キミという花びらを僕は摘む

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第1章 突然の

1-4 偶然とは恐ろしいもので

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「聖騎士レイグ・フォスター」

 つい口から出てしまった。
 彼がレインと名乗っているわけも考えずに。
 これから俺は頼みごとをしようとしているのに。

「なぜ、それを」

 ティフィに近寄ろうとしていたレインの足がとまってしまった。
 狭い店内なのに、恐ろしいほど距離がある気がする。
 コレが心の距離か。

 レインの目に警戒の色が現れてしまった。

 ティフィに惚れているであろう彼が、その中身が別人だと知ったらどうなるだろうか。
 反応は怖いが、正直に話した方が得策と言える。
 嘘に嘘を積み重ねると、現在魔法が使えない俺が記憶できない。
 切実な問題だ。

 深い深いため息を吐いた後、俺はレインを真っ直ぐに見る。

「すまない。レイン、信じられないかもしれないが、倒れたという広場で目覚めたときに俺はこのティフィという人物になってしまっていた。中身がティフィとは別の者だ」

「ああ、うん、そうか。記憶喪失じゃなくて、中身が別人だったのか」

「、、、は?」

 レインよ、すんなり納得した顔し過ぎていて、俺が遥か彼方に置いていかれたのだが?
 なぜその説明だけで理解できる?
 俺でも信じられないくらいなのに。

「いや、広場で倒れた後から、ティフィの言動はかなりおかしかった」

「、、、俺、人としてそんなにおかしい行動をしていたとは思わないが」

 えー、何がそんなにおかしかった?
 何かしでかしていたか?
 違う国のようだから、文化の違いによるものか?

 少し困ったようにレインは微笑んだ。

「確かに、人としてはおかしくないが、ティフィはいつも他人に少々高圧的な態度を取るし、基本的にお礼も言わない」

「え、それ、人としてどうなんだ?」

 ティフィさん、エルフ的な要素を濃く受け継いでしまっているのかなー。
 それでいてモテるのか。
 性格って重要じゃないのかな、この顔じゃ。
 いや、世の中には様々な性癖の人がいる。ティフィのエルフ的性格も需要があるに違いない。
 俺はそういう人とは少々距離を取るタイプだが。

「最たる変化は、ティフィは自分のことを俺と言わない」

「俺、育ち悪いからなあ。。。仕方ない、仕方ない」

 気をしっかり持て、俺。
 今でこそ城勤めだが、スラム以下のところで暮らしていた経験も持つ。
 実力主義な魔法王国では、今の俺に言葉遣いを注意する者はいない。
 というわけで、俺は俺のままだ。言葉遣いを直したりすることもないし、国王陛下にもこの口調だ。

「、、、そういうことでもないが。ということは俺は貴方をどうお呼びすれば?」

「いや、ティフィのままでいい。この肉体はティフィのものだ。他の呼び方をすれば、事情を知らないまわりが混乱する」

 そういや、レインも自分のこと俺って言ってるな。
 少しだけホッとする。
 思っていたより、すんなりと中身が違うことが受け入れられた。

「それよりも、なぜ俺のことを知っている」

 レインの目が鋭くなる。
 俺やティフィのことよりも自分のことですかい。

「え、そりゃ、その白髪に銀目の目立つ容姿は一度見れば、、、それに」

 俺の視線は彼の腰に携えている聖剣に向く。
 彼にふさわしい銀色の柄であったが、それが聖剣とバレないように布が巻かれている。

「魔法が使えないからすぐに気づかなかったが、その剣は魔力の流れでソレとわかる」

「貴方は昔、俺と会ったことがある人物ということか」

 レインの問いに、俺は頷きもしない。
 そうすれば遠目で彼を見たことのある者も対象になる。該当する人物など見当もつかないだろう。

 その目は俺を見据える。
 けれど、レインの目に映るのはティフィの姿だ。
 決して俺の姿ではない。

 、、、まあ、レインが俺を覚えているとは限らないのだが。
 忘れているに違いない。
 たった一回会っただけの存在など。
 数年前、聖剣の魔力の調整で。

 ほんの数分、言葉を交わしただけだ。
 自己紹介はしたはずだが、当時は聖騎士として大勢と会っているレインだ。
 俺はそのなかの一人である。
 会った人間をすべて覚えているような人物でもなければ、俺のことは覚えているわけもない。
 俺は城で魔法研究に没頭しているので、会わなければならない人物は意外と少ない。

「レイン、単刀直入に言おう。魔力をくれ」

 俺は要求を明確に直球で言った。
 レインに対して、お前は本当は聖騎士だろー。こんなところで何しているんだー。バラさない代わりにー。という交渉はしない。
 そっちの方が魔力を簡単に分け与えてくれるのかもしれないが、ティフィ本人との間に亀裂が入るのもティフィに悪い。
 あくどいことをした中身が別人だと頭ではわかっていても、本人が戻って来てもレインは一線を引いてしまう気がする。

 それに、俺は聖騎士レイグ・フォスターの事情を知っている。
 聖騎士でありながら、姿を表に出せないのかを。

 ま、どこにいても目立つ気がするけどね。
 彼を知っている者がいたら、すぐにわかってしまうくらいの目立つ容姿をしている。変装もしてないし。
 結局、俺でも思い出したくらいだし。

「、、、ティフィは魔法が使えないが」

「その通りっ、体内に魔力が無尽蔵にあるのに、この肉体は魔法が使えないっ。何で俺がこんな状態になっているのか、原因究明もできないっ。俺の肉体にティフィが入っているとは思うが、それも確かめようもない」

「他人の魔力でそれをどうにかできるのか」

「ティフィの肉体に施されている封印を緩める。魔力が封印から漏れれば、ティフィでも魔法が使えるようになる」

「それをするのに、俺の魔力が必要なのか」

「そう、まずはティフィの封印をどうにかしないとどうにもならない。封印は外さないから、魔力暴走させるどころか、俺はティフィが蓄えている魔力量の十分の一も使えない。ティフィの肉体の安全は保障するから、魔力をくれっ」

 貸してくれとは言わない。返すアテがないから。
 魔法でこの家のトイレを掃除したいからとも言わない。
 場がしらけてしまいそうだから。

「確かに原因がわからないとどうにもならないが、それらは他の者、、、俺が動いて解決できないのか?」

 レインが思案しながら尋ねてきたが。
 うん?
 レインが解決に動いてくれると言うのか?

 俺は首を捻る。
 なぜ?

「ああ、得体の知れない人物がティフィのカラダに入っているなんて許せないよな」

 愛する者のカラダに、正体を明かさない者が入っているとしたら、さっさと追い出したいに違いない。

「それなら、やはり魔力を譲ってもらう方がいろいろと手っ取り早いと思うが、協力してもらえないだろうか」

「、、、普通は他人の魔力なんて扱えないだろ」

 まだ胡散臭い目で見られている気がする。
 、、、いや、数年前もこんな目で見られた気がする。
 倒れたティフィを心配して向けていた優し気な目とは全然違う。

 俺の存在自体、胡散臭い?

「確かに他人の魔力は扱い辛いが、このティフィの魔力は体内に封じられているから使えない。だとしたら、外から供給するしかない」

「外から供給できるとは言っても、他人の魔力を扱える者なんてこの大陸でも一握りしかいないはずだ。しかも、他人の肉体に入って数時間の人間が扱えるものか?」

 レインがボソッと呟いた。

 どうすれば信じてもらえるかな?
 ティフィはともかく、レインには氏素性もわからない存在の俺。
 ここで自己紹介したところで、さらに本当に本人か疑われそうな気がする。
 そこまでの知り合いではないから、確かめようがないのも事実。
 お互いだけが知っている話など存在しない。

 無理なのかなー。
 自分の魔力でティフィを傷つけるということになったら目も当てられないという懸念があるのかもしれない。

「レインが嫌だと言うのなら、他を当たるしかない」

 誰でもいいわけではないが、レインが嫌というのなら仕方ない。
 レインの協力を諦めかけたそのとき。

「協力しないとは言ってない」

 レインが不貞腐れたように言った。
 他、と簡単に言ったのが気に障ったらしいが。。。
 もう少し交渉しろということか。

「そうか?じゃあ、協力するのに何か交換条件でもあるのか」

 俺の言葉に、一瞬レインの表情が固まった。
 長い沈黙の後。 

「俺の魔力を渡す代わりに、貴方を抱かせてくれないか」

 、、、レインくん、熱ない?
 働きすぎとか?
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