キミという花びらを僕は摘む

さいはて旅行社

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第1章 突然の

1-12 夢のなか ◆ティフィ視点◆

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◆ティフィ視点◆

 シークの腕のなかでようやく眠りにつく。
 あの行為のなかでシークが体内の魔力を調整してくれたため、カラダを休めることができる。

 寝たきりで動かせない肉体で、目にはクマまでできているというのに寝られないのはおかしいと思った。
 寝てしまえば肉体が重いのも楽になるとさえ思っていたのに。

「あれ、ズィーじゃねえなあ」

「新規一名様ご案内だっ」

 なぜ私は居酒屋にいるのだろう。
 寝たということは夢のはずなのに、ガラの悪そうな男たちで大勢が賑わう店内にいる。
 店員らしき男に、私は奥のテーブルに案内されてしまう。
 大柄な男が二人すでに座って酒を飲んでいる。

「ははっ、ワケわからないって顔してやがる」

「前竜王、言ってやるな。ここがズィーの体内にある仮想現実だとは説明されなければわからない」

「あっさりと種明かしするなよー、魔王」

「ズィー・エルレガに封印された者たちがこの街にいる。夜はこの居酒屋で騒ぐのが日常だ。ズィーは寝ると思考を邪魔されると言い、なかなか寝ようとしないがな」

「、、、ああ」

 ズィーがクマまで作って寝ない理由がわかった。
 けれど。

「さすがに毎晩毎晩夜通し騒いでいるわけではないでしょう」

「いや、毎晩夜通し騒いでるぞ」

「封印されている我々に睡眠は必要ない。寝るのが好きな奴は寝るが、本物のカラダは封印されて時をとめられているからな」

 自己紹介はされてないが、この二人はお互いを魔王と前竜王と呼んだ。
 そして、ズィーの体内に封印されている事実から、本人に違いない。。。

 普通に怖いんですけど。。。

 目を覚ましたいのに、起きてくれない。
 というか、どうしたら夢から覚めてくれるのか。

「りゅ、竜王ではなく、前竜王なんですね?」

 頭が混乱し、馬鹿なことを尋ねる。

「まあ、席に着け」

 漆黒な魔王が木の丸イスを勧める。
 魔王だと立派な玉座が似合うと思うが、こんな居酒屋の木のテーブルや丸イスは不釣り合いこの上ない。

「酒は飲めるんだろ、半エルフ。おい、酒を持ってこいっ」

 前竜王がカウンターに叫ぶ。
 この二人にはジョッキやグラスが空になりそうになると、何も言わずに店員が次を持ってきている。
 テーブルの上にはそれぞれが好んでいるツマミだろうか。

 私の前にも酒と小皿のツマミが並んだ。

「人に対して、半エルフは失礼だぞ、前竜王」

「自己紹介されてないんだから、仕方ねえだろ」

「それもそうか」

 あっさり引き下がる魔王。
 魔王の方が常識人っぽい気がするけど。
 コレは完全に自己紹介する流れだ。名乗らないと永遠に半エルフと呼ばれる流れだ。

「ティフィです。ルチタ王国で薬師をしています」

「ははっ、ティフィか。俺は竜王ケチャだ」

「いや、すでにコイツの息子のケイチャが竜王を継いでいる。前竜王だ」

 、、、何で、外の情報が普通に入ってきているんですかね。
 ズィーが話しているんだろうか。

 前竜王は竜人族なので、肌がウロコ状である。彼の肌は緑色だが、竜人族はその一族によって肌の色が異なるらしい。前竜王は大柄であるが、魔王様も体格がいいので、二人が並ぶと圧巻である。

「でー、コイツはー、世界を震撼させたあの魔王様だ」

 でしょうね。
 今は前竜王が気安く肩を叩いているが。
 力の差で言うと、もちろん魔王様の方が前竜王より断然強い。

 魔王様は長い黒髪で服もマントもブーツも黒一色。
 確かに魔王と言うと黒のイメージがあるのだが、本人も黒が好きなのだろうか?

「その魔王を容易く封印したのが、ここにいないズィーだ。お前は知り合いか?」

「ええっと、直接の知り合いではないですが、今は中身が入れ替わっています」

 あ、コレ、言っていい情報だったのかな?
 ズィーの仮想現実で反乱されても俺には止めようもない。

「ああ、なるほど、そういう縁か。封印されたわけでもないのに、ここに来るのはおかしいと思ったが」

「ズィー以外、この地を知る者はいない。封印された我らが楽しく暮らしているのは外には漏らすな」

「はい」

 魔王様の圧が超怖い。

「ところで、封印された者たちがここにいるって聞いた気がするのですけど、」

 店内はどれだけの人数がいる?
 よく見ると魔族やら人間やら多種多様だ。

 周囲への視線で、魔王様は私が言いたいことを即座に悟ったらしい。

「騒がしいのが嫌いな奴はこの店には来ない。ここにいるのは封印された全員ではない」

「ええっと、六位が封印したのは魔王と前竜王だけのはずでは」

「扱いに困る面倒な奴らを放り込むのがズィーの趣味なのではないかと思う、私は」

「面倒なことが嫌いなだけだと思うぞ」

「盗賊やら暗殺者やらの犯罪者から、冤罪をかけられて逃げてる国際手配者までここにいるのは様々だ」

 犯罪者。
 ガラの悪い者が店内に多い。
 ゴクリと唾を飲んでしまう。

「いやいや、魔王様の配下や俺の部下だってわんさと放り込まれているじゃないか」

「、、、自分は人族の国々から見て犯罪者ではないと?」

「へえへえ、そうでやんした」

 不貞腐れた前竜王がいる。

「私はズィー・エルレガが上の者だけを封印して戦いを終わらせたと思っていました」

 それがこの世界では常識となって広まっている。

「美談にされているようだなあ。戦争の責任を敗者にとらせるのは世の常。上層部が生き残っていれば全員処刑されるのが習わしだ」

 ぐびぐびとジョッキで飲む前竜王。

「つまり我々は指示系統をズィーに丸々潰されたということだ。上が一人封印されたからといって、戦いが簡単にとまるわけがない。全魔族が総攻撃していたのだからな」

「そういえば、なぜ魔王様は戦争を始めたのですか?」

 魔王が侵攻してきた理由というのは今も謎だ。
 歴史上唯一の魔王軍の大侵攻で、人族領は大打撃を受けた。
 人族が気に入らなかったとか、人を奴隷にする、供物にする予定だった等々、噂話は山ほどあるが。

「うーむ、長い話になるから、それは後日に話そう。ズィーによってその原因も取り除かれているからこそ、我らもこの地で遊んでいられるのだからな。ティフィが睡眠をとるなら時間は大量にある。まあ、ズィーの肉体で睡眠をとるのはなかなか至難のワザだと思うが」

「あー、この地の神が降臨したから、話は中断だ」

「私は神ではありませんよ」

 テーブルの横に小さい少年がにこやかに佇んでいた。
 場違いなことこの上ない。

「初めましてー、ティフィさん。私はこの街の世話係を仰せつかっているハナナと申します。以後よろしくお願い致しますー」

 ほんわーと緩やかな笑顔も多少間延びする語尾もこの場にそぐわない。

「ティフィ、笑顔に騙されるな。コイツは人格矯正プログラムだ」

「前竜王はおもしろいことをおっしゃるー。外に出ようと躍起になった方々を更生させただけじゃないですかー。この街では皆さんのやりたいことは何でもできるのですからー、殺人以外ー」

 殺人以外?

「ああ、この地では人というか、魔族も誰も殺せねえの。殴ったり喧嘩したりはできるけどな」

 半殺しは許可されているってこと??
 それも禁止しようよ。

「飽きのこないように様々な目論見がこの世界では展開されている。少し前に私は勇者になって世界を救って来たよ」

 魔王様が勇者???
 魔王様が楽しそうな表情で話しているように見えるが。

「アレ、俺もやってみたかったーっ」

「イベントが発生したときに、必殺技を考えるために山籠もりしているお前が悪い」

「くそーっ」

 ホント、何でもできるんだな。山籠もりって。。。

「皆さん、今ではこのように丸くなって生活しているので、安心して遊びに来てくださーい。ティフィさんー」

「あ、はい」

 この地で一番怖いのがこのハナナと名乗った少年なのか。
 絶対的支配者。
 だから、この地の神。
 だとしたら、ズィー・エルレガはこの世界の何なのだろう。創造主?

「ただし、普段しているようなエルフ名物高圧的な態度はここではお控えくださいー」

「ひぃっ」

 ハナナが柔らかい笑顔だったのに一瞬目が鋭くもなったので、変な声が出てしまった。
 怖い。
 しかも、バレてる。

「ああ、お前は長いものには巻かれるタイプか」

「美人で物腰穏やかだったから、半エルフも捨てたもんじゃないと思っていたんだがなあ」

「それもエルフらしいと言えばエルフらしい」

 魔王様と前竜王が少し残念そうに言った。
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