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未来の話。◆終わり◆
しおりを挟む月日は流れ。
「クラウ、行ってくるね。」
「行ってらっしゃいリーシュ~」
ぎゅう~っと抱きしめ、クラウに頬擦りをすると、くすぐったそうに彼は笑う。この笑顔を見ると、いつも学園での日々を思い出す。
卒業して、だいぶ時間が経つというのに、不思議なことだ。
「離れたくない。」
「僕も気持ちは一緒。」
更にぎゅうっとしてると、クラウの後ろから冷ややかな視線を向けてくる息子が二人。聖女様の補佐役を何だかんだでずるずるとやって、今も聖女様のお陰で続けられている。
就任してすぐ。
子について相談すると、聖女様は「むしろ、私が健康的で元気な今、子が欲しいなら産んどいた方が良いと思う。」と提案してくれて、結婚してから間も無く無事に授かることができた。運が良かったのだと思う。
妊娠中は、狩人とのやり取りと魔物対策について文書でまとめる日々。訓練が許可されてからは、時折魔物のいる区域へ行き、訓練と指導をしている。
子供は男の子二人。
朝からなかなか仕事に行かない私へ、冷ややかな視線を向けるほどに成長した。伯爵家として王家の忠誠心を示すには十分な期間が過ぎたのだけど、王都の魔物対策を万全にするために、今も狩人達と魔物の情報交換と連絡役を続けている。
聖女様の補佐は、なんだかんだで楽しい。
「お母様、飽きないね。」
「本当に。」
いつも、ぼんやりしている長男シュルク。
ぼんやりが過ぎて水たまりや溝によく落ちる彼でも、両親のイチャイチャする姿は嫌らしい。幼い頃は抱きしめさせてくれたのに、今は積極的には来てくれない。
花が大好きな次男クーシュは、花を一輪眺めながらため息をついた。
「二人もぎゅーするかな?」
「いい。」
「ぼくも。」
クラウから名残惜しくも離れると、両手を広げて二人を見据える。二人は「来たぞ!」と身構えて、私が走るのを合図に逃げ出した。毎朝そっけなく、追いかけられるのにちゃんと見送りに来ててくれる。それが可愛い。
そのまま後ろから「行ってらっしゃい~」とクラウの声がして、手を振ってから子供達を追いかけた。
こんなのを繰り返しているから、子供達は逃げ隠れが上手い。しかし、まだまだ私に勝ることはない。
「見つけた!ほら、シュルク、ぎゅー!」
「悔しい…」
見つかり捕まると、こうして悔しそうに顔を歪め包容される。
長男のシュルクは、クラウ譲りのピンクの髪で表情が読めないところは私に似ている。ぼんやりしていても剣の才能に恵まれている。やるときはやる、やらない時は徹底的にやらない初等部の男の子。
「よし、クーシュも見つけた。」
「もー、やだー」
そうして、ぎゅうぎゅうにされる次男のクーシュは、シュルクより濃い髪色をしていて、顔はクラウそっくり。花が大好きで、女性にしょっちゅう花をプレゼントしている。伯爵家で働く女性のポケットには、毎日一輪は花が刺さっていた。花も好きだけど女性も好き。
二人を捕まえ終えて、私が聖女様の所へ行くと、次は子供達が王都立学園初等部へ向かう時間。
「じゃあ、二人とも気をつけて行ってくるんだよ。」
「うん。」
「母上もね。」
そうして二人に背を向けて走り出した。
この前、二人が並んで歩く姿をこの前見かけたのだけど、それだけで泣くかと思った。一歳半離れた彼らは、既にそんなに差を感じない友達同士のようだ。むしろ、クーシュの方が世話焼きで、お兄さん感がある。
そして家庭教師として働くクラウの元には、騎士になった子供達や立派な淑女として成長した教え子達の報告がたくさん見られるようになった。
クラウは、私の希望に答えて私との時間を長く取れる家庭教師を選択をしてくれた。だけど、最近は一人一人にしっかり向き合い、考えられる仕事に誇りをもっていると楽しそうに話してくれた。
「父上の教えてくれたこと、皆が僕に与えてくれたもの全てが次の子達の中に育っていく。すごく、楽しいんだ。」
夜の寝室で、そう話していたクラウを見て、私も幸せな気分になった。そして、帰れば私を抱き締めてくれる。そして、逃げる子供達をクラウも追いかける。
伯爵様は、最近腰を痛めて騎士を引退した。
その時も、クラウをしっかり見て「安心して引退できる。」と言っていた眼差しは本物だった。
それほど、クラウの担当した子供達の評価は高い。自ずとクラウの評価も上がって行き、近いうちに王族の子供達への指導も予定されている。
こんなクラウの成長に安心して、別館を作り、そこへ住む伯爵様と夫人。しかし、シュルクが帰ると「剣を教えて!」「魔物倒した時の話聞かせて。」「騎士について…」とベッタリ。
伯爵様はまだまだ休む暇がない。
それを夫人も楽しそうに眺めていたが、夫人も夫人でクーシュが帰ってくれば忙しくなる。この屋敷で一番女性らしい女性は夫人だから。
クラウの妹は結婚後、時折顔を出してくれて幼い子供達を見せてくれる。
伯爵様と夫人は孫達に取り合いになりながら忙しく生活していた。
夜。
「ねぇ、シュルクもクーシュも、既に婚約者決めてるって…知ってる?」
就寝の身支度を整えていると、ベッドで本を読んでいたクラウからそんな話を聞いた。
「ええ!もう!?まだ高学年とはいえ、初等部なのに?知らなかった。」
「近いうちに、連れてくるらしーよ。教え子なんだけどさ、なかなか見る目ある。」
ひひっと笑うクラウ。私は一言もそんな話聞かなかったのに…悲しい。
「私は簡単に恋人もできなかったのに…しっかりしてるな、あの子たちは…。」
「まぁ、相手が僕だったからね?」
「ははっ、大変だったね。あの頃。」
「うん、色々悩んでさ。でも、今考えても相手がリーシュじゃなかったらここまで幸せじゃなかったと思う。」
「そうかなー、何だかんだで上手くやってたと思うよ?」
そうして笑ってベッドに向かうと、またぎゅーっと抱き締めてくれる。
「それはあり得ないよ。」
「そっか…。」
「だからさ…、悪いけど、君が男装したことに感謝してる。君には他にいたかもしれないけど、僕を助けてくれる人はリーシュしかいなかったから。」
「それを言うなら、男装して落ち込んだ私を助けたのはクラウなんだけどな。女の子だと思ってたから気楽に話せた。」
クラウは、私の額にチュッとキスをすると笑顔で提案してくれる。
「ねぇ、髪結う?」
「やったー」
この髪を結う行為は、今でも私達のコミュニケーションとして残っていた。
「マルーナさん。今度、王都に来るって。」
「そーなの?久しぶりに会えるね。」
マルーナさんは卒業後。なんと旅に出て占いをしている。
側にいる約束が果たせず申し訳ない…なんて手紙に綴られていたけれど、彼女の人生だし、約束したゼインはちゃっかりマルーナさんに同行して旅をしているし…なんなら子供もいるし…。
マルーナさんは、本来なら無いはずの未来を変えて生きてしまっている…とゼインとの結婚を拒んでいた。本来ゼインと結婚するはずだった人物がいるはずだと。しかし、ゼインは諦めない。面倒な書類なんてなくても家族だ!と押しきっている。
そして、定期的に私に顔を見せてくれる。それは約束の名残りだと思っている。
そして。
「完成♪」
「わっ!」
年相応に美しく整えられた髪型の私を眺め「可愛い」と微笑むとベッドに押し倒される。
深く、甘く口付けられ、クラウからの愛を疑う隙がないほど私の中をいっぱいにする。
今もなお、男装して仕事をする私。
休日に、時折女性らしく姿を整えると、シュルクとクーシュが人見知りしてよそよそしくなる。
クラウは「美人な母親に照れてるだけだよ~」とフォローしてくれるけれど、少し寂しい気持ちになる。だから、女性として可愛く整えられるのは夜の寝室だけとなった。
「僕だけ、可愛い君を知ってる。」
「そうだよ、クラウだけ。」
男装をした結果、仕事を得られて、こうした形で喜んで貰える。
一時期私を悩ませた男装も、間違いではなかった!と今では思っている。
◆終わり◆
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