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お友達。
王都の街並みを抜け、ようやくマルーナさんの屋敷に辿り着いた。
「おー!!来たか。見ろよコレ!大量!」
門のすぐそこ。
屋敷の敷地へ少し足を踏み入れた場所で、ゼインは無邪気な笑顔で叫んだ。
そのゼインが薄着だったのもあり「全裸だったんだな…」なんて狩人の事情を察した。
キラキラと輝く魔物の核が、山のように積まれた木箱が足元にある。瓶には生け捕りにした液状の魔物が揺らめき、不気味に光っていた。ゼインは、私たちより先に屋敷に到着したマルーナさんの家族や使用人たちに戦いの顛末を説明し終えたところらしい。
「あのように、魔物の核を嬉しそうに見せて下さるところ。リーシュ様にそっくりですわね。」
「えー…」
私は昨晩、あんな風に魔物の核をマルーナさんに見せていたのか…と思うと複雑な気分。
すると、マルーナさんは、優雅な足取りでゼインの前に進み出て、静かに立ち止まった。彼女の瞳は、感謝と尊敬の光で輝いている。
「ゼイン様、本当に……心から感謝しております。私の家族を、救ってくださいました。私のできることなら、どんな報酬でもお申し付けください。」
マルーナさんがそう言うと、「いいえ私たちからも。」と、彼女の両親もゼインの前へ出る。そんなお礼ムードに、少し戸惑いながらも、ゼインはいつものようにニカッと笑って言う。
「じゃー、これからもリーシュと仲良くしてやってくれ。」
「…?それで…よろしいのですか?」
「あー、もしリーシュが嫌になったら、困った時に手助けするくらいでもいいし。」
「私が嫌われること想定しないでよ。悲しいから。」
マルーナさんはとても驚いていた。そしてゼインの笑顔に見惚れているようにも見えた。
「これでも兄として心配してんだ。マルーナちゃんみたいに、しっかりした子がいたら助かる。俺ら狩人はそうそう王都には来ないからな。」
「ゼイン…」
素直に感動の気持ちが沸き上がる。
「そーだ、コレ。マルーナちゃんにやるよ。これが今回の親玉の核だ。」
それを差し出され、困るマルーナさん。しかし、ゼインは真剣な表情で言う。
「コイツが、マルーナちゃんの未来を奪うはずだったヤツの核だ。だが、これからはコイツが君を守る。そんな魔法付与しといたからさ。こき使ってやれ。」
マルーナは驚いたように目を瞬かせていた。彼女の視線がゼインの笑顔に留まる瞬間、その瞳にはほのかな憧れのようなものが浮かんでいるように見える。
ゼインのこの無邪気な優しさは、いつも周りの人を惹きつける。彼は誰にでも分け隔てなく接するから、女の子たちに勘違いされることもしばしば。
実際、ゼインはすぐに彼女ができても、特別扱いしないせいでモヤモヤした彼女に振られることが多い。
そして、それをあっさり受け入れるものだから、私にはいつも彼女たちからの愚痴が降りかかってくる。
マルーナさんの白い指が、震えながらその核を受け取る。彼女の頬はほんのりと赤らみ、いつもは落ち着いた貴族の令嬢らしい雰囲気が、少しだけ乱れていた。
「じゃ、残りを早速売ってくるか!!売った代金は報酬として貰ってもいいよな!」
「もちろんですわ。」
とだけ会話して街に去って行った。
「やっぱり…よく似ていらっしゃるわ。」
「そうかな。」
「ええ、とても、あたたかい。」
兄に似てると言われて、少し苦い顔をするけれど、悪い意味で言われてないのは勿論わかる。
「リーシュ様、何か貴方が私に求める報酬はございますか?」
そう突然聞かれて、狼狽えてしまった。だって、あの兄の次には言いにくい。それに私は一晩マルーナさんと楽しいお泊まり会をしただけなのだから。それでも、少し欲が出てしまった。
「私は…も、もし叶うなら…」
「何でも仰ってみてください。」
「マルーナさんと、街へ遊びに行ってみたい…」
言ってしまった瞬間、顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。でも、素直に言わずにはいられなかった。
マルーナさんと気軽にいろいろ話せる友達になりたい。
それって、簡単に「友達になろう!」なんて言えるものじゃない気がして、だから、せめて一緒に遊びに行けたらいいなって……。恐る恐る視線を上げると、驚いた表情で私を見つめていた。次の瞬間、彼女の美しい瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「未来の約束ができて、こんなに嬉しいなんて。」
慌ててポケットからハンカチを取り出し、彼女に差し出した。そして、思わずぎゅっと抱きしめる。
「マルーナさんが相談してくれてよかった。怖かったね、頑張ったね。」
涙を拭いながら、マルーナさんから沢山の「ありがとうございます」の言葉を貰った。
…
落ち着くと、マルーナさんは侍女と共に「こちらにいらして下さい。」と屋敷に招き入れてくれる。
戦闘の跡は1つもなく。ゼインの狩人としての腕前に感心しながら素直について行った。
すると。
「こちら、私の衣装が置かれる部屋なのですが、好きなものを5着差し上げます。」
「ええ!!待って、なんで!?」
可愛いものや、綺麗な服達が溢れるその部屋に圧倒され、慌てるとマルーナさんはいつもの優雅な笑顔を見せてくれた。
「遊びに行くのでしたら、遊びに行く為のお洋服が必要ですわ。リーシュ様のお部屋を見ましたが、可愛いお洋服が一着も無かったものですから。」
「だからって…、こんな、可愛くて綺麗なものばかりで…大きさだって…。」
「そのための我が家の侍女です。リーシュ様が選べないのでしたら、似合うお洋服を選び、手直しをいたします。オーダーメイドで作るのも問題ありませんが、時間がかかってしまうのですぐに遊びへ行けないでしょう?」
「すぐ遊びに行ってくれるの?」
「はい、今は、学園の後始末と休息を兼ねての休校ですもの。」
「そっか、そうだね、とても嬉しいよ!」
学園の休校。
それは、私達がお泊まり会をしている時に、寮の全部屋に手紙が届いていた。6日間の休校と、この期間の間に国から報酬も用意されるとか。だからいっぱい遊べる。
「そうそう、クラウ様と婚約されたなら挨拶も近いうちにあるはずですわ。」
挨拶。
確かにあるのかもしれない。だけど、その言葉に胸がズキリと痛んだ。クラウとの婚約。あの時の、どこかぎこちない雰囲気。思い出すだけで、心が少し重くなる。
「大丈夫ですわ、リーシュ様。」
「?」
「クラウ様の考えが、もうすぐ分かります。それは貴方にとっても悪い話ではありませんわ、きっと。」
「本当に?」
「ふふっ、その日の為にも、お洋服を用意しましょう。」
鼻歌を歌い、嬉しそうな足取りのマルーナさん。
並ぶ衣装を眺めながら「こちらはどうかしら?」と笑顔で声をかけてくれる。それがまたお買い物にでも来たみたいで楽しい。
「マルーナさんは、やっぱり私のこと…気づいてるんだね。」
「ふふっ、察していないということにしておいて下さい。私はただ、こんなお洋服も似合うと思ったから勧めているだけですわ。」
マルーナさんは、あくまでも私の性別は知らない…と言ってくれていた。
私はこの服で、クラウのご家族に会いに行く日が近いうちにあるらしい。
気を引き締めてたくさんのお洋服から好きなものを選んだ。あれもこれも似合いますわ♪と、どんどん積み上げられるお洋服。
「5着じゃなかったの??」
「寮のクローゼットに入るのは5着ほどでしょうから5着と言いましたが、本当は全て差し上げても良いくらいですわ。」
「…5着でも多いくらいだから!」
「そうですわね、伯爵家へ行ったら沢山のお洋服が用意されていると思いますもの。5着で問題ありませんわ。」
ほ、本当にそうなるかな??
ちゃんと…クラウの家族に受け入れてもらえるだろうか…と今から緊張してしまった。
◇ ◇ ◇
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