その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-38 大教会の秘密4

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 地下に続く螺旋階段。
 そこには光もまったく通さない、どこまでも暗く、水も滴るジメジメとした空間が広がっている、はずだった。
 にもかかわらず、光り輝く発光物のせいで眩しいくらいだ。
 幽霊とかの方がまだ可愛げがある。

 埃や汚れ、クモの巣もひどいのに、コイツが階段にフヨると浄化されるのはなぜだっ。
 一家に一台、掃除道具としていかが、って話なのか?

「こっこだよーっ」

 だよー、だよー、だよー。
 明るい声がこだまする。
 暗い空間。
 扉は朽ち果てたのか、すでにない。

 この螺旋階段には一定の間隔で扉があったようだが、通り過ぎるときにその内部を見ると黒い空間が横たわっている。
 ここまで来るのに、いくつもの空間を通り過ぎたが。

 ゾッとする。

 この案内人がいなかった場合、じわじわと侵食してくる黒い空間が階段にはみ出していることだろう。
 というか、こんな場所に来たいと思えない。
 絶対に来ない。
 好奇心に負けない強い心が俺にはある。

 道理でこの地下は踏み込んだ形跡が残されていないわけだ。
 あの聖職者二人もここまで入ることもないのだろう。
 他の地下室への階段は他にもあるようだし。こんな何があるのかわからない得体の知れない空間に足を踏み入れたいと思う人間はいるのか。絶対にいない、、、冒険者なら宝物を探し求めて入り込むのか?

 封鎖だな。
 危険地帯だ。この螺旋階段。

「ほらー、見てー。これ、何かわかる?」

 期待を込めた顔をして俺を見る残留思念。
 ここまで元気な残留思念もない。
 自己紹介をしてくれないし聞くのも嫌なので、ひとまず心の中では案内人と呼ぼう。エセ案内人と。

 部屋と呼ぶには、広い空間。
 天井も高い。
 地下にこれだけのスペースを作る技術は相当なものだ。

 キラキラなコイツのせい、、、おかげで地面に描かれている図が見えた。

「これは」

「そうっ、コレがさっき言っていた長距離空間転移魔法陣っ」

 答えたい思いが強すぎるぞ。俺が答える前に答えを言うなら質問する前に説明しとけっ。
 俺は床に座り込んで、線を見る。
 俺が魔力を通すと、魔法陣は息を吹き返す。

 この魔法陣はまだ生きている。空間転移の先が存在している。つまり、向こう側にも魔法陣が残っているということである。
 周囲を見ると、辺り一面に魔法陣が並んでいる。
 どれだけの数があるのだろうか。

「うわー、キミさあー、ここにある魔法陣全部に魔力通してどうするのー?」

「起動確認。ここにある何個かは使えなくなっているが、座標の一つにリンク王国の教会があった。確かに大教会にこれがあるのだから、各国の主要な教会につながっていると見るべきだな」

 この数からして、この大陸全土の?
 教会にあるのだから、教会をつなげる空間転移魔法陣と考えられる。

 このエセ案内人に察せられるのも嫌なので表情には出さないが、心の内は興奮する。
 もしかしたら、この地にいるだけで世界各地をまわれるのではないかと。

「魔力量が高いのはなんとなくわかっていたけど、どれだけー。このなかで遠距離のは一つつなげるだけでも魔導士が数十人がかりの魔法陣もあるんだよー」

 彼が壁際を動く。
 エセ案内人がふんわりと通ったおかげで、壁一面に描かれている絵が見える。

「地図」

 すでに劣化している部分もあるが、大陸の略図だろう。
 適当な位置に教会のマークがついていて、国境線らしきものも描かれている。

 相当古いもの、この大教会を作った当時、数代前の皇帝時代の世界地図と推測できる。

「とすると、数代前の皇帝はこの空間転移魔法陣を使って世界征服を目論んでいた?」

「一人送るのに数十人の魔導士の魔力が必要なら、万の軍勢を魔法陣の先に送るなんて夢のまた夢だと思わないか。教会協力の元、作ってみたものの計画がとん挫した象徴だよ」

 教会側もなぜ協力したのかを深く考えると怖いが、とん挫したのだから問題ないのだろう。
 使われずにホコリを被っていたくらいだし。
 教会側も魔法陣を使えない理由が生じてしまったのかもしれない。

「普通に遠征した方が侵略できたのか?代用する大量の魔石を集めたところで軍隊を送るにはどれだけの量が必要になるのか見当もつかないな」

 とはいえ、俺一人で活用するには俺一人の魔力量で足りる。大陸の端にある教会も問題ない。

 これってオルド帝国にいれば、俺は世界旅行ができるってことじゃないか?
 リンク王国の教会にもつながっているのだから、妻子の墓参りもできる。
 顔がニヤけるのを頑張って抑える。

 ここに来るまでの地下への螺旋階段は非常に危険なので、ここにも空間転移魔法陣を設置しておこう。
 螺旋階段はこの空間の先も続いている。
 螺旋階段が危険なわけではなく、扉があったはずの空間がそれぞれ問題なのだが。

 さらに下には危険なものが埋まっている気がする。
 世界征服が目的ではなく、帝国を滅亡させるために作ったのではないかと勘繰りたくなるほどの。

 今まで管理はどうしていたのか?
 放置?
 教会にいる聖職者が知らないくらいだからねえ?

 これ、ごくごく普通の一般人が迷い込んでいたらどうするの?
 死ぬよ。普通に。

「うん、普通に死ぬよー」

「あ、声に出していたか?エセ、、、」

 ついついエセ案内人と口から滑り落ちようとしちゃった。

 ほんの少し彼の目が鋭くなる。
 さすがに悪口と察して気分を悪くしたか?

 だが、急な笑顔。

「あれー、名前言ってたっけ?ヒントも出してなかった気がするんだけどなあ」

「へ?」

「ま、いっか。エセルと呼んでねっ。もちろん愛を込めてねっ」

「、、、はあ」

 偶然とはいえ名前を引き当ててしまったようだ。




 ちょっと待て。




 コイツは元人間なのかもしれないが、今は人外だ。
 人外の名を知るということは?

「やだなあ、魔導士クロウ・リティ。僕はキミの名をすでに知っている」

 エセルは笑顔だ。だが、その笑顔は。


 人外に会ってしまったときの鉄則。

 人外に名前を尋ねてはいけない。
 人外に自分の名前を教えてはいけない。

 そうしないと、不本意な契約を結ばされる危険性が非常に高いから。


 ブワッと俺の周囲で風が舞い上がり、光が拒絶される。
 バチバチと光が弾き飛ばされている。
 光はもちろんヤツから生まれたものである。
 眩し過ぎて、目を細める。

「くっ」

 ずぅーっと自分自身にかけていた防御魔法の発動。
 ここでかよっ、と思わずにいられない。

 当初想定していた敵国であるオルド帝国の軍人からの攻撃ではないところが皮肉とも言える。

 防御というのは何も肉体だけを守るものではない。
 本人の望まない精神を支配する魔法からも防御する。

「ヤダなあ、キミは元々僕のこと疑っていたのかー。防御されるとは思ってなかったんだけどー」

 キラキラ笑顔は胡散臭いものと変わる。
 光り輝いているのは今でも変わらないが。
 発光物が聖なるものと考えるのは、教会の人間だけだ。

 光も闇も等しく何者でもない。

「お前はここの住民と同種のものか?」

「一括りにされたくないなあ。僕はこれらを支配する側だよ」

 人外が用意した餌は長距離空間転移の魔法陣。
 餌に釣られてホイホイと迂闊についてきた魔導士。

 どう考えても、餌に釣られた己が悪い。
 それでも、聞いてしまえば行かない選択肢はなかった。
 
「はーあ、仕方ないかあ」

 支配。
 それも面倒。
 この厄介な発光物を管理しなければならないのは重労働になる。

 けれど、支配されるくらいなら支配する方を選ぶ。

「だってさあ、この魔法陣の先に行かないで死ぬのは心残りでしかない」

 グチャ。

 あ。
 発光物が地面に広がってしまった。エセル氏の名残が光輝く液体状のブツになってしまった。
 俺、攻撃型の魔導士じゃないしぃ。
 危険物に対する力加減なんてわからない。
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