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こぽり。
こぽり。
水の音が耳の奥で反響している。
瞬きをした。
水中にいる。
ガラスでできた筒のようなもののなかに。 ああ、既視感があるな。 懐かしい。もうずっとずっと昔のことだけれど。
そうだ、私は前も、こうして生まれた。
あちこちに繋がれた管を見つめる。
手、足、首、頭……一体何の数値を量っているのだか。
ガラスを隔てた向こう側では白衣を身に纏った数名の研究者たちが慌ただしく駆けまわっている。
彼らもこの実験が成功するとは思っていなかったのだろう。
背後には私の同位体と思われる肉塊が積みあがっていた。
幼い子供として生まれた前世とは違いガラスに映る自分の姿は、死したときと何も変わらない。
そこで転がる同位体と、まったく同じ顔。
どうやらその一つに魂が滑り込んだらしい。
前世の時は、一万近い実験体の中で人の形までもっていけたのは私だけだった。
忌々しいことに、奴らの科学技術は大分進歩しているようだ。
そのおかげで私は今こうしてこの世界に戻って来られたわけだが……感謝などすべきでは無いだろう。
変わらない。
何一つ変わらないな、この者たちは。
相変わらず人道など存在しないのだ。
勢いよく体に突き刺さる管を抜く。
裂けた傷口から血液が流れだしガラスの筒の内部に満ちていた液体を赤く染めた。
僅かな痛みと燃えるような怒り。
怒りに呼応して蠢く魔力を抑える事なく膨張させる。
圧倒的なまでの強大な魔力に、内側からの圧に耐えきれずにガラスが破裂し、弾け飛んだ。
降り注ぐ破片を浴びながらゆっくりと歩き出す。
一歩足を踏み出すたびに、足元でぴちゃりと音がしていた。赤い雫が跳ねて、床の色を変えていく。
私が歩く度に床に広がった赤黒い染みが大きくなっていく。それはまるで血の池のようだった。
私の歩みに合わせて広がる波紋と、広がっていく水面を見ながら再度思った。
潰す。
この研究所は、潰し尽くす。
跡形も残らぬほどに。
思えばここを、私の母体となった星の子の遺物を残したまま死したことは最大の過ちだった。
あの時、せめて全てを破壊しておけばよかったのだ。この光の大陸の人間がこうして再び星の子という兵器の再現を成功ことは想像できたのだから。
たとえどれほどの時間と費用を費やそうとも、奴らは執念だけでそれを成すと、わかっていたのだから。
腕を振るだけで壊滅してく研究所を無感動に見渡す。
もはや原形が分からないほどぐちゃぐちゃになった何かを踏み越え進んだ。
施設内にいた研究員たちは誰一人として逃すことなく全て屠ると決めていた。
技術を持つものを後世に残すわけにはいかない。
目的の遺物は研究所の最奥部にある。そこにある物が実際どんな形をしているのかは分からない。
けれどクローンを作り出せるということは少なくとも遺伝子を採取することが出来るものであるはずだ。
おそらくは人体の一部であると考えている。とにかく、それを回収することが出来ればひとまずのここでの目的は遂げることとなるのだ。
「ライル、ダイアン、ルカ……ちょっとだけ、待っていてね」
三人の名を呼び、ぎゅっと手を握る。
本心を言えば、三人にとって、私という存在がすでに過去の人になっている可能性に怯えてもいた。
あれからどれだけの月日が経っているのかわからないが、今更会いに行って、迷惑がられる不安があった。
それでも、それでも遠目からでも見たかった。
あの子たちの成長した姿を。考えるのなんて、その後からでも十分できる。
生前の私は、少しいろんなことを考慮しすぎていたんだ。
だから、戻ってきた今、少しくらい自分の心に素直に、我儘になってもいいだろう。
あの子たちのために、ではなく。
私があの子たちに会いたいから、動くだけ。
それで拒絶されたならそれはそれで仕方が無い。それだけの傷をあの子たちの心に付けた自覚もある。
だけどもし会えたのなら、その時はきっと謝罪しよう。そして、許されるなら傍にいよう。
そんな決意をしながら長い廊下を歩いていた時だ。
背後から凄まじい殺気を感じ咄嗟にその場から飛び退く。
先ほどまで立っていた場所に巨大な鉄の塊が突き刺さった。
「……ッ!」
その塊が飛んできた方向へ目を向け思わず息を飲む。
人型を保っていない肉の塊。おぞましき異形の姿をしたかつて人であったモノがそこにいた。ぐちゅり、ごきり、ばしゃっ、べちょり。
不快な音を立てながらこちらへ向かってくるそれに、背筋が凍るような感覚を覚えた。
「……大陸を渡る前に保険で自身にかけた崩壊の呪いが功を成したか……実際に見ると良い気分はしないな」
「カ……えリ…タ……」
「……還ると良い、お前の望む、この星へ」
私の言葉に反応するかのようにソレは腕を振り下ろしてきた。その巨体からは考えられないほどの素早さだったが難なく避けることが出来る程度の攻撃でしかない。
軽く受け流してから距離を取るために後方へと飛ぶ。
哀れだと思った。
あれはもはや人では無く、化け物と呼ぶにふさわしい存在だ。
私の細胞を体に取り入れる選択をしたのはあのもの自身、自業自得と言ってしまえばそうなのだが。それでもあのように醜悪な姿になり果ててしまうとは、本人も思っていなかっただろう。
こぽり。
水の音が耳の奥で反響している。
瞬きをした。
水中にいる。
ガラスでできた筒のようなもののなかに。 ああ、既視感があるな。 懐かしい。もうずっとずっと昔のことだけれど。
そうだ、私は前も、こうして生まれた。
あちこちに繋がれた管を見つめる。
手、足、首、頭……一体何の数値を量っているのだか。
ガラスを隔てた向こう側では白衣を身に纏った数名の研究者たちが慌ただしく駆けまわっている。
彼らもこの実験が成功するとは思っていなかったのだろう。
背後には私の同位体と思われる肉塊が積みあがっていた。
幼い子供として生まれた前世とは違いガラスに映る自分の姿は、死したときと何も変わらない。
そこで転がる同位体と、まったく同じ顔。
どうやらその一つに魂が滑り込んだらしい。
前世の時は、一万近い実験体の中で人の形までもっていけたのは私だけだった。
忌々しいことに、奴らの科学技術は大分進歩しているようだ。
そのおかげで私は今こうしてこの世界に戻って来られたわけだが……感謝などすべきでは無いだろう。
変わらない。
何一つ変わらないな、この者たちは。
相変わらず人道など存在しないのだ。
勢いよく体に突き刺さる管を抜く。
裂けた傷口から血液が流れだしガラスの筒の内部に満ちていた液体を赤く染めた。
僅かな痛みと燃えるような怒り。
怒りに呼応して蠢く魔力を抑える事なく膨張させる。
圧倒的なまでの強大な魔力に、内側からの圧に耐えきれずにガラスが破裂し、弾け飛んだ。
降り注ぐ破片を浴びながらゆっくりと歩き出す。
一歩足を踏み出すたびに、足元でぴちゃりと音がしていた。赤い雫が跳ねて、床の色を変えていく。
私が歩く度に床に広がった赤黒い染みが大きくなっていく。それはまるで血の池のようだった。
私の歩みに合わせて広がる波紋と、広がっていく水面を見ながら再度思った。
潰す。
この研究所は、潰し尽くす。
跡形も残らぬほどに。
思えばここを、私の母体となった星の子の遺物を残したまま死したことは最大の過ちだった。
あの時、せめて全てを破壊しておけばよかったのだ。この光の大陸の人間がこうして再び星の子という兵器の再現を成功ことは想像できたのだから。
たとえどれほどの時間と費用を費やそうとも、奴らは執念だけでそれを成すと、わかっていたのだから。
腕を振るだけで壊滅してく研究所を無感動に見渡す。
もはや原形が分からないほどぐちゃぐちゃになった何かを踏み越え進んだ。
施設内にいた研究員たちは誰一人として逃すことなく全て屠ると決めていた。
技術を持つものを後世に残すわけにはいかない。
目的の遺物は研究所の最奥部にある。そこにある物が実際どんな形をしているのかは分からない。
けれどクローンを作り出せるということは少なくとも遺伝子を採取することが出来るものであるはずだ。
おそらくは人体の一部であると考えている。とにかく、それを回収することが出来ればひとまずのここでの目的は遂げることとなるのだ。
「ライル、ダイアン、ルカ……ちょっとだけ、待っていてね」
三人の名を呼び、ぎゅっと手を握る。
本心を言えば、三人にとって、私という存在がすでに過去の人になっている可能性に怯えてもいた。
あれからどれだけの月日が経っているのかわからないが、今更会いに行って、迷惑がられる不安があった。
それでも、それでも遠目からでも見たかった。
あの子たちの成長した姿を。考えるのなんて、その後からでも十分できる。
生前の私は、少しいろんなことを考慮しすぎていたんだ。
だから、戻ってきた今、少しくらい自分の心に素直に、我儘になってもいいだろう。
あの子たちのために、ではなく。
私があの子たちに会いたいから、動くだけ。
それで拒絶されたならそれはそれで仕方が無い。それだけの傷をあの子たちの心に付けた自覚もある。
だけどもし会えたのなら、その時はきっと謝罪しよう。そして、許されるなら傍にいよう。
そんな決意をしながら長い廊下を歩いていた時だ。
背後から凄まじい殺気を感じ咄嗟にその場から飛び退く。
先ほどまで立っていた場所に巨大な鉄の塊が突き刺さった。
「……ッ!」
その塊が飛んできた方向へ目を向け思わず息を飲む。
人型を保っていない肉の塊。おぞましき異形の姿をしたかつて人であったモノがそこにいた。ぐちゅり、ごきり、ばしゃっ、べちょり。
不快な音を立てながらこちらへ向かってくるそれに、背筋が凍るような感覚を覚えた。
「……大陸を渡る前に保険で自身にかけた崩壊の呪いが功を成したか……実際に見ると良い気分はしないな」
「カ……えリ…タ……」
「……還ると良い、お前の望む、この星へ」
私の言葉に反応するかのようにソレは腕を振り下ろしてきた。その巨体からは考えられないほどの素早さだったが難なく避けることが出来る程度の攻撃でしかない。
軽く受け流してから距離を取るために後方へと飛ぶ。
哀れだと思った。
あれはもはや人では無く、化け物と呼ぶにふさわしい存在だ。
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