ストーンエイジ

文屋 たかひろ

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コールサイン

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 コールサイン

    金本が亡くなった直後、杉崎の携帯電話から呼出音が鳴り始めていた。
杉崎はしばらくはそれを無視していたが、
ようやく電話を手に取り着信画面を見ると
「防  星野」と表示されていた。

(防)は防衛省を省略したもので、見る者によっては推測はたやすかったが、もはや杉崎の周りにはその詳細を探ろうとするものが居なかった為、この程度の対策で十分だった。

電話をかけてきた星野は、防衛省防衛政策局の次長であり、防衛省とリーチを繋ぐ窓口の役割も果たしている人物である。

特命でこのポストに配置されたと話す者も居たが真実は明らかではない。
そして、最初に金本と接触した防衛省関係者でもあり良き理解者でもあった。

   杉崎が電話に出ると
「星野です。もう少し早く電話に出てください、次回の日時が決まりました、12月19日、時間は前回と同様です」

と杉崎の返事も待たずに話し出した。
杉崎が返す、

「金本が死んだ」
「知ってます」。

少しの間を置いて星野が、
「あと1時間程でそちらに着きますので、そちらでお待ちください、では」。と言って電話を切った。

 間もなくして、警察と消防がけたたましいサイレンを響かせ港に集まってきた、普段なら気にならないサイレンの音が、今の杉崎にはわざとらしく聞こえて、さらに彼の心を苛立たせる。

本来、警察署での事情聴取があってしかるべき出来事なはずが、現場での聴き取りのみであっさり解放された、おそらく防衛省からの根回しがあっての事だろう。

そう思いながら、漁港に面した県道を見上げると、星野が車から降りて煙草に火を着けているところだった。

杉崎は金本に渡されたメモを見た後、星野の所へと歩き出した。

 金本のメモには、弟に会いに行けという事と、アマチュア無線のコールサインと周波数のようなものが書かれていた。

星野にその事を伝えると金本の弟の家に車を走らせた。
弟の家は港から内陸に入った山の中にあった、チャイムを押して出たきた弟は、兄の死を悟ったかのように二人をみて一度うつむき2,3秒置いた後、家中に招き入れた。

家の中は釣りの道具が散乱しており、その中に金本と両親の写真たてだけが奇麗に並べてあるのが印象的だった。
「兄はあなたたちが来たときは力を貸してやってくれって言っていました。こんなに早く来るとは思っていませんでしたが、、」

杉崎が「申し訳ない、どうすることもできなかった、あなたは僕たちが金本とどういう関係かご存じなのですか?」と弟に尋ねた。

「はい、リーチの話はここ1年よく兄から聞いていました、 ああ、ここは特殊な装置を使って、小さな話し声くらいだったら盗聴できなくしているんです、厳密にいうとノイズを出して邪魔をするくらいの簡単な仕組みですが、、」

と言いながら無線機の埃をはらって電源をいれた。情報流出を止めるべく立場である星野は苦笑いしながら、杉崎と目を合わせて気まずそうな顔をした。

その間も、本当に金本と打合せしたかのように、無線機を使う準備を淡々と進めている。

杉崎はメモを弟に渡すと、弟は心を落ち着かせるようにまた、うつむいた。そして
「兄はこうなることをわかっていました、いずれ自分の番がくる、そうなるくらいなら自分から動いてやるって言っていました。」
というと、無線の周波数をメモの通りに合わせた。

「CQ、CQ、CQ こちらはJA1DQX ジュリエット、アルファ、ワン、デルタ、ケベック
、エックスレイ お聞きの方はいらっしゃいますか?
 CQ、CQ、CQ、こちらはJA1DQX ジュリエット、アルファ、ワン、デルタ、ケベック
、エックスレイ お聞きの方はいらっしゃいますか?」

少しの沈黙の後、

「JA1DQX、聞こえるぞ、金本じゃないのか?ああ、まったく、ばかたれめ」

あなたは?と弟が尋ねると「申し遅れました、私は近江、近江七瀬と申します」と言った
「はじめまして近江さん、僕は金本の弟です。お声がけありがとうございます」
こうやり取りしているすぐ横で、星野は驚きのあまり言葉を失っていた。

それに気づいた杉崎が、「どうした?」と尋ねると星野は

「近江は、近江七瀬は初代デジタル庁の立ち上げメンバーであり、現役のリーチだ」と言った。


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