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羽化
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「ギャン泣きだったからね、ロエナ神官」
「まあ、お言葉ですけどガラハ神官も後ろで泣いていましたよ! わたくしだけが泣き虫みたいな言いようはやめてくださいませ!」
数人の神官に囲まれながら食後の散歩を済ませる。 今の話題は、僕がここに来たその日のこと。
つい最近聞いて知ったことだけど、僕はあの時、実はかなり危うい状態だったらしい。
本来この地に生まれる神は籠り家のすぐそばに出現するものなのだそうだ。
出現した神はなるべく早くあの白い布で捕まえないといけない。 そうしないとあの靄状の肢体はどんどん失われていき、最後には消え去る。
さらには捕まえた後もけして安心はできず、形容がちゃんと人と同じになってからではないと、安定しない。
だからこそ、皆本当に焦っていたのだ。
僕があんな籠り家から離れたところに出現したせいで、神官がなかなか発見できず、ロエナが僕を見つけたとき、ロエナの目に僕は穴だらけに見えたそうだ。
まあ要するに、僕はこの今の姿になったあの瞬間まで、いつ消滅してもおかしくない状態だったわけである。
そのせいか何なのか、神官たちがとにかく過保護でいけない。 どこに行くにも何人もぞろぞろと着いてくるから動きにくいのだ。
そしてこの揺り籠に来て五日。 そう、早五日になるのだが、何もすることが無い。
暇で暇で仕方が無いのだ!
なにせこの揺り籠には何もない、この家以外は小川がちょっと流れているくらいで、その小川にだって近づこうとすれば危ない、まだ未熟な身体だから、といけません攻撃が始まる。
つまらない。
「ねぇ、川に遊びに行っちゃだめ?」
「フェルガ……許可を出したら初日に足を滑らして頭を打った上にそのまま気絶して流されかけていたではありませんか……」
「ちょっとはしゃいじゃっただけだよ! あんな恥ずかしい失敗もうしないもん……多分」
「お気持ちは分かりますがせめて一の羽化が済んでからになさいましょう、その体は幼すぎるのですよ」
羽化。これが来ないのが一番の問題だ。
神として完全なものになるために何段階かに分けて起こる身体の成長と記憶の回顧だというのは、実は初日に教えてもらった。 その時に一回目の羽化は大体誕生から、三日以内に始まるというのも一緒に聞いている。
何段階あるかはその神の力の強さで変わり、下位の神なら大抵二回、中位なら三回、高位になれば五回ほどらしい。
ロエナ曰く、僕は高位の神であることは確かなので五回、おそらくはそれ以上になるとのことで。
つまりはそれだけ長い期間、この揺り籠に籠っていなければならないということになる。
ただ一回目の羽化を済ませてしまえば、やれることが格段に増えるのだ。
例えばこの何もない空間に、自身の過去から回想されるものを作り出すことなんかも出来るようになる。
森や山を作り出せば、自然とそこに生物が生成されることが多いそうだ。
多分、それを作り上げた自身の記憶では、それらがいるのが当然だからそこが反映されるのだろう。
そうして出来た遊び場で、力の使い方を学んだり、感覚を取り戻したりする。
ちなみに羽化が終わっただけではまだ神として完全体とは言えない。
羽化が終わってようやく覚醒が始まり、それが終わってやっと一人前として認められる。
その時にはここは揺り籠ではなくその神の神域となり、形成するための魔力源も主神のものではなくその神自身の物へ変更される。
「もう五日も居るのに羽化が来ないんだよ? 僕ちゃんと羽化するのかなぁ」
「まだ五日しかいらっしゃらないんですよ、そんなに急いで大人にならないで下さいませ」
「でもフェルガの気持ちもわかります、本当に何にもないですからね、ここ」
ロエナの後に続いたのはガラハ、あまり数の多くない男性の神官のまとめ役だ。
ちなみに女性の神官のまとめ役はロエナである。
男性神官の多くはある程度武に長ける。 もっとも神官全てに神通力という少し魔法と違うけれども似たような力が与えられているが。
そのため彼らは僕の護衛もこなすのだ、まあ今は、その脅威なんていうのも無い。
「少し早いですが門を開けますか?」
「ガラハ神官! 軽率なことをおっしゃらないで下さいませ! 羽化を迎えていない高位に値する神の神域の門を開くなど」
「門?」
ロエナと僕の口が開くのはほぼ同時だった。
興味を持った様子の僕を見て、ロエナはキッとガラハを睨む。
その後僕のことを見て、その場に膝を付き僕の肩にそっと手を乗せると、真剣な顔をして言う。
「フェルガ、お気持ちは分かります。 もちろん、もしフェルガが門を開きたいと仰るならわたくしたちはそれに従いますわ、フェルガの希望を叶えるのがわたくしたちの存在意義ですもの……ですがわたくしは反対でございます。 当然この地でフェルガに――」
「ロエナ神官、そんなつらつら言葉を並べてもまずは説明をしないと……フェルガがポカンとしてるだろう」
「……いやですわ、わたくしったら。 申し訳ありませんフェルガ」
大丈夫、と落ち込むロエナをなだめながらも、改めて門というものについての説明を求めた。
ロエナとガラハは一度顔を見合わせ、しばしの逡巡の後にロエナが口を開いた。
「まあ、お言葉ですけどガラハ神官も後ろで泣いていましたよ! わたくしだけが泣き虫みたいな言いようはやめてくださいませ!」
数人の神官に囲まれながら食後の散歩を済ませる。 今の話題は、僕がここに来たその日のこと。
つい最近聞いて知ったことだけど、僕はあの時、実はかなり危うい状態だったらしい。
本来この地に生まれる神は籠り家のすぐそばに出現するものなのだそうだ。
出現した神はなるべく早くあの白い布で捕まえないといけない。 そうしないとあの靄状の肢体はどんどん失われていき、最後には消え去る。
さらには捕まえた後もけして安心はできず、形容がちゃんと人と同じになってからではないと、安定しない。
だからこそ、皆本当に焦っていたのだ。
僕があんな籠り家から離れたところに出現したせいで、神官がなかなか発見できず、ロエナが僕を見つけたとき、ロエナの目に僕は穴だらけに見えたそうだ。
まあ要するに、僕はこの今の姿になったあの瞬間まで、いつ消滅してもおかしくない状態だったわけである。
そのせいか何なのか、神官たちがとにかく過保護でいけない。 どこに行くにも何人もぞろぞろと着いてくるから動きにくいのだ。
そしてこの揺り籠に来て五日。 そう、早五日になるのだが、何もすることが無い。
暇で暇で仕方が無いのだ!
なにせこの揺り籠には何もない、この家以外は小川がちょっと流れているくらいで、その小川にだって近づこうとすれば危ない、まだ未熟な身体だから、といけません攻撃が始まる。
つまらない。
「ねぇ、川に遊びに行っちゃだめ?」
「フェルガ……許可を出したら初日に足を滑らして頭を打った上にそのまま気絶して流されかけていたではありませんか……」
「ちょっとはしゃいじゃっただけだよ! あんな恥ずかしい失敗もうしないもん……多分」
「お気持ちは分かりますがせめて一の羽化が済んでからになさいましょう、その体は幼すぎるのですよ」
羽化。これが来ないのが一番の問題だ。
神として完全なものになるために何段階かに分けて起こる身体の成長と記憶の回顧だというのは、実は初日に教えてもらった。 その時に一回目の羽化は大体誕生から、三日以内に始まるというのも一緒に聞いている。
何段階あるかはその神の力の強さで変わり、下位の神なら大抵二回、中位なら三回、高位になれば五回ほどらしい。
ロエナ曰く、僕は高位の神であることは確かなので五回、おそらくはそれ以上になるとのことで。
つまりはそれだけ長い期間、この揺り籠に籠っていなければならないということになる。
ただ一回目の羽化を済ませてしまえば、やれることが格段に増えるのだ。
例えばこの何もない空間に、自身の過去から回想されるものを作り出すことなんかも出来るようになる。
森や山を作り出せば、自然とそこに生物が生成されることが多いそうだ。
多分、それを作り上げた自身の記憶では、それらがいるのが当然だからそこが反映されるのだろう。
そうして出来た遊び場で、力の使い方を学んだり、感覚を取り戻したりする。
ちなみに羽化が終わっただけではまだ神として完全体とは言えない。
羽化が終わってようやく覚醒が始まり、それが終わってやっと一人前として認められる。
その時にはここは揺り籠ではなくその神の神域となり、形成するための魔力源も主神のものではなくその神自身の物へ変更される。
「もう五日も居るのに羽化が来ないんだよ? 僕ちゃんと羽化するのかなぁ」
「まだ五日しかいらっしゃらないんですよ、そんなに急いで大人にならないで下さいませ」
「でもフェルガの気持ちもわかります、本当に何にもないですからね、ここ」
ロエナの後に続いたのはガラハ、あまり数の多くない男性の神官のまとめ役だ。
ちなみに女性の神官のまとめ役はロエナである。
男性神官の多くはある程度武に長ける。 もっとも神官全てに神通力という少し魔法と違うけれども似たような力が与えられているが。
そのため彼らは僕の護衛もこなすのだ、まあ今は、その脅威なんていうのも無い。
「少し早いですが門を開けますか?」
「ガラハ神官! 軽率なことをおっしゃらないで下さいませ! 羽化を迎えていない高位に値する神の神域の門を開くなど」
「門?」
ロエナと僕の口が開くのはほぼ同時だった。
興味を持った様子の僕を見て、ロエナはキッとガラハを睨む。
その後僕のことを見て、その場に膝を付き僕の肩にそっと手を乗せると、真剣な顔をして言う。
「フェルガ、お気持ちは分かります。 もちろん、もしフェルガが門を開きたいと仰るならわたくしたちはそれに従いますわ、フェルガの希望を叶えるのがわたくしたちの存在意義ですもの……ですがわたくしは反対でございます。 当然この地でフェルガに――」
「ロエナ神官、そんなつらつら言葉を並べてもまずは説明をしないと……フェルガがポカンとしてるだろう」
「……いやですわ、わたくしったら。 申し訳ありませんフェルガ」
大丈夫、と落ち込むロエナをなだめながらも、改めて門というものについての説明を求めた。
ロエナとガラハは一度顔を見合わせ、しばしの逡巡の後にロエナが口を開いた。
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