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4章 血がつながる者
4-8 クソジジイ ※アルス王子視点
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◆アルス王子視点◆
自分はこんな貧しい家の生まれではない。
あまりにも豪華な馬車が迎えに来てくれたとき、そう思った。
本当の両親が迎えに来てくれた。そう、両親だと思った。
けれど、新しい母親には母と呼ぶことを許されたが、公式の場以外では一切近寄るなと言われた。
国王の父とは数回会った。仕事が忙しくてなかなか会う時間が取れないという話だった。
兄弟のことは一切口にするなと言われた。これから、どんな場面でも。兄弟はいない、一人っ子だと言えと言われた。
そう、あの家で自分一人が特別な生まれだったのだ。
三つ子の二人がこの豪華な城にいないということは、そういうことなのだ。
ワガママを言っても誰も怒らない。
食事やオヤツを独り占めしても文句を言われない。
なんて素晴らしい世界だと思った。
しかし、クソジジイが来てから状況が一変した。
早起き、身の支度から始まって、食事のマナーから歩き方まで何から何まで口を出される。
それをやろうとしないと、カラダが勝手に動き出す。
クソジジイを睨みつけると、笑いながら言われる。
「笑顔を作ることもできるんですよ、アルス王子」
表情筋が引っ張られる。本当に操り人形にされかねないことを身をもって教えられる。
他の人間が来たときに、国王の父にアイツをクビにしろと言ってこいと言うと、あの方を貴方の教育係に任命したのは他ならぬ国王なのだと返答される。それは実情を知らないからだ、アイツは王子の扱い方がなっていないと言っても、あの方の功績はこの国では知らぬ者はおりません、国王が任命したのなら間違いないでしょう、と。
「王子を操り人形にしてただじゃおかないぞ。国王になったら覚えておけ」
「なぜ、こういう能力を持つ私が貴方の教育係になっているか、少しは考えなさい。ヒントをあげましょうか。このまま勉強もせず外に出すのが恥だと思う王子なら、強制的にでも良い子になってもらった方がいいと、国王陛下もお考えなのですよ」
ヒントじゃなくて、答えじゃねえか。つまり、ワガママ三昧させていたのは、別段どんな人間に成長しようと最後にはこのクソジジイに操ってもらえば、外交的には恥をかくことはないということだ。けど、このクソジジイはジジイだけあって老い先短いはずだ。
「うちは代々、人形遣いの家系でしてね。私が亡くなってもしっかり跡継ぎがいるのですよ。だから、たとえ貴方が愚鈍なままでも安心してくださいね。王子、果ては国王、国の面子を潰すことは一切させませんから」
考えを読むな。
つまり、このクソジジイが死んでも、クソジジイ二号、三号が現れるっていうことかよ。
渋々と分厚い本が並ぶ机を前にする。
「それに、この国は貴方が国王になったときに滅びるのでしょうし」
ウキーーーーーーっ。このクソジジイ、いつかギャフンと言わせてやる。立派な国王になって、あのとき言ったことは誤りでしたと謝らせてやる。
代わりがいるのは、今ではわかる。
あのソックリだった兄弟が他人であるわけがない。
三つ子だったのだから当たり前だ。
なぜ自分だけが特別だと思っていたのか、今になると不思議でならない。
自分が選ばれたのは単なる運だったということを。顔が同じなのだから、誰でも同じ。面倒だった父の部下たちは近くにいた子供を連れて行っただけだ。来る時間が違えば、王子として選ばれていたのはあの二人だったかもしれない。
あの家に居た母親が本当の母親だ。今の母親は顔も合わせてくれない。
食事もいつも部屋に運ばれ、一人で食べる。
あの家と母親と兄弟たちを思い出すと、無性に会いたくなる。
クソジジイに聞いてみた。
「アルス王子、貴方は想像力というものがないのですか?」
このクソジジイは嫌味を言わないと生きていけない病気か。
「貴方の今の母親である王妃が、貴方の本当の母親を生かしておくと本気でお思いですか?」
確定的なことは言われていない。
けれど、母はすでに亡くなっているということだ。
想像しなかったわけではない。
想像するのが怖かっただけだ。
ようやくあの温かい手が永遠に失われたことを悟った。
この城では誰も触れない。触れてこない。
冷たい空間だけが広がっている。
「ご兄弟お二人とも国外で、まだ生きていましたよ。生存確認は昔の伝手でなんとか取れましたが、このままいけば貴方が会うことはないでしょうね」
二人も今後どうなるかわからないが、生きて会うことは絶望的とも言える言葉がクソジジイから紡がれた。
なぜ国外にあの二人が連れて行かれて始末されたということを知っていたのかというと、迎えに来た父の配下の者たちが口にしていたのだ。他のガキをどうするのかと。彼らにとってもどうでも良かったのだ。二人を迎えに来てくれて始末までしてもらえれば、どこに連れていかれようとも。その言葉を誰が聞いていようとも。
まだ生きていましたよ。
その言葉に心が締めつけられる。
二人が死んだら、王子の代わりがいなくなったと喜べるだろうか。
三つ子として三人が揃って生きた年月が遠ざかっていけば、ただの思い出になるだろうか。
あの家を忘れてしまうことができるのだろうか。
クソジジイは長年生きているだけあって物知りだ。
様々な話をしてくれる。
知識を与えてくれる。
この部屋に訪れる者が、最初のときより少なくなっていることにようやく気付いた。
基本的にクソジジイがいるときにしか、他の者もこの部屋には来ないことに。
剣の訓練を始めて、少しだけ外に出るようになった。
あのクソジジイは人形遣いというだけでなく実際に多才なのだ。
クソジジイという呼び名を変える気はないが、いつのまにかクソジジイと一緒にいることが苦痛ではなくなった。
たまにしわくちゃの手で頭を撫でられることが嬉しいと思ってしまう。
けれど。
後ろを振り返ると、クソジジイの操っている人形と目が合う。
ニタリとした笑顔が向けられる。
あの不気味な顔の人形はどうにかできないのかと思う。
自分はこんな貧しい家の生まれではない。
あまりにも豪華な馬車が迎えに来てくれたとき、そう思った。
本当の両親が迎えに来てくれた。そう、両親だと思った。
けれど、新しい母親には母と呼ぶことを許されたが、公式の場以外では一切近寄るなと言われた。
国王の父とは数回会った。仕事が忙しくてなかなか会う時間が取れないという話だった。
兄弟のことは一切口にするなと言われた。これから、どんな場面でも。兄弟はいない、一人っ子だと言えと言われた。
そう、あの家で自分一人が特別な生まれだったのだ。
三つ子の二人がこの豪華な城にいないということは、そういうことなのだ。
ワガママを言っても誰も怒らない。
食事やオヤツを独り占めしても文句を言われない。
なんて素晴らしい世界だと思った。
しかし、クソジジイが来てから状況が一変した。
早起き、身の支度から始まって、食事のマナーから歩き方まで何から何まで口を出される。
それをやろうとしないと、カラダが勝手に動き出す。
クソジジイを睨みつけると、笑いながら言われる。
「笑顔を作ることもできるんですよ、アルス王子」
表情筋が引っ張られる。本当に操り人形にされかねないことを身をもって教えられる。
他の人間が来たときに、国王の父にアイツをクビにしろと言ってこいと言うと、あの方を貴方の教育係に任命したのは他ならぬ国王なのだと返答される。それは実情を知らないからだ、アイツは王子の扱い方がなっていないと言っても、あの方の功績はこの国では知らぬ者はおりません、国王が任命したのなら間違いないでしょう、と。
「王子を操り人形にしてただじゃおかないぞ。国王になったら覚えておけ」
「なぜ、こういう能力を持つ私が貴方の教育係になっているか、少しは考えなさい。ヒントをあげましょうか。このまま勉強もせず外に出すのが恥だと思う王子なら、強制的にでも良い子になってもらった方がいいと、国王陛下もお考えなのですよ」
ヒントじゃなくて、答えじゃねえか。つまり、ワガママ三昧させていたのは、別段どんな人間に成長しようと最後にはこのクソジジイに操ってもらえば、外交的には恥をかくことはないということだ。けど、このクソジジイはジジイだけあって老い先短いはずだ。
「うちは代々、人形遣いの家系でしてね。私が亡くなってもしっかり跡継ぎがいるのですよ。だから、たとえ貴方が愚鈍なままでも安心してくださいね。王子、果ては国王、国の面子を潰すことは一切させませんから」
考えを読むな。
つまり、このクソジジイが死んでも、クソジジイ二号、三号が現れるっていうことかよ。
渋々と分厚い本が並ぶ机を前にする。
「それに、この国は貴方が国王になったときに滅びるのでしょうし」
ウキーーーーーーっ。このクソジジイ、いつかギャフンと言わせてやる。立派な国王になって、あのとき言ったことは誤りでしたと謝らせてやる。
代わりがいるのは、今ではわかる。
あのソックリだった兄弟が他人であるわけがない。
三つ子だったのだから当たり前だ。
なぜ自分だけが特別だと思っていたのか、今になると不思議でならない。
自分が選ばれたのは単なる運だったということを。顔が同じなのだから、誰でも同じ。面倒だった父の部下たちは近くにいた子供を連れて行っただけだ。来る時間が違えば、王子として選ばれていたのはあの二人だったかもしれない。
あの家に居た母親が本当の母親だ。今の母親は顔も合わせてくれない。
食事もいつも部屋に運ばれ、一人で食べる。
あの家と母親と兄弟たちを思い出すと、無性に会いたくなる。
クソジジイに聞いてみた。
「アルス王子、貴方は想像力というものがないのですか?」
このクソジジイは嫌味を言わないと生きていけない病気か。
「貴方の今の母親である王妃が、貴方の本当の母親を生かしておくと本気でお思いですか?」
確定的なことは言われていない。
けれど、母はすでに亡くなっているということだ。
想像しなかったわけではない。
想像するのが怖かっただけだ。
ようやくあの温かい手が永遠に失われたことを悟った。
この城では誰も触れない。触れてこない。
冷たい空間だけが広がっている。
「ご兄弟お二人とも国外で、まだ生きていましたよ。生存確認は昔の伝手でなんとか取れましたが、このままいけば貴方が会うことはないでしょうね」
二人も今後どうなるかわからないが、生きて会うことは絶望的とも言える言葉がクソジジイから紡がれた。
なぜ国外にあの二人が連れて行かれて始末されたということを知っていたのかというと、迎えに来た父の配下の者たちが口にしていたのだ。他のガキをどうするのかと。彼らにとってもどうでも良かったのだ。二人を迎えに来てくれて始末までしてもらえれば、どこに連れていかれようとも。その言葉を誰が聞いていようとも。
まだ生きていましたよ。
その言葉に心が締めつけられる。
二人が死んだら、王子の代わりがいなくなったと喜べるだろうか。
三つ子として三人が揃って生きた年月が遠ざかっていけば、ただの思い出になるだろうか。
あの家を忘れてしまうことができるのだろうか。
クソジジイは長年生きているだけあって物知りだ。
様々な話をしてくれる。
知識を与えてくれる。
この部屋に訪れる者が、最初のときより少なくなっていることにようやく気付いた。
基本的にクソジジイがいるときにしか、他の者もこの部屋には来ないことに。
剣の訓練を始めて、少しだけ外に出るようになった。
あのクソジジイは人形遣いというだけでなく実際に多才なのだ。
クソジジイという呼び名を変える気はないが、いつのまにかクソジジイと一緒にいることが苦痛ではなくなった。
たまにしわくちゃの手で頭を撫でられることが嬉しいと思ってしまう。
けれど。
後ろを振り返ると、クソジジイの操っている人形と目が合う。
ニタリとした笑顔が向けられる。
あの不気味な顔の人形はどうにかできないのかと思う。
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