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第2章 波乱含みの
2-15 先生
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白いドレスに身を包んでいる女性が馬車から降りてきた。
大歓声が辺りを支配する。
ここで降りるのは予定されていなかったはずだ。
お付きの侍女が近くの騎士に何か言付けすると。
「皆の者、歓迎はありがたいと姫は仰せだ。姫の恩人がこの場にいるため、挨拶に出て来られた。速やかに道を開くように」
姫の正面の道を開けるように、彼女の騎士たちが観客を誘導する。
お偉いさんだとわかっているので、素直に道を開けるものが多い。
俺たちの前にも騎士が来たが。
姫は一つ頷いた。
それを見た騎士は、俺に一礼してからスッと横にずれる。
、、、この暑い中、こんな黒マントを羽織っていたら、騎士たちにもすぐにわかるか。
道ができると、姫はゆっくりと歩き出す。
二人の侍女が後ろからついてくるが、彼女たちも相当の手練れだろう。
だが、彼女たちも騎士たちも、姫の次の行動に驚愕する。
俺にほどほどの距離まで近づいたとき、姫は自国の王に向けて行なうべき最上級の礼を俺に向かって行なった。
白いドレスの裾が綺麗に持ち上がり、深々と礼をする。
周囲は静まり返った。
姫が顔を上げると、いたずらっ子のような笑顔を向けた。
「先生、ご無沙汰しておりますわ」
今度は俺の番か。
俺はスッと跪く。
騎士の礼である。
俺は騎士ではないが。
この魔導士にしか見えない黒いマントな格好で、この礼もないのだが。
「我が姫、十五年ぶりでしょうか。美しくなられて」
「先生も相当丸くなられましたわね。私にお世辞を言うなんて」
「姫が美しくなられたのは本当のことですから」
「あらあらまあまあ」
姫は歓喜の笑顔。
耳まで赤らめて、両手を頬にあてて喜んでいる。
「是非、先生とお話ししたいですわ」
今はお互いが対等な関係のように立っている。
第三者から見れば、どんな関係なのかわからない。
姫が先生と言っているが、学校の教師や家庭教師は対等な存在ではない。
魔導士であればなおさら。
「ふふっ、それが不可能なことは姫が良くご存じなのでは」
「残念ですわ。こんな偶然二度はないでしょう。先生は約束を覚えていらっしゃいますか」
少し寂しそうな表情を浮かべたが、それはほんの一瞬。交渉が今しかできないことを悟って、姫は次の言葉を紡いできた。
お付きの者がとめる前に。
「姫が五歳のときのですか?アレはまだ」
「私はまだ未婚ですし、結婚する気はありません。その証拠に私には婚約者がおりません」
イキているのか、あの約束は。
「それは姫が妙齢になり、姫に相手がおらず、私と再会することができたならば、という条件もあったはずですが」
「今、再会しているではありませんか」
確かに。
だが、再会しているのは、俺の肉体ではない。
「残念ながら、姫にはわかっていると思います。私と会いたいならばトワイト魔法王国にお越しください。私への訪問はすべてお断りしてますが、我が姫でしたら歓迎いたしますよ」
「我がキューズ王国にも空間転移魔法陣がありますのよ。本気で訪問しますよ。門前払いは絶対にやめてくださいね」
念を入れてきた。
おそらく何度かトワイト魔法王国訪問を打診しているのかもしれない。
もれなくお断りのお返事が来たに違いない。
全お断り状態だからな、俺。
グフタ国王に伝えておこう。我が姫だけ通してね、って。
「できれば半年以上時間を置いていただいた方がありがたいですねえ」
後ろで姫様にごにょごにょ侍女さんが耳打ちしている。
「どんなにスケジュールを調整しても、一年以上後だそうです。先生、首を洗って待っていてくださいね」
「美しい姫なら大歓迎します。けれど、すでに私が結婚していても許してくださいね」
「それは許しますわ。約束さえお守りいただければ。残念ですけど。私はあのとき、貴方に結婚してほしいと伝えるべきでしたわね」
俺は微笑む。
周囲には口元しか見えていないだろうけど、彼女には見えているだろう。
「貴方はあのときそれを望むべきではなかったことを知っていただけに過ぎない。ただ、当時五歳の貴方に望まれても、私はその願いを受け入れなかったでしょう」
「そうでしょうね。先生はそういう方ですものね」
「姫、お時間です」
後ろの二人の侍女が頭を下げて、姫に告げた。
仕方ないとばかりに、姫は俺に一礼、そしてこの場に来たときからいたことに気づいていたであろうジルノアの第一王子に軽く一礼してから馬車に戻ろうとした。
が。
彼女はあのいたずらっ子の笑顔で俺を振り返った。
「私の白き騎士、結婚できなくとも、世界を救った尊き存在の貴方を私は生涯お慕い続けますわ」
彼女は言い捨てると、さっさと行ってしまった。
馬車に乗って、今の出来事がまるで嘘だったかのように馬車はゆっくりと進んでいった。
はい、さよならー。
一年後まで、お元気でー。
俺との挨拶はまるでなかったかのように大歓声は続く。
役所に着くまで続くのに。
、、、続いているのに。
「どういうことですか、今の?」
おや、冷ややかな声が背後から。
もちろんルアン王子ではない。
「レインくん、いたの?」
「はい、後方にいました。キューズ王国のアーリア・キュテリア公爵令嬢とどういうご関係で?」
「姫が言っていた通り、雇われ騎士の関係でした」
正直に答えました。
「貴方は騎士じゃないでしょ」
「いや、聞いたことない?魔王を封印した魔導士ズィー・エルレガは白い騎士の衣装で戦場を駆けたとか」
「え、、、っと、アレ、誇張表現とか、舞台演出とかじゃないんですか?」
「ちょうど魔族大侵攻のときはあの姫の父親に雇われてた時期で、姫の好みで俺の制服が白の騎士服だったからなんだよ。だから、世間での俺のイメージはなぜか白」
というわけで、俺は真逆の黒マントなわけだ。
黒髪黒目だから真っ黒。
けど、舞台で立つ役者って金髪で白い騎士服だから、世のなか俺の姿を勘違いする者が続出している。
おそらくティフィの方が世間で噂される六位の姿に合っているんじゃないかな。
「もしかして、制服を支給してくれるならマントでも騎士服でも何でもいいやとかそんなところですか」
「そうなんだけどねー。職場で制服まで支給してくれるなんてありがたいことじゃん」
じっとレインが見ている。
穴が開くほど見ているよ。
「、、、レインくん?」
どしたの?
目で訴えるだけじゃ思いは伝わらないよ。
「騎士の制服を着てくれたら許します」
「ティフィの姿で?」
「元の姿で」
ティフィの姿じゃ意味ないのか。
「ま、こんな感じか」
羽織っていたマントを外した。
黒髪黒目のいつものズィー・エルレガで、あの当時の白い騎士服を再現してみた。
当時の剣もきちんと腰に携えている。
実際はティフィの肉体なので、ただそう見えるように魔法で投射しているだけなのだが。
「あ、、、」
レインくんが耳まで真っ赤になって、片手で口を覆った。
「それは反則です、ズィー。今すぐ抱きしめたい」
レインくんがデレた。
ううっ、可愛い。
姫は五歳児のときの姫のイメージがあるから美人でも惚れないが、レインも同じく反則級に可愛いじゃないか。
一応、レインは俺の姿を覚えていてくれたようだ。良かった、良かった。
、、、俺、美化した姿を投射してないよね?
髪は整っているけど、服装も上等なものだけど。
実物見たら、違うと言って返品しないでね。
「本人の姿になれるのなら、そのままでいたらいいんじゃないか」
空気が読めない男、ルアン王子。
チッ。
心のなかで舌打ちをする。
顔は笑顔のままだけど。
「ルアン王子殿下、ならばティフィを半年も行方不明にしておく気ですか?この街に必要な薬師ですよ?」
「そ、それは」
ルアン王子は口籠る。
「そもそも、トワイト魔法王国の六位がこの街にいたら、この街がゴキブリホイホイになってしまう」
「ゴキブリ?」
「ジニア聖教国の聖職者が湧いて出て来る」
「え?」
ルアン王子は疑問符を浮かべたが、レインの表情は元に戻ってしまった。
大歓声が辺りを支配する。
ここで降りるのは予定されていなかったはずだ。
お付きの侍女が近くの騎士に何か言付けすると。
「皆の者、歓迎はありがたいと姫は仰せだ。姫の恩人がこの場にいるため、挨拶に出て来られた。速やかに道を開くように」
姫の正面の道を開けるように、彼女の騎士たちが観客を誘導する。
お偉いさんだとわかっているので、素直に道を開けるものが多い。
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、、、この暑い中、こんな黒マントを羽織っていたら、騎士たちにもすぐにわかるか。
道ができると、姫はゆっくりと歩き出す。
二人の侍女が後ろからついてくるが、彼女たちも相当の手練れだろう。
だが、彼女たちも騎士たちも、姫の次の行動に驚愕する。
俺にほどほどの距離まで近づいたとき、姫は自国の王に向けて行なうべき最上級の礼を俺に向かって行なった。
白いドレスの裾が綺麗に持ち上がり、深々と礼をする。
周囲は静まり返った。
姫が顔を上げると、いたずらっ子のような笑顔を向けた。
「先生、ご無沙汰しておりますわ」
今度は俺の番か。
俺はスッと跪く。
騎士の礼である。
俺は騎士ではないが。
この魔導士にしか見えない黒いマントな格好で、この礼もないのだが。
「我が姫、十五年ぶりでしょうか。美しくなられて」
「先生も相当丸くなられましたわね。私にお世辞を言うなんて」
「姫が美しくなられたのは本当のことですから」
「あらあらまあまあ」
姫は歓喜の笑顔。
耳まで赤らめて、両手を頬にあてて喜んでいる。
「是非、先生とお話ししたいですわ」
今はお互いが対等な関係のように立っている。
第三者から見れば、どんな関係なのかわからない。
姫が先生と言っているが、学校の教師や家庭教師は対等な存在ではない。
魔導士であればなおさら。
「ふふっ、それが不可能なことは姫が良くご存じなのでは」
「残念ですわ。こんな偶然二度はないでしょう。先生は約束を覚えていらっしゃいますか」
少し寂しそうな表情を浮かべたが、それはほんの一瞬。交渉が今しかできないことを悟って、姫は次の言葉を紡いできた。
お付きの者がとめる前に。
「姫が五歳のときのですか?アレはまだ」
「私はまだ未婚ですし、結婚する気はありません。その証拠に私には婚約者がおりません」
イキているのか、あの約束は。
「それは姫が妙齢になり、姫に相手がおらず、私と再会することができたならば、という条件もあったはずですが」
「今、再会しているではありませんか」
確かに。
だが、再会しているのは、俺の肉体ではない。
「残念ながら、姫にはわかっていると思います。私と会いたいならばトワイト魔法王国にお越しください。私への訪問はすべてお断りしてますが、我が姫でしたら歓迎いたしますよ」
「我がキューズ王国にも空間転移魔法陣がありますのよ。本気で訪問しますよ。門前払いは絶対にやめてくださいね」
念を入れてきた。
おそらく何度かトワイト魔法王国訪問を打診しているのかもしれない。
もれなくお断りのお返事が来たに違いない。
全お断り状態だからな、俺。
グフタ国王に伝えておこう。我が姫だけ通してね、って。
「できれば半年以上時間を置いていただいた方がありがたいですねえ」
後ろで姫様にごにょごにょ侍女さんが耳打ちしている。
「どんなにスケジュールを調整しても、一年以上後だそうです。先生、首を洗って待っていてくださいね」
「美しい姫なら大歓迎します。けれど、すでに私が結婚していても許してくださいね」
「それは許しますわ。約束さえお守りいただければ。残念ですけど。私はあのとき、貴方に結婚してほしいと伝えるべきでしたわね」
俺は微笑む。
周囲には口元しか見えていないだろうけど、彼女には見えているだろう。
「貴方はあのときそれを望むべきではなかったことを知っていただけに過ぎない。ただ、当時五歳の貴方に望まれても、私はその願いを受け入れなかったでしょう」
「そうでしょうね。先生はそういう方ですものね」
「姫、お時間です」
後ろの二人の侍女が頭を下げて、姫に告げた。
仕方ないとばかりに、姫は俺に一礼、そしてこの場に来たときからいたことに気づいていたであろうジルノアの第一王子に軽く一礼してから馬車に戻ろうとした。
が。
彼女はあのいたずらっ子の笑顔で俺を振り返った。
「私の白き騎士、結婚できなくとも、世界を救った尊き存在の貴方を私は生涯お慕い続けますわ」
彼女は言い捨てると、さっさと行ってしまった。
馬車に乗って、今の出来事がまるで嘘だったかのように馬車はゆっくりと進んでいった。
はい、さよならー。
一年後まで、お元気でー。
俺との挨拶はまるでなかったかのように大歓声は続く。
役所に着くまで続くのに。
、、、続いているのに。
「どういうことですか、今の?」
おや、冷ややかな声が背後から。
もちろんルアン王子ではない。
「レインくん、いたの?」
「はい、後方にいました。キューズ王国のアーリア・キュテリア公爵令嬢とどういうご関係で?」
「姫が言っていた通り、雇われ騎士の関係でした」
正直に答えました。
「貴方は騎士じゃないでしょ」
「いや、聞いたことない?魔王を封印した魔導士ズィー・エルレガは白い騎士の衣装で戦場を駆けたとか」
「え、、、っと、アレ、誇張表現とか、舞台演出とかじゃないんですか?」
「ちょうど魔族大侵攻のときはあの姫の父親に雇われてた時期で、姫の好みで俺の制服が白の騎士服だったからなんだよ。だから、世間での俺のイメージはなぜか白」
というわけで、俺は真逆の黒マントなわけだ。
黒髪黒目だから真っ黒。
けど、舞台で立つ役者って金髪で白い騎士服だから、世のなか俺の姿を勘違いする者が続出している。
おそらくティフィの方が世間で噂される六位の姿に合っているんじゃないかな。
「もしかして、制服を支給してくれるならマントでも騎士服でも何でもいいやとかそんなところですか」
「そうなんだけどねー。職場で制服まで支給してくれるなんてありがたいことじゃん」
じっとレインが見ている。
穴が開くほど見ているよ。
「、、、レインくん?」
どしたの?
目で訴えるだけじゃ思いは伝わらないよ。
「騎士の制服を着てくれたら許します」
「ティフィの姿で?」
「元の姿で」
ティフィの姿じゃ意味ないのか。
「ま、こんな感じか」
羽織っていたマントを外した。
黒髪黒目のいつものズィー・エルレガで、あの当時の白い騎士服を再現してみた。
当時の剣もきちんと腰に携えている。
実際はティフィの肉体なので、ただそう見えるように魔法で投射しているだけなのだが。
「あ、、、」
レインくんが耳まで真っ赤になって、片手で口を覆った。
「それは反則です、ズィー。今すぐ抱きしめたい」
レインくんがデレた。
ううっ、可愛い。
姫は五歳児のときの姫のイメージがあるから美人でも惚れないが、レインも同じく反則級に可愛いじゃないか。
一応、レインは俺の姿を覚えていてくれたようだ。良かった、良かった。
、、、俺、美化した姿を投射してないよね?
髪は整っているけど、服装も上等なものだけど。
実物見たら、違うと言って返品しないでね。
「本人の姿になれるのなら、そのままでいたらいいんじゃないか」
空気が読めない男、ルアン王子。
チッ。
心のなかで舌打ちをする。
顔は笑顔のままだけど。
「ルアン王子殿下、ならばティフィを半年も行方不明にしておく気ですか?この街に必要な薬師ですよ?」
「そ、それは」
ルアン王子は口籠る。
「そもそも、トワイト魔法王国の六位がこの街にいたら、この街がゴキブリホイホイになってしまう」
「ゴキブリ?」
「ジニア聖教国の聖職者が湧いて出て来る」
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ルアン王子は疑問符を浮かべたが、レインの表情は元に戻ってしまった。
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