その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-34 鬼のいぬ間の雑談

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「副隊長まで落ち込まないでくださいよ」

 肩を落とし前を歩くルッツ副隊長に言った。
 隊長、副隊長のトップ二人組が落ち込むと、部隊の士気がぐんと落ち込む。捕虜となった今、士気もへったくれもないが、生きる希望は多い方が良い。

 副隊長が立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

「、、、セリム、いいな、お前は」

 何を言いたいのかなんとなくわかるが、そこまで羨ましがられる進展は残念ながらない。
 早朝の朝食時間は副隊長にとってクロウと二人きりの幸せな時間だったので、もちろん俺は打ち壊しに来ている。
 今後二人きりになんてさせないつもりだ、可能な限り。
 どんなに早起きが辛くともクロウの朝食時間に合わせている。

「で、なぜ私の後をついてくる」

「今日は同じ班なので」

 俺が返答すると、副隊長が小さいため息を吐いた。
 掲示板を見るのを忘れるほど、クロウに言われたことがショックだったのか。
 要するに、好きな男に他のヤツらに抱かれて喜んでいるんだろと言われているようなものだったし。クロウにはそんな意図がまったくなくとも。だからこそ、残酷でもあるが。

 副隊長は朝食をさっさと食べると、クロウが呼びとめるのも聞かずに食堂を出ていった。
 クロウが後で副隊長の牢に薬を届けておくかー、と言っていたが、副隊長が聞きたいのはそういう言葉じゃないんだろうな。

 クロウには直球で物事を伝えないと、正しく伝わらない。
 直球で伝えても、伝わらないときは何をしても伝わらない。
 言葉と行動で伝え続けていくしかないというのに。

 俺が一瞬でも怠けたら、やっぱり違ってたー、と勝手に解釈する生き物なのだ。

「我々は捕虜なのに、肉体の自由もないのによく告白できたな」

 コレは他の男どもに肉体を弄ばれているのに、相手のこと考えているのか、クロウと両想いになれたとしても二人だけで関係を持つことは難しいということを言っているのは俺にもわかる。
 副隊長の場合は、明確な牽制。
 お互い愛する者を手に入れたいというのなら当然だ。

「俺はクロウに伝えられないまま他のヤツに奪われるくらいなら、黙っていられなかっただけだ」

 アンタのことです。明確には言いませんが。
 だが、副隊長の目が優しく微笑んでしまった。

 何だ?

「お前も第四王子部隊に配属されるまではそうやって対等に喋っていたのに、私が副隊長になったら急に敬語になったな」

 実家の爵位が副隊長の方が上だとはいえ、騎士団では同期。最初はタメ口であろうとも。
 騎士団のなかでは役職の方が重視される。上官には敬語。それが同期だろうと年下であろうとも。たいていの場合は実家が高位貴族ならスピード出世していくので、身分が上の者に対して普通に敬語になっていくシステムである。

 上官が部下に敬語で話していたら、他の者に示しがつかない。

「そりゃそうでしょう、上官様なんですから」

「クロウにも言っているが、捕虜仲間なんだから対等に話していいんだぞ。そもそも、お前とは同期なんだから。それに帝国は実力主義だと聞く。お前ならすぐに私を越えていきそうだ」

「それならクロウが遥か先に行きそうですけど」

 魔導士というのは一人だけでも相当の戦力である。
 実力が認められれば、帝国でのクロウの出世は間違いない。
 皇帝と皇弟が牢獄でウロウロしているのだから、彼らが側近にしたがっているのも間違いない。

 命令だ、従え、とクロウに言わないところを見ると、自発的に味方になってほしいとか考えているのかもしれない。無理矢理従わされたと考えると、人は本当の実力を見せないし簡単に裏切る。

「それもそうだ。ん、どうした?」

 ふと思う。
 帝国は実力主義。
 皇帝は帝国で一番強い人物だと聞く。

「いや、ついつい、ついつい思いついちゃったんだが」

「何だ?」

「帝国の皇帝とクロウって戦ったらどっちが勝つんだろう」

 小さい声で言ってみた。

「は?」

 思いついちゃっただけだってば。
 そんな思いっ切り変な顔で見なくとも。副隊長のファンが泣くぞ。

「おまっ、看守に聞かれてないだろうなっ」

 副隊長の慌てようが、クロウが勝つと言っているようなものじゃないか。
 帝国看守なら普通に笑って流す会話だと思う。皇帝が勝つに決まっているじゃん、と内心で思いながら。

「うんうん、看守には聞かれてないけど、面白いこと話してるな」

「うっ」×2

 噂をすると何とやら。
 そこには噂の張本人が後ろに立たれていた。いつのまにか。音が響く通路で、音もなく、気配もなく。存在感しかない人物がどうやって。
 怖っ、これが皇帝か。
 クロウに、アレが帝国の皇帝だ、と呆れたように教えてもらったときには死ぬほど驚いたが、彼は平然と牢獄の食堂あたりに出没することが多い。
 軍服はいつも着てないが。あの服装で皇帝だとわかる捕虜がいるわけがない。
 というか、クロウはけっこう重要な情報を会話の中でボロボロと洩らす。俺を信頼している証なら嬉しいのだが、深く考えていないだけなら悲しい。

「一対一の魔法無制限で戦うと、俺の方が厳しいんじゃないか。帝国の皇帝の強さは国単位の強さだからなあ」

 ニッと笑いながら、この皇帝は雑談を続けてしまう。
 それなら。

「けど、帝国内で一番強い者が皇帝だとか」

「強さの定義はそれぞれだが、権力も含まれる。ただ、クロウの場合はこの帝国の国土を何とも思わないという有利な点がある」

 あー、権力ね。それは今のクロウにはどうにもできない。
 帝国には人脈がない。クロウだけではなく我々にもないけど。
 本来の身分なら話せるわけもない帝国の皇帝とこうして話しているが、油断してはならない。

「ああ、人の命や建物がどうなろうと焦土にしてもいいのなら、ということか」

「そうそう。だから、ちょーっとずつ帝国の土地にも愛着持ってもらわないと。今、クロウには絶賛キャンペーン期間中だ」

 何のキャンペーンだか。
 クロウは帝国関連の本をけっこうな数読んでいる。良い本だから読む?と二冊ほど渡されたが、読む時間がないのが現状だ。

「クロウはリンク王国にもそこまでの愛着は持ってなさそうだが」

「だよねー。キミたちの方が国を懐かしんでいるくらいだよね。なのにさー、クロウに帝国で雇いたいとこちらが提案すると高い壁が出来上がりそうになるんだよねー」

「高い壁。。。あー、」

「お、セリムくん、何か思いつくところある?さすがクロウに大告白大会した男っ」

 褒められているのか、貶されているのか、何なのか。
 なぜ牢獄の末端の出来事を皇帝が把握しているのか。
 俺の名前をしっかり覚えられているのも、クロウ関連か。
 疑問は尽きないなあ。

「雇うとなると、絶対に報酬の話をする必要があるでしょう」

「そりゃそうだよねー」

「リンク王国の王宮は基本的に黒髪の平民は雇いません」

「んー、現にクロウくんは雇われていたじゃん」

「王族が片隅にでも視界に入るのも嫌悪するので、ごく稀に実力を買われて雇われることがあっても本来ならば長続きしません。平民のなかでも黒髪黒目は最底辺の扱いなので、宮廷魔導士団で雇われていたと言っても、おそらく報酬は市井よりほんの少しいい程度」

「えー、リンク王国おかしいー。国の魔法障壁をクロウ一人に受け持たせていたのに、正当な報酬も払っていないなんてーっ」

「え?」×2

「ん?」

 三人で首を傾げ合う。

「あの魔法障壁をクロウが?」

「クロウは魔導士団で雑用係をしていたと聞いていたが?」

 俺たちの顔を見た皇帝が思案顔になった。

「ああ、やはりリンク王国の人たちはクロウくんの功績を知らないのか。ついでに言うと、王宮の魔道具のほとんどは彼一人で魔力充填をしていたんだよ。そーんなクロウくんがいなくなった今、リンク王国ってどうなっていると思う」

「ヤバイことになってる」

「宮廷魔導士団には魔導士が大勢所属していたはずです。彼らでカバーできていなければ、魔導士が補充されていないと国防でも厳しいことになっているかと」

 俺が咄嗟に脳筋な答えを出したのにもかかわらず副隊長が熟慮した風にサラリと答えたが、皇帝は腕組みをしてしまった。
 皇帝にとっては同レベルの答えだったのかもしれない。

「烏合の衆がいくらいたところで、クロウの代わりにはならん。で、セリムくん、話を戻すが、報酬が低かったのがクロウのそびえたつ壁にどう影響すると?」

「クロウは宮廷魔導士団で華やかな王宮に勤めてはいましたが、価値観は根っからの庶民です」

「それはすでにわかってるけど?」

 ああ、すでにわかっているんだー。何で?どして?クロウが平民だから?

「なら、高い報酬を言うと、高い壁が出来上がるってわかりきっているじゃないですか。裏がありそうですし。とりあえず低い報酬を提示して、後から成果に応じて上げていくという方法はできないのですか」

 俺の提案に、皇帝がものすごく嫌そうな顔をした。

「現時点で正当な報酬を払わないと、リンク王国の二の舞になるじゃないかっ。高い能力を評価しないと、うちの国の他の者たちにも示しがつかないっ。正当な報酬をクロウが受け取らないなら、まだ捕虜として命令しているからと言った方が理解されやすいくらいだっ」

 皇帝が叫んだ。
 言いたいことはわかる。いい上司だ。
 帝国は実力主義で厳しい国だ言われているが、努力し続けて成果を出す者たちにとって正当に評価してもらえる良いところなのではないかと思い始めた。

 クロウは捕虜として奴隷として、使い潰されてはいけない人材だ。リンク王国でされてきたように。
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