12 / 54
終えた使命と終えられない使命。【スヴァイン視点】
しおりを挟む「スヴァイン様、今日は夜の王都を歩いてみませんか?」
ベッドに横たわり、真っ白で見えない空間に耳を澄ませていると控えめにそう話しかけてくる若い騎士。
仲間と言うよりは以前の自分を慕ってくれている新人。
以前の自分は騎士として誇りを持ち、常に努力を積み重ね王族からの信頼を得て近衛騎士となった人間だったから新人からすると1つの目標となるのかも知れない。
でも、今ここに新人騎士達が憧れる様な自分は存在しない。
ポッカリと抜け落ちた様に何の意欲も湧かない自分しか残っていなかった。
王都を歩いた所で何にもならないが、気分転換のつもりだろう。暇ではあったし、善意を断る事も面倒でベッドから起き上がった。
「あぁ、少しなら。」
そうして若い騎士の肩に手を置き外へ散歩に出掛けた。先導する騎士の話を聞いて適当に相槌をうつと若い騎士の考える事が分かってきた。
前の様に騎士らしく、皆の見本となる存在でいて欲しいと言う。
(何故、終わらせてくれない。)
自分の中で終わった事なのに終わりに出来ない。早く楽になりたい。そんな底無し沼に落ちた様な感情に体が侵食されて囚われる。そのまま騎士の言葉を聞き流しながら現実逃避をする様に過去の記憶で頭をいっぱいにした。
◆◆◆
深い傷を負い、国王陛下襲撃事件を阻止したと確信した時。「俺の役目は終わった。俺はこの日、国王陛下を護るために居たんだ。」と、ただそう思った。
次に目を開けると何も見えなかったがどこかのベッドの上だと分かった。自分が生きている事に喜びより不思議な気分で・・・。
(俺にまだ役目があると言うのか?)
目を開けた所で真っ白な空間しか見えない。こんな俺に残された使命は何だ?
ベッドから上半身を起こした事で周囲が騒がしくなる。聞き慣れた者達の声。暫くしてパタパタと軽やかな足音が近づいて来た。
(この足音・・・)
この軽い足音は女性だ。負傷者が意識を取り戻した時、呼ばれる人間と言えば家族か婚約者。俺に家族は居ないから婚約者が来たのかもしれない、そう思うと胸がドキリとした。
(そうか、俺には婚約者が居る。彼女の為にまだ生きろと言う事なのかも知れない。)
そう思い、見えなくても音のする方へと顔を向ければパタリと足音が止まった。
「スヴァイン、様・・・」
震える婚約者の声。こんな声を俺はよく知っている。近衛騎士では無かった頃、魔物の討伐から帰った時に友人の婚約者が安堵して抱き締めた喜びの声ではない。
この声、トゲトゲと肌に感じる空気。
パーティーで護衛を勤めていると男女問わず希にこんな空気を発する人達に遭遇する。
相手を完全に拒否する空気。
社交辞令でも踊るのは嫌だと相手を拒否するトゲトゲとしたもの。そんな人達の包み隠さない態度を嫌っていた。
だから。
「来てくれてありがとう。だけど俺には君を幸せにする力が残されて無いみたいだ。後日、君のご両親と話がしたい。そう伝えてくれないか。」
沈黙があまりにも苦しくて、早くこの時間を終わりにしたくて婚約者にそう言っていた。もし愛という物が存在したなら「そんな事ない。」と言ってくれるのだろうけど、彼女は「分かりました。」と一言。
俺自身にも「君のために頑張るから婚約を続けて欲しい」と言うような気持ちが湧かなかった。
婚約者を決めたのも仕事が忙しくて選ぶのが面倒だったから「来た縁談の中で一番評判の良い子」程度の理由。そんなだから思い入れも無い。忙しい合間に顔を合わせても婚約者の話に相槌をうつのが精一杯で彼女が話したい事を話したら終わりという関係だった。
後日、婚約者の家で素直な気持ちを話せば婚約破棄がトントン拍子で決まる。
(婚約者ではないなら、俺の生きる意味は何なのだろう。)
部屋に戻ると、同行してくれた同僚に礼を言って一人になる。手探りでベッドを探して寝転がるとハァーと深いため息が漏れる。
親を知らず、孤児院で育った。孤児院を出てから騎士になるために訓練に明け暮れる。後に施設の人間から貴族の血筋だと知らされ、色々と相続する事になったと一方的に話される。
俺なんか迎え入れられる筈がないと思いながらも、施設からの勧めと自分の血の繋がりがある人間に興味があって足を運べば、王都でも有名な幽霊屋敷だった。
人の血を飲んで生きている、とか、主人は悪霊に魅入られてる。とか全ての怖い噂がここに有るような所。
しかし、会ってみれば気さくで面白い事が好きな祖母。推理小説が大好きで、そのトリックが本当に出来るのか?と仕掛けや状況を検証していたらこんな怪しい屋敷になったと笑っていた。
「死ぬ前にお前に会えて、話ができて良かった。娘によく似ているわ。」
そう言って抱き締めてくれた温もりは今でも忘れられない。
こうなった経緯を聞けば、祖父が無理矢理婚約者を連れてきて反発した母が家出し、それを祖母も手助けしたそうだ。しかし急に連絡が取れなくなったと。
暫く捜索を続けてみれば、俺だけ孤児院に預けられていると知ったそうだ。
そこで屋敷に招いても叔父が勝手に無理な結婚を押し付けるだろうと孤児院に援助しながら時期を伺っていた祖母。祖父が亡くなり、やっと迎える事が出来たと苦笑いしていた。血にこだわりがあり、養子も受け入れない頑固な祖父だったそう。
「それでも私はあの人が好きだったから生活出来たけれどね?他の家族にあの頑固者はキツいと思うわ。」
そんな風に軽く笑う祖母を見て、嫌われ者でも一人に愛された祖父が少し羨ましく思った。
その後、祖母が亡くなるまでの僅かな時間を沢山貰い看取る事が出来た。
◆◆◆
「スヴァイン様、酒場で喧嘩の様です・・・こちらで少々お待ち下さい。」
「あぁ、気にせず行け。」
「はっ!」
その声に現実に引き戻された。
喧嘩・・・か。酒場から聞こえる喧嘩の声に、酒を飲んで喧嘩するなんて元気だなと思った。
酒なら楽しく平和に飲みたい。それなのに喧嘩をする者達を楽しんでいる声も聞こえる。
「ここで暫しの間お待ちください。」
「あぁ。」
どこかに誘導されて言われたままにそこに立つ。それなのに何故か落ち着かない。背中がザワザワと誰か居る前に立つ居心地の悪さがあった。
何故こんな所に誘導されたのか。そう思って背後に居るであろう人物に声をかければ。
『わ、私は見えませんので・・・気になさらず。』
そんな女性の声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵令嬢は勇者への恩返しを試みる〜サブヒロインとして頑張ります〜
マロン株式
恋愛
公爵令嬢ユウフェには、ひとつだけ秘密がある。
――この世界が“小説の中”だと知っていること。
ユウフェはただの“サブヒロイン”で、物語の結末では魔王のもとへ嫁ぐ運命にある……はずだった。
けれどーー
勇者の仲間、聖女、そして魔王が現れ、〝物語どおり〟には進まない恋の三角関係(いや、四角関係?)が動き出す。
サブヒロインの恩返しから始まる、ほのぼの甘くて、少し切ない恋愛ファンタジー。
◇◇◇
※注意事項※
・序盤ほのぼのめ
・勇者 ✖ サブヒロイン ✖ 魔王 ✖ 巫女(?)の恋愛模様
・基本はザマァなし
・過去作のため、気になる部分あればすみません
・他サイトと並行改稿中のため、内容に差異が出る可能性があります
・設定ゆるめ
・恋愛 × ファンタジー
ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい
藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。
現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。
魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。
「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」
なんですってー!?
魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。
※全12万字くらいの作品です。
※誤字脱字報告ありがとうございます!
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる