その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

文字の大きさ
196 / 196
3章 奇縁がつなぐ間柄

3-4 自らの正義

しおりを挟む
 トカゲの尻尾切り。
 彼らを見ていると、普通に思慮が足りないのでは、とすら思う。
 少し考えれば、すぐに考えつくことだと思うが。

 周囲に監視すらいないところを見ると、コレはリンク王国の第四王子部隊よりもひどい状況なのか。

 成功しようが失敗しようが、死のうが生きようが、上層部にとってはどうでもいい。
 運良く成功して戻ってくれば万々歳、失敗しても邪魔者がいなくなるだけ、というところか。
 リンク王国の魔法障壁を張っていた魔導士の実力を推し量る、という理由だったとしても、ここはオルド帝国。
 そんな言い訳が通用するほど生易しい他国ではない。
 どこの国とでも隙あらば戦争して侵略したいという願望を持つ理不尽国家なのである。

 しかも、彼らは個人で来ているわけではない。ご丁寧にどこの誰かということがわかる制服まで着ているのである。
 フラッテン王国も魔導士協会も上層部が馬鹿なのか?
 私服で行けとどうして言っておかなかったのか?

 それとも。

「、、、捨て駒を殺されることによって、フラッテン王国がオルド帝国に無理難題を突きつける、ということはないのか?」

 メーデに確認しておく。
 何も理不尽国家はオルド帝国だけではない。
 言いがかり大好き国家は多いのだ。

「それは帝国が帝国内で警備を全面的に担当する他国の要人が危険な目に遭った場合にその可能性はあるのだが、他国の王族だろうと何だろうと、たいていは自国の護衛を少なからず連れてきている。そういう場合は帝国内でそいつらが悪さをしないように一筆書かされている」

 あー。
 帝国内に入りたいなら、帝国に有利な条件を飲まなきゃいけないのね。
 まあ、帝国側だって護衛と称した他国の密偵があちこちに出没されたらたまったものじゃない。

「今、帝城に他国の要人が来ているのか?」

「フラッテン王国経由の教会関係者一団が来ているはずだが、コイツらが警備の一員として入っていたとしたら管理責任の問題になってくる」

「宗教国家の、、、んー、それって、フラッテン王国、魔導士協会、宗教国家のどれが黒幕なんだろ?」

 口にしてから気づく。
 オルド帝国にはどれが黒幕だろうとかまわない。
 喧嘩を売られたら、買うまでなのだから。

「真相は別部隊が追いかけているだろ。クロウ、コイツらを叩きのめして捕えていいか」

 メーデが背負っている大剣に手を伸ばす。

「、、、それ、俺に了承を得るの?」

「一応。会話の流れから、拳を交わした挨拶、というわけではなさそうだとは判断している」

 俺はメーデに向けていた視線をギギギと前に戻す。

 、、、コイツら、脳筋か。
 脳筋だった。
 拳を交わして挨拶するな。
 挨拶は言葉でしろ。

 挨拶だけで被害を出すな。

「残念だったな。俺たちは罰を受けないっ。ここがどんな惨状になろうともっ」

 高らかに白い髪の男が言った。
 どこから湧き出る自信だ?

「俺の実力を見せてやるっ」

 と言うと、彼は歌い始めた。
 宗教歌か?

「、、、クロウ、斬っていいか?」

 一応、俺に確認するメーデ。
 うん、待たずに斬りたくなるよね。

「どんな攻撃であろうと、俺がこの大教会に魔法障壁を張ったから意味ないが、旋律による詠唱というのも珍しいから聞いても損はないよ」

「はっ、甘いなっ、すべてが物理攻撃だと思ったら大間違いだ。大魔導士は思った以上に愚かなのか世間知らずなのか、それとも、過剰な噂だけが一人歩きしたのか。お前の魔法障壁は音を通すっ」

 ああ、歌い終わった?
 人を指さすな。
 綺麗な歌声していたのに、残念なヤツだ。
 堂々と周知の事実を宣言するんじゃない。

「まあ、普通に音を通すよね」

「ならば、我がしもべたちよ。魔法障壁に守られていると勘違いしている者たちに鉄槌を、、、え?」

 彼の魔法が自分の思い通り効いていないらしい。
 この場にいるメンバーは誰一人変わっていないし、誰もやって来ない。

「キミのそれ、精神魔法でしょう。魔法障壁に守られているんだから、そんなの効果ないよ」

「あー、クロウの魔法障壁って最強だよね」

 リーウセンが半目になりながら言った。
 呆れているのはどちらに対してか。

「クロウがいた当時のリンク王国の魔法障壁がどこの国とも比較しようがないほど最強だったのは、何も物理攻撃を防ぐだけじゃないってのは周辺国家なら知っていて当然だと思うんだが」

「俺は小さな失敗を一つしても、処罰されるのは確実だからなあ。物理攻撃どころかすべてを防ぎ、密偵も国が入国許可するもんだから入国し放題なのに魔法障壁のせいにされても嫌だから、実力が高い者がリンク王国内で害をなそうとするほど身動きが取れないようになっている」

「え、クロウ、あの完璧な魔法障壁は処罰が嫌だったせいか?」

「それ以外に何がある。平民の下級魔導士なんて一回の失敗で文字通り首が飛ぶんだぞ。親族もろとも」

 家族を守るためにも失敗ひとつすることはできなかった。
 リンク王国は平民の命なんて何とも思っていない。王族や貴族ですら第四王子部隊のように始末するくらいなのだから、どんな命でもどこまでもひたすら軽い。
 まあ、あの魔法障壁がどのような働きをしていたのかというのをしっかり把握していたのはごく一部だと思うが。

「家族を守るためなら、不可能さえ可能にしてやる」

「目がマジだ」

「、、、あの二人のためなら仕方ないよな」

 深く頷くポシュ。
 セリムが微かに嫌そうな顔をした。

 うーん、ポシュに言われるのは、俺もちょっと。
 なーんかわだかまりが生じるんだなあ。
 ポシュに他意はないのはわかっているんだけど。
 敵国のお前に何がわかる的な。
 オルド帝国は意外とそういう面では恵まれているのである。皇帝のためなら自ら犠牲になるのは厭わない国民だし。

 セリムなら許すんだけど。
 俺もちょっと心が狭いと感じるが、これもまた仕方ないことだ。

 リーウセンが軽く動いて、ポシュの姿を遮った。
 俺、そんなに表情に出てた?

「今の家族扱いはセリム?まだ、婚約も結婚もしてないけど」

「そうだな。セリムを守るためなら、この世界が滅びても支障はない」

「いや、支障あるだろ。衣食住どうする気だ」

「生きていれば、どうにでもなる」

 断言した俺をリーウセンが嫌そうな目で見た。

「、、、クロウなら本当にどうにかしそうだな」

「反対に他人が一切いなくなれば、他人の目を気にしなくて済むから楽に行動できる」

「こっちを無視するなーっっ」

 忘れてはいないけど。
 叫ばれてもねえ。

「ああ、綺麗な歌声だったね」

「ぐぬっ、馬鹿にされてる」

 横にいる二人も憐憫の眼差しで彼を見ている。

「うん、お前たちはオルド帝国で何をしようと無事でいられると勘違いしているとか、そういう話?」

「勘違いではなく、事実だ」

 藤色の髪の彼が不機嫌そうに言い切った。
 大教会側にいる者たちは呆れた表情になっている。

「ここがフラッテン王国なら無事でいられただろうが、残念ながらここはオルド帝国だ」

「そんなことは知っている」

 親切にも教えてあげたのに。
 その意味をわかっていないようだから。

 自分の常識が世界に通用すると思ったら大間違い。
 彼がそれを本当に理解するのはいつだろう。

 彼の地位はオルド帝国では何の意味もない。

「とりあえず、壊された扉とその周辺の修理代と、この魔法障壁代かな、かなりの慰謝料を上乗せされてフラッテン王国にはオルド帝国から請求される」

「そんなことできるわけが」

 ふてぶてしい態度は変わらないので、言葉を重ねる。

「お前らが壊した物証を保全しておく必要があるか。教会関係者一団はお前たちを守らない。フラッテン王国も魔導士協会もお前たちの独断だったとすぐさま声明を出してくるに違いない」

「そんなわけなかろう」

 馬鹿馬鹿しいと言いたげな態度だ。 

「うん、そこにいる藤色の髪の彼がフラッテン王国の王族の一人だとしても、ね」

 にこやかに言ってあげた。
 王子であっても特攻隊に入れられる国もあるのだ。
 厄介な立場にある者を他国が始末してくれるなら、ありがたいと思う国も少なくないのかもしれない。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました

西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて… ほのほのです。 ※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

ありふれた聖女のざまぁ

雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。 異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが… 「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」 「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

処理中です...