ストーンエイジ

文屋 たかひろ

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特級事項

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 会議の後、数日でその時の内容がマスコミに報じられた、勿論全ての事項ではなく、
主に自然災害にあたるものだった、杉崎にはその理由がすぐに分かった。

政治的な事項は内々に処理されて表面化されることはなく、一般に公表されたものも
会議であげられた話とは違く、真実が捻じ曲げられたものがほとんどだった。


 9月某日
杉崎にとっては2回目になる会議に召集されていた、見回すと、前回と同じ面々に杉崎はなぜか安堵した。

「どうだった?お変わりありませんか?」
真っ先に話しかけてきたのは金本だった。

「見ての通りだ」と軽くうなずきながら着席した。杉崎は、しかしよく話すやつだと、やはり金本の事を好きにはなれないと思っていた。

 前回と同じように、進行役が大臣に耳打ちをした後、やはりマイクを使わずはっきり

「2025年10~12月期。リーチによる報告及び対策会議を始めます。リーチの皆様は、お手元のタブレットで、日時、座標、主要関係者、内容、可能であれば対象となる建造物、被害額と波及する事柄、最後に対策を案内に従い記入してください」。

と言うと、皆タブレットを手に取り、それぞれが受けた啓示の内容を打ち込んでいった。

 杉崎が受けた啓示は、環境保護団体によるデモ活動(原子力エネルギーに対する抗議)と金属加工工場から河川に流出した汚染物質、一定以上の損害が見込まれるハッキングと企業の情報流出などがあった。

タブレットにこれら全てを記入した後、周りを見回すと自分以外の皆はまだ入力を終えていないようだった、いつもうるさい金本もタブレットを手にしている時は真剣な表情だった。

それから少し経つと、進行役の男が見回しながら切り出した。
「それでは皆様よろしいでしょうか?よろしければ確認へと移ります」。

前回同様、一人ひとり報告内容の確認が進む中、杉崎はある違和感と周りの空気の違いに気が付いていた。が、進行役はそれを無視するかのように確認を進めていく、他の者達は淡々とその質問に答えていった。

そして、やはり最後であった杉崎への質問が終わると、進行役の男が立ち上がり話し始める。

「本日の報告内容は、以下の通りです。
報告者への追加聴取を必要とする、特級事項が1件
1級事項は2件で軍事上層部による緊急対策会議を必要とするものは無し。
2級事項は57件
3級事項は波及の可能性も含めた、継続監視対象も含めて143件
計203件、以上。

「大臣、何かありますか?」
「ありません、ご苦労さま」

 この結果を聞いて動揺を隠せないのは杉崎だけだった、もし他に動揺してる者がいたとしても、この場で、それを表に出して取り乱すような者は居なかっただけなのかもしれない。

杉崎は思わず、
「特級事項なんて無かっただろ!そんな内容、確認の段階で出てきてなかったろう!?」苦手な金本に問いかけてしまった。

 金本は全く動じない素振りで杉崎の顔を一瞥した、ゆっくりと首を横に降った後、丁度二人の座る席とは反対側の、一番遠い席をじっと見つめた。
杉崎はその椅子に目をやると、やはり背もたれが邪魔してよく確認出来なかったので見える位置まで移動した。

すると、驚くべき光景が杉崎の目に飛び込んできた。
なんとさっき一緒に部屋に入り、共に会議をしていると思っていたサラリーマン風の男が、目と耳から血を流して死んでいたのである。
離れた位置から見てもはっきりと分かる、
顔面は青白く、椅子の肘掛けを握る手はレザーを引きちぎらんとばかりに強く握られていて、そこから全く動く気配も無く事切れている。
動揺し、その場に立ち尽くした杉崎の脇を通って皆が部屋を後にする、金本が杉崎の肩をたたき、「あれじゃ問答はできねぇ」そう耳元でささやくと、そのまま杉崎の背中を押してトイレに向かうように合図をした。

 トイレに入ってもまだ、杉崎は動揺を隠せず、恐怖と怒りが混じった声で。

「全く理解できない、なんで誰一人、何も言わないんだ?特級事項の事だって人が死んだことだって異常じゃないのか?」

「異常だよ、だが何も変わらない、騒いだところで何か変わるものでもない」

金本が杉崎をなだめるが、いつもの不真面目な態度ではなかった。
金本は、深く呼吸をすると、こう話し始めた。
「おまえ、ウルチエウイルスって知ってるか?ここ2~3年のうちに多くの死者を出している、クラスターは勿論、人からの感染も無いと言われている。それゆえ全容が全く明らかになっていない、だがその死者数は確実に増えていて、各国が血眼になって原因を調査している」。

「さっきのがそれだって言うのか?」

「それはわからない、が、ひとつ確かなのは。特級事項がある時は必ず今日みたいな悲劇が起こるんだ。
俺が召集されはじめてから会議中だけでもう今日で4人目だ。2年もたたずに4人だぞ、いい加減慣れちまった、他のやつらもみんなそうだ・・」。

「あの部屋で人が死ぬなんて、どう考えても防衛省の奴らが関係してるとしか思えない、それに見たろあの態度、少なくとも俺達より先に人が死んだことは知っていたはずだ。
それなのに、」

「まあお前がどんなふうに思うかは勝手だが、あまり深く首を突っ込むな、国の奴らが何を考えてるのかはわからん、どこで奴らの機嫌を損ねるかわからないからな。それにおれたちは監視されている、ここだって安全なわけじゃない」。

「そ、そうだな、君に当たったところで状況は変わらない、たしかに、うん」。

落ち着きを取り戻した杉崎は、金本の存在は自分にとって唯一である事をこの時すでに理解していた。

自分の知りたいと思う情報を、先回りして教えてくれる金本に対して、僅かでも頼りにしているところがあったのだ。

 杉崎は防衛省から出ると、最寄りの駅までの道すがら、通りの先にある路地を抜けたところに、人だかりと消防車があり、さらにその先にある雑居ビルで火災が起きているのがわかった、少しの間それを眺めたあと、何か気が付いたように小さく二度ほどうなずいて、「なるほど、だから6階なのか」とつぶやいた。
火災現場では、消防が6階建てのビルの屋上にはしごを架けていた。

18階建の防衛省で、国家機密クラスの会議がなぜ
上層階ではなく、6階なんて半端な所にあるのか、
気になっていた事がひとつ解けると、再び歩き出した。
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