【完結】悪霊?令嬢(人間)でも幸せになれますか?~立場を妹に奪われ見えない私と見えない騎士~※R18

かたたな

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終えた使命と終えられない使命。【スヴァイン視点】

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 「スヴァイン様、今日は夜の王都を歩いてみませんか?」

 ベッドに横たわり、真っ白で見えない空間に耳を澄ませていると控えめにそう話しかけてくる若い騎士。
 仲間と言うよりは以前の自分を慕ってくれている新人。

 以前の自分は騎士として誇りを持ち、常に努力を積み重ね王族からの信頼を得て近衛騎士となった人間だったから新人からすると1つの目標となるのかも知れない。
 
 でも、今ここに新人騎士達が憧れる様な自分は存在しない。
 ポッカリと抜け落ちた様に何の意欲も湧かない自分しか残っていなかった。

 王都を歩いた所で何にもならないが、気分転換のつもりだろう。暇ではあったし、善意を断る事も面倒でベッドから起き上がった。

 「あぁ、少しなら。」

 そうして若い騎士の肩に手を置き外へ散歩に出掛けた。先導する騎士の話を聞いて適当に相槌をうつと若い騎士の考える事が分かってきた。

 前の様に騎士らしく、皆の見本となる存在でいて欲しいと言う。

 (何故、終わらせてくれない。)

 自分の中で終わった事なのに終わりに出来ない。早く楽になりたい。そんな底無し沼に落ちた様な感情に体が侵食されて囚われる。そのまま騎士の言葉を聞き流しながら現実逃避をする様に過去の記憶で頭をいっぱいにした。


 ◆◆◆


 深い傷を負い、国王陛下襲撃事件を阻止したと確信した時。「俺の役目は終わった。俺はこの日、国王陛下を護るために居たんだ。」と、ただそう思った。

 次に目を開けると何も見えなかったがどこかのベッドの上だと分かった。自分が生きている事に喜びより不思議な気分で・・・。

 (俺にまだ役目があると言うのか?)
 
 目を開けた所で真っ白な空間しか見えない。こんな俺に残された使命は何だ?
 ベッドから上半身を起こした事で周囲が騒がしくなる。聞き慣れた者達の声。暫くしてパタパタと軽やかな足音が近づいて来た。

 (この足音・・・)

 この軽い足音は女性だ。負傷者が意識を取り戻した時、呼ばれる人間と言えば家族か婚約者。俺に家族は居ないから婚約者が来たのかもしれない、そう思うと胸がドキリとした。

 (そうか、俺には婚約者が居る。彼女の為にまだ生きろと言う事なのかも知れない。)

 そう思い、見えなくても音のする方へと顔を向ければパタリと足音が止まった。

 「スヴァイン、様・・・」

 震える婚約者の声。こんな声を俺はよく知っている。近衛騎士では無かった頃、魔物の討伐から帰った時に友人の婚約者が安堵して抱き締めた喜びの声ではない。

 この声、トゲトゲと肌に感じる空気。

 パーティーで護衛を勤めていると男女問わず希にこんな空気を発する人達に遭遇する。

 相手を完全に拒否する空気。
 
 社交辞令でも踊るのは嫌だと相手を拒否するトゲトゲとしたもの。そんな人達の包み隠さない態度を嫌っていた。


 だから。


 「来てくれてありがとう。だけど俺には君を幸せにする力が残されて無いみたいだ。後日、君のご両親と話がしたい。そう伝えてくれないか。」

 沈黙があまりにも苦しくて、早くこの時間を終わりにしたくて婚約者にそう言っていた。もし愛という物が存在したなら「そんな事ない。」と言ってくれるのだろうけど、彼女は「分かりました。」と一言。

 俺自身にも「君のために頑張るから婚約を続けて欲しい」と言うような気持ちが湧かなかった。

 婚約者を決めたのも仕事が忙しくて選ぶのが面倒だったから「来た縁談の中で一番評判の良い子」程度の理由。そんなだから思い入れも無い。忙しい合間に顔を合わせても婚約者の話に相槌をうつのが精一杯で彼女が話したい事を話したら終わりという関係だった。

 後日、婚約者の家で素直な気持ちを話せば婚約破棄がトントン拍子で決まる。


 (婚約者ではないなら、俺の生きる意味は何なのだろう。)

 部屋に戻ると、同行してくれた同僚に礼を言って一人になる。手探りでベッドを探して寝転がるとハァーと深いため息が漏れる。

 親を知らず、孤児院で育った。孤児院を出てから騎士になるために訓練に明け暮れる。後に施設の人間から貴族の血筋だと知らされ、色々と相続する事になったと一方的に話される。

 俺なんか迎え入れられる筈がないと思いながらも、施設からの勧めと自分の血の繋がりがある人間に興味があって足を運べば、王都でも有名な幽霊屋敷だった。

 人の血を飲んで生きている、とか、主人は悪霊に魅入られてる。とか全ての怖い噂がここに有るような所。

 しかし、会ってみれば気さくで面白い事が好きな祖母。推理小説が大好きで、そのトリックが本当に出来るのか?と仕掛けや状況を検証していたらこんな怪しい屋敷になったと笑っていた。

 「死ぬ前にお前に会えて、話ができて良かった。娘によく似ているわ。」
 
 そう言って抱き締めてくれた温もりは今でも忘れられない。
 こうなった経緯を聞けば、祖父が無理矢理婚約者を連れてきて反発した母が家出し、それを祖母も手助けしたそうだ。しかし急に連絡が取れなくなったと。
 暫く捜索を続けてみれば、俺だけ孤児院に預けられていると知ったそうだ。
 そこで屋敷に招いても叔父が勝手に無理な結婚を押し付けるだろうと孤児院に援助しながら時期を伺っていた祖母。祖父が亡くなり、やっと迎える事が出来たと苦笑いしていた。血にこだわりがあり、養子も受け入れない頑固な祖父だったそう。

 「それでも私はあの人が好きだったから生活出来たけれどね?他の家族にあの頑固者はキツいと思うわ。」

 そんな風に軽く笑う祖母を見て、嫌われ者でも一人に愛された祖父が少し羨ましく思った。
 
 その後、祖母が亡くなるまでの僅かな時間を沢山貰い看取る事が出来た。


 ◆◆◆


 「スヴァイン様、酒場で喧嘩の様です・・・こちらで少々お待ち下さい。」
 「あぁ、気にせず行け。」
 「はっ!」

 その声に現実に引き戻された。
 喧嘩・・・か。酒場から聞こえる喧嘩の声に、酒を飲んで喧嘩するなんて元気だなと思った。
 酒なら楽しく平和に飲みたい。それなのに喧嘩をする者達を楽しんでいる声も聞こえる。

 「ここで暫しの間お待ちください。」
 「あぁ。」

 どこかに誘導されて言われたままにそこに立つ。それなのに何故か落ち着かない。背中がザワザワと誰か居る前に立つ居心地の悪さがあった。
 何故こんな所に誘導されたのか。そう思って背後に居るであろう人物に声をかければ。

  『わ、私は見えませんので・・・気になさらず。』

 そんな女性の声が聞こえた。
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