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第1章 突然の
1-24 対面 ◆ティフィ視点◆
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◆ティフィ視点◆
「ま、俺はバカが好きなんだ」
声の調子が明るくなったため、私は顔を上げることができた。
前竜王が二ッと笑う。
普段の表情に戻った。
ズィーが彼らを殺せるかどうかの回答はないが、彼らがここでおとなしくしているのはそれも一因な気がする。
「そうか、それはありがとう」
違う声が横から聞こえた。
魔導士か。
黒いマントは縁に銀の刺繍。目深に被ったフードで顔は隠れている。猫背であり、身長は高くないように見える。
「おおっ、俺がお前のことを言ったのがきちんと伝わったのか」
「悪口は聞き逃がさないタチなもので」
彼はいつも魔王が座っている丸イスに座った。
このテーブルには三つのイスしかないのだから当たり前なのだが、席が空いているからと言って誰も座らない席だった。
「おやおや、そこは魔王様の席だぞ」
ニヤニヤ笑いの前竜王。
「ケチャ、俺の席が塞がれていて、ヴィッターの席が空いているのだから、空いている席に座るだろ」
ヴィッター?
前竜王にケチャと言った。ヴィッターというのは魔王様の名前か。
彼はその二人を名前で呼べる人物だ。
この丸テーブルに三つのイスが用意されていたのは、魔王様、前竜王、そして、彼らを封印した張本人、ズィー・エルレガの席。
そして、俺の席、、、というのは、私が座っているからだ。
反射的に立ち上がろうとしたが。
「あ、そのままで良いぞ、ティフィ。ヴィッターもケチャもわざともう一つイスを用意しなかったのだから」
私がテーブルに手をついた時点で、落ち着いた声で彼は告げる。
「へえへえ、用意しますよー、魔王様とー一緒にー」
「部下に指示するだけのクセに」
フードで彼の口元も辛うじて見える程度だ。
笑っているように見えるが。
「おいっ」
前竜王が苛立ちを含んだ声で店員を呼んだ。
竜人族の店員がズィーの斜め後ろに立つ。
「ケチャ、お前は、、、」
「ズィーが店に来たら、その重苦しいマントを剥ぎ取れといつも言っているじゃないかっ」
「おいはぎみたいに言うなよ」
ズィーが仕方なさそうに立ち上がり、フードを外し、マントの留め具をいじっている。
「認識阻害までさせて何が楽しいんだ。お前は姿勢も良いクセに」
「誰にも気づかれないような魔導士の方が楽だからな」
ズィーは重そうな黒いマントを店員に預けた。下はラフな格好だ。
「初めましてとは思えないが、俺はズィー・エルレガだ。ズィーと気軽に呼んでくれ。よろしく」
私に向かってお辞儀をしたズィーの姿勢はいい。
あのマントが猫背に見せるように、そして、身長も低く見えるようにしていたのだろうか。
彼の存在は小さくない。
「えっ、あ、私はティフィです。よろしくお願いします」
お互い、本来の姿だ。
今の肉体の状態ではない。
シークがこの状況を見たら、羨ましがるのだろうか?
私は夢の話をシークにはしていない。
このズィーが作った仮想現実のことを。
「俺はティフィに会ったら聞きたいことがあったんだ」
そりゃ、あるでしょうね。
入れ替わりのことを。
私がシークの協力者だと知られたら、やはり断罪されるのだろうか。
「な、何でしょうか」
断罪を待つかのように、俯いて目を瞑ってしまう。
「お前の本命は一体誰だ?」
「?」
何を言われたのか、全然わからなかった。
目を開けて、ズィーを見る。
私はほんの少し首を傾げていた。
「お前は男性関係、派手過ぎだ。バーの店員やら飲食店の店長やら何やら、果ては王子まで来やがった。お前の本命が誰だかわからなければ、すべてを切るわけにもいかないだろうっ。もうあと半年もしない内にカラダを返すのにっ」
、、、もしかして。
この人はいい人なのか?
私の男性関係なんてすべてご破算していても、この人には何の問題もないのに。
ニヤニヤ笑っている前竜王がいる。
酒のいいつまみになるなあ、という表情だ。
「あの中に本命がいるのなら、別れていたら嫌だろう。やはり、ティフィの後を追ってきたルアン王子が本命なのか」
「え、ルアが私を追って?」
私は彼と別れて、遠い国へと行ったにも関わらず?
一瞬嬉しいと思ってしまった。
が、その表情をズィーに見られた。
「あー、ルアン王子が本命なのかー。俺はああいう顔も体格も性格も国の仕事を放ってきたのもあまり好きじゃないんだが」
全否定じゃないか、ルアに対して。
何か恨みでもあるのか?
、、、あるのかもしれない。
トワイト魔法王国はジルノア王国の隣国だ。二人が知り合いで確執があってもおかしくない。
序列六位と第一王子の関係は、一般人には計り知れない。
「それは初耳。鍛えられた体格が良いのがダメって、じゃあ、俺や魔王様も対象外か」
「俺にないものを持っている奴はムカつく」
「おおぅ、正直だが心が小さいぞー」
ズィーの恋愛対象に入っていたかったのかな、前竜王は。
残念そうに酒を飲む。
いや、それは問題ではない。
シークは。
ズィーの好みにシークは入っているのだろうか。
「あの、、、ズィーは」
本命は誰かと聞くのは躊躇われた。
もしシークだと答えられてしまったら、今の私は。
「ズィーの好みはどんな人だ」
「ああ、ティフィはレインをどう思っている」
レイン?
なぜ急に。
「えっと、騎士の?巡回でうちの店に来る?」
「そう」
「真面目だな、とは思っているけど」
特に感想はないので、絞り出した。
「じゃあ、俺がもらっていい?俺が幸せにするからさあ」
「ん??」
どういう話だ?これ。
私とレインは肉体関係どころか何もない。
レインだって騎士の仕事だから店に巡回してくるのであって、私に恋愛感情を持っている素振りすらなかった。
私を言い訳に利用しているようではあったが、あの街で誰とも付き合う気がなかったからだろう。
「えっと、レインと私はそういう関係ではないし、、、レインといると真面目過ぎて私は息が詰まりそうになるし、長時間一緒にいるのはちょっと」
「そうかな?レインは優しいよ」
ズィーは微笑んだ。
コレはもしかして。
ズィーの本命はレインなのか?
ちょっとホッとした。
いや、ホッとするなっ、私っ。
もしそうだとしたら、シークはどうなる?
ズィーのように、シークをもらっていい?とは聞けない。
それにシークはズィー本人を手に入れたいのだ。
自分がいらぬことをしたとわかれば、どれだけ傷つくことか。
「ま、レインがティフィの姿が良いっていうのなら、レインには魔法でそう見えるようにすればいいかなあって」
「、、、魔法で?」
「そういや、ティフィは高圧的な典型的エルフそのものの態度だって聞いたのに、意外と物腰穏やかで普通な対応だな。意外と誇張されて噂が伝わっていたのか?」
「ズィー、コイツは典型的エルフ族だぞ。長いものには巻かれる」
前竜王の発言に、ズィーは私を見て、一度大きく頷いた。
「ああ、アレか。敵わない奴には平伏するってヤツ。ハイエルフや精霊族にはアイツら絶対服従だからな」
力強く言われた。思いっ切り納得された。
そうなんだけどさあ。
他人に言われると悲しいものがあるよね。
「だが、俺はそこまで強くないぞ」
「何を言っている。俺や魔王様に圧勝するクセに。あの魔王様に勝てるということは、序列一位にだって勝てるだろ」
「水の精霊王に?うーん、強さの次元が違うんだが、魔王様がいれば楽に勝てるかなあ」
「なら、なぜズィーが一位にならないんですか」
普通に魔導士としてズィーが強いのなら、ズィーが序列一位にならなければおかしい。
「うーん、ティフィ、トワイト魔法王国の魔導士序列ってただ魔法が強いってだけではないんだ。魔法研究の他、現時点までの国や世界への貢献度なども加味されている」
「それなら、魔族大侵攻をとめたズィーが一位になってもいい気がする」
「、、、ティフィ、シングルナンバーは通常長命種だけだった。特に一位から五位まではトワイト魔法王国建国にも関わっている。俺のような混血でもない、たった百年も生きないような普通の人族が彼らの序列に対抗するには時間も実績も何もかも足りないんだ」
息を飲んだ。
トワイト魔法王国の歴史は古い。
人族は短命種の代表だ。
だからこそ、他の種族と混血でもない完全な人族がシングルナンバーに入ることはなかった。
「それに魔王様の魔力を借りて一位に勝ったとしても、それは俺の力だと真に言えるだろうか」
「、、、ああ、それもそうだね」
深い。
ズィーは世界を救っても驕らない。
自分の実力を本当の意味で理解している。
だからこそ、序列六位なのか。
さすがだ。
「けど、ズィー、お前は魔王様がいなくても一位に勝てるだろ」
前竜王が半目でズィーに言った。
「そりゃ、当たり前だろ」
さも当然のように、ズィーが答えた。
おいっ。
今の会話、何だったんだ。
私の感動を返してくれ。
「ま、俺はバカが好きなんだ」
声の調子が明るくなったため、私は顔を上げることができた。
前竜王が二ッと笑う。
普段の表情に戻った。
ズィーが彼らを殺せるかどうかの回答はないが、彼らがここでおとなしくしているのはそれも一因な気がする。
「そうか、それはありがとう」
違う声が横から聞こえた。
魔導士か。
黒いマントは縁に銀の刺繍。目深に被ったフードで顔は隠れている。猫背であり、身長は高くないように見える。
「おおっ、俺がお前のことを言ったのがきちんと伝わったのか」
「悪口は聞き逃がさないタチなもので」
彼はいつも魔王が座っている丸イスに座った。
このテーブルには三つのイスしかないのだから当たり前なのだが、席が空いているからと言って誰も座らない席だった。
「おやおや、そこは魔王様の席だぞ」
ニヤニヤ笑いの前竜王。
「ケチャ、俺の席が塞がれていて、ヴィッターの席が空いているのだから、空いている席に座るだろ」
ヴィッター?
前竜王にケチャと言った。ヴィッターというのは魔王様の名前か。
彼はその二人を名前で呼べる人物だ。
この丸テーブルに三つのイスが用意されていたのは、魔王様、前竜王、そして、彼らを封印した張本人、ズィー・エルレガの席。
そして、俺の席、、、というのは、私が座っているからだ。
反射的に立ち上がろうとしたが。
「あ、そのままで良いぞ、ティフィ。ヴィッターもケチャもわざともう一つイスを用意しなかったのだから」
私がテーブルに手をついた時点で、落ち着いた声で彼は告げる。
「へえへえ、用意しますよー、魔王様とー一緒にー」
「部下に指示するだけのクセに」
フードで彼の口元も辛うじて見える程度だ。
笑っているように見えるが。
「おいっ」
前竜王が苛立ちを含んだ声で店員を呼んだ。
竜人族の店員がズィーの斜め後ろに立つ。
「ケチャ、お前は、、、」
「ズィーが店に来たら、その重苦しいマントを剥ぎ取れといつも言っているじゃないかっ」
「おいはぎみたいに言うなよ」
ズィーが仕方なさそうに立ち上がり、フードを外し、マントの留め具をいじっている。
「認識阻害までさせて何が楽しいんだ。お前は姿勢も良いクセに」
「誰にも気づかれないような魔導士の方が楽だからな」
ズィーは重そうな黒いマントを店員に預けた。下はラフな格好だ。
「初めましてとは思えないが、俺はズィー・エルレガだ。ズィーと気軽に呼んでくれ。よろしく」
私に向かってお辞儀をしたズィーの姿勢はいい。
あのマントが猫背に見せるように、そして、身長も低く見えるようにしていたのだろうか。
彼の存在は小さくない。
「えっ、あ、私はティフィです。よろしくお願いします」
お互い、本来の姿だ。
今の肉体の状態ではない。
シークがこの状況を見たら、羨ましがるのだろうか?
私は夢の話をシークにはしていない。
このズィーが作った仮想現実のことを。
「俺はティフィに会ったら聞きたいことがあったんだ」
そりゃ、あるでしょうね。
入れ替わりのことを。
私がシークの協力者だと知られたら、やはり断罪されるのだろうか。
「な、何でしょうか」
断罪を待つかのように、俯いて目を瞑ってしまう。
「お前の本命は一体誰だ?」
「?」
何を言われたのか、全然わからなかった。
目を開けて、ズィーを見る。
私はほんの少し首を傾げていた。
「お前は男性関係、派手過ぎだ。バーの店員やら飲食店の店長やら何やら、果ては王子まで来やがった。お前の本命が誰だかわからなければ、すべてを切るわけにもいかないだろうっ。もうあと半年もしない内にカラダを返すのにっ」
、、、もしかして。
この人はいい人なのか?
私の男性関係なんてすべてご破算していても、この人には何の問題もないのに。
ニヤニヤ笑っている前竜王がいる。
酒のいいつまみになるなあ、という表情だ。
「あの中に本命がいるのなら、別れていたら嫌だろう。やはり、ティフィの後を追ってきたルアン王子が本命なのか」
「え、ルアが私を追って?」
私は彼と別れて、遠い国へと行ったにも関わらず?
一瞬嬉しいと思ってしまった。
が、その表情をズィーに見られた。
「あー、ルアン王子が本命なのかー。俺はああいう顔も体格も性格も国の仕事を放ってきたのもあまり好きじゃないんだが」
全否定じゃないか、ルアに対して。
何か恨みでもあるのか?
、、、あるのかもしれない。
トワイト魔法王国はジルノア王国の隣国だ。二人が知り合いで確執があってもおかしくない。
序列六位と第一王子の関係は、一般人には計り知れない。
「それは初耳。鍛えられた体格が良いのがダメって、じゃあ、俺や魔王様も対象外か」
「俺にないものを持っている奴はムカつく」
「おおぅ、正直だが心が小さいぞー」
ズィーの恋愛対象に入っていたかったのかな、前竜王は。
残念そうに酒を飲む。
いや、それは問題ではない。
シークは。
ズィーの好みにシークは入っているのだろうか。
「あの、、、ズィーは」
本命は誰かと聞くのは躊躇われた。
もしシークだと答えられてしまったら、今の私は。
「ズィーの好みはどんな人だ」
「ああ、ティフィはレインをどう思っている」
レイン?
なぜ急に。
「えっと、騎士の?巡回でうちの店に来る?」
「そう」
「真面目だな、とは思っているけど」
特に感想はないので、絞り出した。
「じゃあ、俺がもらっていい?俺が幸せにするからさあ」
「ん??」
どういう話だ?これ。
私とレインは肉体関係どころか何もない。
レインだって騎士の仕事だから店に巡回してくるのであって、私に恋愛感情を持っている素振りすらなかった。
私を言い訳に利用しているようではあったが、あの街で誰とも付き合う気がなかったからだろう。
「えっと、レインと私はそういう関係ではないし、、、レインといると真面目過ぎて私は息が詰まりそうになるし、長時間一緒にいるのはちょっと」
「そうかな?レインは優しいよ」
ズィーは微笑んだ。
コレはもしかして。
ズィーの本命はレインなのか?
ちょっとホッとした。
いや、ホッとするなっ、私っ。
もしそうだとしたら、シークはどうなる?
ズィーのように、シークをもらっていい?とは聞けない。
それにシークはズィー本人を手に入れたいのだ。
自分がいらぬことをしたとわかれば、どれだけ傷つくことか。
「ま、レインがティフィの姿が良いっていうのなら、レインには魔法でそう見えるようにすればいいかなあって」
「、、、魔法で?」
「そういや、ティフィは高圧的な典型的エルフそのものの態度だって聞いたのに、意外と物腰穏やかで普通な対応だな。意外と誇張されて噂が伝わっていたのか?」
「ズィー、コイツは典型的エルフ族だぞ。長いものには巻かれる」
前竜王の発言に、ズィーは私を見て、一度大きく頷いた。
「ああ、アレか。敵わない奴には平伏するってヤツ。ハイエルフや精霊族にはアイツら絶対服従だからな」
力強く言われた。思いっ切り納得された。
そうなんだけどさあ。
他人に言われると悲しいものがあるよね。
「だが、俺はそこまで強くないぞ」
「何を言っている。俺や魔王様に圧勝するクセに。あの魔王様に勝てるということは、序列一位にだって勝てるだろ」
「水の精霊王に?うーん、強さの次元が違うんだが、魔王様がいれば楽に勝てるかなあ」
「なら、なぜズィーが一位にならないんですか」
普通に魔導士としてズィーが強いのなら、ズィーが序列一位にならなければおかしい。
「うーん、ティフィ、トワイト魔法王国の魔導士序列ってただ魔法が強いってだけではないんだ。魔法研究の他、現時点までの国や世界への貢献度なども加味されている」
「それなら、魔族大侵攻をとめたズィーが一位になってもいい気がする」
「、、、ティフィ、シングルナンバーは通常長命種だけだった。特に一位から五位まではトワイト魔法王国建国にも関わっている。俺のような混血でもない、たった百年も生きないような普通の人族が彼らの序列に対抗するには時間も実績も何もかも足りないんだ」
息を飲んだ。
トワイト魔法王国の歴史は古い。
人族は短命種の代表だ。
だからこそ、他の種族と混血でもない完全な人族がシングルナンバーに入ることはなかった。
「それに魔王様の魔力を借りて一位に勝ったとしても、それは俺の力だと真に言えるだろうか」
「、、、ああ、それもそうだね」
深い。
ズィーは世界を救っても驕らない。
自分の実力を本当の意味で理解している。
だからこそ、序列六位なのか。
さすがだ。
「けど、ズィー、お前は魔王様がいなくても一位に勝てるだろ」
前竜王が半目でズィーに言った。
「そりゃ、当たり前だろ」
さも当然のように、ズィーが答えた。
おいっ。
今の会話、何だったんだ。
私の感動を返してくれ。
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