地獄の日常は悲劇か喜劇か?〜誰も悪くない、だけど私たちは争いあう。それが運命だから!〜

紅芋

文字の大きさ
116 / 167

弟子入り少女

しおりを挟む

 今日も外は天気が良い。
 殺はたまの休みとして活気づいた街を散策していた。
 混合者事件から見事な復興を得た街は以前の惨状をもう残していない。

「甘味屋にでも寄りますか」

 そう楽しそうに微笑んでは甘味屋にへと足を運んで行く。
 今日は何を食べようか?
 そんな些細なことを考えて今を生きる。

 何もない一日、そう思っていた。
 だが修羅を生きる殺たち、何もないなんてある訳がない。
 殺は今日もまた大きな事件に出会うのであった。


~~~~


「殺様!!」

「……誰です?」

 殺は突如、甘味屋の前で名前を呼ばれる。
 声に少し驚きながら振り向いたさきには一人の少女が立っていた。
 泥で汚れたみすぼらしい格好、貧相な胸。
 唯一の良いところをあげるとしたら見た目が可愛らしいことか。

「私に何の用ですか?」

「実は殺様に頼みごとがありまして!!」

「ほう……頼みごと?」

 すると少女はいきなり地に跪き、頭をつける。
 いわゆる土下座といったものだ。
 少女は大きな声で頼みごととやらを叫ぶ。

「私を守ってください!!」

「はぁ?」

 殺はこの少女は何を考えているのかと本気で疑問に思う。
 会って数秒で土下座をして守ってくださいなどと言う少女に呆れていた。

「実はとある組織に命を狙われておりまして!頼れる強き者といえば貴方しか思い浮かばないのです!」

 頼れる強き者という発言に殺は少し機嫌が良くなる。
 だがしかし、今は仕事で忙しい身。
 そんな状況で少女に構ってられる暇など殺にはなかった。
 だからこそ殺は意地悪なことをする。

「私に守ってもらいたいなら私が満足するような見返りをください」

 体良(ていよ)くあしらったつもりだった。
 だがそれに少女はものともしなかった。

「なら私が弟子になりましょう!今はまだ弱いが将来は有望な若者!そんな私が貴方の弟子になったら有益しか起こらない!」

 殺は自分を有望と謳う少女に失礼だが大声で笑った。
 少女はその笑いに断られると不安を抱いているのか若干顔が曇っている。
 そうだ、これは取引きにもなっていない。
 だから断られることが当たり前でもあった。
 だが殺は少女に手を差し伸べた。

「良いでしょう。貴方を守ってさしあげます」

「……殺様!!」

「貴方、名前は?」

 殺は少女に名前を訊ねる。
 少女は貧相な胸を張り、堂々と名を名乗った。

「私の名は日向です!!」

「日向さんですか。よろしくお願いします」

 こうして殺は暫くの間は少女の茶番に付き合ってやるかと日向の手をとった。


~~~~


「何じゃ?その貧相な娘は」

「弟子です」

「お前……とうとう弟子をとったか」

 殺は何故か人殺し課へと来ていた。
 その理由は日向が五人の英雄に会ってみたいと我儘を言ったからである。
 この少女、駄々っ子で一度決めたら最後までやり通す主義だ。

「それにしても汚れてるな。閻魔殿にシャワーがあるし、洗ってきたら如何だ?」

「もとより、そのつもりですよ。さあ日向、シャワーの場所まで案内しますからついてきなさい」

「はーい!!」

 日向は元気良く返事を返して殺に駆け寄っていく。
 その際に殺は「服も買いに行きますよ」などと言って少女をシャワーまで案内した。


~~~~


「はぁー!さっぱり」

「良かったですね」

 そう言う二人は再び街にくりだしていた。
 服を買う、その宣言通りに服屋へ向かっていたのである。

「いらっしゃいませ」

 服屋に入り殺は日向に自由に選んでこいと言う。
 殺は実はわざわざ若者向けの店を調べて来たのだ。
 それもこれも日向の為だ。
 日向は嬉しそうに服を選んでいく。
 殺は店を調べた甲斐があったものだと思いながら少女の長いファッションショーに付き合った。

「これに決めました!!」

「可愛らしいですね」

 日向が選んだ服は向日葵の如く鮮やかな黄色で、フリルをふんだんにあしらった短い丈の可愛い着物だった。

 日向は気に入った服を着て店を出る。
 殺は喜んでいる日向を見て少しはにかんだ。

「次は髪を切りに行きましょうか」

「はい!!」

 最早、この二人は師弟関係というより親子に見えた。


~~~~


 少女は髪を綺麗に整えられる。
 みすぼらしい格好から、まるで人形のように美しい女の子となった。

「これが……私?」

 肩くらいの長さの緑の髪が揺れる。
 日向は見違えた己の姿に唯々、言葉を失っていた。

「貴方、家は?」

「無いです」

「ですよね。それなら私の家に来ませんか?」

 日向は「良いのですか?」などと申し訳なさそうに訊ねる。

「良いから提案したのですよ」

「殺様、ありがとうございます!」

 そうして二人は同じ家に帰っていった。
 その姿はやはり親子のように思える。


~~~~


 次の日のこと、日向は人殺し課で遊んでいた。
 それも美鈴と小夜子と楽しそうにだ。
 古株の二人は良い話し相手が増えたと喜んでいる。

「殺、あの少女を何故に弟子にしたんだ?」

「取り引きもどきをした結果です」

「取り引きもどき?」

 殺は初めて日向に会った日のことを話した。
 すると御影は顔を真っ赤にし、殺を叱った。

「この馬鹿者!」

「何ですか?御影兄さん」

 殺は突如あげられた怒号にものともせずに、背筋を伸ばしたまんま無表情でいた。
 それに御影は更に血圧を上げ、怒ったのか、より大声で怒鳴る。

「その少女は命を狙われているのじゃろう?!それを守るなんて危険な真似をするな!守る必要はお主にはないじゃろう!お主が怪我をしたら儂は……!」

 この間、日向は厠に行っていて話を聞いてなかった。
 殺は御影の話を聞いて少し黙るが反論する。

「日向が言っていることは本当かわかりません。寧ろ茶番な気がしてならない。私は茶番に乗っただけです」

「……本当に茶番じゃな?」

「たぶん。それに放って置けなかった」

 殺の何の根拠もない言葉と放って置けなかったという言葉に御影は呆れかえる。
 だが放って置けないのが殺とわかっている以上は何も言えなかった。

「ただいま厠から帰還しましたー!皆様、昼食を食べに行きましょう!」

「そうですね、行きましょう」

 そう言って皆は日向についていって食堂へ向かった。


~~~~


 初めて会った日から数日が経過した頃、殺と日向は寝食を共にするようになっていた。
 それには陽も思わず嫉妬をするほどで「羨ましい」などと彼は口にしている。
 そんな陽を見てからかう殺は意地が悪い。

 殺と日向は街へ出る。
 それは殺の仕事の都合でだ。
 殺は外での仕事を終わらせると甘味屋へ向かい、団子を頼む。
 すると運ばれて来たのは普通のみたらし団子だ。
 殺は糖分は至高といった風に団子を食べ始めた。

「甘いもの、好きなのですね」

「出会ったのも甘味屋でしょう」

「そうでしたね」

 その瞬間に殺は団子の串を少女の眼前に突き立てる。
 何が起きたかわからない少女と周りの客は全員固まった。
 数秒経った頃か、殺は少女に突き立てていた串を下げる。

「弟子ならこのくらいは避けられるようにならないと。師匠としての行動です」

 日向は暫くは呆然としていたがすぐさまいつもの笑顔に戻った。

「はい、次からは避けます」

 そう笑う少女に殺は案外楽しい日常だと微笑んだ。
 そうして殺は団子の串を素早く投げる。
 投げた先には刀を抜こうとしている不審な男が居て、その男の手に団子の串が刺さった。

「ぐあっ!」

「これは!?」

「貴方の話……嘘ではなかったのですね」

「信じてくれてなかったのですか!?」

 そうこうしている間に殺たちは顔を隠した者たちに囲まれる。
 しかも滲み出る覇気でわかる、どいつもこいつも実力者だと。
 それは少女にもわかった。

「殺様、逃げましょう!」

「いえ、逃げません。貴方を守る約束をしましたから。それに……」

「……それに?」

 殺は今日一番の笑顔を見せる。

「弟子に格好良い所を見せたいでしょう?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...