会の屋根を蹴り、翼の角度を変えると、サフォーネはその腕に向かって下降していく。
身に纏った夏用の服は、絹の光沢が反射し、柔らかく舞う。
大きく広げた白い翼は、力強くしっかりと空気を捉え、自信に満ちた羽ばたきで羽根人の身体を支えている。
それは誰が見ても優雅に空を舞うことができる羽根人の姿であり、天界から降臨する天使そのものに見え、そのサフォーネの美しさに心を奪われる人も少なくなかった。



デュークにたどり着いて、静かに足を地面につけると、サフォーネは嬉しそうに抱きついて、その顔を覗き込む。

「できた!…サフォ、とべた、ね?デューク」

無事に降りてきたサフォーネにほっとしたが、周囲の騒ぎを考えると手放しに誉めることもできない。
複雑な表情のデュークに、メルクロがからかうように言った。

「お前がどれだけ甘やかして飛び方を教えていたかがわかるな。サフォーネ自身が、どうやったら飛べるようになるか、一番わかっておる」

まさしくその通りだ。
危険な目に遭わせるのが怖くて、高い所での訓練は後回しにしてきていた。

「見たか?あの服はうちで拵えたものだ。上等の生地で丁寧に仕立てて…」

「あらー。あの子、羽根人だったのねぇ~。驚いたわぁ」

衣服店の主人に、散髪屋も来ていたようだ。
その声に気が付いて、サフォーネが手を振ると、二人とも笑顔で振り返してくれた。

町の子供たちが、サフォーネが羽根人だったと知って感激の声を上げて集まってくる中、近づいてくる町長に気が付いて、慌ててデュークは頭を下げた。

「まったく、最後の最後に…。まぁ、これでしばらくは静かになるんだろうからな」

予想を反した静かな物言いに、デュークが驚いた顔をしていると、その肩をポンと叩かれた。

「怪我も治ったようでよかった。聖殿にいっても元気にやりたまえ」

倒れた時に腰でも打ったのか、町役人に肩を借りながら町長はその場を去っていく。

「え、聖殿に行くの?この町から出て行っちゃうの?」

町長の言葉を聞いた子供たちが、少し残念そうに声を上げる。
子供たちにとって、羽根人はある意味憧れの存在なのだ。
異端の天使への概念もないのだろう。
この町に羽根人が居てくれる、そう思うだけで嬉しかったのかもしれない。

サフォーネはにこにこしながら、子供たちに頷くと翼を格納し、ミューとメルクロのもとへやってきた。

「せんせー、ミュー…」

二人の手を取り、大きな瞳で見つめる。
いよいよ旅立ちの時かと、メルクロもミューも神妙な顔になった。

言葉を教わり、文字を教わり、役に立つ薬草のことや、楽しい歌も教えてもらった。
何より暖かい家庭を味わうことができ、サフォーネは二人のことが大好きになっていた。
別れるのは悲しいけど、これからは羽根人の仕事でこの二人を護ることができるのが嬉しくて、サフォーネは笑みを浮かべた。
その思いが伝わったのか、メルクロもミューも静かに笑みを返す。

「…えと…お、おせや?になりま、した…」

サフォーネはデュークに教わった言葉を思い出しながら、ぺコンと頭を下げたが、うまく言えていない挨拶に二人は思わず吹き出した。

「サフォーネ。聖殿では戸惑うことも多いだろうが、デュークはお前を助けてくれるだろう。元気でやりなさい」

メルクロの分厚い手がサフォーネの頭をくしゃくしゃと撫でる。
その温もりがくすぐったくて、首を竦めながら笑みを返すと、隣のミューの泣き顔が飛び込んできた。

「サフォ…元気でね。聖殿にいっても、オレたちのこと忘れないでね」

袖で涙を拭うミューを、サフォーネは優しく抱きしめた。

「それじゃ、そろそろ出発するか、サフォーネ」

荷支度ができていたシェルドナが、待ちわびたように町の中にやってきていた。
デュークはサフォーネに手を差し伸べると、黒い馬の背に乗せてやり、自身はその後ろへ跨った。

「先生、本当にお世話になりました。ミューもいろいろありがとう。いつかまた会える日まで、どうかお元気で」

デュークの足が、シェルドナに歩くよう指示を出す。
黒い馬はゆっくりと歩き出し、子供たちは町の入り口まで送ってくれた。
デュークの影から、サフォーネは町を振り返る。
メルクロとミューと町の人たち。みんなに見えるように大きく手を振りながら。

「……とうとう行っちゃいましたね。でも、サフォーネってば…なんだかいつでも会えるような感じでしたが…」

「あぁ、恐らくデュークもはっきりとは言っておらんのだろう。聖殿に入ったら、任務以外ではそう簡単には外に出られんからな」

「本当に、次はいつ会えるんでしょうね…」

これからの二人の行く末を案じながら、黒い馬の影が見えなくなるまで、メルクロとミューは二人を見送った。
二人の旅人が立ち去ると、町はこれまでの日常に戻って行く。
朝の時を知らせる教会の鐘が鳴り響いた。


~つづく~
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