すべてを奪われた英雄は、

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6章 花が咲く頃

6-14 そして、消えた ※ククー視点

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◆ククー視点◆

 話が終わったと、レンとビスタは退席した。
 本当ならレンはこの国に要求することがまだ少なからずあったはずだ。
 レンは口を噤んでしまった。最低限のことを話したに過ぎない。

 ビスタが所長を呼んでくると言って、大神官長と俺がしばし応接室に残される。

「大神官長、俺が忠告したとおりになっているじゃないですか」

「ははっ、大きな壁を作られてしまったな。まあ、本来なら隣国との英雄との距離はそのぐらいはあった方がいい。我々は馴れ合ってはいけない間柄だからな」

「それは建前で、本音は」

「うーん、ちょっとなー。パッと出のヴィンセントに英雄が奪われたことが腑に落ちん。命を助けられたからと言って、顔も良いしアソコもデカいが、性格が難アリのヴィンセントと、長年英雄を見続けて、英雄に良い人がいるとわかったら諜報員を辞めるほど惚れていたお前を比べても、なぜヴィンセントを選択するのかわからん。ちと意地悪したくなる気持ちもわかれ」

 なぜレンがヴィンセントを選択するのか、その理由を大神官長へと詳細に説明したくない。
 たぶん酔ったときにレンが言った通りなのだろう。俺が英雄を抱けないからだ。今のレンなら抱けるけど。
 レンは気を許した相手には意外と正直に話す。
 いろいろな理由は他にも山ほどあるが、最終的にはそこに行きつく。
 ヴィンセントの作戦勝ちだ。
 レンはヴィンセントからカラダに与えられる快楽を手放す気はない。レンはヴィンセントから望まれると拒むことを一切しないのだ。ヴィンセントもレンから嫌われることを恐れているので、レンが許すだろうと思われるときを狙っているのは当たり前の話だが。

 ヴィンセントは相手が自分よりも身長が高かろうと、体格が良かろうと、抱く側なのだ。神官学校時代からどんな状況においても抱かれる側に回ったことはない。だから、カイマをそばに置いて、性格に真面目だが難ありと評価されてしまう。
 昔からヴィンセントは他人の評価なんて気にもしない。今はレンの評価だけを気にする男になってしまっている。




 けれど、どんな理由であれ、大神官長は試す行為をまだしてはいけなかった。
 レンの傷は癒えていない。
 過去に裏切られる行為を何度もされた上でも、それでも英雄を続けていたレンに、追い打ちをかけるように仲間が裏切った。
 あの場でレンに会ったのが王子やヴィンセントでなければ、レンは二度と他人に心を開かなかっただろう。
 俺であったらどうだっただろうか、と考えなくもない。最初から俺に会っていたら、表面上の付き合いになっていた可能性の方が高い。レンは俺の理想の英雄像を壊さないようにしてくれただろうから。

 英雄はひたすら優しいのだ。
 アスア王国の国民が歴代の英雄たちへとした仕打ちをギフトで知っていてもなお、見捨てられなかったぐらいに。

 今代の英雄のギフトを奪われたからこそ、レンは今、この場にいる。
 もしギフトを失っていなかったら、英雄はアスア王国に帰っていったことだろう。




「レン、」

「おー、ククー、どうした。大神官長のお守りは?」

 冒険者ギルドの受付カウンターに、レンはビスタと共にいた。カウンターの上に人形遣いの爺さんの人形もいる。その前には受付嬢が立っている。

「後は他の神官たちがやってくれる。基本的に俺の任務はアンタとの打ち合わせまでだからな」

「そうか。そういや聖教国エルバノーンの暗殺者たちは口を割ったか?」

「自供は得られていないが、爺さんとこの政敵が依頼主だ。どこの宗教国家でも一つの家に権力集中させることはまずない。裏の権力も必ず何個かの家に分散させられている。爺さんの家は少し大きくなりすぎたようだな」

「まーなー、私も、うちの一族も優秀だからなー」

 人形がうんうん頷いている。ちょっとこの人形潰して良いかな?

「というわけで、遠路はるばるミニミニダンジョンが聖教国エルバノーンの爺さん本人のところにも到着しましたー。ククーとも通話ができるから、事務レベルの会話は俺抜きで勝手にやってね」

 何が、というわけで、だ。話がつながってないぞ、レン。
 大神官長のせいでどうなるかと思ったが、レンは普段の調子に戻っている。
 ビスタやそこにいる受付嬢などお構いなしに会話している。この二人は信頼できるということか。この二人には意味がわからないだろうけど。

「いや、来たけども。レン、そういうのは来る前に連絡しておいてくれる?たくさんの人形の傍らに見慣れない小さな塔の置き物があってギョッとしたぞ」

「人にやってきたことを、自分がやられるのってどういう気分になるかなーと思って、ついつい」

 確かに。
 まだ不気味な人形ではないだけマシだと思ってしまうが。

「ようやく気付いたー、って塔の置き物にお前の声で言われたときには心臓がとまるぐらい驚いたぞ」

「誰もが寝静まった深夜の廊下で、後ろから不気味な人形が声をかけて来るよりかはマシだと思うが?」

「爺さん、アレ、わざとか?」

 英雄はかなりの回数やられていた。俺も何回かやられた。まあ、爺さんから連絡を取る手段なんか限られているから仕方ないが、時間を選べと言いたい。昼間に人形が動いていたら護衛に見つかりやすいから、これもまた仕方ない話なんだが。

「不気味じゃないもん。娘の作った人形可愛いもん。用があったから声をかけただけだもん」

 ジジイがもんもん言っても可愛くない。ここにいる四人の意見が一致している。
 どうもジジイとは人形に対する認識の誤差が生じているようだ。
 爺さんのところにもミニミニダンジョンがあるのなら、後はここで話さなくてもいい話だ。

「レン、もう街での用事はないんだろ。教会の馬車なら普通に行けるから家まで送ろうか」

「あー、まだまだ人ゴミで動けない状態だったからな。夕方になっても、こうかな?」

「そうだろうな。教会の関係者しか通れないようにされている道も多いし、お祭り騒ぎは明日まで続くだろう。夜もこの状態だと思うぞ。北の門まで行くのも時間がかかる」

 ビスタがレンに言った。そして、俺を見た。

「なあ、神官殿。アンタはレンを送ると言ったが、レンが住む家を知っているのか?」

「送るぐらいだから知っているが」

「すでにレンは教会の庇護下に置かれていたってことか」

「庇護下っていうと、少し語弊がある」

「大神官長はレンの懐柔に失敗したか。事情はよくわからんが、壁ができたのは事実だ。だが、まあ、神官殿には大丈夫なようだから良いが、レンを国の都合で振り回してくれるなよ」

「ビスタ、熱があるんじゃない?マトモなことを言っているわ。それとも、明日、雪が降るのかしら。せっかく暖かくなってきたのに」

 受付嬢がビスタを見て思案顔になっている。

「じゃあ、俺は所長が戻ってくる前に帰る。反省会なんか始められたら目も当てられん。ククー、よろしく」

「うっ、俺もここから人ゴミに紛れて消えよう」

「ビスタ、儂も連れて行ってくれ」

 爺さん人形がビスタの肩につかまって、ビスタは冒険者ギルドから素早く走り去っていった。
 受付嬢のとめる声も聞かずに。
 所長がそんなに怖いのか。
 台本からかけ離れたのは完全に大神官長のせいなのだが。

 俺とレンは冒険者ギルドの訓練場の近くにとめてある馬車のところへ行く。まだ、数台がとめてある。

「あ、ククーの愛馬じゃん。今日は立派な馬車をひいているなー。いつもはもっと重い荷馬車だから、今日は元気に艶々しているな」

「穏やかな馬だからな。ゆっくり行くのにはちょうどいい」

「穏やかかあ。うちのタレタと似てるかな」

 レンが馬の鬣を撫でる。馬も気持ち良さそうだ。

「ん?」

 レンが首を捻った。

「オオ、ちょっと出て来い」

 マントの下から手のひらサイズ毛玉が出てくる。可愛い角ウサギだ。顔はなになにー?って表情だ。この子、今までずっとレンのマントの下にいたの?特等席で大神官長との模擬試合を見ていたモノがいたのか。。。
 レンはオオをガシッと両手で捕まえてから。

「タレタはどこにいる?家にいるのは偽装か?」

 オオは固まっているが、目が少し泳ぐ。。。この子、素直だな。隠し事ができないな。まあ、ダンジョンマスターに隠せることは何もないのだろうけど。

「王子はどこにいるっ?」

 レンの言葉で、俺も気づく。
 俺のギフトで見ても、王子と角ウサギは家の庭にいる。そう、ずっといたのだ。
 王子の横にいる角ウサギは耳が垂れている個体、タレタだ。
 タレタと目が合った。

 その瞬間にタレタと王子は家の庭から消えた。

「タレターーーーーっ」

 レンの大声が響いた。
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