魔王、現代社会へ

和田光軍

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魔王vs賢者

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時は俺たちの前に魔王が現れたところまで遡る。
あの時は確かに俺も魔力がほぼ尽きかけていたし、魔王の闇魔法からユウヤたちを守るために張った魔法壁は俺の命を削り、最後の魔力をソウヨに送ったところで俺は死んだはずだった。
急展開すぎてわからなかったことだが、今にしてみればおかしな点もある。
魔力が尽きかけていたのに、魔王の闇魔法を防ぐことができたこと。そして、ソウヨに魔力を渡すことができたこと。
多少手加減していたとはいえ、あの闇魔法は俺たちを全滅させるのに十分な威力があった。
あれを完全に防ぐには、俺の1/3ないとできない。
そしてソウヨに渡した魔力。
俺はユウヤだけでもと思って渡したつもりだったが、結果としては6人全員が回復できるほどの魔力を与えていたのだ。
そんな魔力が残っていたわけがない。
できたからには理由がある。
それは何か。

闇魔法と俺の親和性が原因だと俺は考えている。
今でこそ思い出せば、俺は闇魔法だけは手をつけたことがなかった。
闇魔法は魔王しか使えないと言われていたからだ。
闇魔法を勉強しようにも文献も先生もいないのだから、手をつけようがない。
そして初めて受けた闇魔法は俺にダメージを与えるどころか、俺に魔力を与えてくれた。
そのおかげで、俺はソウヨに魔力を分け与えることができたってことだ。
………ソウヨの回復で起き上がらなかった理由は、魔力が枯渇したと思い込んで気絶していたからである。

俺を魔王城へと連れ帰った魔王は、謎のカプセルに俺をつっこんだまま放置していた。
カプセルには液体で満たされており、そこに突っ込まれたのだから溺死させるつもりかと思ったわけだが、なぜか呼吸ができる。
エラができたというわけでもないが、この液体の中だと普段通りに呼吸もでき、発語もできた。
この水は何なのか、その疑問に俺の知的好奇心が刺激され脱走することなく誰に邪魔をされるわけでもなく、俺は研究に没頭することができた。
その間も身体に力が漲る、頭が冴えるというパワーアップをしたことで俺の研究が証明されることになった。
この水は闇属性の魔力を帯びている。
だから俺に馴染んで呼吸も発語もできたというわけだ。

それからというものの、魔王は俺のところにやってくることはなかった。
俺を殺すなり洗脳するなり、何かしてくると思っていたのだけれど、何もない。
俺が知る由もなかったのだが、ユウヤたちが俺を探して魔王軍を文字通り瞬殺していたため、魔王も俺に気を回す余裕がなかったようだ。
その間も俺はカプセルの中で闇魔法を独学で研究していた。
闇魔法は素晴らしい…火、水、風、土、雷、氷、光よりも奥深いものがあるから研究のやり甲斐がある。
闇魔法はすべての属性の上位互換となり得る魔法だ、火魔法に闇魔法を混ぜるとより強力な魔法となる。
まだ実践をしていないが、理論上間違いない。
早く実践してみたいが、まだまだ研究に没頭したい。
俺はカプセルから出ずにひたすら研究に明け暮れた。
魔力はカプセルの液体から貰えるから魔力切れを起こすこともない。
俺がカプセルから出たのは、誘拐されて半年以上経ってからのことだった。



「貴様…そういえば勇者から奪ってきていたな。その様子だと、闇魔法の魅力に捕らわれたようだが?」
「あぁ、闇魔法を研究してたらいつのまにかこんなに時間が過ぎてたみたいでな。理論はもうやり尽くしたから実戦にうつりたいんだ。対象がお前しかいないからな、付き合ってもらおうか」
「ほぅ…随分と生意気なことを…いいだろう、魔王の力を見せてやろうか」

玉座に座って俺を見下ろす魔王に対し、俺は何も装備せずに魔王を見上げていた。
ローブも杖もなく、シャツとズボンのみの姿だ。
魔法を使うには媒体となる杖や指輪、本が必要とされているが、闇魔法は違う。
闇魔法は自分の身体を媒体として発動できる唯一の属性だった。

「何も装備していないとは…随分と舐めた真似をしてくれるではないか」

魔王は杖を俺に向けて余裕を見せていた。
この時点で魔王は闇魔法をろくに知らない素人だと判断できる。
あの時は死を覚悟していたが、もはやこいつを恐れることはない。

「『闇の火弾ダークネス ボム』」

小手調べのつもりか、闇魔法の初歩と言える魔法を繰り出す。
詠唱破棄を余裕でこなすところからして、さすが魔王といったところか。
かわすこともできたが、あえて魔法を受けよう。
魔王と俺、どのくらい差があるのかを理解できる。

「なんだ、あっさり終わってつまらんぞ。闇魔法は詠唱が複雑だから仕方がない」
「そうだな、この程度なら簡単に倒せそうだ」
「?焼かれてなかったか、なかなかやるではないか」

俺の身体に闇の火がまとわりついて包まれたが、俺も詠唱破棄をして「闇の水壁ダークネス ヴェール」、つまり闇の水魔法の初歩を発動させていた。
実力が拮抗、もしくは魔王が強かったら水壁も蒸発させられてたが、この様子だと一時間以上攻撃されても蒸発することはない。
とはいえ、魔王も手加減しているだろうから簡単に判断はできないところだ。
もちろん、俺も一割も本気を出していない。
せいぜい5%といったところか。

「手加減しておいて、褒められても嬉しくもなんともない。まぁ、お返しといこうか。『闇の炎弾ダークネス バレット』」
「ぬっ?『闇の水盾ダークネス シールド』…ちっ、なかなかやるな、お前…」
「ん?どうした?まだ俺の攻撃は終わってないぞ?」
「何っ!?ぐぅっ!」

俺の魔法を防ぐことができなかった魔王が玉座から飛び降り余裕を崩さずにいるところを、闇の炎弾で追撃を行う。
格好をつけたためか防御魔法を使うことができずに5発ほど闇の炎弾を直撃させておいた。
闇の炎弾の煙幕が晴れると、鎧が所々溶けてボロボロになっていて魔王も肩で息をしていた。
まだまだ小手調べなのに…随分と演技派なんだな、魔王。

「くそっ、その威力…貴様、何をした!」
「何って…研鑽だよ。ひたすら闇魔法を研究しただけだ。と言うか…そんな演技はいらないからもっと本気出せよ。実践してこその理論だろう」

まだ本気を出すレベルじゃないってことか?
なら本気を出させるまでだ。

「『闇の風刃ダークネス カッター』」
「くっ…『闇の土壁ダークネス ウォール』!ぐぁっ!!」

魔王が作り出した土の壁をあっさりと切り裂き、そのまま魔王を風の刃が切り刻む。
何だ?闇魔法の初級を繰り出しているだけなのに、魔王がかなり深いダメージを負っている。
まさか…。

「おい、まさかとは思うが…これが本気か?」
「っ!?」
「マジか…魔王がこんな雑魚だとはな…どうすんだよ、拍子抜けにもほどがあるぞ、おい」
「貴様………ふん、これが本気なわけがなかろう。俺の最強技を食らってもそんなことが言えるか?」
「やってみろ」
「は?」

雑魚の魔王相手に実践しても意味がない。
どうせ最強技(笑)も大したことがないだろう、どうせだから受けてみるか。

「どうした?受けてやるって言ってるんだ、やってみろよ」
「………くくく、力を手にしたガキというわけか、その慢心がお前の敗因だ…闇に集いし怨念たちよ、その無念を晴らすのは今ぞ、我が魔力に宿て、敵を葬り去らん、その者の魂ごと食い尽くせ、『闇の剛腕ダークネス アーム』」

豪華な杖を振り回し、長い詠唱を唱え終えた魔王は勝ち誇った顔で俺を見下していた。
だからぁ、媒体はいらないんだっての。
それに詠唱なんて無意味なのを知らないのか、魔王のくせに。
ただ…最強技(笑)というだけあってさっきまでの魔法とは桁外れの威力を持っているようだ。
巨人族と思わせるような巨大な拳が俺目掛けて勢いよく飛び込んで来る。
これを食らえば、間違いなく死ぬだろう。
………普通の敵なら、な。

「ふ、ふふふ、ふはははははは!跡形もなく消え去ったか!所詮人の子、たわいもないわ!」
「そうだな、最強技と聞いて楽しみにしてたんだが、予想以上にショボくて萎えた」
「ふははは……は…は?」

高笑いしている魔王には申し訳ないのだけれど、ダメージはゼロだ。
闇魔法は俺にとってご馳走みたいなものだからな、言葉通り食わせてもらったよ、なかなかいい魔力でした。

「な…貴様…」
「さぁ、フィナーレだ。『闇の抱擁ダークネス ハグ』」
「な、なんだこの魔法は…俺は知らない、こんな魔法知らないっ!!」

魔王の左右に巨大な手のひらが現れゆっくりと魔王を包み込もうと近づいていく。
この魔法は闇魔法でも上級、しかも俺が作った魔法だから知らないのも当然だ。
闇魔法は本当に研鑽しがいがある。
もっと…もっと実践しないと…。

「ぎゃぁぁぁぁぁぉぁっ!!」
「闇に抱かれて眠れ、弱き魔王よ」

俺たちを苦しめた魔王とは思えないくらいの実力差に、俺はため息しか出なかった。



「さて、ユウヤたちがここに来るまでにもっと研鑽しないとな………ん?」

魔王を片付けたことでこの世界に平和が訪れたことになる、その気になればこの城から抜け出して皆のところに帰ることもできるのだが、せっかくだから魔王の城を見学させてもらおう。
そう思って魔王の部屋を調べてみると、不思議な文献が目に留まった。

「………Earth…どう読むんだ?これは……ほう、これはこれは…なかなか興味深い………」



「Earth」という文献は実に楽しませてくれた。
どうやら、この世界とは別の世界の話で、魔王はこの世界のことを研究していたらしい。
実に多彩な魔法を使役している世界のようだ。
この世界なら、さらに俺の力が磨かれることだろう。
そして、この世界に行く方法も可能だ。
魔王は魔力が足りなかったから違う方法を模索していたのだろう、しかし、魔王とは比べ物にならないほどの、溢れ出るほどの魔力が俺にはある。

ドサッ!

ん?何事だ?

「………あぁ、無事に帰ってこれたのか。なかなかやるな、魔王」
「…き…貴様……」
「あぁ、話さなくていい。俺はこの世界から消えようと思っている。この世界には興味はもうないからな。この世界には行ってくる」
「!!や、やめろ…その世界は俺が…」
「俺が支配してやるよ、お前の代わりにな?その代わりと言っちゃなんだが…この世界はお前の好きにしろよ。人間滅ぼそうがどうでもいい、まぁ…もうすぐユウヤたちが来るみたいだから、それまで生きていれば…な」

やっと来たか、ユウヤ。
他の奴らも無事のようだ。
まったく………とんだ足手まといたちだ。
せっかく俺がヒントを与えてやったのに、ここに来るまでに一年もかけるとは…情けない。

「あぁ…楽しみだ…Earthとやらはどんな世界なんだろうか…俺をワクワクさせてくれよ、異世界…」
「ぐ……ふ、ふふふ…貴様、闇の魔力に呑まれたようだな…所詮は人の子、軟弱…っ!!」
「うるさいよ、お前。魔王に向かって生意気なこと言ってんじゃねぇよ」

元魔王の顔を蹴飛ばして足元に転がす。
闇の魔力に呑まれた?馬鹿を言うなよ、俺が闇の魔力を喰らってやったんだ。

「ケンヤ!」

勢いよく扉が開くと同時に懐かしい声がこの部屋に響く。
あぁ…久しぶりだなぁ、ユウヤ…。
予想外の状況に困惑している顔も懐かしい。

「遅かったな、お前たち。待ちくたびれたぞ」

俺は満面の笑みを浮かべて、元仲間たちを迎え入れた。
さて…ショータイムだ。
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