すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社

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8章 初夏の風が吹く

8-3 紆余曲折

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 角ウサギのツノが不貞腐れている。
 ぷくぷくに頬が膨らんでいる。
 座った俺の膝から動かない。重力増大させた体重をかけて俺を動かさまいとしている。

 あー、そんなツノも可愛い。
 ぷっくぷっくに膨らんだ頬をプニプニ触りながら、ツノを堪能する。
 この頃、角ウサギたちは王子にかまいっきりで、俺を放置しがちだからな。
 シアリーの街に行きたいんだけど、当番誰なのー、と聞いてようやく俺の元へノロノロやって来る、、、みたいな。王子が大好きなのもわかるけどさー、もうちょっと主にかまおうよ、キミたち。

「どうしたんだ、その角ウサギ」

「あ、」

 ヴィンセントが不用意な一言を言ってしまった。
 よりツノは頬をパンパンに膨らませた。

「怒っていることはわかるが、、、」

「ヴィンセント、タレタだけはタレタって呼んでるよね」

「わかりやすいからな」

 ツノが頭で俺のお腹をグリグリしている。まあ、頭には小さい角があるんだけど、先端は丸っこいから痛くはない。
 今日はツノ日和だ。撫で繰りまわすぜ。

「ソレなんだよ」

「ソレってどれ?」

「ツノは最初の個体だから角ウサギの標準体型なんだよ」

「そもそも、レンの角ウサギは標準体型じゃないからな」

 ヴィンセントが突っ込む。
 ごくごく普通のダンジョンで現れる角ウサギは細長い長球であり、耳は後ろの方に流れている。名前にも付けられている通り角が特徴的な魔物で、ものすごく長く尖っている角で素早く攻撃し、冒険者でも不意を突かれたら即死する可能性もある。それでも、初級冒険者用の魔物とされている。毛並みはボサボサで艶はなく、泥塗れであることが多く、その毛は茶色だと思われている。

 うちの角ウサギ、丸くて白くて可愛いー。最高だねっ。

「つまり、私がそれぞれの個体を識別できないから怒っているのか?」

「ツノは自分が一番特徴がないって拗ねてるのー」

 頬がぷにーとしている。

「あとは耳が折れたのがいたな」

「それはオレオだね。ヴィンセントの目には同じに見えるのかもしれないけど、他に多少大きい耳のオオと小さい耳のチイがいる。命名は王子だ」

「うん、王子っぽい名前の付け方だ。その耳の大きさって比べるとわかるけど、ってレベルだろ?」

「そうだけど、一匹でいてもなんとなくわからないかなー?」

「そう大差がないのに、わかるか」

 ヴィンセントの方に顔を向いていたツノが俺の腹に向き直る。

「今日はお前になんか主を譲らなーい、とツノが言っております」

「なっ、つまり、ツノの機嫌を損ね続けると、レンとイチャつけないってことか。間にツノが入って邪魔するってことか。それは一大事」

 ヴィンセントの原動力はソコなのか?

「簡単に見分けがつけばいいのなら、耳飾りを変えてみるとか」

 根本的な解決にならないが、わかりやすいところではある。

「残念だけど、コレは冒険者ギルドに従魔契約している印として俺が登録しているから、俺の従魔は基本的に同じ耳飾りになるんだよなー」

 魔物によってはつけられないものがあるから多少は例外が認められるけど。北の門にいる門番もこの耳飾りで俺の従魔だと判断してもらっているが、シアリーの街はテイマーが少ないし、うちの角ウサギたちは耳飾りがなくてもわかりやすいとは思う。冒険者ギルドの決まりだからね。

「私が見分けがつかないのは三匹か」

「オオとチイは、ヴィンセントに見分けてもらわなくても全然気にしない子たちだから大丈夫だよ」

「、、、全然気にもされないのは、それはそれで微妙だな。そうだ、王子はその三匹をどう見分けているんだろう」

 本日のお庭番チイを抱えた王子登場。

「なんとなく見ればわかるよー。みんな違うよー」

「比べれば耳が小さいことはわかるんだが。比較対象がいないことには、、、もう魔術で個体識別書いてしまえば」

 あ、ツノの了解を得ないで、ヴィンセントがさらっと魔術をツノにかけようとした。
 魔術で書いておけば、見る人が見ればその個体の情報がわかるという代物だ。失くしたくない物にはそういう個体識別魔術で情報を書いておくことが多い。
 が。
 あっけなく弾かれる。

「ヴィンセントー、うちの角ウサギは角ウサギでも、最凶級の魔物だよー。さすがにヴィンセントでも気合い入れてやらないとうちの子には一切かからないよー」

「ん?今、ものすごく不穏な言葉を聞いた気がする」

「あ、耳飾りの方にその情報入れれば?個体の名前と、従魔契約主を入れてくれると助かるなあ」

「、、、はいはい。なんか良いように使われた気がするけど」

 とりあえず、ツノとチイの耳飾りに魔術で入れてもらう。チイはこの場にいるのが飽きたようで庭に走り去ってしまった。いつも元気だな。

「で、解決したのに、何で、ツノはレンの膝から退かないんだ?」

「そういうことじゃないーーーーっ、ってツノが怒ってます。まあ、そうだよね。外見に区別がつかないという話だからね」

「区別?そういえば、ツノはお勉強の先生をしてくれるときは眼鏡してくれるよ」

 王子が言った。
 ツノがどこからか眼鏡を取り出す。うん、どこから取り出したんだか?どこで作ったんだか?きっちりガラスまで入っている眼鏡なんですけど。

「、、、カッコイイからソレで良いんじゃないか」

 ヴィンセントがボソリと言った。
 あ、ツノのぷくぷくほっぺが引っ込んだ。しっかたねえなあ、と言い残して、俺の膝から降りていった。
 どうやらこの家のなかにいるときだけは眼鏡をかけることにしたようだ。

「ツノ、お前、ソレで良いのか」

 ツノは王子に抱かれると、この部屋を一緒に去っていった。
 うう、お母さんはお前の行く末を案じてしまうよ。口のうまい悪徳商法やデート商法に騙されないようにね。ま、最後は物理で解決できる能力持っているから良いけど。

「うう、立派に育てよ、ツノ。。。でも、五匹とも俺にソックリだな」

「え?」

 ヴィンセントが納得いかない顔をしているが。

「なんかそれぞれ部分部分の性格や行動が似ているんだよ。俺にもそういう一面があるなーってしみじみ思う。俺の知識とか記憶とかの一部も植え込んでいるからかな」

「へえ、そうなの?」

 俺に似ていると言ってから、ヴィンセントは割とすぐに見分けられるようになった。
 つまり、ヴィンセントは角ウサギ自体に興味がなかったから見分けられなかっただけのようだ。




「けど、お前らはヴィンセントには懐いてないよな。必要事項を伝えるぐらいで」

 次の日、タレタが俺当番だったので聞いてみた。

≪主、ヴィンセントに懐いたら、かなり妬くクセにー≫

 言われて気づく、己の所業。
 角ウサギたちは可愛い。可愛いからこそ。

「うん、そうだね。妬くねー」

 うんうん、頷く。
 皆、偉いわー。察して行動してくれているなんて。

≪それに、みんな、王子の方が可愛いしねー≫

 ああ、そこまで深く考えていない個体もいるってことか。
 王子も可愛いからなー。
 ククーも大変だー。

≪そうね。ククーは大変ね≫

 含みのある言葉をありがとう、タレタ。

≪未来のことは誰にもわからないわよ、主≫

「うん?そうだね」

 未来予知ができる者は、この大陸の長い歴史を紐解いても僅かであると言われている。その中から絶対的な未来予知ができた者と言えばさらに少なくなる。
 誰にもわからないと言っても過言ではないだろう。

≪そういうことじゃないんだけど≫

 タレタが呆れ気味に言う。
 タレタの言いたいことがわからないでもないけど。

 いつかそれぞれ別の道を歩くことになっても、それまでは。
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